【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

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38.砕け得ぬ闇の再誕だよ

 ハナコ達から急に生えてきた光の樹。それは彼女達から生命のエネルギーを搾り取って、一人の人間を形作った。

 現れた者は、オレンジ色の髪をした十五歳前後の少女。背中の開いた赤いドレスを身にまとい、薄い笑みを浮かべている。

 そのオレンジ髪の少女は、足元で転がるピンク髪の少女を足蹴にすると、腰をかがめてピンク髪の少女から『夜天の魔導書』を奪い取った。

 

「まったく、『闇の書』が初期化されているなんて想定外よ。おかげでアクセスコードの再構築に時間がかかったわ。アクセス、『アンブレイカブル・ダーク』」

 

 オレンジ髪の少女がそう言うと手の中の『夜天の魔導書』のページがひとりでにめくれる。すると、彼女の前にそそり立つ『永遠結晶』が怪しく光った。

 そして、『永遠結晶』に大きなヒビが入っていき……結晶は粉々に砕けた。

 さらに、その砕けた『永遠結晶』の中から、光り輝く物体が出現する。

 

 それは、盾のような形をした五枚のオブジェクト。一つ一つが、人間一人分ほどの大きさを持っている。

 

「さあ、悪魔よ、目覚めなさい」

 

 オレンジ髪の少女がさらに『夜天の魔導書』を行使しようとした、その瞬間。

 ハナコが、光の樹を体から引きはがしながら、少女に向けて突進した。

 

「なっ!?」

 

 驚愕するオレンジ髪の少女。その少女にハナコは肉薄し、右の拳を腹に向けて叩きこんだ。

 少女は『夜天の魔導書』を取り落として吹き飛び、農園の野菜畑へと突っ込んでいく。

 拳を振り抜いた状態でその様子を眺めたハナコは、「ふう」と息を吐き、五枚のオブジェクトとなった『永遠結晶』を見上げる。

 

「今のは、『永遠結晶』の『生命操作』の力を使ったのかな? 周囲の人間からカロリーを徴収して、新たな肉体を生み出した感じだね。『永遠結晶』って、植物以外も生み出せたんだね」

 

 ハナコが、野菜畑で立ち上がったオレンジ髪の少女に向けて、そう言い放った。

 少女は、体をフラリとゆらしながら、ハナコを憎々しげににらむ。

 

「生命エネルギーは搾り取ったはず……どうして動けるの」

 

「さあねー?」

 

 ハナコは少女に向けて不敵な笑顔を浮かべながら、そう返した。

 ハナコは内心でも不敵に笑う。光の樹、すなわち植物を介したカロリー奪取能力など、植物を支配するグルメ細胞を持つ自分に効くわけがない、と。

 

「……邪魔しないで。そいつに用があるの」

 

 オレンジ髪の少女が、前に一歩踏み出しながらハナコに向けて言う。

 だが、ハナコは少女と盾のオブジェクトの間に割り込むように移動しながら、言葉を返す。

 

「やだよ。狙いが何かは知らないけど、農園を破壊して、みんなからカロリーを奪った相手の言うことを素直に聞くはずがないじゃん」

 

「そう、それなら……」

 

 オレンジ髪の少女は歩みを止め、真横に腕を伸ばして手をかざした。その先には、ロボット同士の戦いでできた金属のスクラップが転がっている。

 

「痛い目を見てもらうわよ!」

 

 瞬間、スクラップが分解され、代わりにオレンジ髪の少女の手に近未来的なフォルムをした銃が握られる。

 少女はそのまま銃弾を放つが、ハナコは冷静に『鍋ぶたシールド』でそれを弾く。

 すると、少女は前へと跳躍し、銃を剣に変形させてハナコに斬りかかってきた。

 

 対するハナコはニヤリと笑って、拳を強く握った。

 こうして、二人の少女の戦いが、始まった。

 

 そして、数分後……。

 ハナコに散々殴られ続けたオレンジ髪の少女は、ピンク髪の少女の横で地に伏せていた。

 

「そんな……私が……」

 

 オレンジ髪の少女がうめくが、立ち上がる様子はなかった。

 

