十二月、ハナコ達の中学生活もあとわずか。そんな中、彼女らは今年も月村邸でクリスマスパーティーを開催した。
中学を卒業すると、皆、それぞれの道を歩むことになる。こうして一堂に会して騒ぐ機会は、もしかしたらこれが最後かもしれない。そう考えたハナコとすずかが用意した料理は、いつもより豪勢なものになった。
マウクランで集めた食材をこれでもかと使い、美味なる料理の数々がテーブルの上に並ぶ。
それを前に、参加者達は盛大な歓声を上げた。
「すずかの料理は、グルメエイジのレストランよりも上ね!」
アリサが上機嫌で巨大な『百面鳥の丸焼き』を専用ナイフで切り分けながら、そんな称賛を述べた。
すずかは「そうかなー」と恥ずかしそうに返すが、まんざらでもない様子。実際、すずかの料理の腕はすでに、ハナコでは足元にも及ばない領域へ到達していた。
「この炭酸ジュース美味しいね」
ノンアルコールのシャンパンを飲みながら、アリサが切り分けた鳥肉に舌鼓を打つなのは。
なのはの隣ではフェイトが小皿に料理を盛り付けており、なのはと料理をシェアしていた。
「『キラ星ブドウのノンアルコールシャンパン』だね。セインさんが仕込んでくれたけど、美味しくできてよかったよ」
ハナコがなのはと同じシャンパンを手にして、グラスを眺める。炭酸の泡が夜空の星のように輝き、クリスマスの夜に相応しい華やかさを見せていた。
一通り星のきらめきを楽しんだ後は、グラスを一気にあおる。
すると、炭酸がパチパチと口の中で弾け、炭酸の泡がハナコの体中を巡っていった。
その炭酸の効果により、口の中が洗い流されたようにスッキリして、次の料理を口にしたくなってくる。
ハナコは、何を食べるかと周囲を見回した。
すると、ハナコは何やら床にしゃがみこんでいるはやての姿を発見した。
「はやてさん、何してるの?」
「お、ちょっと猫達におやつをせがまれてな」
月村邸には、多数の猫が飼われている。パーティー会場にも我が物顔で闊歩しており、美味しそうに食事を取る人間達へ構ってほしそうに近づいてくる子もいた。
もちろん、そのまま人間の料理を与えるわけにもいかない。人間用の料理は猫にとって塩分が強すぎるのだ。
だが、はやては普段から家で飼っているエルトリア猫のおやつを携帯しているため、月村家の猫にせがまれておやつを与える羽目になっていた。なお、すずかの許可はしっかり取ってあり、おやつもグルメ細胞が含まれていないささみジャーキーだ。
「はやてさんちの猫は元気?」
ハナコは、最近はやての家に訪れていないなと思いながら、そんなことを尋ねた。
「元気なんやけど、最近ちょっと迷っていることがあってな」
「んー? 何かあった?」
「『夜天の魔導書』に動物の気持ちを理解する、特殊な翻訳魔法が
「何その素敵な魔法!?」
「せやろ。で、それを使ってディアーチェ達と会話した結果な、あの子達、人間になりたいようだったんや」
「人になる……えっ、猫が人になれるの?」
ハナコは驚き顔になって、猫におやつを与え続けるはやてをじっと見た。
すると、はやては笑いながら「この子達は無理や」と言った。
「あの子達はプログラム化しとるからな。ガワはある程度自由が利くんよ。それに、会話の結果、知能は人並みに向上しとることも分かったし……人間の姿のアバターを作ってやるかどうか考えとる」
はやてはそう言うと、おやつやりを止めて立ち上がり、ハナコの前に魔法で空間投影画面を表示させた。
その画面には三人の子供の絵が描かれており、それぞれ下にエルトリア猫達の名前が走り書きされていた。
それぞれのアバターデザインを見て、ハナコはピンとくるものがあった。
「ディアーチェがはやてさん、シュテルがなのはさん、レヴィがフェイトさんの姿をベースにしているのかな?」
「そやな。小学生の頃の私らや」
「ふんふん、なんで小学生?」
「知能は高い言うても、子供くらいやからな」
なるほど、あのエルトリア猫達は小学生程度の賢さを持つらしい。ハナコは八神家に訪れたときに見た、やけに賢い猫達の行動を振り返りながら、そんなことを思った。
「それで、三匹はリンカーコアもあるからデバイスを用意しようかとも考えててな」
はやてがそう言うと、ハナコの前にもう一枚の画面が開いた。
「ディアーチェにはこれやな。『夜天の魔導書』をベースにした本型ストレージデバイス『蒼天の書』や」
それは、はやての『夜天の魔導書』をカラーチェンジさせた一冊の本。これがディアーチェの〝魔法の杖〟代わりとなるのだろう。
「管制プログラム、リインフォース
なにやら、この人もずいぶんと面白そうな魔法研究をしているものだな、とハナコは感心した。
