【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

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50.姫はゆりかごにて眠らず

 中学二年生のハナコは、今年も学業と研究に邁進(まいしん)した。

 夏は終わり秋が過ぎ、冬が深まっていく。クリスマスを皆で楽しみ、年を越える。

 そして、一月の正月明け。忍が臨月を迎え、お祝いムードの三が日を月村邸で過ごしたハナコは、ヴィヴィオ達の様子を見にマウクランへとやってきた。

 

 Dr.ゼロの一家がいるとしたらいつもの食堂だろうと当たりをつけて、転送施設からそのまま食堂へと向かったハナコ。

 すると、食堂にはDr.ゼロとナンバーズのクアットロの二人だけしか居なかった。

 

 ヴィヴィオの顔が見られず残念がるハナコだが、食堂に来たならばと、部屋の隅の神棚に忍の安産を祈願することにした。

 綺麗な所作で神棚を拝み始めるハナコ。その最中、ゼロとクアットロが何やら議論を交わしている声がハナコの耳に届いた。

 

「コアパーツにしたら寿命が縮まるなど、欠陥品です!」

 

「だが、動かすためにはコアパーツは必須だ」

 

「寿命が縮まないよう改修するとか!」

 

「全力で取りかかっても一年はかかるよ」

 

「じゃあ、一年かければいいでしょう!」

 

 珍しいことに、クアットロがゼロに食ってかかっている。

 よほどクアットロにとって納得がいかない事情があるのだろう、とハナコは察した。

 そして、クアットロがヴィヴィオから目を離すのは珍しいなとも思いながら、礼拝を終え、二人の議論を見守るハナコ。

 

「そもそも、今さら起動など!」

 

「そこは決定事項だ。何を言われようともくつがえらないよ」

 

 基本的に、ナンバーズは生みの親であるゼロに逆らわない。

 ゼロのために働くことを存在意義としているところがあり、彼の方針に逆らう様子など、ハナコは今日まで見たことがなかった。

 クアットロがここまでこだわる事情となれば……おそらくはヴィヴィオ関連であろう。ハナコはそう当たりを付けた。

 

 クアットロは、ゼロにヴィヴィオの養育係を任命されて以降、その任務に全力で取り組んでいたのだ。

 そして、次第にヴィヴィオを溺愛し始めた。

 この様子に、セインやディエチといったクアットロより製造日が後のナンバーズは、「妹の自分達でも、ここまで良い扱いをされたことがない」と苦笑していた。

 

 そんなクアットロが珍しくゼロに逆らっている姿をハナコがボーッと眺めていると、ふと食堂に誰かが訪れた。

 それは、チンクにともなわれてよちよち歩くヴィヴィオだった。

 

「!? ヴィヴィちゃん!」

 

 クアットロもヴィヴィオの来訪に気がついたのか、即座に席を立ってチンク達の方へと走り寄った。

 

「すまない、クアットロ。ヴィヴィオがクアットロに会いたがっていてな」

 

 チンクがヴィヴィオの手を引きながら、走ってくるクアットロの方へと向かっていく。

 やがて、ヴィヴィオと対面したクアットロは、その場にしゃがみ、ほにゃっと表情をゆるませた。

 

「まあ、ヴィヴィちゃん! しっかり歩けましたねー!」

 

 いつものゆるふわな声とはまた違う猫なで声で、クアットロがヴィヴィオに言った。

 すると、ヴィヴィオはチンクとつないでいない方の手をクアットロの方へと向ける。

 

「まーま」

 

「!? はい、ママですよー!」

 

「だっこー」

 

「はい、だっこしましょうねー」

 

 ヴィヴィオの要求を受け、クアットロはチンクから素早くヴィヴィオを奪い取り、その場でヴィヴィオを抱え上げた。

 ヴィヴィオは嬉しそうにキャッキャと笑っており、クアットロはそれを聞いてとろけるような笑顔を浮かべていた。

 

 そんな様子を真横で眺めていたチンクは苦笑をすると、近くに居たハナコの方へと歩いてくる。

 そして、チンクとハナコは互いに挨拶を交わして、その場で雑談を始めた。

 

「クアットロもずいぶんと変わったな」

 

「そうなの?」

 

「ああ、あいつは自分のためなら他人などどうでもいいと考える人間だった。その他人の枠には、私達ナンバーズも含まれていたな」

 

「それが変わったと。育児のおかげかな?」

 

「そうだろうな」

 

「うんうん、やっぱり育児を通じて、親も子から学ぶんだね」

 

「親と子か……クアットロはすっかりヴィヴィオの母親役に収まったな」

 

 チンクはその双眸(そうぼう)で、クアットロとヴィヴィオの擬似親子を眺める。どうやらヴィヴィオはおやつの時間だったようで、クアットロの手で柔らかい蒸しパンを与えられている。

 

「パパは博士?」

 

 ハナコは、クアットロに議論を途中退席されて、肩をすくめているDr.ゼロに視線を向ける。

 