「ふいー、人を殴るのってあんまり気分がよくないね……さて、みんなを助けたいけど、これ、どうすればいいんだろう?」

 

 ハナコは、光の樹が体から生えた皆を見て、どうしたものかと頭を悩ませた。

 全員、意識はあるようだが、光の樹から自力で脱出できた者は今のところ、なのはのみ。そのなのはも、ヘロヘロになって座りこんでいる様子。

 

 とりあえず、困ったときのマッドサイエンティスト頼みか、と最初にDr.ゼロを救出しようと彼のところへ近づく。

 だが、それはハナコの明確な隙だった。その隙を突いて、地面に倒れたままのオレンジ髪の少女が指先を動かす。すると、地面に転がっていた『夜天の魔導書』が宙に浮いて、ひとりでにページをめくりあげた。

 

「さあ、ユーリ……! 今度こそ……あの女から力を奪いなさい!」

 

 その少女の声を聞いて、一瞬「ヤバい!」とあせるハナコ。だが、オレンジ髪の少女の狙いはまた光の樹の使用だったようで、ハナコは自分の体から生えようとする樹を制御して無効化した。

 すると、代わりに地に伏せたオレンジ髪の少女の体から光の樹が生えてきて、彼女を無力化した。

 それを見て、ハナコは困ったように言う。

 

「え、ええー。どういうこと?」

 

 ハナコは別に、光の樹の効果を少女に跳ね返したつもりはなかった。

 いったい何が起きたのか……。その答えを知る者は、別にいた。

 

「やれやれ、狸寝入りは疲れるね」

 

 Dr.ゼロだ。彼は、自身の体から生えた光の樹を無理やりもぎ取り、拘束から脱する。

 それにはハナコも驚いた。彼女が見たカロリーの動きから、ゼロはオレンジ髪の少女が実体化する際に、生命エネルギーを奪われていたはずだった。

 

「博士、カロリー搾り取られて動けるの?」

 

「ああ、さっき桃色少女からカロリーを奪っていたからね。その分だけ余裕があったんだよ」

 

 そのピンク髪の少女は、光の樹の被害にあっていないのか、ゼロにカロリーを奪われた飢餓状態で地面に転がったままだ。

 

「ど、どうしてこんな……」

 

 光の樹に囚われたオレンジ髪の少女が、言葉を振り絞るようにして言った。

 それに対し、ゼロは口元を歪ませながら答える。

 

「どうやら君は『夜天の魔導書』を通じて『永遠結晶』にウィルスを流し込んだようだね。だが、二度もそんなことはさせないさ。君が悠長に戦っている間に、『永遠結晶』へカウンタープログラムを仕込ませてもらったよ」

 

「そんな……」

 

 ハナコはなんのこっちゃと思ったが、どうやらマッドサイエンティストが上手くやってくれたようだと納得することにした。

 

「さて、名はイリスだったね。君の望み通り、『砕け得ぬ闇』を解き放ってやろうじゃないか。君の生命エネルギーを使ってね」

 

 ゼロは宙に浮いた『夜天の魔導書』のもとへと向かうと、それをつかみ、開いていたページに指で触れた。

 すると、オレンジ髪の少女の体から、さらに追加で光の樹が生えてきて、その根が盾のオブジェクトへと伸びていく。

 

「あああああ!」

 

 ゼロの言葉通り生命エネルギーを搾り取られているのか、オレンジ髪の少女が悲鳴を上げる。

 その様子を見て、ゼロがつぶやく。

 

「ふむ、実体化には一人分では足りないか。どれ、私からも追加で持っていくといい」

 

 すると、またもやゼロの半身から光の樹が生える。だが、ゼロは平然としていた。ハナコが感じたカロリーの動きは、オレンジ髪の少女からは大量、ゼロからは微量が盾のオブジェクトに流れ込んでいた。

 

「まだ足りないか。ハナコ君、君からもエネルギーを徴収するよ」

 

「えー、せっかく朝ご飯食べたのに、カロリー持っていかれるのは嫌だなぁ」

 

「どうせ君は食事を取れば、すぐに回復するだろう」

 

「はいはい、仕方ないなぁ」

 

