【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

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53.楽園の星は美味しい星だよ

 中学三年生の夏休み。本来ならば高校受験対策で勉強をしているような時期であるが、エスカレーター式の学校に通うハナコには関係のない話である。

 代わりにハナコが夏休みを使って挑むのは、マウクランでの冒険だ。

 

 マウクランは、Dr.ゼロが大地にグルメ細胞を植え付けて以降、環境が大きく変わった。

 ハナコが少し目を離していただけで、いつの間にか知らない動植物が増えており、土地も次々と変化を起こしている。

 ゼロが各地に飛ばしている無人機で風景は見られているが、観察で得られるものはあくまで視覚情報のみ。

 

 よって、美味しそうな食材を発見した場合、直接現地に向かって調達を行なう必要があった。

 

「うーん、どれがいいかな」

 

 マウクラン中央研究所のいつもの食堂で、ハナコはすずかと一緒に空間投影画面を開いていた。

 目の前にいくつも画面を呼び出し、無人機で撮影した食材を並べる。

 そして、その中のどれを取りに行くのか、すずかとずっと話し合っていた。

 

「画像だけじゃ、なかなか私の直感も働かないなぁ」

 

 ハナコは食材を見ただけで、それが美味しいかどうか理解できる独特の感性を持っている。

 だが、無人機越しの映像や画像では、その感性も働きにくいようだった。

 

「この前のガラナワニは美味しかったね」

 

 すずかが、画像を選別しながらハナコに向けて言った。

 

「そうだねー。思わず私の『フルコース』のドリンクに決めちゃったよ」

 

「炭酸の血って、すごい生態しているよね」

 

「あれをもっと美味しく調理することも、今年の夏のすずかさんの課題かな?」

 

「うん、何かのジュースで割るといいとは思うんだけど……」

 

 と、二人で意見を交わしていると、近くの席で食事を取っていたヴィヴィオが、いつの間にか手を止めてハナコの方へと顔を向けていた。

 

「はなこー! はなこー!」

 

「ん? ヴィヴィオ、どうかした?」

 

「おほしさん!」

 

 一体なんだ? とハナコはヴィヴィオの隣に移動する。

 

「おほしさん! おほしさん!」

 

 すると、ヴィヴィオはハナコの周囲に浮かぶ空間投影画面の一つを指差し、何やら騒ぎ始めた。

 その画面には、キラキラと光る星形の粒をしたブドウが映し出されていた。

 

「ああ、これはブドウだね。仮称でキラ星ブドウ。果物だよ」

 

「くだものー? おいしー?」

 

「食べたことないから、分からないかなー」

 

「おいしー? おほしさん、おいしー?」

 

「うーん、ヴィヴィオはこれが気になるか……」

 

 手に持ったスプーンをブンブンと振りながら、ヴィヴィオは空間投影画面を見つめ続ける。

 すると、すずかもヴィヴィオのところに移動してから、ハナコに言った。

 

「ハナコちゃん、それなら次の狙いはこのブドウにしない?」

 

「お、いいねー。次の冒険は第二十二エリアでキラ星ブドウの捕獲だ」

 

 ハナコがそう答えるも、ヴィヴィオはさらに「おほしさん、おいしー?」と尋ねてくる。

 ずいぶんと気になるようだと、ハナコは苦笑する。ちなみに食事の介添えをしていたクアットロはそんなヴィヴィオの様子に、ニコニコ顔だ。

 

「採ってきたら、ヴィヴィオも一緒に食べようか。お星さんを一緒に食べようね」

 

 ハナコがそう言うと、ヴィヴィオは満面の笑みになり、言う。

 

「おほしさん、たべる!」

 

 映像の中のブドウにも負けないくらい、ヴィヴィオのオッドアイの瞳が輝きを見せる。

 よほど嬉しかったのか、ヴィヴィオは専用にこしらえられた椅子の上で、はしゃぎ出した。

 それをとっさにクアットロがなだめにかかる。どうにかヴィヴィオを落ち着かせ、食事を再開させるクアットロ。そして、クアットロはポツリと言葉を口にする。

 

「私も行く」

 

 その言葉に、ハナコは意図が理解しきれず問い返す。

 

「なんて?」

 

「私も、行く。そのキラ星ブドウとやらを採りに!」

 

