【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

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56.卒業は波乱の予感だよ

 時は過ぎゆき、三月。ハナコ達はとうとう中学の卒業式を迎えた。

 卒業式は別れの儀式。仲間達と別々の道を歩んで、新しい出会いに備える大切な日だ。

 

 だが、ここ私立聖祥大学付属中学校は、エスカレーター式の学校。何事もなければ、そのまま全員同じ高校へと入ることになる。

 とは言っても、あえて別の道を選ぶ者もいる。

 ハナコ達仲良しグループの中でも、その別の道を選んだ者達がいた。

 

 なのは、フェイト、はやての時空管理局の局員三人組である。

 三人は本格的に時空管理局員としての道を進むため、別の世界に移住する。

 なのはは教導隊として局員の未来を拓くため、フェイトは執務官として人を助けるため、はやては上級キャリアとして本局の幹部を目指すため、それぞれ異なる道を選んだ。

 

「この中で、一番誰が出世頭になるかしら?」

 

 将来はグルメエイジ社の幹部となり、ハナコとすずかを助けたいという未来の展望を持つアリサが、そんなことを言った。

 卒業式前の朝の学校で、ハナコ達はなんとなく集まり、進路についての再確認をしているのだ。

 

 ちなみにハナコはこのままグルメ研究者を続けつつ、大学に進み経営の勉強をするつもりだ。すずかはグルメエイジ社の伝手を頼って料理人として大成できたらと考えている。

 それぞれが、明確なビジョンを持ってこの卒業式の日を迎えていた。

 

「なのはさんは、結局、訓練学校はどうするの?」

 

 ハナコが、なのはにそう尋ねる。

 なのはは、本来であれば時空管理局の訓練学校を短期で修了し、教導隊としての本格的な仕事を早期に始めるつもりでいた。

 だが、ハナコはそれを勿体ないと何度も止めていたのだ。

 

 ハナコがわざわざなのはの進む道に口出しするのにも、ちゃんとした理由がある。

 なのははすでにグルメ細胞に適合している。そしてグルメ細胞に適合し、美味しい食材を食べ続けた者は、寿命が延びるのだ。

 延びた寿命で今後数十年どころか、百数十年もの間、時空管理局に関わり続けることになる。ならば、訓練学校ではなく、士官学校でじっくり勉強して、将来的に上のポストに就くことも考えた方がよい。ハナコは、そうアドバイスをした。

 

「うん、ハナコちゃんの言う通りにして、しっかり勉強するつもり」

 

 ハナコの説得に、なのはは心変わりをしていたようだ。

 すぐさま現場に入ることはせず、士官学校に通う。将来を見越した人生設計をなのははあらためて設定していた。

 彼女は上の階級に進まずに、一生を教導の現場で過ごすことにも心を惹かれていた。しかし、ハナコだけでなくフェイトとはやてにも説得されて、将来は上を目指すことに決めた。そもそも、なのはには急いで現場に入る理由も、これといって存在しないのだ。

 

「そっか。じゃあ、はやてさんが一番えらくなるとは限らないね」

 

「いやいや、私は将来、提督になるでー。今からサイン貰っといた方がええんちゃう?」

 

 ハナコの発言に、そのはやてが冗談めかしてそう言った。

 すると、場は笑いに包まれ、学校が始まる時間が来るまでにハナコ、なのは、フェイト、はやて、アリサ、すずかの六人は未来に思いをはせて将来の話を続けたのだった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 卒業式は順調に進んだ。地球の情勢は大きく変わったが、卒業式という式典の中身が変わるほど文化侵略は起きていない。

 在校生とやりとりを交わし、歌を歌い、卒業証書を受け取る。変わったことがあるとしたら、時空管理局本局から祝電が届いていたことくらいだろうか。

 エスカレーター式で別れのイメージは薄いためか、涙を流す者もほとんどいなかった。ごく少数、教師との別れで涙する者もいたが。

 

 そんな卒業式の最中、ハナコはふと三年二組のクラスメートであるなのはが、妙にそわそわとしていることに気づいた。

 卒業証書授与式の途中だったため、よほど順番が待ち遠しいのか、それとも緊張しているのか、とハナコは思わず笑ってしまった。

 しかし、なのはの名前が呼ばれて卒業証書が受け渡されても、なのはは落ち着かないままだった。

 そして、ハナコは気づく。なのはだけでなく、フェイトとはやての様子もどこか変であることに。

 

 これは、時空管理局関連で何かあったな、とハナコは察したが、なのは達が途中退室する様子は見えなかった。

 そして、卒業式後……。

 

「なのはさん、何かあった?」

 

