【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

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33.風に負けないハートのかたち

 一年前のジュエルシード事件で、フェイトはなのはと三度戦った。

 

 一度目は、月村邸でリーガルマンモスの幼体をはさんでの対峙。これは直接の戦いには発展せず、フェイトがジュエルシードを確保したことで戦いは終了した。

 二度目は、温泉旅館周辺でのジュエルシードの奪い合い。二人はジュエルシードをかけて決闘を行なったが、時空管理局のクロノが途中で割って入ったため、フェイトがジュエルシードを奪って逃走して戦いはうやむやになった。

 三度目は、海鳴市のオフィス街で争ったが、なのはは時空管理局の武装局員と一緒だったため、フェイトが一方的な敗北を喫した。

 

 三度の対峙。だが、フェイトはなのはと一対一で決着をつけることは、最後まで敵わなかった。

 そのことが、この一年、ずっとフェイトの中でシコリのようになって残り続けていた。

 

 そこで今回、時空管理局の監視下で模擬戦を行なうことで、白黒付けようということになった。

 正直なところ勝ち負けはどちらでもいいと、フェイトはハナコ達に語った。単純に、うやむやになった二人の因縁に決着を付けたいと思っているだけだと。

 

「わだかまりを無くすことで、なのはちゃんと対等に付き合いたいんだと思う」

 

 すずかはハナコにそう、こっそりと話した。

 それを聞いてハナコは、友人関係って複雑なんだなとぼんやりと思った。

 

 月村ハナコ十歳。同年代の友人ができてまだ一年しか経っていない、友達初心者である。

 そして、同じ友達初心者のフェイトも、心からなのは達と笑えるようになればいいな。そんなことを思いながら、ハナコはフェイトとなのはの模擬戦当日を迎えた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 海上戦闘空間。そう名付けられた今回の会場は、時空管理局の最新技術で作られた擬似空間である。

 一面の海に沈んだ高層ビル群。そんな特徴的な見た目をした空間だが、これらはあくまで魔力で造られた仮初めの存在である。

 

 建造物は本物と同じく触れる事ができるが、魔力で構成された物質のため、魔力ダメージのみを負わせる非殺傷設定の魔法でも破壊が可能である。

 よって、非殺傷設定を用いながら、通常の魔法を使ったときと同じ環境での訓練が可能となっている。

 今回の模擬戦も当然、非殺傷設定を用いて行なわれる。だが、互いに〝本気〟で戦うならば、周囲への影響も見越したシチュエーションで戦うべきとして、海上戦闘空間が模擬戦の場として提供された。

 

 ……ということをハナコは、海上戦闘空間内にある高層ビルの屋上に用意された席に座りながら、通信越しにエイミィから聞いた。

 エイミィは現在、時空管理局の本局勤務。今回の模擬戦も『将来有望な局員候補二名による戦闘能力試験』として、リンディと一緒に本局へ話を通したらしい。

 そして、特例として観客に部外者のハナコ、すずか、アリサ、アルフをねじ込んだ。なお、はやてとユーノはすでに時空管理局預かりのため、特例を使うことなく観客にまじっている。

 

「将来有望な局員候補ね……なのはさんとフェイトさんは時空管理局に入りたがっているのかな?」

 

 ハナコが通信でエイミィに尋ねると、『そうみたい』と返ってきた。

 

『なのはちゃんは空を自由に飛びたいからって武装隊の士官候補生から始めて、最終的には戦技教導隊入りを志望しているね。フェイトちゃんはおぼろげだけど、将来は研究者とかよりも管理局で魔法を振るいたいって言っていたかな。私のフェイトちゃんへのイチオシ役職は、執務官なんだけどね!』

 

「執務官というと、クロノさんみたいな?」

 

『そうそう。実はクロノ君って、エリートさんなのでした』

 

「そこはまあ、元提督の息子さんなので、エリート街道を進んでいることは予想していたけど」

 

 しかし、教導隊とかいう部署を目指しているとは、彼女らしいのかな。ハナコは内心でそう思う。

 空を自由に飛ぶ。それでいて、敵と戦うわけではない。そんな道をなのはは目指しているのだろうと。

 

『それで、ハナコちゃん達は、この模擬戦どっちが勝つと思う?』

 

