【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

39 / 60
39.光差す闇の記憶だよ

 光の樹によって生命エネルギーを搾り取られたフェイトとはやて、アルフ、シャマル、ザフィーラの五名は、ナンバーズによって研究所の施設内へと運ばれた。

 彼女達は、ハナコが急遽(きゅうきょ)作成したカロリー補給液の点滴を受けながら、ダンボールと毛布を敷いた床の上に並べて寝かされる。

 研究所は病院ではないため、雑だが致し方ない処置であると言えた。

 

 そして、食堂。

 比較的元気なナンバーズ達により料理が作られていき、それをハナコとゼロ、そして無事に動けたなのはが真っ先に食べていく。

 なお、金髪の女の子ユーリは、Dr.ゼロが『夜天の魔導書』に何かをして、虚空を見つめていた状態から一転、自我らしきものが出てきた。その彼女も一緒になって料理を食している。

 

「今回は、本当にご迷惑をおかけしました」

 

 一心不乱に食事を取っていたユーリだったが、満腹となったのか、食器を置いて唐突に言う。すると、箸を止めたハナコがそれに応じた。

 

「うん、本当にね。いろいろ事情は聞かせてくれるんだよね?」

 

「はい、もちろんです」

 

「そっか。じゃあ、食事の後に、みんなの気力が戻ったらね」

 

 ハナコはそう言って、再び食事を開始した。

 

「助かります。正直、ご飯が美味しすぎてお腹いっぱいで、今すぐ話すのはきつかったのですよ」

 

 そんなユーリの言葉を聞いて、自身の研究成果を褒められたようで嬉しくなるハナコ。

 そして、料理を終えたナンバーズも食事を開始して場が騒がしくなってきたころ、食堂に人が一人やってきた。はやてだ。魔法で床から浮きながら、点滴パックを付けた状態での来訪だ。

 

「なあ、ドクターやったな? ちょっとええか」

 

「ああ、ちょうど食べ終わったところだ。何か用かね」

 

 はやてに話しかけられ、ナプキンで口をふいていたゼロが話に応じる。

 

「あのな、リインフォースが夜天の書から起きてきいひんのやけど……」

 

「リインフォースとは、管制プログラムの名でよかったね? 『夜天の魔導書』は、今回の首謀者であるイリスからウィルスを仕込まれたみたいだからね。『夜天の魔導書』は去年、初期状態に戻したから、セキュリティが甘いんだ」

 

「ええっ、ウィルス対策必要なんか! 急いで対策練らんと。ああー、でも夜天の書に新しく機能追加するの、管理局でめっちゃめんどい申請せなあかんやん!」

 

「私は手伝わないので、管理局で勝手に解決してくれたまえ」

 

「せめてウィルス除去を頼めませんか……?」

 

「ふむ、報酬は何を提示できるかね」

 

「うっ……お金とかですか?」

 

「君が個人で捻出できる金銭など、興味はないな」

 

「ううー」

 

 そんなやりとりを聞きながら食事を続けるハナコは、はやての代わりに出せる報酬はあったかと考えを巡らせる。

 ハナコが珍しい野菜でも育ててやろうかと思いついたそのとき、ユーリがはやてに向けて言った。

 

「エルトリア製のウィルスの除去なら、任せてもらえませんか」

 

「えっと、あなたは……確か、あのでっかい水晶から出てきた人ですよね? ドクターが、さっき『闇の書』のプログラム言うてた……」

 

 はやてはユーリを怪しみながら、そう尋ねる。はやては光の樹に囚われながらも、ずっと意識があったため、ゼロがハナコにしたユーリについての説明を耳にしていたのだ。

 

「はい。私は『夜天の魔導書』の保守管理システム『砕け得ぬ闇』のユーリと申します」

 

「そっか。わたしは今代の『夜天の魔導書』の(あるじ)、八神はやてや」

 

「やはりそうですか……。見たところ、『夜天の魔導書』は私が知るより以前の、安全な魔導書に戻った様子ですね。とても喜ばしいことです」

 

 ユーリははやてが手に持った魔導書を見つめると、ほにゃりと顔をゆるめて笑みを浮かべた。

 すると、釣られてはやても笑顔になる。

 

「その様子なら任せてもよさそうやな。どうか、リインフォース……夜天の書の管制人格を助けてあげてほしい」

 

「はい、任されました!」

 

 そうして『夜天の魔導書』は保守管理を担うユーリの手元に引き渡され……しばらくした後に、魔導書からリインフォースが飛びだしてきた。

 それに喜んだはやては、リインフォースに抱きつく。そんな夜天の主従の微笑ましい姿をユーリは笑顔で見守っていた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「では、一人ずつ事情聴取といこうか」

 

 食事が終わり、皆が点滴でなんとか動けるようになった後、ゼロが一同を食堂に集めてそんなことを言った。

 ちなみに、ピンク髪の少女とオレンジ髪の少女はこの場にはいない。

 ゼロ曰く、彼女達は機械や金属類を変形させて武器に変換する力を持っているとのこと。そのため、ハナコが生やした巨木のうろの中に、食獣植物のツタで拘束して閉じ込めてある。

 

 まずは、敵対しないことが分かっているユーリから話を聞く。今回の件を正確に把握するには、まずそれが必要だとゼロは語った。

 

「私は『永遠結晶』を解析して、桃色少女以外のおおよその事情を察しているが、改めて本人の口から聞くこととしよう」

 

 ゼロがそう言って、ユーリに話をするよう、うながした。

 すると、ユーリは真面目な顔をして語り始める。

 

「今からどれくらい昔のことでしょうか。私はベルカの地で、『夜天の魔導書』を安全に運用するための生体プログラムとして生まれました」

 

