【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

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45.ようこそ食のテーマパークへだよ

 冬の季節が終わり、春。ハナコは小学五年生になった。

 世間では時空管理局をめぐる騒ぎが少し収まってきた様子があり、身の回りも大人しくなりそうだとハナコは安心していた。

 だが、安心するのはまだ早かった。

 

 五月。ゴールデンウィークが明けた頃、日本のとある企業が重大な発表をした。

 その企業の名はグルメエイジ社。発表の内容は、グルメ細胞について。

 そう、とうとう日本でグルメ細胞の存在が公表されたのだ。

 

 一年半前に世界各国の名家が出資して作ったグルメエイジ社。グルメ細胞は、その会社による食の研究成果として発表された。

 曰く、その細胞が含まれる食品は、味が飛躍的に向上すると。さらに、その細胞を含む食品を生物が食し続けることでグルメ細胞が身に宿り、生物として極めて強靭になると。まさに嘘偽りない発表である。

 

『グルメ細胞の悪魔』については公表されていないが、グルメ細胞に適合することで遠い宇宙に存在した異星人の力を宿すという胡散臭い噂が流布された。これはグルメエイジ社が意図的に流した噂だ。この噂について、グルメエイジ社側は肯定も否定もしない方針だ。

 

 そんなグルメエイジ社の発表は、人々に失笑で迎え入れられた。疑似科学にしろオカルトにしろ、突拍子がなさすぎる、胡散臭すぎると笑われたのだ。

 だが、発表と同時にグルメエイジが個数限定で市場に流した加工食品を食べた人々は、その未知なる美味に驚き、グルメ細胞の存在を半分だけ信じた。すなわち、味が飛躍的に向上するという部分だけ信じたのだ。

 

 そこへ、グルメエイジ社はさらなる情報を畳みかけた。グルメ細胞を直接注入したマウスの映像を公開したのだ。

 そのマウスは体長五十センチを超えるほど大きく、非常に力強く、そして極めて素早かった。

 この映像に、グルメエイジはこう付け加えた。不用意にペットへグルメエイジ社の食品を与えないでください、と。

 

 当然のように、グルメ細胞に適合したら人も巨人と化すのではと騒がれた。

 だが、すぐさま「グルメ細胞を直接注入しなければこうはならない」とグルメエイジ社からコメントが出された。

 そして、グルメ細胞を含む食品を食べて適合した場合、見た目が変わることなく身体能力が飛躍的に向上するとも説明され、これにはスポーツ界が揺れた。

 

 このグルメ細胞は日本の海鳴市にある山中にいた、とある生物から発見されたとされた。しかし、その生物の詳細までは公表されなかった。

 当然である。その生物とは、人間でありハナコであるのだから。

 人々は海鳴市という言葉から次元世界由来の物だと勝手に解釈し、ハナコに注目が集まることはなかった。次元の海を渡った遠い異世界には、未知なる何かが存在する。人々が再び次元世界をめぐって熱狂し始めるのは、グルメ細胞の詳細が発表されてからそう時間は必要なかった。

 

 こうして、ハナコが並行世界からやってきた影響は、ここに来て最大限まで大きくなり、世間は大騒ぎになるのだった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 地球にマウクラン産の食材が少しずつ出回り始めた。

 世間では次元世界の存在がすでに知れ渡っているため、グルメエイジ社が仕入れている美味なる食材は、異世界マウクランの物だという事実も隠されることはなかった。マウクランの名は、またたく間に人々に知れ渡った。

 

 マウクランの農園で産出される食材は、さすがに全人類の胃を満たせるほどの量ではない。

 だが、その美味は評判となり、グルメ細胞という怪しい要素があったとしても、ぜひとも食したいと思う者が後を絶たなかった。

 

 そこで、グルメエイジ社は社の設立以来、ずっと推し進めてきた計画を世間に公表した。

 それは、食のテーマパーク作り。グルメエイジ社は一年以上前から、東京湾を一部埋め立てて海上にテーマパークを作っていたのだ。

 

 その海上の埋め立て地は元々、月村建設とバニングス建設が数年前から共同で作っているテーマパーク、『オールストン・シー』の建設予定地だった。だが、いつの間にか企画がグルメエイジ社に渡り、遊園地や水族館を一部含む、食の楽園、満腹都市の建設にすり替わっていた。

 レストランや飲食店がいくつもテナントとして入り、そこではマウクランから大量に輸送される食材が、惜しみなく使われるという。

 

 テーマパーク『ニューグルメ・シー』。それが今年の秋にオープンするとグルメエイジ社が発表した途端、世間はその話題で持ちきりになった。

 そして、プレオープンは八月に行なわれることが決まり、そのチケットを巡って大騒ぎが起きた。

 