「いや、ドクターはクアットロの父親的存在だからな。お爺ちゃんだろう」

 

「ぶふっ、博士がお爺ちゃんって……」

 

「ふふふ」

 

 そんな会話を交わして二人が笑っていると、その声が聞こえていたのか、ゼロが独りごちる。

 

「私はそんな歳ではないのだがねぇ……」

 

 マウクランのDr.ゼロ一家もこうして新しいメンバーが加わって、平和な日々を過ごしているようだ。

 ハナコは彼らに訪れた変化をよいものだと歓迎した。そして、地球の月村家も早く家族が増えないものかと、新しい命の誕生を心待ちにするのであった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 冬休みが終わり、中学二年生の三学期が訪れる。

 休み明けの学校で、ハナコは久しぶりに会うクラスメート達と挨拶を交わした。

 

 そして、小学校以来の親友であるなのはにも挨拶し、二人で固まって雑談に興じた。

 

「やっほ、クリスマス会以来だねー」

 

「うん、正月はごめんね。管理局の仕事があって、挨拶に行けなかったの」

 

「仕事なら仕方ないよ。でも、なのはさん、お疲れ気味?」

 

「今の事件がちょっと忙しくて……」

 

「そっかぁ。疲れているなら、高カロリーの食材を後で家に送っておくね」

 

「ありがとう。グルメ細胞の力はすごいけど、燃費がなかなかね」

 

 どうやら、なのはは冬休みの間、ずっと時空管理局の仕事をしていたようだとハナコは察した。

 なので、栄養補給をして気力回復に努めてもらおうと、ハナコは頭の中で食材のリストを用意し始めた。

 

 ちなみになのはのグルメ細胞に適合する主な食材は、リンカーコアを持つ魔法生物由来の食材だ。

 彼女には『グルメ細胞の悪魔』も宿っていて、どうやら魔力の運用に長けた悪魔であるらしい。

 この広い宇宙には、管理世界や古代ベルカ以外にも魔法文明を持った生物は存在している。そんな魔法宇宙生物の食霊が、魔導師であるなのはに力を貸そうと『グルメ細胞の悪魔』として宿ったようだった。

 

「ちなみに、なのはさんが追っている事件って、どんな事件なの?」

 

「レリックっていうロストロギアが発掘されたんだけど、それを狙っている自律行動型の機械兵器がいるの」

 

「機械兵器! それって、AIの暴走とかそういうの?」

 

 ハナコは、いつだかテレビで見たSF映画を思い出しながら尋ねた。だが、そのハナコの予想は外れていたのか、なのはが否定するように言う。

 

「ううん、多分、黒幕が背後にいて、機械兵器の自律行動に任せてレリックを奪おうとしているんだと思うよ」

 

「ああ、時空管理局に捕まらないように、姿を見せていない感じかな?」

 

「そうだね。今のところ、私達も犯人像をつかめていないね」

 

 なのははそう言って、心底疲れたといった様子でため息を吐いた。

 ハナコはそれを見て、本当に疲労が溜まっているなと感じた。そして、早急に差し入れをしなければと、ハナコは今日の放課後にマウクランへ食材を取りに行く予定を立てた。

 

 ちなみに、二人の会話は教室の中で堂々とされている。

 世間に次元世界の存在はすでに公開されており、なのはが時空管理局の局員であることは、このクラスの人間ならば誰でも知っていることだった。

 時空管理局の若きエースとしてなのはの名前は世間に知れ渡っており、日本のテレビCMへの出演も何度かこなしていた。

 

 一方で、ハナコも自身の研究は隠しておらず、グルメエイジ社の紐付きのグルメ研究者であるとクラスメート達に認識されていた。

 グルメエイジ社には月村家が出資しており、ハナコは月村家の養子だ。

 グルメ細胞の研究をめぐる、複雑な事情があるのだろうとクラスメート達は想像しており、それはおおむね間違ってはいなかった。

 

「AMFっていう魔法が使えなくなる空間を作り出してくるから、本当にやっかいで……」

 

「あはは、魔法が使えなくなったら、殴るしかないね」

 

「うん、グルメ細胞に適合していて本当によかったよ。最近も、蜘蛛みたいな機械兵器を『レイジングハート』で殴りつけてなんとかしたよ」

 

「レイハさん、頑丈だなぁ」

 

 次元世界の話を平然と交わすなのはとハナコをクラスメート達はそっと見守る。魔法やグルメ細胞といった不思議な存在が、身近になったことを感じながら。

 私立聖祥大付属中学校の少女達は、思春期真っ盛り。身近になったファンタジーは、思春期特有の妄想をひどく刺激する。

 だからか、いつの間にかなのはやハナコ、フェイトにはやて、おまけにすずかといった面々は、学校で生徒達に一目置かれていた。浮いていると言い換えてもいい。

 

 だが、なのは達を特別視している生徒達は、彼女達を拒絶することもなく優しく接しており……ハナコは居心地が悪くなることもなく、平和な学校生活を送っていた。

 

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