【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

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5.魔法の光はデンジャーだよ

 月村家に保護されたハナコ。屋敷に部屋を与えられ、客人としての待遇となり、宿無しの日々を送らずに済んでいた。

 さらに、月村家の家長である月村俊により弁護士とやりとりが行なわれており、出生登録がされていない無戸籍児として合法的にハナコの戸籍を取得する手続きが進められていた。

 ハナコが日本語を完璧に話せることと、彼女の顔立ちがモンゴロイド系であること。ハナコが生粋の日本人であると言い張るのに、それらの要素は役立ちそうだと、月村俊はハナコに笑って話した。

 そして、可能ならばハナコを養子縁組で月村家に受け入れるとも話した。

 

 ちなみにハナコの髪色は緑だが、この世界の日本人の髪色はカラフルなので、髪色を考慮に入れる必要はない。

 

 一方ハナコは、月村家に受け入れてもらえるならば恩を返したいと主張した。

 メイドでもなんでもやると言ったのだが、月村俊とその妻、月村春菜は子供を働かせるつもりはないと断った。

 ファリンもまだ若いがメイドとして働いている、とハナコは反論するものの、ファリンは特別な子だと返される。

 

 その後、三人で話し合った結果、月村邸の庭園に家庭菜園を設けることが決まった。ハナコの時間があるときに美味しい作物を育てて、食卓を豊かにしてもらうのだ。

 

 これはハナコにとって、願ってもない結果だった。

 正直なところ、ハナコは月村家で出される食事の味に不満を持っていたのだ。料理に使われている食材のグレードが低すぎる、と。それを口に出して言うことはなかったが。

 

 ハナコの舌は肥えていた。

 しかも、新グルメ時代の人間の中でも特別肥えた方であった。

 

 ハナコはIGOのグルメ研究所所属である。グルメ研究所では、市場にて一キロ百万円するような肉や野菜が、研究目的で生産され大量に料理されており、研究員用の食堂で常時提供されていた。

 そんな料理を毎日のように食べていた彼女にとって、一キロ四千円の黒豚などが食卓に出ても、全く満足できなかったのだ。

 

 ゆえに、ハナコは月村邸の庭園に畑とする区画を割り当ててもらった。肉は用意できないが、野菜と穀物なら。そう考えて。

 

 畑仕事は順調に進んだ。グルメ細胞によって強化された肉体で茂った草を刈り、クワを使って耕す。まさに開拓である。

 重機でもここまでのことはできないのでは、と思わせる勢いでまたたく間に畑が一面完成した。

 

「パパさん、見て見てー。庭に綺麗な石落ちてたよー」

 

 クワを片手に、畑仕事を見守っていた月村俊へとハナコが近づいていく。

 俊の肩が一瞬ビクリと跳ねるが、かぶりを振って笑顔を作り、ハナコのクワを持っていない方の手元を見た。

 

 そこには、菱形をした青い石が握られている。ちょうど人差し指ほどの大きさだ。

 それを見て、俊は言う。

 

「宝石かな? カットはされていないけど……誰かの落とし物かな?」

 

 俊は、自分と同じように畑仕事を見守っていた家族とメイドに確認を取るが、誰もこの綺麗な石に見覚えはないという。

 

「カラスか何かがどこからか運んできて、庭に落としたのかもしれないね」

 

「ふーん……綺麗だから貰っていいかな?」

 

「ああ、構わないよ」

 

「やった」

 

 俊に了承を得て、ハナコは綺麗な石を作業服として着ていたオーバーオールのポケットにしまった。

 ちなみにハナコには、そこらに落ちている綺麗な石を拾い集めるような、子供っぽい趣味はない。だが、この青い石は河原などに落ちている翡翠(ひすい)瑪瑙(めのう)と比べて、ずっと綺麗で形も整っていたため、喜んで自分の物にした。正直なところ、ハナコはこの石を価値の高い宝石の原石だと思っていた。

 

 そして、その後もハナコは畑に自分の能力で種を植えたり、買ってきてもらった肥料を撒いたり、一部を急成長させて夕食の分の野菜を確保したりと、精力的に働いた。

 月村家一同は、まさか数時間で芝生の状態から畑を完成させて収穫まで終えるとは思っておらず、ハナコのポテンシャルの高さにとても驚かされていた。そして、ハナコが夕食に作った中華風野菜炒めの美味しさに、涙が出るほど感動したのだった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 月村家に保護されて数日。最近のハナコは紅茶を飲むことがマイブームになっていた。

 

 ハナコが普段研究室で口にしていたのはコーヒーで、紅茶を楽しむという風習には馴染みがなかった。しかも、研究室ではコーヒーだけを飲み、お茶請けなんて食べていなかった。