「えっ、クアットロさんが? セインさん以外のナンバーズが食材の捕獲に付いてくるとか、珍しいね」

 

「今すぐ行くわよ! クアットロもヴィヴィちゃんに美味しい物を食べさせてあげたい!」

 

「お、おう……歓迎するよ。一緒に冒険しようか」

 

 どうやら、今回のハナコの冒険は、研究所に詰めてヴィヴィオの世話ばかりしているママさんが同行するようだった。

 

「ヴィヴィちゃん、ママがお星様を採ってきてあげますからねー」

 

「おほしさん! たべる!」

 

 ハナコはクアットロがどれだけ動けるか不安になったが、ゼロがわざわざ製造した人造生命ならきっと戦闘能力もあるのだろうと判断した。

 キラ星ブドウ。それが実る先に辿り着くには、いくつかの難所を越える必要があった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 第二十二エリア。それなりの広さがある島で、星のように光る食材が多いことから、トゥインクルアイランドとハナコが勝手に名付けた区画だ。

 研究所で管理をしているビオトープガーデンとは違い、自然に任せて半ば放置している場所だ。そのため、無人機越しの映像では分からない危険があってもおかしくない。

 獰猛な生物がいるかもしれないし、自然が牙を剥くかもしれない。

 なので、自分の身は自分で守れとハナコはクアットロに事前に告げたが、クアットロはそれを鼻で笑った。

 曰く、自分達ナンバーズはDr.ゼロの最高傑作で、戦闘もお手の物だと。

 

 それならばと、ハナコはその日のうちにすずかとクアットロを連れて、トゥインクルアイランドへと跳んだ。

 

「はー、本当に転移魔法もなしに転移できるのねぇ……」

 

 ハナコが使った『ワープロード』を通って、トゥインクルアイランドの入り江に到着すると同時に、クアットロがそんなことを言った。

 

「『星のフルコース』のニュースを食べることで使えるようになる能力だね」

 

 ハナコがクアットロにそう答えると、クアットロはなるほどとうなずく。

 

「食べるだけで特殊能力が増えるとはなかなかすごいわねぇ……で、キラ星ブドウとかいう物はどこでしょうかねー……?」

 

「ここは入り江で、標的は島の奥だよ。今回は、周囲の生態を調査しながら移動するから、直接は来ていないよ」

 

「もう、面倒ねぇ」

 

「まあ、冒険を経ることで、食材のありがたみも分かるってものだよ」

 

「しょうがないから、付き合ってあげますよー」

 

 ヴィヴィオに対する態度とはずいぶんと違うなと、ハナコは苦笑する。

 そして、ハナコはあらためて「それじゃ、出発!」と言って、すずかとクアットロをともなって、島の奥に見える山を目指して歩き出した。

 

「しかし、冒険ね。こんな軽装で冒険とか、ただの散歩じゃない?」

 

 数分ほど歩いたところで、クアットロがそんなことをぼやく。

 そして、足元に転がっていた石を蹴り、脇道にあったヤブへと突っ込ませた。すると、次の瞬間、ヤブの中から無数のきらめく何かが爆発するように飛びだしてきた。それはまるで、夜空に輝く星が炸裂したような光景だった。

 

「ぎゃー!? なになに!?」

 

 驚くクアットロに、ハナコが笑って言う。

 

「あはは、虫の巣があったみたいだね」

 

「虫!? この星、虫なの!?」

 

「うん、仮称すらつけていない小さな虫だねー」

 

「うええー、気持ち悪ーい!」

 

 クアットロは、とっさに魔法を放ち、星の形をした虫を消し飛ばす。

 すると、今度は地表が破裂し、地面の中から巨大な球体が姿を見せた。

 それは、まるで空に浮かぶ月のような球体をした岩の塊。だが、特徴として前面に大きな口が開いていた。

 

「ぎゃー!? 今度はなに!?」

 

 クアットロがまたもや叫ぶと、ハナコがそれを解説する。

 

「仮称、ムーンビースト。虫が潰された匂いを察知して、地面から這い出してきたみたいだね。肉食だよ、気を付けて」

 

「わああああ! 来ないでぇ!」

 