「そのプレオープンのチケットが、こちらー」

 

 七月の夏休みのある日、ハナコは月村邸に遊びに来たアリサとなのは、フェイト、はやての四人にチケットを掲げてみせた。

 

「もちろん、それはくれるのよね? ね?」

 

 アリサがチケットに注目して目を輝かせる。

 

「あげるよー。でも、アリサさんならご両親からチケットくらい、貰えるんじゃないの? 『ニューグルメ・シー』はバニングス家の事業だよ?」

 

「頼めば貰えると思うけど、どうせならみんなと一緒に行きたいじゃない!」

 

 アリサのその言葉を受け、この人結構ストレートに好意を示してくるよね、とハナコは気恥ずかしくなった。

 とりあえず、そのままハナコは四人にチケットを配った。はやてにはヴォルケンリッターの四人の分、フェイトにはアルフとリンディの分も渡してある。

 

「ちなみになのはさんの家族の分は、忍さんが恭也さんに渡していると思うよ」

 

「そうなんだ。ありがとう」

 

 ハナコの補足に、笑顔で礼を言うなのは。

 ちなみに忍と恭也は現在、大学三年生で、二年後の卒業と共に結婚することが決まっていた。今回のプレオープンも、デートに使われることだろう。

 小学五年生のハナコ達は、色恋沙汰には縁がない。当然、デートに誘う相手もいないのだが……。

 

「なのはちゃん、ユーノくん誘ったらどない?」

 

 と、はやてがそんなことをなのはに言い出す。

 

「ユーノくん? なんで?」

 

「そら、デートのためやろ」

 

「え、ええー!?」

 

 デートと言われて、顔を朱に染めるなのは。

 

「ユーノくんとはそういうのじゃなくてぇ……」

 

「何言うてんの。この間も無限書庫で読書デートしてたやん」

 

「なんで知っているの!?」

 

 そんななのはの反応に、一同は笑いに包まれた。

 

 それから、ハナコはなのはに「ユーノさんの分もどうぞ」と一枚余計にチケットを渡した。

 プレオープンまであと一ヶ月。なのははユーノをデートに誘うかどうかでしばらく悶々とした日々を過ごした。そして、プレオープン当日はハナコ達と一緒に行動することが前提だと思い当たり、ユーノが来ても二人きりのデートにならないことに気づいた。

 なのはは友人達にからかわれていたと知り、しばらくへそを曲げた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

『ニューグルメ・シー』は一大テーマパークだ。必要な食材の量は相当な物になると見込まれたが、マウクランではDr.ゼロが張り切って農園を拡大させたため、余裕でまかなえる見込みだ。

 ただ、月村邸の転送施設では輸送に耐えきれないため、特別に『ニューグルメ・シー』の近くに転送施設が建てられた。

 自動で動くロボットが転送施設から食材を搬送する様子を見た地球の人々は、やはり管理世界の技術力はすさまじいと驚くことになった。

 

 そして、八月某日。プレオープンの日がやってくる。

 

 月村家からは一家全員が参加。バニングス家も、アリサだけでなく父のデビッドと母のジョディが参加だ。八神家も事前に調整したことが功を奏したのか、ヴォルケンリッターが全員揃っている。

 しかし、高町家は残念ながら両親不参加となっていた。

 

「なのはのご両親は、やっぱり来られない?」

 

 使い魔のアルフと保護者のリンディの三人で参加したフェイトが、なのはにそう尋ねる。

 

「うん、お店が忙しくて……」

 

「あそこ、マウクラン産の食材を使ったお菓子とお茶を楽しめる、世界唯一の喫茶店だからねぇ」

 

 残念そうに言うなのはの言葉を受け、ハナコがそんな事情を語った。

 そう、なのはの両親が経営する喫茶店『翠屋(みどりや)』には、グルメエイジ社が特別に食材を卸しているのだ。完全に身内びいきの采配だが、これによって、かつてなのはが夢想した、ハナコの食材を使ったお店の繁盛が実現したことになる。

 

「残念だけど、士郎達はグランドオープンの時に招待することにするよ」

 

 なのはの父、士郎と親友であるデビッドが、そう言って話を終わらせた。

 そして、一同は連れ立って『ニューグルメ・シー』のゲートをくぐり、チケットを提示して食のテーマパークへと足を踏み入れた。

 

「まずは何する?」

 

 アリサがそう提案すると、子供達が一斉に遊園地、水族館と、遊べる場所を口にする。

 だが、そこに待ったをかける者がいた。ハナコだ。

 

