【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

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32.ドキドキのお花見だよ

 花見の前日、ハナコは自分の部屋ですずかと一緒に話し合いをしていた。

 花見の開催をアリサが突発的に決めて以降、話は人伝いにどんどん広がっていき、参加者が三十名を超える大所帯になっていた。そのほとんどが魔法を知る者で、ハナコが別の世界でグルメ研究をしていることも知っている。そのため、ハナコの研究成果のお披露目が期待されていると、どういうわけか幹事を引き受けた時空管理局のエイミィからハナコ達は聞かされていた。

 ゆえに、ハナコとすずかは花見客達を楽しませるために、大量の料理を仕込もうと考えていた。

 

 ハナコは、この国の花見をよく知らない。

 すずかも、花見の経験回数はそう多くない。

 よって、二人はどんな料理を用意するのが場に相応しいか分からず、困ってしまった。

 

 そこで、二人は当日参加できることになったすずかの母の春菜に、花見の料理はどんなものがよいか聞いてみることにした。

 すると、帰ってきた言葉は……。

 

「特にルールは無いのよ。普通のお弁当でいいんじゃないかしら。ほら、毎朝作っているお弁当みたいな」

 

 ハナコとすずかは、二人で家族全員の弁当を毎朝用意している。学校があるすずかとハナコ、忍の分だけでなく、俊と春菜の分もだ。

 それと同じ物でよいと聞いて、ハナコはほっとしたのだが……。

 

「でも、いつもと同じだと、ちょっと面白くないよね。みんなから、どんな料理を食べたいか聞いてみない?」

 

 すずかがそんなことを言い出したため、幹事のエイミィを使って食べたい料理を参加者達から聞くことにした。

 そして、一時間後……。

 

「ふーむ、いろいろ来ましたなぁ」

 

 ハナコが時空管理局から与えられた次元通信可能な携帯端末に、エイミィからの調査結果が届いた。

 それを見ながらハナコは、知らない料理がいくつかあるな、と、さらなるエイミィへの調査を検討する。

 

「エイミィさんのリクエストは……焼きそばの材料一式? 鉄板を持ちこむから、自分で料理したい、かぁ」

 

 ハナコが携帯端末のメールを読み進めていると、そんな内容が見つかった。

 

「現地で作るのも楽しそうだね。あの場所は私有地だから、火を使っても問題ないし」

 

 すずかのその言葉に、火を使っちゃダメな場所もあるのか、とハナコは一つ学んだ。

 

「おや、アルフさんは骨付き肉とか、さすが狼の使い魔。人間の感覚で作らない方がいいかな」

 

 ハナコがまた変わったリクエストを見つけた。フェイトの使い魔アルフの物だ。

 

「骨付き肉……マンガ肉みたいなのがあったら面白そうだね」

 

「マンガ肉って?」

 

 すずかが言った聞き慣れない言葉に、ハナコは首をかしげる。

 

「こういう……」

 

 すると、すずかはポケットから携帯電話を取りだしてインターネットに接続し、マンガ肉を検索してハナコに見せた。

 

「ああ、その形の骨付き肉か。新グルメ時代の紙幣でも定番だよ。ちょっと待っててね」

 

 唐突に立ち上がったハナコは、部屋の棚の方へと向かうと、棚から財布を取った。この財布は前にいた世界で使っていた財布だ。向こうの世界のお金がいくらか収められている。ハナコはその財布から一万円札を抜き出した。

 その一万円札には、まさにすずかが見せたマンガ肉が、そのまま紙幣に描かれていた。

 

「ぶふっ」

 

 まさかのマンガ肉紙幣に、思わず吹き出すすずか。

 

「ふふっ……偉人さんじゃなくてマンガ肉って……」

 

「この国の紙幣って、なんかおじさんとか描かれていて華がないよねー。やっぱり美味しそうな食材が描かれていないと」

 

「うふふ、カルチャーギャップってやつだね」

 

 そんなこんなで、話が脱線しつつも二人は料理について確認していった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 花見当日。雲一つない快晴とまでは行かなかったが、天気は晴れ。

 風は少し冷たいが、陽射しは温かい。一応のお花見日和と言えた。

 

 そんな中、月村家が所有する山の麓の桜並木に集まったメンバーは、五十名近い大所帯だった。

 月村家、バニングス家、高町家、八神家という地球側の面々。それだけでなく、リンディ次長やフェイト、アルフといった別世界の出身者に加え、時空管理局からアースラスタッフの一部、さらにはリンディの親友であるレティ・ロウラン提督の姿もあった。