 一方、月村家では紅茶が愛飲され、お茶請けと一緒にお茶を楽しむ時間が取られていた。

 グルメ時代というわけでもないのに、三度の食事以外でも食べ物を楽しむという風習に、ハナコはいたく感心した。

 

 そんなマイブームに関してハナコは、一つのことを思い立った。

 自分の能力で食材を用意して、より美味しくティータイムを楽しもうと。

 

 思い立ったが吉日、その日以降は全て凶日……ハナコが憧れる美食屋トリコの名言だが、ハナコはその言葉にならって即座に行動を開始した。

 家庭菜園の畑に美食茶(グルメティー)のチャノキを植え、茶葉を収穫。手作業で揉んで発酵させ、紅茶にする。

 さらに、虹色サトウキビを植え、畑に水を撒いて虹を空中に発生させ、虹が消える前に収穫。これも虹色サトウキビを手作業で絞って、レインボーシュガーを作り出した。

 

 お茶請け用の小麦やフルーツも作りたかったが、一日は有限だ。とりあえず紅茶の茶葉と砂糖ができたことに満足したハナコは、月村家の家族をお茶に誘った。

 その日は日曜日で、残念ながら忍とすずかは街へと出かけている。

 なので、ハナコは月村俊と月村春菜の二人を誘い、屋敷のダイニングでティータイムとした。

 

 ハナコ手ずからお茶を淹れ、お高そうなティーカップに美食茶を注ぐ。

 ネオトマトの時のような本能を刺激する強烈な香りはなかったが、その代わりに上品で心が落ち着くような香りがあった。まさしく香り高い茶である。

 

「ふう、匂いだけで良い味がしそうだって分かるね」

 

 早速とばかりに俊は笑顔でティーカップを手に取り、その香りを楽しんだ。

 

「このお砂糖は……綺麗ね。虹色に輝いているわ」

 

 春菜はガラスのシュガーポットに入れられたレインボーシュガーを見て、目をぱちくりとさせている。

 その様子を見て笑いながら、ハナコが言う。

 

「レインボーシュガーは温度変化によって味も変化するお砂糖なんだよ。だから、温かい飲み物に入れるのに向いているんだ」

 

「あら、面白そうね」

 

「でも、一杯目は、そのままの美食茶を楽しんでほしいかな。向こうの世界で、多くの人達に愛飲されていた定番のお茶だから」

 

 ではそうしよう、と、俊と春菜は砂糖を入れずに、ティーカップを口に運んだ。

 

 すると、熱いはずの紅茶がスルリと口の中に入り込み、ストンと胃の中に落ちた。二人は無意識のうちに口に入れた美食茶を飲み下したようだった。

 それは、このお茶をごくごくと飲み干したいという欲求から来たもの。熱い茶であるがゆえにがぶ飲みはできていないが、それでもすぐに次を口に入れたいと思わせる極上の美味であった。

 

 二人は無言でティーカップの美食茶を飲み続ける。火傷しないよう慎重に、それでいて休むことなく。

 やがて二人は、同時に飲み干したティーカップをテーブルの上に置き、長い息を吐いた。

 

「ふうー、これは……ただのお茶でここまで満足できるなんて」

 

「どんな美酒にも勝る、というのは言いすぎかしら?」

 

 俊と春菜は、それぞれそんな感想を述べた。

 

「あはは……お酒は飲んだことないから、向こうの世界のお酒に勝っているかは知らないよ。さて、美食茶は食前茶でもあって、飲むとお腹が空くんだよね。ノエルさんにマカロンを用意してもらったから、二杯目を淹れるまでに食べていてね」

 

 ハナコは、自分の出身世界のお茶が褒められたことに内心で嬉しくなりながら、二人の空になったティーカップを回収する。

 そして二杯目、レインボーシュガーを入れるようハナコは指示した。茶の温度によって変わる味の違いを楽しむために、今度はゆっくり飲むようお願いしたうえでだ。

 

 そうして、マカロンを食べながら、三人はレインボーシュガー入りの美食茶を楽しんだ。

 

「これは楽しい味ね」

 

 春菜はレインボーシュガーの味変化を気に入ったのか、嬉しそうにしている。

 俊はそんな妻の嬉しそうな顔を見ながら、控えめに茶を楽しんでいた。マカロンを食べる量も控えめだ。この男、見た目はスリムな体型だが、年齢的にメタボ腹と体脂肪が気になっていた。

 

 ハナコは体型など気にせず、マカロンをパクパク食べる。この世界の食事のレベルを測るために、少しでも多くの現地料理を食べなければ、という考えだが実際はただの食いしん坊だ。なお、食没という技能を習得しているため、彼女が太ることはない。