 周囲の視線が、さっとはやてとその隣にいるリインフォースに集まる。一方で、シャマルとザフィーラは心当たりがないのか、首をかしげていた。

 

「『夜天の魔導書』と私は何人もの主の死を見届け、転生を繰り返します。しかし、魔導書へ追加機能が盛り込まれていくうちにバグが重なり、いつしか『夜天の魔導書』は『闇の書』と呼ばれるようになってしまいました……」

 

 ここまでは自分もある程度は知っている話だ、とハナコは用意された満足茶を飲みながらうなずいた。

 

「『闇の書』のバグが修復困難なほど積み重なってきたあるとき、今から……四十と数年ほど前ですか。次の主を求めて、私達はある世界へ訪れます。惑星エルトリアと呼ばれる死の星です」

 

 そうして、以前ハナコも少しゼロから聞いた、エルトリアについての話が語られる。

 

 惑星エルトリアは、『死蝕』と呼ばれる星の病を抱えていた。

 樹は枯れ、水が失われ、一面の荒野が広がり、環境に適応した危険な生物がうろつく、そんな死の星となったエルトリア。

 人類はそんな故郷を見捨てた。宇宙に脱出が続き、地表に残るのは、惑星の再生を夢見て残り続けるほんのわずかな人員だけ。

 そのわずかな人員は、惑星再生委員会という組織を立ち上げ、宇宙に脱出した人々の支援を受けながら星の治療を試みていた。

 

 そんな惑星再生委員会と、空から惑星に降り立ったユーリが出会うことになる。

 その切っ掛けは、あのオレンジ髪の少女、イリスだった。

 

「イリスの正式名称は『IR-S07』……惑星再生委員会によって造られた、生体テラフォーミングユニットです」

 

「そりゃまた、親近感が湧くねぇ」

 

 ユーリの説明に、ハナコはそんなことをつぶやいていた。荒廃した土地の再生のために造られた存在という共通点が、ハナコとイリスにはあった。

 

「イリスは、空から落ちて一人で眠っていた私を発見してくれたんです」

 

 それ以降、ユーリは惑星再生委員会のもとで生活を始めた。

『闇の書』の魔法と、ユーリ個人が持つ『生命操作』の力が、惑星の再生に有効だと皆に認められたからだ。

 ユーリは、彼らと一緒に惑星の再生を進めた。

 緑を復活させ、地下から水を引き、家畜を育て、愛玩動物を保護した。さらにユーリは、魔法技術を持っていなかったエルトリアの人々に、少しずつ魔法の存在を伝えていった。

 

 イリスとユーリは親友同士になり、幸せな日々を送った。

 しかし、その日々はユーリが思っていたよりも、長くは続かなかった。

 

 予算の打ち切り。惑星再生委員会の成果が不十分だとして、エルトリアの政府によってプロジェクトが凍結されることになったのだ。

 これに怒りを示したのは、惑星再生委員会の研究所の所長、フィル・マクスウェルだった。

 

 マクスウェルは乱心し、量産型のテラフォーミングユニットを使って委員会のメンバーを皆殺しにした。彼は自らの研究成果であるイリスを手土産に、政府とは別の軍事団体に身を寄せようとしていた。

 それを許せなかったユーリは……マクスウェルを殺害した。

 

「ですが……殺したところをイリスに見られてしまったんです。父と慕っていた所長の乱心を知らないイリスは、私を敵視して……私達は戦うことになってしまいました。委員会の人達を殺した相手は私であると、勘違いされたまま……」

 

 戦いの結果、イリスはユーリによってエルトリアの情報処理デバイスである遺跡板に封印された。

 さらに、ユーリは自らを『闇の書』へ蒐集(しゅうしゅう)させ、転生機能を使って『闇の書』ごとエルトリアを離れた。

 

「私が知っているのはここまでです……気がついたら、この世界で目覚めていました」

 

 ユーリの長い語りが終わり、一同は大きく息を吐いた。

 ハナコ達にも今回の事情がおおよそ見えてきた。つまり、今回の事件は、イリスの勘違いからくる復讐劇だと。

 

「じゃあ、イリスさんは、話せば分かってもらえるってことかな?」

 

 なのはが少しだけ嬉しそうにそう言った。今回の事件には、悪者はいなかった。それが、彼女にとって嬉しい事実だったのだ。

 

「そうだろうね。では、その復讐者のもとへと向かうとしよう」

 

 ゼロはそう言い、手元のお茶を飲み干して席を立った。

 それに他の者達も追従し、ぞろぞろと研究所の廊下を歩く。

 

 ユーリは魔法で床を浮くはやての横を歩き、はやてに話しかける。

 

「そういえば、私自身を蒐集するとき、一緒に『闇の書』へ三匹の小動物を蒐集したのですが……先ほど中身を確認した『夜天の魔導書』の中にはいませんでした。行方を知りませんか?」

 

「ああ、ディアーチェとシュテル、レヴィやな? 我が家で飼っておるよ」

 

「そうですか、無事だったのですね!」

 

 ユーリは嬉しそうに胸の前で両手を握って笑顔を浮かべた。

 ハナコはそんな二人の平和な会話を聞きながら、今回の事件も万事上手く行きそうだと、ホッと息を吐いた。

 




映画を観た人向けの、本編で明かされない裏設定:アミティエ・フローリアンが未だに姿を見せませんが、彼女は現在エルトリアにいます。作中の時系列はReflection原作の一年前なので、グランツ・フローリアンの病気が深刻なまでには進行しておらず、そのことからそこまで追い詰められていないキリエは出発前にアミティエと衝突することもありませんでした。キリエは家族に黙ってこっそり地球に跳んでいます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。