 

 魔法関係者が非常に多いが、魔法を知らない一般人も呼ばれているため、そちらの話はできるだけぼかすよう事前に通達されている。しかし、大人達は酒を片手に乾杯を待っており、酔っ払うことは確実なのでどこまで守れるかは怪しかった。

 

 やがて、開始予定時刻となり、リンディの挨拶で混沌としたメンバーでのお花見が始まった。

 

 大人達が元気に乾杯をして、早速酒を飲んでいく。

 

「うわっ、何このビール、すごく美味しい!?」

 

 酒豪で慣らしたレティ・ロウラン提督が、用意されていたビールを飲んでびっくりしている。

 同じくビールを飲んだリンディが、もしやハナコが用意した酒ではないのかと疑い、そこらをすずかと一緒にフラフラしていたハナコを捕まえて問いただす。

 

「ああ、それ? マウクラン産の食材は使っていると思うけど、醸造に関してはノータッチだよ」

 

 ハナコは、詳しい事情を知る者をこの場に引っ張ってくる。

 それは、アリサの父であるデビッド・バニングスだ。一緒にビールを飲んでいたなのはの父、士郎もついてきた。

 

「美味しいでしょう? グルメエイジ社の新作、『サンシャインビール』ですよ」

 

 デビッドは、レティにビールを注いでやりながら説明を始めた。

 

 これは、グルメ細胞で品種改良したマウクラン農園産のヒマワリ大麦をビールに加工したものだ。

 もちろん、密造酒ではない。

 月村家とバニングス家、そしてイギリスのグレアム家が共同して作った食品会社、グルメエイジ社の醸造所で作られたばかりのビールである。

 

「製造過程で日光に当てるんですよ。だから『サンシャインビール』なんです」

 

「日光に当てると美味しくなるんですか?」

 

 デビッドの説明を聞き、レティが不思議そうに問いかける。すると、デビッドは「そうなんですよ。不思議ですよねぇ」と答え、ぐいっとビールをあおった。

 

「しかし、グレアム家が共同でですか……グレアム提督も急に退官したと思ったら、そんなお仕事をなさっていたとは」

 

「ああ、ギルの前職と同じ仕事場なんでしたっけ?」

 

 デビッドが歴戦の提督であるグレアムを名前で呼び捨てにしたことに、レティはギョッとした顔をする。

 どうやら、デビッドはグレアムと仲が良いようだ。年齢が親と子ほど離れているのだが、このデビッド、やり手なのかもしれない。レティはそう思った。

 

 そして、その後もデビッドは、士郎とビールを注ぎあって飲み干しながら、レティとリンディの四人で楽しく騒いだ。

 ちなみに、デビッドと士郎は親友と言ってもいい仲だ。デビッドは学生時代サッカーの経験があり、士郎は町のサッカークラブを運営している。娘を通じて知り合った二人はサッカーで話が盛り上がり、そこから何度も一緒に酒を飲みに行って仲を深めていたのだ。

 

 そんな大人の酒盛りに巻き込まれたハナコとすずかは、自分達から意識がそれたことを確認して、別の場所へと向かう。

 二人がそこらをフラフラとしていたのは、自分達の料理をみんなが美味しく食べていてくれるかを確認するためだ。酒のつまみに美味しく食べているようなので、あの酒飲み四人組は問題ないようだ。

 

 それから二人が次に辿り着いたのは、フェイトとはやてが交流している場面だった。

 二人は初対面とは言わないが、ほぼ会話をしたことがない。

 フェイトはこの四月に海鳴市にやってきたばかりであるし、はやてはジュエルシード事件に関わっていない。

 なのでこうして場を作って、お互い仲良くなろうとしているようだった。

 

「フェイトちゃんとこの守護獣……使い魔やったっけ? 肉よう食うなぁ」

 

「うん、使い魔のアルフ。肉が好物なの」

 

「うちのザフィーラは好き嫌いせずなんでも食うてくれるけど、やっぱり狼やから肉が好きなんやろか?」

 

 二人で並んで座って、料理を少しずつ食べながら、和やかな雰囲気で会話が進む。

 ちなみにその近くでは、アルフがマウクランで仕留められた獣の大腿骨の肉、いわゆるマンガ肉を一心不乱に食べていた。

 

「おっ、このから揚げめっちゃ美味いな。ほら、フェイトちゃんも食べてみて」

 

「うん……美味しい」

 

「フェイトちゃん、細すぎるからお肉多めに食べなあかんで」

 

「それ、ハナコにも言われた……」

 