「なのはさん」

 

「なのはちゃんやろな」

 

 通信越しのエイミィの問いにハナコとはやてが即答する。

 

『ほうほう、その答えは?』

 

「経験の差かな。一年前の時点で二人の実力は拮抗していたっていうけど、フェイトさんは裁判で長期間拘留されていたのに対して、なのはさんはユーノさんとの特訓に加えて、『闇の書』の事件で実戦を重ねているって聞くから」

 

「装備の差やな。なのはちゃんの『レイジングハート』には、ベルカ式のカートリッジシステムが積まれておるからな。切り札があるのは強いで」

 

 二人がそれぞれそう答え、エイミィは『なるほどなるほど』と通信の向こうでうなずいた。

 だが、ここでエイミィが反論に出る。

 

『経験の差だけど、魔法を使っていた期間はフェイトちゃんの方がずっと長いよ。幼い頃からプレシア・テスタロッサの使い魔に鍛えられていたらしいからね。デバイスの差も、フェイトちゃんはカートリッジを『バルディッシュ』に組み込み済みだよ』

 

「ホンマに? カートリッジをミッド式の魔導師が使いこなすのは、難しい聞いてたけど……」

 

『フェイトちゃんは努力家だからね。訓練して使いこなしてみせたよ』

 

「そっかぁ。それなら、フェイトちゃんの勝ちもありえるなぁ」

 

 はやてがそう納得するが、ハナコの意見はというと……。

 

「それでもなのはさんの勝ちは揺るがないね。ここぞというときの底力が違うよ」

 

「なんや、ハナコちゃん、なのはちゃんの評価高いな」

 

「それはもう」

 

 と、そんな会話をしている間に、模擬戦開始三分前となる。

 ハナコ達の前に空間投影画面が二つ表示され、それぞれ異なるビルの屋上に立つなのはとフェイトが映し出された。

 

『レイジングハート・エクセリオン! セットアップ!』

 

『Standby Ready』

 

『バルディッシュ・アサルト。セットアップ』

 

『Get Set』

 

 二人が待機状態のデバイスをそれぞれ構えると、ほぼ同時に二人の服装が切り替わった。

 

「おおー、変身したわ!」

 

 それを見ていたアリサが大興奮。

 そこへ、エイミィの解説が入る。

 

『あの服はバリアジャケットといって、服に見えるけど実質的には魔法の鎧だよ。物理攻撃と魔力攻撃の両方への耐性があって、ある程度の熱や冷気にも耐えられるよ』

 

「なのはのあれってうちの制服がモチーフよね?」

 

 解説を聞いているのかいないのか、アリサが隣に座るすずかに問いかける。

 

「うん、聖祥小の制服がもとだと思う」

 

「オシャレよねー。制服がモチーフってことは、中学に上がったら聖祥中の制服をアレンジしたやつに変えるのかしら」

 

「多分そうなんじゃないかな」

 

「聖祥中の制服を魔女っ子風に可愛くアレンジするのは、難しそうねー」

 

 すずかとアリサがそんな言葉を交わしているうちに、いよいよ試合開始時刻となった。

 互いにデバイスを構え向かい合う二人。そこへ、エイミィの号令がかかる。

 

『レディ……ゴーッ!』

 

 二人の戦いは、無数の光弾の撃ち合いから始まった。

 互いに直撃は避け、見事に光弾をさばいていく。

 

 そして、今度は互いに正面から突撃し、デバイスを交差させるようにぶつけ合う。

 それから、二人はビル群を縫うようにして縦横無尽に飛び始めた。

 

「はー、すごいわねぇ。あの運動神経へっぽこのなのはが、これだけ動けるだなんて」

 

「あはは、なのはは魔法があっても運動神経は微妙なままだよ」

 

 女の子の集団の中へ一人放り込まれたユーノが、居心地悪そうにしながらアリサの感想に答える。

 

「なのははね、空間把握能力が飛び抜けているんだ。だから、地上での接近戦はどうしようもないほど苦手だけど、空中戦なら遠距離も近距離もどちらもできるんだ」

 

「そうなんだ! 空間把握能力……すずか、知ってた?」

 

「うん、なんとなくだけど、そうなんじゃないかなって」

 

