【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

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43.緑を照らす虹の光だよ

 大きく揺れ続ける地球の人々だが、ハナコはそんな中で地に足をつけて研究を続けていた。

 最近の世間の騒ぎでハナコが関与したのは、東京の新宿に時空管理局東京臨時支局が設立されたとき、そこの支局長に挨拶に行ったことくらいだろう。

 ちなみに、支局長はクロノ・ハラオウン執務官だ。海鳴市の二つの事件、ジュエルシード事件と闇の書事件の二つを解決に導いた縁での就任である。

 

 その東京臨時支局とグルメエイジ社が、何やら提携を行なってマウクランからの食材の転送について話し合っていると、ハナコは月村俊から聞かされた。だが、ハナコは普段学校があることもあり、マウクラン農園の食材の扱いはDr.ゼロに一任することにした。

 現在、グルメエイジ社が世間に流通させている野菜や果物からは種が取り除いてあるが、それでもどこかから種が漏れることはありえるだろうとハナコは見ていた。

 そして、マウクラン産の野菜や果物、穀物は、F1種ではない。ゆえに、このまま食品を地球に流通させ続ければ、どこかから種を入手して勝手に栽培を始める者も出るだろう。

 

 しかし、グルメ細胞で品種改良した作物は、それまでの農業の常識が通用するとは限らない。

 ハナコとゼロは、地球でそれらの作物が大量生産開始されるまでの猶予期間を予測し、グルメ細胞が野生動物に与える影響も試算した。

 結果、銃では敵わない野生動物が出現するまでに、地球人類に多数のグルメ細胞適合者を出すことは可能だと結論を出した。適合者に強くなってもらい、強くて美味しくなった野生動物を狩ってもらうのだ。

 なんなら、マウクランを狩りのフィールドとして適合者達に開放してもいい。ハナコが前にいた世界の『美食屋』という職業になってもらうのだ。

 

 現状、地球人のグルメ細胞適合者は、高町なのはと月村すずかの二人だ。高町恭也も適合する予兆を見せている。

 なのはは時空管理局入りを志願しており、地球で美食屋をすることは難しいだろう。

 だが、すずかはどうか。本人は料理人を志望しているが、料理人が食材の調達を直接することは、ハナコのいた世界ではそこまで珍しいことでもなかった。

 

 ゆえに、ハナコは決めた。

 すずかが、美食屋の仕事に興味を持つか、実際に食材を捕獲しにいって確認してみようと。

 

「というわけで、今日は農園の外に食材を調達しにいくよー」

 

「わー、本当に大丈夫かな……」

 

 小学四年生の冬休み。今年のクリスマス会を終えてのんびり過ごそうとしていたすずかを誘って、ハナコはマウクランの第四ビオトープへとやってきた。

 第四ビオトープは、木が生い茂った一面の森で構成された場所だ。ビオトープなだけあって、すべてハナコが一から作り出した人工の環境である。

 

 現在、ハナコとすずかは、その第四ビオトープの外周にある壁の前にいた。

 ビオトープから生物達が逃げ出さないために作られた壁であり、第四ビオトープをグルッと一周、囲んである。壁を作ったのはゼロのロボット達である。

 

 もっとも、ビオトープ内の植物にはグルメ細胞が含まれており、その美味しさを知っている草食動物がビオトープの外へと逃げるとは考えにくい。そして、草食動物が豊富にいるならばわざわざ肉食動物も外へ縄張りを広げることもないだろう。

 森林がビオトープの外へ領域を広げることを防ぐことの方が、壁の役割としては重要かも知れなかった。

 

「さ、行こうか」

 

「えっと、何か身を守る物とか道具とかはいらないのかな?」

 

「あはは。これから向かう場所の猛獣は、市販のプロテクターとか一発で噛み砕くし、猟銃は効かないよ」

 

「ええー! 危ないよぉ……」

 

「大丈夫、大丈夫。しっかり守るし、あの猛獣程度なら今のすずかさんなら勝てるから」

 

「本当かなぁ……」

 

 そんな会話を二人で交わしながら、壁の入口を通り、森へ足を踏み入れた。

 うっそうとした森であり、ハナコはスイスイ進んでいくも、すずかは木の根に足を取られてしまう。だが、ハナコはそれを手助けしなかった。もし将来的に料理人と美食屋を兼任するならば、こういう悪路にも慣れてもらう必要があるからだ。

 

 ハナコはすずかを見守りながら、森の奥へ奥へと進んでいく。

 

「あっ、ウサギだ……ウサギ?」

 

 段々と森を歩くことに慣れてきたのか、周囲を見る余裕が出たすずか。彼女が発見したのは、体高二メートル以上ある巨大なウサギだった。

 すずかの視線の先を追ったハナコが、解説を入れる。

 

「あれはトリックラビットだね。ほら、去年の花見のために獲ってきたお肉がそうだよ」

 

「たまにハナコちゃんが塊肉で持ってくるよね。あんな見た目なんだ……」

 

「草原にいた群れを一つ丸ごとこっちに持ってきたんだけど、森に馴染んで順調に増えているね」

 