「あはは、そうかそうか。あ、そのハナコちゃんがいるやん。おーい、ハナコちゃん、すずかちゃん、こっちこっち」

 

 二人のやりとりを遠目に眺めていたハナコとすずかに気づいたはやてが、とっさに声をかける。

 ハナコ達は素直にお呼ばれされて、フェイト達が座るレジャーシートに靴を脱いで上がった。

 

「このから揚げめっちゃ美味いけど、二人が作ったんか?」

 

 はやてにから揚げがたんまり詰まったランチボックスを勧められながら、ハナコは答える。

 

「このから揚げは、すずかさんが作ったやつだね。今日のためにマウクランのブラックカーペットって場所から、トリックラビットを捕まえて絞めてきたから、から揚げたくさん揚げてもらったんだ」

 

「トリックラビットか。初めて聞く名前やな。ウサギ肉?」

 

「うん、グルメ細胞に適合して進化したウサギだね。体高が二メートルくらいあって、耳が鳥の羽みたいに広がっているの」

 

「また、けったいなもん育てているなぁ」

 

「ちなみに草食だけど、猟銃持った猟師なら数人くらい軽くひねる猛獣だよ」

 

「危ないウサギやな!?」

 

 そんなハナコとはやてのやりとりをすずかとフェイトは横からクスクスと笑いながら見守る。

 そして、はやてと一緒に料理を食べ出したハナコ達の横で、すずかとフェイトが会話を始める。

 

「フェイトちゃん、ここの生活には慣れた?」

 

「うん、分からないことも多いけれど、大丈夫」

 

「困っていることとかあるかな?」

 

「大丈夫。リンディさんは優しくしてくれるし……」

 

「アリサちゃんじゃないけど、リンディさんには甘えてもいいんだよ」

 

「それは……うん、頑張ってみる」

 

「甘えるって、頑張ってやることでもないんだけどなぁ……」

 

 すずかは生真面目なフェイトの気質に苦笑する。

 この様子では、欲求を押し殺してストレスを溜めていてもおかしくないと、すずかは感じた。

 

「フェイトちゃんは、何かやりたいことはない? やってほしいことでもいいよ」

 

「やりたいこと……」

 

 すずかの問いかけに、何やら考え込むフェイト。

 すずかは、これは何かあるなと察した。

 

「……やりたいこと、あった」

 

「うん、言ってみて」

 

「なのはと決着をつけたい」

 

 そのフェイトの要求に、すずかは驚き、自分では対処できないと判断して、ハナコに相談した。

 するとハナコは、なのはを呼んできて、さらに酒盛りを続けていたリンディもその場に呼んだ。

 

「分かった、フェイトちゃん。一対一で、決闘だね」

 

「うん。なのはと決着を付けないと、わたしは先に進めない気がするんだ」

 

 花見を終えた後日に、なのはとフェイトは時空管理局の監視下で、模擬戦を行なうことになった。

 ジュエルシード事件では、なのはが率いる複数の武装局員によって捕まったフェイト。なのは単独との戦いの行方は、うやむやのままで……二人の因縁に決着を付けたいと、フェイトは望んでいた。

 


 

ヒマワリ大麦(穀物)

捕獲レベル:5

オリジナル食材。以前登場したヒマワリ麦の大麦版。花に強い陽射しを受けると味が向上する穀物である。ヒマワリ麦と同じくこれを好む鳥獣類が多いが、マウクランにはまだ凶悪な鳥類や鳥獣類は少なく、防衛ロボットで守り切れるためマウクラン農園で大規模栽培をされているようだ。

 

サンシャインビール(酒類)

捕獲レベル:人工加工品

オリジナル食材。ヒマワリ大麦を使った贅沢なビール。その醸造過程で麦汁を日光に晒す必要があるため、醸造に一手間かかるビールである。

地球の新規企業グルメエイジ社が醸造法を考え出した一品で、日光に晒す手順は偶然発見されたもの。こちらの世界の醸造家もなかなか侮れないようだ。

 

トリックラビット(哺乳獣類)

捕獲レベル:1

オリジナル食材。グルメ細胞に適合したマウクランのウサギで、体高二メートルほどの猛獣。食性は草食で、黒草を好みマウクラン中央研究所近くのブラックカーペットに群れを形成している。発達した耳を翼のように使った大跳躍が得意で、肉食獣はその俊敏な動きに近づくことさえ叶わない。グルメ細胞の恩恵で肉質も向上しているが、ハナコからするとまだまだ向上の余地があるとのこと。

 

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