 ハナコがそうなげやりに返事をすると、次の瞬間、ハナコから盛大に光の樹が生えてきた。

 ハナコが光の樹を自ら受け入れると、光の樹は豪快にハナコから生命エネルギーを吸い上げ始めた。

 

「うおお、きっつう……」

 

 ハナコの常人より豊富な蓄積カロリーが、どんどんと吸い取られていく。

 やがて、盾のオブジェクトはより強く輝き……五枚並んだ盾の前面に一人の人間が出現した。

 それは、ウェーブがかかった金髪をたなびかせた、小さな女の子。どうやら、『永遠結晶』の正体は人間の女の子だったようだ。

 

 ハナコはそれを見て、海鳴市の海底で『永遠結晶』を見つけたときに、道理で興味を引かれなかったわけだ、と納得した。

 鉱物を食べられるようになるアナザで得た味覚が、『永遠結晶』を人に近い存在だと判断して、忌避感を彼女に抱かせたのだ。ハナコは、人を食べることを禁忌と感じる感性を当然のように持っていた。

 

「うむ、成功だね」

 

 ゼロが自身から生えた光の樹を引っこ抜きながら、満足そうにそう言った。

 ハナコも光の樹を打ち払いながら、ゼロに疑問をぶつける。

 

「で、博士、さすがに『永遠結晶』から出てきたこの子が、いったい何者かくらいは言えるよね?」

 

「もちろんさ。彼女の名はユーリ。『闇の書』の追加機能の一つ、『砕け得ぬ闇』。古代ベルカで生み出された、『闇の書』を管理・運営するための生体プログラムだよ」

 

「ヴィータさん達のご親戚かぁ……ってことは、この襲ってきた女の子達は『闇の書』の被害者さん家族ってとこかな?」

 

「当たらずとも遠からず、ってところかな」

 

 ゼロのそんな言葉に、ハナコはとりあえず納得することにして、未だ光の樹に囚われたままのはやて達をどうにかしようと動き出す。

 指先を切って血を流し、血を光の樹に触れさせて支配する。

 そして、光の樹を枯らして、はやて達を救出していった。はやて、フェイト、アルフ、シャマル、ザフィーラは全員、生命エネルギーを吸収されてぐったりとしていた。なのはは一人、フラフラになりながらも立ち上がってハナコを手伝う。

 

「なのはさん、よく動けるね」

 

「うん、グルメ細胞に自分の身体を食べさせる魔法で、なんとか体力を確保したの」

 

「『自食作用(オートファジー)』じゃん。やりすぎると死んじゃうから気を付けてね」

 

「そうだね。でも、一つ切り札を手に入れた感じかな」

 

 と、ハナコがそんな会話をなのはとしていると、ハナコ達に周囲から近づく者達が居た。

 

「ドクター、制圧完了しました」

 

 それは、ナンバーズ。姿を見せていなかった彼女達が、戦闘服姿で走り寄ってきたのだ。

 

「あれ、ナンバーズってちゃんと居たんだ。この状況で姿を見なかったから、全員不在かと思った」

 

「ずっと居たわ。あなたの大切な農園を守っていたのよ?」

 

 ハナコの冷たい言葉に、ナンバーズの一番目、ウーノが反応してそう言った。

 どうやら彼女達は、ゼロが作った防衛ロボットと一緒に、農園を襲っていたロボット兵器を撃退していたようだった。

 

「ああ、それは重要な任務だね。お疲れ様」

 

「本当にね。おかげでお腹が空いたってセインがうるさくて」

 

「じゃあ、ご飯にしようか。はやてさん達は……点滴かな」

 

 光の樹で消費したカロリーを補給するため、ハナコはそう提案した。

 すると、虚空を見つめて無言でたたずんでいた金髪の女の子、ユーリのお腹が可愛らしい音をたてた。

 肉体を得るためにあれだけ自分のカロリーを奪っておいて、もうお腹が空いたのかと、ハナコは思わず笑ってしまった。

 




ユーリが肉体を作るときに他人の体に生やす赤黒い物体は、設定資料集によると『光の樹』、映画パンフレットによると『結晶樹』らしいです。つまり植物ってことで、いいね?
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