【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

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3.月が照らした真っ赤な果実だよ

 昼下がりの図書館。ハナコの正面に座る少女は、同年代の子供に興味が出たのか、声のトーンを落として話しかけてきた。

 

「学校の宿題?」

 

「いやー、個人的な調べ物だよ」

 

「勉強熱心なんですね」

 

 少女は笑みを浮かべながら、向かい側からハナコの手元を覗き込んでくる。ハナコの前に置かれているのは地図が載った本と、グルメスマホ。グルメスマホは地図アプリが開かれて、人間界の世界地図が表示されていた。

 そのグルメスマホに、少女は注目する。少女がハナコに話しかけたのは、実はそのグルメスマホが目的であった。

 

「あの、それってPDA?」

 

 PDA。個人向けの情報端末のことである。

 だが、そんな用語など知らないハナコは、「グルメスマートフォンだよ」と小さな声で答えた。

 

「グルメスマ……?」

 

 少女は聞き慣れない言葉に首をかしげる。

 

「グルメケータイの次世代機だよ」

 

「新しい携帯電話? グルメってメーカーは知らないけれど……」

 

「大体そんな感じ」

 

 この世界がグルメ時代を迎えていないのなら、物品の枕詞にグルメと付ける文化もないのかな、とハナコは思った。

 それから少女はハナコの隣に移動してきて、周囲に他の利用者がいないことを確認してハナコに再び話しかけてきた。

 

「全部が画面って合理的ですね……。もちろん、タッチパネル?」

 

「あ、うん。指先でススーッて」

 

 ぐいぐい来るな、この子。ハナコは内心でそうひるみながら、グルメスマホを操作してみせる。ハナコは知るよしもなかったが、この少女は幼くして機械オタクの類だった。

 その後、グルメスマホの使い方を尋ねられ、いくつかのアプリを操作することになったハナコ。

 少女はその様子をニコニコと笑って見ながら質問を重ねた。

 

「それでえっと……あ、そうだ。あの、あなたのお名前は? わたしは月村すずか」

 

 と、少女がハナコの名前を呼ぼうとして、未だに自己紹介をしていないことに気付き、ハナコに名前を尋ねてくる。

 

「わたし? わたしはハナコだよ」

 

「ハナコちゃん。よろしくね」

 

「よろしく、月村すずかさん」

 

「すずかでいいよ」

 

 ああ、〝月村〟は歴史書に載っていた氏族ってやつかな。ハナコは心の中でそうつぶやいた。ハナコのいた地球には、苗字という文化は存在しないのだ。

 その後、ハナコはすずかとの雑談を通じて、知りたいことを少しずつ聞き出していった。

 すずかによると、ここは海鳴市という場所で、田舎町ではないらしい。

 すずかはハナコと同じ九歳で、私立聖祥大附属小学校の三年生とのこと。

 

 学校。そういうものが世間にはあるとハナコは研究員達に聞いた覚えがあった。文明が進んだ国では、子供を学校に通わせる義務を大人が負う、義務教育なるものがあるという。

 研究所の外をほとんど知らないハナコだが、彼女が今日街中を見て回った限りでは、街並みは綺麗で治安が乱れている様子も見て取れなかった。

 

 つまり、子供が学校に通うことが、当然の文化である可能性がそこそこある。ハナコはそれに思い至り、内心で頭を抱えた。今後、日中不用意に出歩くと、見咎められるかもしれない、と。

 

「ハナコちゃんはどこの学校なの?」

 

「リーガル島新第一ビオトープ第一グルメ研究所の所属かな」

 

 すずかの質問に、ハナコは正直に答えるしかなかった。嘘をつけるほど、この世界についてはよく知らない彼女だった。

 

「研究所……? 研究所に学校が付属しているの?」

 

「わたし、学生じゃなくて研究所の研究員なんだ」

 

「……? ハナコちゃん、私と同じ九歳なんだよね……?」

 

 ハナコはすずかの疑問の言葉にうなずきながら、グルメスマホの地図アプリを起動する。そして、世界地図を表示し、すずかに見せた。

 

「リーガル島はここね」

 

 人間界の東端にある島を指さすハナコ。すずかは困惑しながらその見覚えがあるようなないような独特の地図を見て、ハッと気づく。ハナコは自分の知らないゲームのことを何かになりきって話しているのではないかと。

 

「ハナコちゃんはそこの研究員さんなんだね」

 

「そう。そこでブラックホールから採取された草を分析していたら、こっちの世界に吸い込まれたんだよ」

 

 ハナコは、今度は机の上に広げた世界地図を見て、日本の位置を指で叩いた。

 そんなハナコの様子に、すずかは「ゲームごっことか、思ったよりも幼い内面をしているね」と、ほっこりとした気分になった。

 

「そういうわけで、わたしはさっき異世界に迷いこんじゃったわけ。今夜から宿無し無一文で、本当にどうしようかな」

 

