【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

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40.対峙する悪と悪だよ

 ハナコがなけなしのカロリーを使って生み出した大樹。そのうろから、二匹の食獣植物が姿を見せた。

 ケルピー蛭木(ヒルギ)。人や動物を果実の匂いで誘い、そのツタと枝で相手を捕らえ、水の中へ移動して溺死(できし)させる危険な植物獣類である。

 捕獲レベルは48と非常に高く、イリスとピンク髪の少女が気力を取り戻しても、そう易々と拘束を解けない頑丈さを持っていた。

 

 そのケルピー蛭木が二体、根を動かして歩いてきてハナコ達の前で静止する。

 捕らえられた二人は、念入りに拘束をされており、特に顔面上部を重点的にツタが覆っていた。

 これはDr.ゼロの指示によるものだ。なんでもエルトリアには、生物の目から目に感染させるウィルスプログラムが存在する可能性があるらしかった。

 

「『永遠結晶』の記録を確認した限りでは、惑星再生委員会の研究所所長が、ユーリ君へ殺害される直前に使っていたね。該当する記録はその一件だが、彼女達も使えるかもしれない」

 

 ゼロがそう言うと、ユーリは思い当たることがあるのか、ハッとした顔になる。

 

「確かに、所長の目を見たら動きを封じられました。そのときは、ディアーチェ達が助けてくれたのですが……」

 

 所長に三匹の猫が飛びかかり、所長がそれをはね除けたせいで猫達は瀕死になったらしい。そこで、急いで『闇の書』に三匹を蒐集(しゅうしゅう)させることで命を守ったのだとか。

 そんな話をユーリがしている間に、なにやらゼロがイリスの頭部に手を当てている。

 

「ドクター、何を?」

 

 なのはが尋ねるが、ゼロはなんてことないように答えた。

 

「いや、なに。先ほどのユーリ君の話をもう一度聞かせるのは手間だからね。記憶を流し込んでいるんだよ」

 

「ええっ、そんなことできるんですか?」

 

「人間ではなく生体ユニットだからね。『永遠結晶』の記録である程度仕様は理解しているから、この程度はどうということはないよ」

 

「そうなんですか……」

 

 なのはは若干引き気味で、ゼロの返答に納得した。

 そして、ゼロがイリスの頭に手を当てること数十秒。不意にゼロが「おや?」と声を上げた。

 何か失敗したのかとハナコ達が不安になったとき、ゼロが面白そうな声音で言う。

 

「イリス君の記憶へ不自然に差し込まれたデータがあるね。……なるほど、ユーリ君。君とイリス君の戦いは、仕組まれたものだったようだ」

 

「仕組まれた、ですか……?」

 

 ゼロの言葉に、ユーリは険しい顔をして問い返す。

 

「イリス君は思考誘導を受けていた。惑星再生委員会のメンバーを殺した者は、ユーリ君だと思い込むようにね」

 

「そんな……」

 

「犯人は、もちろん、惑星再生委員会の所長だね。……ふふふ、あははははは!」

 

 話の途中で突然ゼロが笑い出し、一同は何か笑うポイントがあったかと不審がる。

 だが、そこでゼロがとんでもない事実を口にする。

 

「まさか私の他に、こんなことを考える者がいるとはね! フィル・マクスウェルとやら、この子の中に自分のバックアップを残しているぞ!」

 

 自身のバックアップ。その言葉にピンと来ていないメンバーが、幾人かこの場にいた。

 その者らに説明するように、ゼロが言う。

 

「惑星再生委員会の地上研究所所長。彼はね、自分の娘とも言えるテラフォーミングユニット・イリスの中に、自身の記憶と人格を残しているんだよ。自分がいつ死んでも、バックアップから復活できるようにとね」

 

「うわぁ……」

 

 その発想に、何人かが思いっきり引いた。その中でフェイトは特に嫌そうな顔を見せていた。彼女は、死者の記憶を転写して愛娘を蘇らせようと作り出された存在。そんな自分自身への嫌悪感からきた表情だった。

