巨大ロボット兵器襲来から始まった一連の事件は、無事に解決した。
農園の復旧をナンバーズ達に任せ、転送施設で海鳴市に帰還したハナコ達。その足取りは重かった。
というのも、ハナコ達がマウクランへと跳ぶ直前にすずかから受け取ったメールによると、ハナコ達はテレビにバッチリ映っていたというからだ。
なのはとフェイトは、姿の消し忘れのうっかりを悔やんで、どんよりと肩を落としている。
はやてはテレビに映っていないため苦笑いで済んでいたが、キリエとの自動車道での戦闘を結界なしで行なったというので、目撃者がいてもおかしくない。
一方、ハナコは開き直ることにした。なのはやフェイトのように空を飛ぶところだけが、テレビに映っていたわけではないだろう。おそらく、一人で巨大ロボットと対峙し、殴りつけたシーンまで映っていたのだろうと、彼女は予想していた。
ここまで来たら、もはや言い訳は不可能。隠すことなく、自分が超人であると公言するしかない。
そして、ハナコは一つの答えを導き出した。グルメ細胞を大々的に地球人類に公開しちゃえばいいじゃん。そうすれば、堂々とマウクラン産の食材を地球に流通させられる!
「うん、ハナコちゃん。それは少し待ってね。グルメエイジ社にも段取りというものがあるから」
月村邸に帰ってハナコが方針を話したところ、そんな答えがすずかの父、月村俊から返ってきた。
グルメエイジ社。今年の一月に発足した、マウクラン産の食材を取り扱う会社である。出資は月村家とアリサの実家のバニングス家、グレアム元提督のグレアム家、他にも次元世界の存在を知る名家がいくつか名を連ねている。
現在、グルメエイジ社は次元世界の存在を知る者達のコミュニティ限定で食材を販売している。そして、俊が言うには、段階を踏んで一般にもその食材を提供していく予定だったらしい。
当然、グルメ細胞の存在も同時に公開する予定で、そもそもグルメ細胞を己に取り込む同意がなければマウクラン産の食材は提供しない取り決めになっているとのこと。
「うーん、じゃあ、わたしはどうすればいい? 今も、学校の友達からメールで質問がすごいんだけど」
ハナコが俊にそう尋ねると、俊はあっさりと答えを示してきた。
「企業機密に関わるから詳しく話せないと返しておいてね。実際、グルメ細胞はグルメエイジ社の企業機密だ」
「なのはさんやフェイトさんは……? あっちはグルメ細胞関係ないよね」
「あちらは時空管理局が対応してくれるそうだよ。まあ、あちらは巨大ロボットを破壊するなんてインパクトのある映像は撮られてないから、未成年者の保護のためにそこまでテレビも騒がないと思うよ」
「そっか。ならよかった」
「ハナコちゃんは外を出歩くと騒がれるだろうから、すまないけど出かけるなら海鳴市じゃなくてマウクランの方にしてほしいかな」
「ああ、それは問題ないよ。どうせ今年の夏休みはマウクランに通い詰めるつもりだったから」
そう、現在は都合のいいことに学校は夏休み期間中だ。
登校して質問攻めになったり、テレビカメラに追われたりしなくて済むのだ。
そんなやりとりがあってから、数日後。巨大ロボットのあれこれで未だに世間は大騒ぎが続いていた。
しかも、海鳴市は過去にも巨大な樹木に市街地が覆われたことや、昨年のクリスマス・イブの夜に謎の火柱が上がったことが再注目され、海鳴市に何かがあると報道が過熱した。
これにはさすがの時空管理局も、管理外世界だからと無干渉を貫くわけにもいかなかった。
いずれも次元犯罪がからむ事象だったからだ。
「すずかさん、クロノ執務官が東京に赴任するそうだよ」
ある日の朝、ハナコは時空管理局から渡されている携帯端末をいじりながら、ダイニングですずかと一緒にお茶をしていた。
そのお茶の最中に、ハナコはクロノから受け取ったメール内容を見て、すずかに向けてそんなことを言った。すると、すずかは驚いて言葉を返してくる。
「えっ、東京に赴任って、時空管理局の出張所でもあるの……?」
「東京の新宿に、臨時支局を設立するんだって。なんでも、次元世界の存在を地球に公開する準備を進めるんだそうだよ」
「わっ、公開しちゃうんだ」
「まあ、ここまで大騒ぎになるとねぇ」
「昨日も、急にロボットの残骸が消えたって大騒ぎになっていたもんね」
「ああ、イリスさんが結界の中で片付けたあれね」
海鳴市の沿岸に放置されたままの瓦礫の山と、コアを破壊された巨大ロボットの残骸。海鳴市の港に近く、船の運航の邪魔になると問題視されていたのだが、それが昨日急に姿を消したのだ。
もちろん、実行者は時空管理局だ。結界を張って、その中でイリスに瓦礫や残骸を資材に加工させ、東京に運び込んだ。