「『ナルニア国物語』の『ライオンの魔女』みたいだね?」

 

「この世界の物語はまだ知らないかなぁ」

 

 すずかはハナコの徹底したロールプレイっぷりに、「ふふっ」と笑った。

 だが、実際は真実のみが語られていた。もちろん、真実を話したハナコは、相手が自分の話を素直に信じてくれるとは思っていない。ただ、この場で嘘をつく意味は特にないので正直に話しただけである。

 

 と、そこまで話したところで、すずかの胸のポケットから振動音が聞こえる。折りたたみ式の携帯電話が震えており、どうやら音を出さないアラームで時間を知らせているようだった。

 

「そろそろ帰らなきゃ。あの、ハナコちゃん。携帯の電話番号交換しない?」

 

「あー、私のグルメスマホは異世界の物だからね。圏外なんだ。それでもよければ番号を教えるよ」

 

 グルメスマホの右上に表示された圏外マークを見せるハナコに、すずかは徹底しているなぁ、と微笑ましくなった。

 そして、手動で互いの番号を入力して、すずかは図書館から去っていった。

 

 ハナコも日が落ちる前に移動しようと、出した本を全て本棚に戻して、図書館を後にする。

 向かう先は、最初にハナコが落ちてきた郊外の山林。あそこならば野宿しても誰かに見つかる可能性は低く、何よりグルメ研究所から救助が来るかもしれない。そう考え、ハナコは郊外に走って向かった。日が落ちたら子供一人で行動すると大人に見咎められるかもしれないと判断してのことだった。

 

 そして、夕暮れ。ハナコは山に入り、落ちていた木の枝葉を使って寝床を作り始めた。

 サバイバル生活には慣れていた。IGOの会長であるマンサムの教育方針でリーガル島にあるビオトープに放り出され、凶暴な生物を狩りながらサバイバルに明け暮れた経験があるのだ。

 

 寝床はすぐに完成し、続いてハナコは夕食を用意することにした。山の動物を狩る、わけではない。ハナコはこの山が狩猟してよい土地か分からず、さらにどの動物を狩猟してよいかも調べきれていない。

 ハナコがいた世界の法律『グルメ八法』では、狩猟を禁じる動物の規定なども存在していたため、この日本国でも狩猟してよい動物とダメな動物が存在するだろうと、彼女は考えたのだ。

 なので、ハナコは食材を作り出すことに決めた。

 

「グルメ細胞さん、美味しい植物をお願い」

 

 ハナコは指先に体内のカロリーを集め、己のグルメ細胞に働きかけた。すると、指先から小さな種が一つ生えてくる。

 それを彼女はおもむろに足元の土へ埋め込むと、少し離れてから地中の種へ意識を集中させた。

 

 すると、土から芽が出て、急速に茎が伸び、彼女の頭の高さまで成長すると、頭上に広がった枝に大輪の花をいくつも咲かせた。

 そしてすぐさま花は枯れ、実が結実する。

 それは子供の頭ほどの大きさがあるトマト。

 

「よし、別世界でも問題なく作れた、ネオトマト」

 

 ネオトマト。美食四天王のココが『フルコース』のサラダに決めている至高の野菜だ。

 かつて、ハナコはココからネオトマトを譲られ、食したことがある。その時、ネオトマトはハナコのグルメ細胞に〝登録〟された。

 ハナコは、摂取したことのある植物の種を自在に作り出せ、成長させ、操ることができる。その力を使い、彼女はこの地でネオトマトを促成栽培したのだ。

 

「喉も渇いていたから、やっぱりこれだよね。それじゃあ、いただきまーす」

 

 ハナコはネオトマトの木から実を一つもぎ、そのままかじりつこうとする。

 だが、その時だ。

 

「そこに居るのは分かっている! 大人しくしなさい!」

 

 突如、ハナコは山のふもとから強烈な光で照らされた。

 ネオトマトにかじりつこうとしていたハナコは、突然の事態に驚き、硬直する。

 

 そして、彼女が光源を目で追うと……そこには、紫色の髪をした二十歳ほどの女性と、投光器を持つメイド服の女性、そして、ハナコを困ったような顔で見つめる月村すずかの姿があった。

 


 

ネオトマト(野菜)

捕獲レベル:12

美食四天王ココの『フルコース』のサラダ。

トリコ原作において、トリコが第一ビオトープに向かう際に、トリコバーガーの具材の一つとして食しているが、画から推測できるサイズと捕獲レベル以外の詳細は不明。

この作品ではオリジナル設定として、荒廃した土地でも育つ(栄養をさほど必要としない)食材とした。他人様の土地の栄養を吸い尽くさないようにというハナコの配慮である。

なお、トマトの分類が果実ではなく野菜なのは、原作通り(例:ミリオントマト)。

 

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