猫を人に変え、デバイスを渡し、魔法を使わせる。八神一家に、また戦力が追加されることとなる。
時空管理局に一家で部隊を一つ持てそうだ。ハナコはそんなことをはやてに冗談めかして言うと、「それも面白そうやな」と冗談交じりで答えが返ってきた。
はやては中学卒業後、本格的に時空管理局の上級キャリアの道を進む。身内で固めた部隊の創設は不可能ではなかった。
◆◇◆◇◆
「と、そんな感じで、ディアーチェ達三匹は、人の姿を獲得する予定だよ。そっちの世界に訪れることもあるかもね」
冬休みにマウクラン研究所を訪れたハナコは、エルトリアと繋がった映像通信でそんな報告をしていた。
通信の相手は、フローリアン一家。一家の父であるグランツの病気が完治したため、最近ではハナコが薬膳を持ってエルトリアに訪れる機会はなくなっていた。
『そっか。あの子達が人にね。会話できるのを楽しみにしているわ』
すました顔でそう言ったのは、イリスだ。
彼女は地球での弁済代わりの奉仕活動もすでに終え、エルトリアでフローリアン一家と共に生活をしている。
そんなフローリアン一家から、ハナコは近況として惑星再生の進行具合を聞いていく。
曰く、惑星再生はユーリの協力もあって、順調に行なわれているそうだ。
そして、ハナコが時折持ちこんでいたお土産の味に魅了された者が多く、グルメ細胞を含んだ食材をどこかで育てられないかと、別ラインの研究も進めているとのこと。
これには、ハナコも前々から協力を幾度かしていた。
ハナコがした協力は、食材の提供。スペースコロニーに脱出済みのエルトリアの政府関係者に、マウクランの食材を食べさせたのだ。
これに魅了されたエルトリア政府はグルメ研究に本腰を入れ、新たに予算を組んだ。新規にスペースコロニーの建造計画を立て、グルメ細胞を持つ植物系食材の生産拠点とするよう踏み切ったのだ。
さらには、惑星エルトリアにはすでにフローリアン一家以外の人類は残っていないため、エルトリアをグルメ細胞の星に変えてしまっていいのではという意見まで出ていた。どうせ一度は捨てた星なのだ。再生させるなら、元通りにする必要もない。そう判断しての思い切った案だった。
これには、さすがのハナコも手放しで賛成するとまでは言えず、マウクランとエルトリアで情報を共有して、具体的な案に練っていくということにした。グルメ細胞に適合した者が少ない状態で惑星をグルメ細胞で開発しすぎると、手に負えなくなる危険性があるためだ。
そこまでやりとりをして、ハナコは通信を切った。
「さて、博士と詳細を詰めた方がいいかな」
ハナコは研究所の私室を出て、Dr.ゼロの姿を探す。
だが、ゼロの姿は見当たらず、ナンバーズ達に聞いても不在だと返ってきた。
「んー、とりあえず、メールを送っておこうか」
Dr.ゼロにエルトリアの状況を伝えるメールを送り、翌日、また研究所に訪れたハナコ。
だが、その日もゼロは不在だった。
代わりに、ゼロからはメールの返信が届いていた。
そこには、惑星へグルメ細胞を植え付ける研究の論文と一緒に、『エルトリアにはもう興味がないので、そのデータをもとに勝手にやって構わない』とのメッセージが入っていた。
「……博士って、自分の興味がないことには全く手を貸してくれないよね。今回は論文があるだけマシかなぁ」
ハナコは、論文を流し見しながら、そんなことを独りごちた。
「しかし最近、博士が不在のこと増えたなぁ。マウクランじゃできない研究をしているのかな? 最高評議会とやらの紐付きっぽいし、やること多いのかもね」
ゼロ不在のまま、ハナコはマウクランに詰めて冬休みを過ごした。
マウクランはハナコが初めて訪れたときと比べて、環境が様変わりしている。
ゼロが地殻に埋め込んだグルメ細胞により、美味な気候が増え、美味な地層が増えた。これは比喩ではなく文字通りで、食べられる天候や、食べられる土地ができあがってきたのだ。
これを放置すれば〝グルメ界〟のようなとんでもない環境が生まれるぞ。と、ハナコは嬉しさ半分、心配半分で、未来のマウクランをコントロールすべく自身のグルメ研究を推し進めていった。
百面鳥(鳥獣類)
捕獲レベル:21
オリジナル食材。マウクランのサバンナに生息する大型の鳥で、百面の名に示される通り、体表の羽を様々な色に変える性質を持つ。複雑な保護色への変化も可能で、環境に応じて迷彩柄にすら羽の色を変える。その性質のため発見は非常に困難で、さほど獰猛ではない性質にかかわらず、高い捕獲レベルに認定されている。
肉は上質で、仕留められた時の体表の色によって味が変わる。そのため、サバンナ以外にも生息地を増やせないか、生態の研究が進められている。