その資材を換金し、被害にあった業者に補填する。実はキリエが操っていたロボット兵器は、車両やスクラップを盗難して素材に使っていたのだ。そのため、巨大ロボットが上陸せずに被害を出してないように見えて、しっかり盗難被害者は出ていたというわけだ。
そんな事情があって、巨大ロボット兵器は姿を消し、世間での報道が再加熱しているわけだ。
「いったい、どうなっちゃうんだろうねぇ……」
満足茶を飲みながら、すずかがしみじみと言った。
そして、そこからさらに数日後……加熱を通り越して爆発するような騒ぎに突入した。
世界各国の政府を通じて、時空管理局が情報を公開したのだ。
次元世界、管理世界、管理外世界、無人世界、時空管理局、魔法科学、それら複数の情報が、一度に御目見得した。
さらには東京近海に時空管理局の次元航行艦が宙に浮いたまま停泊し、その存在が確かなものであると主張する形となった。近海に居座れてても自衛隊が出動していないことから、日本政府とは話がついているのだろう。
これには世界が揺れた。
そして……議論が巻き起こった。自分達も時空管理局の監督下に入り管理世界の仲間入りをすべきなのかと。
時空管理局が持つ技術力は地球のそれと何世代も離れている。
地球文明は月に有人飛行ロケットを飛ばすくらいが精々だが、時空管理局は宇宙どころか次元の海を航行可能な艦船を多数所持している。
管理世界入りすれば、その技術力の恩恵に与れるのではと考える者が、続出した。
だが、話はそう簡単にはいかなかった。
時空管理局が伝えたところによると、管理世界に入るには自力で次元移動を可能とする技術力を持ち、かつ質量兵器を廃棄しなければならないと。
次元移動は、時空管理局に導かれながら技術力を上げていけばいずれは到達できるだろう。しかし、質量兵器の廃棄は困難だった。質量兵器とは、魔法を使用しない物理兵器のことで、火薬を用いた銃砲や、核融合・核分裂を用いた核兵器、化学兵器などが該当する。
管理世界に入るために質量兵器を廃棄することは、現在の地球において非常に困難だった。なぜならば、地球にある国は一つではなく、兵器の廃棄などという隙を他国に見せるわけにはいかない国がほとんどだからだ。
そもそも、地球が一つの国としてまとまっていない時点で、地球を管理世界入りさせる意思統一を図ること自体、土台無理な話であると言えた。
ゆえに、地球は今後、次元世界の存在を知る管理外世界の一つとしてやっていくことになる。時空管理局の圧倒的技術力という餌を目の前にぶら下げられながら。
「はー、世間は大騒ぎだねぇ」
「でも、いい感じにハナコちゃんから注目が逸れたかも」
「まあ、時空管理局の魔導師さん達が、空飛んでデモンストレーションしているからね」
「なのはちゃんやフェイトちゃんもそれに混ざっていたけど……」
「地球人の中に稀に魔法の才能がある人が居るっていうのと、管理世界から留学にやってきている人が居るってことの宣伝だっけ」
「二人とも可愛いから、テレビの出演依頼が来ているんだって」
「はー、アイドル売りってめっちゃ大変なのに、よくやるよ」
後日、そんな会話をハナコとすずかは朝のティーテイムをしながら交わした。
ちなみにハナコは、前の世界にいるころ、IGO会長のマンサムに連れられていくつかの式典に参加したことがある。
その過程で、テレビ出演も何度かしたのだが、とても大変だったことをハナコは覚えていた。
そうこうするうちに、カメラに映ったハナコ達の存在は、海鳴市で起きた次元犯罪事件とそれを解決した魔導師の決戦の一幕として見事に流された。
注目から外れたハナコは、ホッと一安心して、残り少ない夏休みをグルメ研究に費やそうとマウクランに通い詰める。
農園も復旧し、それどころかDr.ゼロが調子に乗って敷地面積を二倍に増やしたので、ハナコは連日農園に何を植えるかでゼロと議論を繰り広げることになった。
ゼロ曰く、この農園の作物はグルメエイジ社が、あればあるだけ引き取ってくれるそうだ。
グルメエイジ社は地球にもともとあった次元世界を知る者達のコミュニティに、マウクラン産の食材を販売している。そのせいか、少しずつ地球人の間に「この世の物とは思えない美味がある」との噂が広がっているのだが……ハナコはそれを知るよしもない。
ハナコが知れば、ゼロに向けて「食で世界征服でもするつもりか」とでも言っただろう。
しかし、ハナコはお金儲けには興味が薄いため、ゼロが研究費という名の外貨をどんどん稼いでいることにずっと気づかないままなのであった。