【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

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52.桜咲く小さな出会いだよ

 ハナコがミッドチルダの地上本部で会食をしてから、少しだけ日数が経過した。

 地球のカレンダー上では現在、三月末。桜が開花し、花見シーズンが到来している。そこでハナコは今年も花見をしようと率先して企画を立て、そして予定していた当日は見事に快晴となった。

 

 月村家の所有する海鳴市の郊外にある山の(ふもと)に、桜並木がある。私有地ゆえに人の出入りはなく、私的な花見をするには絶好のスポットだ。

 そこにハナコは敷物を並べて、招待した客達を案内した。

 

「いやー、見事な花だな!」

 

 そう言って、真っ先に靴を脱いで敷物に転がったのは、セイン。ナンバーズの一人だ。

 それから遅れて、ウーノ、トーレ、チンク、ディエチといった他のナンバーズ達が靴を脱ぐ。

 そして、ヘルメット風の外殻頭に白衣という怪しい風体のDr.ゼロが、敷物に上がった。

 

「ふうむ。花を見ながら食事とは変わった風習だと思ったが、なかなか風情があるじゃないか」

 

 ゼロが敷物に座りながら、頭上に広がる桜の花々を見上げて言った。

 

「綺麗だよね。桜っていう花なんだよ」

 

 今回、ゼロ達一家を花見に招待したハナコが、クアットロの手を引いて歩くヴィヴィオを見守りながら、そう告げた。

 桜はマウクランには存在しない。なので、ナンバーズ達はこれが初の花見である。

 もちろん、桜を初めて見るのはナンバーズだけではなく……。

 

「まま。おはな」

 

「そうね。綺麗なお花ね。桜っていうのよ」

 

「さくら!」

 

「はい、よく言えましたねー。ヴィヴィちゃんすごい!」

 

 ヴィヴィオもこれが初めての花見となる。

 そもそも、ナンバーズがこうしてマウクランを出て地球へ花見をしに来たのも、ヴィヴィオのためだ。

 ハナコが毎年春に花見をしていることを先日クアットロに話したことが、事の始まり。クアットロがヴィヴィオの情操教育に綺麗な景色を見させることは重要と言い出して、そのまま周囲を説得して花見の参加が実現したのだ。

 

 ナンバーズの何人かは、まだ幼いヴィヴィオを外へ出すことを嫌がったが、ハナコはそれを過保護すぎると言って、クアットロの賛成に回った。そして、ゼロに花見で飲み食いすることは、普段の食事とまた違う味わいがあるとハナコがそそのかし、こうしてナンバーズ一同での花見参加が決定したのだった。

 

 ちなみに、ナンバーズは各々がオシャレな私服に着替えている。彼女達は普段からミッドチルダの首都クラナガンファッションに身を包んでいるが、今日は地球の日本に合わせた格好を選んでいた。

 なので、特に周囲から浮いた様子は見られなかった。

 ただ一人、外殻頭に白衣のゼロを除いて。

 

「うわあ、ドクターがおるぅ」

 

 と、そこへ時空管理局の参加者へ挨拶に回っていたはやてがやってきて、ゼロを見つける。

 ゼロは、セインが用意した弁当箱を開けながら、はやての方へと振り向く。

 

「『夜天の魔導書』の(あるじ)か。久しいね」

 

「久しぶりやなぁ。エルトリアの一件以来やから、えーと、四、五年ぶりか?」

 

「そうだね。君はマウクランに用はないみたいだから、あれ以降関わることもなかった」

 

「そやな。なんや最高評議会の下みたいやから、てっきり仕事で関わることもある思うてたけど……」

 

「最高評議会は私のパトロンではあるが、そうそう指示には従うような立場でもないよ。私は私の好きなように生きているからね」

 

「そうか。じゃあ、今はハナコちゃんと同じ、一介のグルメ研究者ということやな」

 

「そう見てもらって結構」

 

 そう答えるゼロをはやてはじっと見つめるが……ゼロの表情はフェイスガードに守られてうかがい知れないようだ。

 そして、ゼロの顔に目を向けたままはやてが言う。

 

「前にグレアムおじさんが、ドクターの正体は、次元犯罪者の『ジェイル・スカリエッティ』なんやないか言うてたけど……」

 

「私はDr.ゼロだが?」

 

「……まあ、今、悪いことしてないならええわ。リインフォースの恩人やしな」

 