「まずはお腹に何か入れなきゃ始まらないよ。向かう先は屋台村で」

 

「でも、お昼が近いわよ?」

 

「お腹いっぱいにならないように、屋台なんだよ。軽くつまめる物を選べばいいよ」

 

「そうねぇ。じゃあ、まずは屋台にしましょうか。なにせ、満腹都市だからね!」

 

 ハナコとアリサがそう話をまとめ、一同は屋台が集まっているゾーンへと早速向かった。

 すると、ハナコ達と同じ考えをしている者は多かったのか、屋台村はにぎわっていた。

 

「何にしようかなぁ……」

 

 なのはに誘われて参加したユーノが、目を輝かせながら周囲を見回す。

 

「みんなでいろいろ買ってシェアしようよ」

 

 なのはがそう提案すると、皆がそれに賛同し、大人がお小遣いを配って子供達が周囲に散らばる。

 ハナコも、屋台をいろいろ見てまわりながら「こんな食材も作ったなぁ」と自身の研究成果を確認していった。

 

「わたしは『栗ー夢(クリーム)焼き』にしたわ!」

 

「『五十本足ダコのたこ焼き』だって」

 

「『ヤングカステラ』って、ベビーカステラの仲間かな?」

 

 それぞれが小ぶりで量の多い料理を選んで買ってきて、屋台近くに用意されていたテーブル席に集まって皆で料理をつまんでいく。

 

「美味しいー!」

 

「はー、やっぱりマウクランの食材は別格やなぁ」

 

「みんな、お昼があるから食べ過ぎないようにね」

 

 ワイワイと楽しみながら、屋台飯を皆で平らげていく。

 そして、料理はまたたく間になくなり、皆がおかわりを所望したのだが……。

 

「お昼まで我慢だよ。さ、遊園地なり水族館なり、めいっぱい楽しもう!」

 

 ハナコがそう未練を断ち切るように言い、皆は美味しそうな香りを全力で振り切って屋台村を後にした。

 その後、ハナコ達は遊園地でアトラクションに乗り、水族館で特別展示されたマウクラン産の水棲生物を見て驚き、ランチパレードという名の着ぐるみ達の行進ショーを撮影し、全力で『ニューグルメ・シー』を楽しんだ。

 

 さらに、レストランに入ってお腹いっぱいになるまでランチを楽しんで、午後も満足するまで遊んだ。

 

「ああ、楽しいな……」

 

 アトラクションの合間に買い食いを楽しんでいたハナコの口から、不意にそんな言葉が漏れる。

 すると、それを横で聞いていたすずかが、笑顔で「楽しいね」と返してきた。

 

 地球に生まれた満腹都市。

 それは、ハナコが前にいた世界のグルメタウンとは全く違う場所であるが……食を楽しむ人々は、同じ笑顔であふれていた。

 

 この世界に一人やってきて、とうとう食の力で多くの人々を笑顔にするまでに至った。

 ハナコは、己が歩んできた道が間違いではなかったと、そう確信した。

 

 グルメ細胞は、時には人に牙を剥くこともあるだろう。

 それでも、きっとグルメ細胞は、食事を通して人々を幸せにしてくれるはず。ハナコは笑顔の友人達を見ながら、そんなことを思うのであった。

 


 

栗ー夢(クリーム)(植物)

捕獲レベル:4(天然もの)、人工栽培可能

トリコ原作でグルメ神社の屋台に登場したクリームの味がする栗。腕利きのパティシエが作る栗ー夢のモンブランケーキは絶品らしいので、『翠屋』で高町桃子が商品として提供しているかもしれない。

 

五十本足ダコ(軟体獣類)

捕獲レベル:1以下

オリジナル食材。マウクランの海に住むタコにグルメ細胞を植え付けることによって誕生した、新種のタコ。大きさはそこまでないが、複数の足を駆使して素早く泳ぐため、銛突きでの捕獲は困難を極める。蛸壺には問題なく引っかかるため、捕獲レベルはさして高くはない。足の本数が非常に多く食いでがあるため、値段の割に量を食べられる庶民の味方である。

 

ヤングカステラ(菓子類)

捕獲レベル:人工生産可能

オリジナル料理。ヤングマンチキン(オリジナル食材)という鳥獣類の卵を使用したベビーカステラ。苦くもなく甘過ぎもしない、絶妙な味のバランスが売りの屋台料理である。なお、トリコ原作には『アダルトカステラ』という屋台がグルメ神社に登場しており、苦さが売りのようだ。

 




以上でReflection/Detonation編は終了です。次回からは最終章であるStrikerS編です。
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