 そんな会話の間にも、戦闘は続いていく。

 ちょうど、防御からの反撃で撃ったなのはの拘束魔法が決まり、彼女の得意技である砲撃魔法が飛んだところだ。

 だが、フェイトはとっさのところで拘束魔法を外し、砲撃をかわす。

 そして、そこからフェイト得意の高速戦闘が始まった。

 

「はー、二人ともすごいなぁ」

 

 はやてが感心したようにそのやりとりを眺める。

 そんなはやてに、ハナコが話しかけた。

 

「そういうはやてさんは、なのはさんやフェイトさんより魔導師ランクというのが上だって聞いたけど」

 

「魔導師ランクは単純に強さを表しているわけではないからなぁ……わたしが得意なのは広域制圧で、ああいう一対一の戦いには向いとらんのよ」

 

「なるほど、捕獲レベルが高い方が必ずしも強いとは限らない、みたいなものだね」

 

「いや、今度はわたしが分からんわ。捕獲レベルって何?」

 

「食材を捕獲する難易度だよ。猟銃を持ったプロの猟師が十人必要になる強さが、捕獲レベル1っていう一応の基準だね」

 

「それ、レベル1の時点で難しすぎやろ!?」

 

 観客席が盛り上がっているが、戦闘も激しさを増していた。

 なのはが執拗に攻撃魔法を繰り返し、フェイトはその防御で手一杯になっている。フェイトも懸命に反撃するが、なのははユーノ直伝の防御魔法でことごとくを跳ね返していた。

 

「なのは、攻めるわねー」

 

 アリサが楽しそうにその様子を眺める。

 

「でも、なのはちゃん、魔力の無駄遣いしすぎやわ。あれじゃ、先にへばるのはなのはちゃんの方やで」

 

 はやてもアリサに続いて感想を述べる。すると、それを聞いたアリサが、面白そうに口元をゆるめた。

 

「なのはの狙いが分かったわ! ほら、あれ。確か……『スターライトブレイカー』ってやつ」

 

「集束砲撃魔法か! なるほど、あれが決まれば、なのはちゃんの勝ちや」

 

『スターライトブレイカー』。その魔法をハナコは二度目撃したことがある。

 一度目は、映像で。『時の庭園』の家宅捜索時、プレシア・テスタロッサを捕縛する際に使われていた。戦場にばら撒かれた魔法使用後の魔力を集めて、砲撃として撃ち出す魔法だとなのはは語っていた。

 二度目は、実戦で。闇の書の闇『ナハトヴァール』のコアを露出させるために使った場面にハナコは居合わせていた。なかなか派手な魔法だったことを彼女は覚えている。

 

 その『スターライトブレイカー』が、なのはの狙い。だが、空中戦において砲撃魔法は、不用意に撃っても当たるものではない。

 

「大丈夫。バインドも徹底的に仕込んだから」

 

 そのユーノの言葉と共に、映像の中でフェイトが設置型の罠として仕組まれていた多重の拘束魔法に囚われた。

 その絶好のチャンスに、なのはは動いた。

 

「スターライト……ブレイカー!」

 

 膨大な量の光が、フェイトに殺到する。

 空間投影画面が桜色に塗りつぶされ、状況が全く見えなくなった。

 

 それを見たアリサはなのはの勝利を確信したのか、一瞬喜び顔になる。

 だが、すずかの「フェイトちゃん、大丈夫かな」という言葉を聞き、一気に心配顔へと変わった。アリサにとって、なのはは親友だが、フェイトも新しくできた大切な友達なのだ。

 

 そして、光が収まった画面の中では……フェイトは無事に空に浮いたままだった。

 

「いよっし、さすがフェイト!」

 

 と、それまで大人しくフェイトの戦いを見守っていたアルフが、歓声を上げた。

 

「そんな……どうやってあの魔法を耐えたんだ」

 

 ユーノが驚きながらそうつぶやくと、アルフが誇らしげな顔で答える。

 

「フェイトはね、どうやってなのはの集束砲撃魔法を耐えるか、ずっと考え続けていたんだ。そして、最近ようやくその答えが見つかった。カートリッジっていう外付け魔力がね」

 

「そうか、カートリッジの魔力を全て防御に! でも、なんでなのはの『スターライトブレイカー』をフェイトが知っているの?」

 