 はやてはそう告げて、ゼロから視線を外す。

 すると、ヴィヴィオのことを見つけて、「可愛い子やなー」とかまいだす。

 キャッキャと喜ぶヴィヴィオに、はやては頬をゆるめて「誰の子?」とナンバーズ達に問うた。

 

「違法研究所からドクターが保護した子供だよ」

 

 横からハナコがそう言うと、はやては目を見開いてからゼロを見て、それから別の方向へと向いた。

 その視線の先には、フェイトとリンディが居た。そして、フェイトの隣には、五、六歳ほどの赤髪の男の子の姿があった。

 

「おや、これはまた面白い組み合わせだ」

 

 それをゼロも目撃したのか、口元をニヤリと歪ませて笑った。

 

「おーい、フェイトちゃん、こっちこっち。その子、前に言っていた子か? 紹介してな」

 

 はやてがフェイトに手を振って声をかける。すると、フェイトはリンディに一礼してから、男の子を連れてハナコ達の方へと歩いてきた。

 

「はやて。ハナコも。あの、この子は、前にも話したことがあったけど……」

 

 ハナコは、フェイトの隣にいる男の子の顔に見覚えがあった。

 フェイトは二年程前から時空管理局の執務官の職に就いているが、彼女が取り扱っている事件の最中に子供を保護することが何回かあった。その後、フェイトは保護した子供を時空管理局の保護施設に任せているのだが、定期的に子供達の様子を見に行っていた。

 その子供の写真をフェイトは周囲の者達に見せていたのだが、この赤髪の子供もその保護した子供のうちの一人なのだ。

 

「将来は管理局入りしたいって言っているから、関係者が多いこの席で顔見せするために連れてきたんだ。エリオ、挨拶できる?」

 

 フェイトが隣の男の子を促すと、男の子は緊張した様子で自分の名前を言った。

 

「えっと……エリオ・モンディアルです!」

 

 すると、はやてがすぐさま反応して自分の名前を言い、先ほどヴィヴィオにしていたようにエリオをかまいだし始めた。

 さすがにエリオはヴィヴィオのように無邪気に喜ぶとはいかなかったようで、どう対処したものかと困惑していた。

 

「ところで博士、面白い組み合わせって何?」

 

 ハナコは、先ほどゼロが漏らした言葉が気になり、そんなことをゼロに聞く。

 すると、ゼロはナンバーズの三番目、トーレに注いでもらった酒を飲みながら、なんてことないように言った。

 

「フェイト・テスタロッサは人造魔導師計画『プロジェクトF』で生み出された個体だが……このエリオ・モンディアルも同じ『プロジェクトF』の産物だね」

 

 そのゼロの言葉に、フェイトが反応し、すごい勢いで振り返った。

 

「あなた、なぜそれを知って……!」

 

「私は悪の科学者だからね。裏の事情にも詳しいのさ」

 

 ゼロはニヤニヤと口元を歪ませながら、フェイトに向けて言った。そして、今度ははやてに振り向いて、言葉を続ける。

 

「そうそう、八神はやて君。先ほど君が言っていたジェイル・スカリエッティだが、『プロジェクトF』の雛形を造った人物だよ。その後、プレシア・テスタロッサが参入して人造魔導師の製造は成功に辿り着いたそうだ」

 

「……あんた、やっぱりスカリエッティやないか? ん? ちょっと素顔見せてみ?」

 

 はやてがゼロに詰め寄ろうとするが、彼の隣に居たトーレが間に割って入る。

 だが、ゼロは「トーレ、構わないよ」と言ってトーレを退かせる。

 

「八神はやて君。キミには以前言ったはずだが、私はこれが素顔だ」

 

「ん? どゆこと?」

 

「ほら、ここを見てごらん」

 

「……えっ、うわっ、ヘルメットが顔に癒着しとる!」

 

「グルメ細胞の影響で、私の頭部は外殻に覆われているのだよ。よって、これが私の素顔だ。どうだい? ジェイル・スカリエッティとはそのような人物かい?」

 

「ぐぬぬ……スカリエッティの手配写真は十年以上も前のものやから、今の顔とか分からんな……」

 

「そのような古い情報、なんの役に立つのやら。ともかく、私はDr.ゼロであって、『プロジェクトF』には参加していないよ」

 

「うたげの席やから、今は信じとくわ」

 

 と、そんな二人のやりとりをフェイトはおろおろとしながら見ていた。

 ちなみに、エリオはヴィヴィオに捕まって抱きつかれて困っていた。

 