 クアットロがとっさに携帯していた銃を構えてエネルギー弾を撃ち出す。だが、弾はムーンビーストの表面に弾かれて、攻撃が効いた様子は見えない。

 そして、獲物と判断したのか、大口を開けて直径八メートルはあるムーンビーストがクアットロに噛みつこうと迫ってきた。

 ムーンビーストの口内にはびっしりと無数の牙が生えてそろっており、噛まれてしまえば無事では済まないことは明らかだった。

 

「きゃあああああ!」

 

 あまりの迫力に、クアットロの悲鳴が響く。

 と、そこで事態を見守っていたすずかが動いた。彼女の腰には複数の赤い液体が入った試験管がぶら下がっている。彼女はそのうちの一本を抜くと栓を抜いて中の液体を手の平に垂らす。

 すると、手の平の上の赤い液体がするどい槍へと形状を変えた。そしてすずかは、その槍を構えて、ムーンビーストの口内へと思いっきりぶん投げた。

 

 口内へと侵入する赤い槍。喉の奥に進み体内に槍が触れた途端、槍は無数のトゲとなって内部からムーンビーストを貫いた。

 

「きゃああああああ……ああああ?」

 

 エネルギー障壁を張って身をかがめていたクアットロだが、ムーンビーストが目の前で撃退された空気を察して、おそるおそる顔を上げる。

 

「大丈夫、倒しましたよ」

 

 すずかがそう言って、ムーンビーストの方へと手を掲げる。

 すると、巨大なイガグリのようにトゲトゲとなっていた赤い槍が液体に戻り、スルスルとすずかの手の平に戻っていく。そして、すずかは液体を試験管の中に戻し、栓をして腰に差し戻した。

 

「あ、ああ……すずか、あなた強いのね……」

 

「私はグルメ細胞に適合して長いですから……」

 

 すずかがクアットロの言葉にそう返すと、横からハナコが言う。

 

「すずかさんはグルメ細胞由来の能力で、血を自在に操れるんだよ。自分のも、他人のも」

 

 グルメ細胞由来の能力を使いこなすDr.ゼロを親に持つクアットロは、それで一応の納得を見せた。そして、魔法障壁を消してムーンビーストを眺める。

 

「クアットロの銃弾が全然効かなかったみたいだけどぉ、どうなっているのやら?」

 

「体の外は頑丈みたいですね。口の中なら柔らかいかなと思ったので、狙ってみました」

 

「なるほど、口の中を狙えばよかったのねぇ……」

 

「その辺は、慣れですから」

 

 クアットロとすずかがそう会話をしている間にも、ハナコは死んだムーンビーストの調査にかかる。

 殺した獲物は全て食べる、とまでは言わないが、仕留めた以上は研究に役立てる方針だ。

 外殻を調べ、口内を調べ、そして体内に侵入したハナコは、調査結果をすずかに告げる。

 

「これ、甲殻類の仲間だよ」

 

「えっ、甲殻類って、海老とかカニみたいな?」

 

「うん。外側の月みたいなゴツゴツは、全部甲殻。中にはプリプリの身が詰まっていたよ」

 

「食べられるかな?」

 

「そこは研究所で調べないと分からないね。というわけで、ワープさせておくよ。離れてね」

 

 ハナコは直径八メートルあるムーンビーストを『ワープロード』で中央研究所前へと運んだ。さらに、携帯端末で研究所に待機しているセインへ、記録しながら解体するよう指示を飛ばした。

 

「さて、じゃあ先に進もうか」

 

 ハナコがそう号令をかけ、三人は島の奥へと再度進み始めた。

 彼女達の冒険は、まだ終わらない。

 


 

ムーンビースト(甲殻獣類)

捕獲レベル:13

オリジナル食材。マウクランのトゥインクルアイランドに生息する甲殻獣類。夜空の月をそのまま地上に落としたような見た目に、牙の生えそろった口の様子から、ムーンビーストと仮称を付けられた。普段は重力を操って地中に潜り、獲物が頭上にやってくるのを待つのんびりとした狩りを行なう。

月のような外側は甲殻であり、中には海老のようなプリプリの身が詰まっている。サイズも大きく、なかなか食いでがある食材だ。

 




本編で明かされない裏の物語進行:52話と53話の間にミッドチルダでレリックが原因の空港火災が発生していますが、早急に出動したゼスト隊により救助がなされ、スバルはクイントに、ギンガはメガーヌに救出されました。なお、ティーダ・ランスターはすでに殉職しています。
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