 ハナコとすずかがそんな会話をしていると、トリックラビットもハナコ達に気づいたのか、キョロリとハナコ達を見てから、その場で跳ねて逃走を始めた。

 だが、その跳んだ先には、ちょうど木があった。

 ぶつかる、とすずかが驚くが、トリックラビットは器用に木の幹を蹴って、真横に跳ぶ。さらにその先にあった木を蹴り、さらに跳んだ先も木を蹴り、と繰り返し、まるでパチンコ玉のように飛び跳ねながら森の奥へと消えていった。

 

「あれは……すごいね」

 

「そうだね。草原に居たときは推定捕獲レベルが1だったんだけど、森に適応した今は、捕獲レベル2はあるんじゃないかな」

 

「捕獲レベルって、確か1で猟銃を持ったプロの猟師が十人必要、だっけ……」

 

「うん。で、これから調達しにいく食材の場所を縄張りにしている生物は、捕獲レベルが6あるよ」

 

「危険すぎないかな!? プロの猟師が六十人いるよ!?」

 

「いやあ、さっきも言ったけど、そこまで来たら猟銃の弾、通らないから」

 

「危険すぎないかな!?」

 

 騒ぐすずかの言葉をハナコは「あはは」と笑いながら流した。

 ちなみにハナコは、今のすずかなら捕獲レベル8程度の猛獣なら素手で狩れると見ていた。

 

 そして、森を歩くこと三十分ほど。不意に、すずかは足を止めた。

 

「……なんだか、ものすごく良い香りがする」

 

「おっ、気づいた? 今回の捕獲対象の果物の匂いだよ」

 

「果物なんだ……」

 

「うん、それでね。その果物が、今感じている通りすごく良い匂いを出すから、周囲からそれを食べようと動物が集まってくるの。そこに、果物を食べない肉食動物が巣を作って、獲物を待ち構えているわけ」

 

「なるほど、賢い肉食動物だね……」

 

「そうだね。たとえば今、すずかさんを頭上から狙っているのとか、賢いよね」

 

「!?」

 

 ハナコの言葉を聞いた瞬間、すずかはとっさにその場から横へと跳んだ。

 すると、木の上から先ほどまですずかが居た場所に、大きな生き物が飛び降りてきた。

 

「狼!?」

 

 すずかは、己を襲った者の正体に気づく。それは、赤い毛並みで頭に一本角が生えた、全長三メートル近い狼だった。

 

「オーガウルフ。話にあった、果物を食べない肉食動物だよ。代わりに、動物の生き血とか臓物とかが大好き」

 

「くっ!」

 

 すずかはハナコの言葉を聞いて、とっさにファイティングポーズを取る。

 だが、狼は着地した体勢のまま、動かないでいる。

 

「…………」

 

 すずかは、背中に汗をかきながら狼と対峙する。いつ飛びかかれても大丈夫なように、よくよく狼を観察しながら。

 すると、すずかは何かおかしいことに気づく。狼が、本当にピクリとも動かないのだ。

 

「……ハナコちゃん、何かした?」

 

「うん。今回は私が守るって言ったよね。狼が降りてきたときに、ノッキングしておいたよ」

 

「ノッキング?」

 

 初めて聞くワードに、すずかはファイティングポーズを解いてハナコに疑問をぶつける。

 その答えを示すためにハナコは、その場で指を一本立てる。すると、指の先から、一本の針が飛びだしてきた。

 

「ノッキングは、獲物の神経や小脳に針を刺して、一定時間麻痺させる技術だよ。獲物を生きたまま捕らえたいときとか、獲物以外を殺したくないときとかに使う美食屋の技だね」

 

「……それ、わたしも覚えた方が、いいのかな?」

 

「ノッキングは主に美食屋の技術だからね。すずかさんは料理人だから、調理や仕込みで生きた素材が必要なときにあらためて覚える、程度でいいんじゃないかな。もちろん、すずかさんが美食屋を兼任したいって言うなら教えるよ」

 

「調理や仕込みで、生きた素材が必要な場面……」

 

「たとえば、生き血が必要で、凶暴な動物を殺さずに何度も血を採取する場合とか」

 

「それは……覚える必要が出てくるかもしれないね」

 

「ま、今度教えるよ、今度ね。さて、このオーガウルフは、三十分は体が麻痺したままだから、放って置いて先に向かおうか」

 

 そう言って、ハナコは指の先から針を仕舞い、すずかを伴って森の奥へと進んでいく。

 そして、後ろを歩くすずかに向けて、ハナコは言った。

 

「オーガウルフは群れを作る動物でね。だいたい二十匹前後の群れを作るんだよね」

 

「ということは、これから向かう先に、二十匹もあれがいるってことかな?」

 

「いやー、本当ならそうなんだけど、今回の捕獲対象の匂いがすごくて、本当に入れ食い状態でね……」

 

 そう言いながらハナコが先へと進むと、不意に森が途切れ、拓けた場所に出た。

 その先にいたのは、大量の赤い狼の群れ。その数は――

 