 ハナコはというと、「博士ってジェイル・スカリエッティって名前なんだなぁ」とゼロの正体を確信していた。

 ナンバーズという人造生命を造ったことに加えて、古巣の違法研究所が聖王のクローンであるヴィヴィオを製造していたこと。それらが、いかにもゼロの言う『プロジェクトF』の生みの親というジェイル・スカリエッティ像に合致していたのだ。

 

 ちなみに、ゼロは『プロジェクトF』には参加していないと言ったが、彼はその前にもジェイル・スカリエッティは『プロジェクトF』の雛形を造った人物とも言っていた。ジェイル・スカリエッティが『プロジェクトF』に参加していたとは一言も言っていない。

 嘘は言っていないなー、とハナコは、ゼロの茶化すような誤魔化しを面白そうに聞いていたのだった。

 

 さて、そんなやりとりがあって、花見客も順調に集まってきた。

 ハナコとすずかが用意した弁当が各々に配られ、大人達は酒の瓶を開ける。

 今回の目玉は、ハナコがマウクランからグルメエイジ社に持ちこんだ虹の実から作られた、『虹の実ワイン』だ。度数が非常に高いワインで、大人達はそれをヒーヒー言いながら舐めるように飲んでいた。

 

 二十歳を超えた恭也も、他の大人達に付き合わされ酒を口にしている。

 その妻、忍はと言うと、まだ授乳期であるため酒は口にせず、腕に抱いた子供の雫を方々に紹介して回っていた。

 

 そして、リンディの親友であるレティ提督が『虹の実ワイン』で酔っ払い、絡んでこようとするのを避けて、忍がハナコ達の方へと近づいてくる。

 忍がその姿を見せた時点で、ナンバーズ達の席が急に騒がしくなった。

 ヴィヴィオが「あかたん! あかたん!」と雫の方を見て叫んでいるのだ。

 だが、その言葉はミッドチルダ語の幼児語であり、翻訳魔法を使っていないため、忍には通じていない。

 

 忍は騒ぐヴィヴィオを少々警戒しながら、ハナコとナンバーズ達が座る敷物へと上がった。

 

「……初めまして。マウクランの人達、だね……?」

 

 忍がそうナンバーズ達に挨拶をした。

 そう、実は忍はマウクランに訪れたことがなかった。なので、これがナンバーズ達との初顔合わせとなる。

 Dr.ゼロは興味なさそうに酒を飲んでおり、代わりにクアットロがはしゃぐヴィヴィオを押さえながら挨拶を返した。

 ひとまとめにナンバーズです、とはなんとも雑な自己紹介だな、とハナコが見ていると、忍がヴィヴィオを見ながら言った。

 

「……その子は、何を言っているの……?」

 

 すると、クアットロがヴィヴィオを抱き上げて、言葉を返す。

 

「『赤ちゃん』って連呼しているんですよ。マウクランには、同年代の子供が他にいないので……」

 

「……なるほど。ちなみにお名前は?」

 

「ヴィヴィオです。ほら、ヴィヴィちゃん、お名前は、だって」

 

 クアットロが腕の中のヴィヴィオにミッドチルダ語で言うと、ヴィヴィオはそれに反応して「ヴィヴィオ!」と元気に返事をした。

 見事な自己紹介に、周囲のナンバーズは「ヴィヴィオは賢いなぁ」と朗らかな空気になる。

 ハナコも見事に顔をゆるませ、雫も将来はヴィヴィオのように元気で賢く育ってほしいと、期待を膨らませた。

 ハナコにとって、ヴィヴィオも雫も可愛い妹的存在であった。

 

 そして、その後は忍とクアットロによる育児トークが交わされ、二人はすっかり仲良くなってメールアドレスの交換をするほどに。二人がそれぞれ住む場所は次元を隔てているが、Dr.ゼロはハナコが地球で持っているメールアドレス宛てに電子メールを送ってくるので、問題はないのだろう。

 

 次元を超えたママ友が誕生するとは、海鳴市も本格的に混沌とした町になってきたなぁ、と、ハナコはしみじみ思うのだった。

 


 

虹の実ワイン(酒類)

捕獲レベル:人工加工品

トリコ原作に登場する虹の実を加工したワイン。トリコがIGOの会長一龍への手土産として持ちこんだ。アルコール度数は八十五パーセントと非常に高いが、虹の実が元々持つ膨大な糖分が全てアルコールへ変換されたと考えると、この度数の高さも納得である。

本作ではグルメエイジ社の醸造家が造り上げたワインであり、製造開始からそれほど時間が経っていないこともあり、まだまだ改良の余地があるようだ。

 

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