 記憶と人格を残したからといって、正しく復活できるとは限らないのに……フェイトはそう思っているようだった。

 

「……やれやれ、バレてしまったかね」

 

 と、突然、イリスの口が動いて声を発した。だが、その声質はイリスのものではなく、男性のそれだ。

 

「その声は……所長!」

 

 声の主を唯一知っていたユーリが、思わずと言った様子で叫んだ。

 

「やあ、ユーリ。復活おめでとうと言っておこうかな。いや、勝利おめでとうか。おかげで私は絶体絶命さ」

 

 イリスの体を介した男性の声、マクスウェルがユーリに向けてそう言い放つ。

 

「あなたのせいで私達は……!」

 

「そう恨まないでくれ、愛しいユーリ。私は君に殺された。私は君にイリスをけしかけた。痛み分けだとは思わないかい?」

 

「……ッ!」

 

 ユーリの瞳が怒りに染まるが、相手はイリスの体の中にいることに気づき、深呼吸をして落ち着こうとする。

 そんなやりとりをイリスの頭に手を当てたまま聞いていたゼロが、ユーリに向けて言った。

 

「ユーリ君、しょせんは負け犬の遠吠えだよ」

 

 そんな言葉を聞いたイリスの中のマクスウェルが、平静な声でゼロに向けて言う。

 

「負け犬か。敗者は敗者らしく、投降しようではないか。一つ、取引と行こう」

 

「ほう、取引ときたか」

 

「ああ、そうだ。イリスの調査によると、君達は時空管理局という組織に所属しているそうだね。中心世界はミッドチルダで、所有技術は主に魔法科学。エルトリアとは異なる技術だ」

 

「よく調べているね」

 

「そこで、私は君達に提示したい。私とイリスを保護してくれるならば、エルトリアの優れた機械科学を君達に提供しよう。私達は、共に発展していけるはずだ」

 

「エルトリアの技術か。魅力的だね」

 

 そんなマクスウェルとゼロの会話を聞いていたユーリは、とっさに叫ぶ。

 

「いけません! そいつは狂った科学者です! 聞き心地の良い言葉を口にしますが、言うことを鵜呑みにしては――」

 

「ああ、大丈夫だよ。こいつが歪んだ愛を持った狂人であることは、『永遠結晶』の記録からすでに読み取っている。取引は、受けないよ」

 

「なにッ?」

 

 ゼロの拒否宣言に、マクスウェルがうめく。

 そして、マクスウェルはまくし立てるように言う。

 

「魔導師を超える最高の軍事技術だぞ。フォーミュラ、ヴァリアントシステム、ナノマシン、アクセラレイター、ウィルスコード、テラフォーミングユニット……どれも時空管理局にとって魅力的なはずだ」

 

「ああ、言っていなかったかね? 私は時空管理局の者ではないよ。そして、最高の軍事技術というのは誤りだね」

 

 ゼロが、マクスウェルへ挑発するように言う。

 

「なんだと……!?」

 

「君が造りだしたはずのイリス君は、ハナコ君……緑髪の少女を相手に何分持った? エルトリアの技術、確かに素晴らしい。だが、グルメ細胞が持つ暴力の前には無力だ」

 

「グルメ細胞……? あんなものが、私の技術を上回ると……?」

 

「そこまではイリス君も調べられなかったようだね。ただの品種改良技術とでも思ったのかな? くくく……」

 

 ゼロは心底面白そうに言い、そしてイリスの頭をつかむ手に力を込めた。

 

「だが、君の提案はとてもよかった。エルトリアの技術、素晴らしい」

 

「ならば……」

 

「だから、その技術だけいただこう」

 

「は……?」

 

「君の記憶データだけ残して、人格データは破棄しよう。イリス君も、自分の中に別人が居座って、迷惑しているだろう」

 

「待て! 私がいれば君達の研究も進むはず――」

 

「ははははは、惑星一つ再生させられなかった三下研究者が何を言う! ここで君は退場したまえ! そしてその後に、記憶データはありがたくいただくとしよう!」

 