「あまりにも動物が集まってくるから、それを狙った狼達が群れを合流させちゃって、なんか五百匹の群れになっちゃったー」

 

「し、死んじゃうよー!?」

 

 思わずすずかが叫び、前を行くハナコにしがみついた。

 それと同時、狼の群れがハナコ達を囲み、比較的小さい狼から彼女達に攻撃を仕掛けてきた。

 

「お、すずかさん、私にしがみついて動かないでね。行くよー。『サボテン飛針』」

 

 ハナコが手を上にかざすと、手の平から無数の針が飛び出し、狼達に次々と突き刺さっていく。

 そしてハナコはすずかをともないながら、一歩、また一歩と前へと進む。

 

 飛ばしたサボテンの針により、狼がどんどん倒れて動きを止めていく。

 すずかは、それを呆然と見ながら、必死でハナコから離れまいと足を動かした。

 やがて、狼の群れの半数が倒れ伏し、周りに残された大きめの狼達が、警戒心を露わにしてハナコ達を遠巻きにした。

 

「……群れが大きくなりすぎたから、間引いているの?」

 

 最初は恐怖を感じたすずかだったが、あまりにも一方的にやられるオーガウルフ達を見て、今度は同情心が湧いてきたようだ。

 だが、そんなすずかの質問に、ハナコは笑って否定の言葉を返す。

 

「いや、全部ノッキングだよ。群れの数はこれで適正だからね。正直、草食動物も増えすぎだから」

 

「五百匹の肉食動物が適正って……」

 

「あっはっは、ビオトープって面白いよねー」

 

 ハナコはそう笑いながら、すずかを引き連れて拓けた土地の中心へと辿り着いた。

 その中心部には、巨大な木が一本生えていて、木のてっぺんから複数の果実がぶら下がっていた。

 そして、その実の大きさはというと……。

 

「大きすぎないかな!?」

 

「大きいよねぇ。直径一メートルはあるよ。だから採ってくるのは一個でいいよ。さあ、すずかさん、ゴー!」

 

「えっ、えっ、わたしが取りに行くの?」

 

「そうだよー。一番美味しそうなの採ってきてね」

 

 ハナコがそう言ってすずかを促し、すずかは一度周囲を見回して、木登りすることを決めた。

 周囲にはまだノッキングされていないオーガウルフが大量にいて、ハナコを木登りに行かせたら自分だけがその前に一人残されることになると判断したのだ。

 

「木登りとか何年ぶりだろう……あ、意外と簡単」

 

「今のすずかさんは、グルメ細胞に適合しているからねー。木登りとか楽勝でしょー」

 

 そして、すずかは木のてっぺんに辿り着き、悩むことなく一つの実をもぎ取った。

 

「あっ、ハナコちゃん! 両手がふさがって降りられない!」

 

「じゃあ、ツタでキャッチするから真っ直ぐ落としてー」

 

「はいっ!」

 

 そうして果実が一つ地上に落とされ、ハナコはそれを腕から生やしたツタで受け取った。

 それから、スルスルと木から下りてくるすずか。

 すずかは、あらためて見る巨大な果実に、うっとりとした目を向けた。

 

「本当にいい香り……」

 

「味も極上だよ。特にこの実は、上に実っていたやつの中で一番美味しそうな予感がしたからね」

 

「そう? 直感で選んだのだけど……」

 

「すずかさんは、食材選別の才能もあるのかもね。……さ、中央研究所に戻って、早速、試食しようか」

 

「うん。……ところでハナコちゃん、これはなんていう食材なの?」

 

「これ? うん、これは〝虹の実〟だよ」

 

 ハナコはそう言いながら、ツタを頭上に伸ばして果実を浮かせながら、帰りの道を歩き始めた。

 すずかは、帰りも帰りでこの匂いに釣られて、いろんな動物がやってきそうだな、と戦いの予感を感じていた。

 


 

オーガウルフ(哺乳獣類)

捕獲レベル:6(通常の群れの場合)

オリジナル食材。赤い毛並みに白く真っ直ぐな一本の角を持つ狼。食性は肉食で、草や木の実は食べない。

一匹のオスを頂点として群れを作る習性を持つ。だが、ライオンのような他のオスを排除するタイプの群れではなく、一匹のオスに対し一匹のメスがつがいとなり、群れの中に複数のつがいを抱える。群れの規模は通常で二十匹前後だが、餌が豊富な環境だと群れが合流する傾向にある。

肉は食用にならないが、額の角は削ることでワサビに似た味の香辛料となる。ちなみに角は、一年に一回生え替わる。

 

虹の実(果実)

捕獲レベル:12

美食屋トリコの『フルコース』のデザート。

トリコ原作において、トリコが小松を連れた冒険のうち、二回目の冒険で採りに行った食材。第八ビオトープでトロルコングの群れに守られていた。

育つには豊富な栄養が必要であり、今回の虹の実周辺の森が拓けていたのも、虹の実が栄養を土から大量に吸い取っていたため。他の木が育つだけの栄養が、周囲の土地には残っていなかったからである。

 

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