「アースラで捕まっているときに、あのプレシアを捕まえる映像を見る機会があったのさ」

 

「なるほど……」

 

 なのはのとっておきの一撃に耐えたフェイト。そこから、フェイトの反撃が始まった。魔力を限界まで使ったなのはに、フェイトが得意の接近戦を挑んだのだ。

 一方的なフェイトの攻撃が、なのはを蹂躙する。そう思われたのだが……。

 

「あれ……なんや、なのはちゃん、ずいぶんと動きいいな……」

 

「なのはがフェイトに接近戦で競り合っている……?」

 

 はやては純粋に感心して、ユーノは意外な展開に困惑して、それぞれそんな言葉を発した。

 動揺したのはユーノだけでなく、フェイトの使い魔のアルフもだ。

 

「どうしてだい!? フェイトの得意な距離に、砲撃型の魔導師が付いてこられるだなんて……」

 

 その疑問に答えられる者は、この場には……一人だけ、居た。

 

「私の言ったとおりになりそうだね。なのはさんが勝つって」

 

 ハナコである。

 ハナコの自信満々な言葉を聞いて、アルフが今にも噛みつきそうな表情で「どういうことだい!」と問う。

 

「なのはさんはね、選ばれたんだよ。グルメ細胞に」

 

「それって……」

 

「高町家には、高濃度のグルメ細胞を配合したシリアルバーを渡してあるからね。なのはさんは無事に、グルメ細胞に適合したってわけ。つまり、今のなのはさんは……殴り合いも強い」

 

 画面の中のなのはは、フェイトの『バルディッシュ』を『レイジングハート』でさばき、ガラ空きになった胴へ『レイジングハート』の先端部分を叩き込んだ。

 その一撃は、バリアジャケットの防御を抜くほどの衝撃だったのだろう。フェイトの体がくの字に曲がる。

 

『これが本当に最後の一撃! ハイペリオン――』

 

 なのはの叫びと共に、前へ突き出したままの『レイジングハート』の先端に桜色の光が灯る。

 

『――スマッシャー!』

 

 ゼロ距離からの砲撃が無防備なフェイトへ突き刺さり……フェイトはそのまま海面へと落ちていった。

 フェイトはもはや空に浮く力すらないのか、海に沈んだまま浮き上がってこない。

 

「あああ! フェイトー!」

 

 フェイトの敗北にショックを受けながら、アルフがフェイトの救出に向かう。

 魔力で編まれた水といっても、触れられる以上、飲みこんで溺れる可能性は十分あるのだ。

 

『試合終了ー! なのはちゃんの勝利です!』

 

 そんなエイミィの声が響き、二人の戦いに決着がついた。

 

 フェイトは無事に水から引き上げられ、アルフによって観客席へと運ばれた。

 なのはもフラフラになりながら観客席へと降りてくると、心配そうな顔で横たわるフェイトのもとへと歩いていく。

 

 フェイトはどうやら意識があるらしく、弱々しい声でなのはに向けて言った。

 

「負けちゃった」

 

「うん、今回はわたしの勝ち」

 

 そんな二人にユーノが駆け寄っていき、二人へ魔力譲渡の魔法をかけ始める。

 その処置により、気力を取り戻したフェイトが身を起こし、立ち上がる。

 そして、フェイトはなのはの前に立って、何かを言おうとする。だが、想いが言葉にならないのか、言いよどむように何かをうめいたあと、顔を伏せて黙った。

 すると、今度はなのはがフェイトを見て、言葉を放つ。

 

「ねえ、フェイトちゃん。ここから始めよう」

 

「なのは……?」

 

「今日、この日から。わだかまりがなくなった今、この時から。わたし達は、本当のお友達を始めるんだよ」

 

 そう言って前に差し出されたなのはの手をフェイトは……一瞬、戸惑いを表してから、握り返した。

 

「うん、なのははわたしの友達だ」

 

 こうして過去の争いに決着をつけた二人は、互いの手を握り合って心を交わした。

 それは、アリサが空気を読まずに「わたしも友達なんだからね!」と乱入するまで続き……ハナコもその友達の輪に交ざりたくなり、ワチャワチャとアリサに撫でられるフェイトへと突撃していった。

 

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