 

 と、そのようにティータイムを楽しんでいると、不意にダイニングへ飛びこんでくる者が。メイド少女のファリンだ。

 

「た、大変ですー! 旦那様ー! 奥様―! テレビが! テレビがー!」

 

 そのようなことを叫んで、ダイニングに備え付けられていたテレビ(巨大な画面だ)の電源をリモコンで入れ、チャンネルを操作し出す。

 

「海鳴市で緊急事態ですー!」

 

 テレビに映し出された番組は、臨時ニュース。ニュースの内容は……海鳴市の中心街で突如、巨大な樹が何本も生えてきたというものだった。

 巨大な樹はビルを超える大きさで、しかも根や枝がビル群に絡みつき、中心街を飲みこんでいた。

 

「な、何事だ……!?」

 

 常識外の出来事に、うろたえる俊。

 一方のハナコは、キョトンとした顔で言う。

 

「はー、こっちの地球も植物は元気なんだねぇ」

 

「いやいやいや……どう見ても大事件だ……! こんないきなり街を飲みこむ植物なんて、私達の世界には存在しないよ!」

 

 のんきなハナコの言葉に突っ込みを入れる俊。

 

「あー、じゃあ、もしかしたら、わたしの世界の植物の種……異常繁殖するタイプが、わたしと同じようにこっちへ落ちてきたとか……」

 

「本当かい!?」

 

「うーん、でも少なくとも私はこの見た目で異常繁殖する植物は、覚えがないかなぁ。わたし、植物にはちょっと詳しいんだ」

 

 そんな会話をハナコと俊がしている横で、春菜が顔を青くしていた。

 

「今日……忍ちゃんとすずかちゃんが街に出かけているの……」

 

「なんだって!?」

 

 春菜の言葉で俊も一瞬で顔を青ざめさせ、慌てて彼はポケットから携帯電話を取りだし、忍に電話をかける。

 

『……あ、お父さん……』

 

「忍! 無事かい!?」

 

『……あ、うん。樹のことだよね。……私もすずかも無事。……でも、車道が根で塞がれていて、車じゃ帰れそうにない……』

 

「そうか……無事か……。うん、歩いて帰るなら、大丈夫な道までうちの車で迎えに行くよ。早く帰らないと、もっと樹が成長して無事な道まで埋まってしまうかもしれない」

 

『うん、お願い……』

 

 無事と聞いて、春菜とファリン、そしてハナコは胸をなで下ろした。

 そして、俊は立ち上がり、ダイニングを出ていった。残された春菜とファリン、ハナコは、ダイニングで事態の推移を見守る。

 そうしてテレビを見続けていると、ふと画面に一瞬、光の線が横切った。

 

「ん? ビーム?」

 

 並外れた動体視力を持つハナコが、その線をはっきりと目撃した。それは、桃色に光るビームだった。

 そして、その直後、中継画面全体が桃色の光で覆われた。

 

 何事だ、とざわめく三人。

 そして、光が収まると……なぜか中心街のビル群を飲みこんでいた木々は、ことごとく姿を消していた。

 

 夕暮れの街並みが、中継画面に映る。まるで、今までの光景は全て夢幻(ゆめまぼろし)だったかのよう。

 しかし、夢でも幻でもない。樹が周囲を飲みこんだ際に壊れた建物や道路はそのままだったのだ。

 

 ハナコは戦慄する。あれだけ大きな植物を一瞬で消し去る光。何が起きたのかは分からないが、恐ろしい力だと、背筋を震わせた。

 自在に植物を操る力がハナコにはあるが、あの桃色の光はその自分のアイデンティティーを破壊する植物特攻の力なのではないかと、彼女は異世界に初めて恐怖した。

 

 この世界の人々が謎の木々に怯えている一方で、ハナコは忍達が帰ってくるまで、桃色の光に怯えていたのだった。

 


 

美食茶(グルメティー)

捕獲レベル:不明

原作一巻第五話でトリコのセリフ上にのみ登場するお茶。詳細は一切不明。

今回、飲んだらお腹が空く食前茶として設定した。

 

虹色サトウキビ(植物類)

捕獲レベル:10(天然のもの)

オリジナル食材。レインボーシュガーと呼ばれる虹色に輝く砂糖の原料となるサトウキビ。

雨上がりの虹が出ているときに収穫することで味が格段に向上する特性を持つ。このときの虹は、人工的に水を撒いて作ったものでも問題はないが、天然の雨でできた虹の方がより効果的で、虹の形状も大きければ大きいほど、美しければ美しいほど良いとされる。

 

 




トリコ世界には中華料理という単語が存在します。和食は確認できていませんが、割烹や懐石はあります。
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