 ゼロは口元を歪ませて笑い、イリスの頭を両手でつかむ。

 マクスウェルが操るイリスの体は必死で抵抗しようとするが、ケルピー蛭木の拘束はそれを許さない。

 

 そんな二人のやりとりを見守っていたなのはとフェイト、はやて達。

 彼女達はドン引きしながら、念話で意見のやりとりをしていた。すなわち、人格データの消去を許すかどうかだ。これは殺人ではないかとなのはが言い出したのだ。

 そして、やりとりを終えたなのはが、ハナコに向けて言う。

 

「あの、ハナコちゃん……」

 

「ん? 何かな。今、いいところだよ?」

 

「それなんだけど、ドクターを止められない? このままじゃ、マクスウェルさんが殺されちゃうよ……」

 

「なるほど、話は分かったよ。おーい、ゼロ博士」

 

 ハナコが大笑いするゼロに話しかけると、ゼロは両手をイリスの頭に載せながら振り返る。

 

「なんだい? 今、いいところなんだが」

 

「フィル・マクスウェルとやらの人格データ消去だけど……」

 

「おや、止めるつもりかい?」

 

「被害を受けた農園の共同経営者として、許可を出すよ。他のバックアップデータも残らないよう、徹底的に消しちゃって!」

 

「ははは! 了解!」

 

「ハナコちゃん!?」

 

 ハナコの裏切りになのはが叫び声を上げ、フェイトとはやても驚き顔になる。

 そんな三人に、ハナコは諭すように言う。

 

「いいかな、なのはさん。まず大前提として、フィル・マクスウェル所長は既に死んでいる」

 

「それは、確かにそうなんだけど……」

 

「そして、なのはさんが学んだ魔法科学では、魂の存在が確認されているそうだね」

 

「うん……あっ、つまり人格データは、生きていない……?」

 

「そうだね。もちろん、ヴォルケンリッターやリインフォースさんみたいな、生きた魔法プログラムなんて存在もいるけれど……彼は、そういう存在じゃなくて、死んだ人間の人格バックアップ。独自の人生なんて歩んじゃいない、いくらでも複製できるただのデータだよ」

 

「なるほど……?」

 

「フェイトさんみたいに、生身の肉体に記憶を移植すれば魂は宿るかもしれないけれど、今はただのデータ。というわけで、博士、やっちゃっていいよ」

 

 ハナコがゼロに振り返ると、彼は既にイリスから手を離していた。

 

「終わったよ。人格データは全て消去して、記憶データは吸い出した。ごちそうさまだね」

 

 ゼロは、満足そうにそう言うと、いつの間にか取り出していた一枚のカード型デバイスを手の平の上でもてあそんだ。

 実は水面下でゼロとマクスウェルが人格データの消去を巡って、イリスの体内で激しいサイバー戦を繰り広げていたのだが、その戦いはこうしてゼロが勝利した。

 

 二人の悪のマッドサイエンティストの邂逅(かいこう)は、互いの目指す道が交わらぬままこうして終わった。

 無限の食欲を持つ悪の科学者が、狂った愛を持つ悪の科学者を飲み込み……ハナコ率いるグルメ研究所は未知の技術を新たに手に入れることとなった。

 


 

ケルピー蛭木(ヒルギ)(植物獣類)

捕獲レベル:48

オリジナル食材。生物を魅了する一つの果実を実らせ、その匂いで獲物を誘い込んで捕らえ、水中に移動して溺死させて栄養に変える食獣植物。マングローブを構成する蛭木(ヒルギ)の一種で、群生するマングローブに混じって獲物を待ち構える。

その性質上、近づかなければ害はないのだが、果実は抗いがたい芳醇な香りを発するため、誘われる生物が後を絶たない。

果実は食用可能で、その香りに負けないほどの美味である。果実を捕獲しようと思うと、当然、己を捕らえようとするケルピー蛭木と争いになるが、捕獲レベルに見合った頑強さを持つため、ミイラ取りがミイラになる美食屋も多い。

 

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