 ハナコは、単刀直入になのはに尋ねてみることにした。

 すると、なのはは目の前に魔法の空間投影画面を広げながら、ハナコに答える。

 

「うん、ミッドチルダで大事件」

 

「あー、それはまた……式を中座しなかったの?」

 

「しようと思ったけど、終わるまで来るなって言われちゃった。一生に一度の機会だからって」

 

「うーん、大事件なのにそれはいいのかな……」

 

「人死が出るような事件じゃないみたいだから。えっと、ハナコちゃんは『聖王のゆりかご』って知ってるかな?」

 

 なのはに問われ、ハナコは首を横に振った。

 ハナコも聖王については知っている。クローン人間であるヴィヴィオのもとになった王の一族のことだ。だが、『聖王のゆりかご』なるワードは初耳だった。

 

「そういう名前のロストロギアがあるの。聖王オリヴィエがかつて操って、古代ベルカの戦乱を平定した、次元航行戦艦」

 

「アースラみたいな?」

 

「アースラを大きくして、兵装を物騒にした感じかな。その『聖王のゆりかご』がミッドチルダに眠っていたらしくて、それが起動してミッドチルダの空を飛んだの」

 

「物騒な戦艦が空を飛んだんだ。そりゃ確かに大事件だ。でも、人死にが出るような事件じゃないってことは、空を飛んだだけ?」

 

「そうだね。空を飛んで、乗りこんだエース部隊のゼスト隊を撃退して、大気圏外まで飛んだところで次元跳躍して、次元の海に潜り込んだみたいだよ」

 

 ハナコは、なるほどと納得した。標的はすでにミッドチルダにいない。だからなのははこんなに落ち着いて、現場に向かおうとしていないわけだ。

 そして、なのはは『レイジングハート』を胸元から取り出して、空間投影画面をさらに増やした。

 卒業式の日にこんなお仕事とは、本当におつかれさまだとハナコは思った。

 

「犯行声明が出ているね」

 

 なのはは、一つの画面を前面に出して、映像を再生させた。

 そこに映っていたのは、紫髪の青年と、装甲服にフルフェイスヘルメットの女性らしき五人の者達。そして、金髪にオッドアイの大人の女性だ。

 その映像の彼は、ジェイル・スカリエッティの名を名乗った。

 

『我々は、聖王の手にゆりかごを取り戻した。これは正統な行為である』

 

 ジェイル・スカリエッティは、オッドアイの女性を前面に出し、そんなことを宣言した。

 

『ゆりかごは聖王のもとへ戻り、高き空を飛ぶ。しかし、これは戦乱の始まりではない。我々は、ただ遠い空を飛びたいだけだ。邪魔してくれるな』

 

 そう言って、ジェイル・スカリエッティは短く犯行声明を終えた。

 

 その映像に、ハナコは思わず言う。

 

「なにやってんの、博士」

 

「やっぱりこれ、ドクターかな?」

 

 なのはがハナコの様子をうかがうように問うてくる。

 

「そうだよ。顔も声も、なんなら体の太さも違うけど、この仕草はゼロ博士のものだね」

 

「そっか……ねえ、ハナコちゃん。ドクター達の行方とか、分かるかな?」

 

「いや、全く分かんないね。ゆりかごっていうやつ、行方不明なの?」

 

 ハナコが問い返すと、なのはは首を縦に振ってうなずく。

 次元の海へと跳んだ『聖王のゆりかご』の行方は不明。この戦艦のスペックは現代の次元航行艦のそれをはるかに超えており、本気で次元を渡られると行き先を追跡できるようなものではないらしい。

 

「はー、魔法は科学っていうから、最新鋭の設備が常に最高品質って思っていたけど……そういうわけじゃないんだねぇ」

 

 ハナコがしみじみと言うと、なのはは胸元の赤い宝玉、『レイジングハート』に触れて言葉を返す。

 

「そうだね。正直、ロストロギアは現代の魔法科学では解明しきれないところが多いよ。私の『レイジングハート』も、ユーノくんが発掘した古代の遺産だしね」

 

「レイハさん、あなたそんなロマンに溢れた逸品だったんだ……」

 

『恐縮です』

 

 なのはの胸元の宝玉がチカチカと輝き、そんな言葉を返してきた。

 それからなのははフェイトとはやての二人と合流し、今後の動きを話し合い始めた。

 

「しっかし、行方不明か。『聖王のゆりかご』が出現、即、行方不明とか、聖王教会がてんてこ舞いやで」

 

『夜天の魔導書』関連で、古代ベルカの聖王家を崇める聖王教会と関わりが深いはやてが、そんなことをぼやく。

 そして、フェイトも待機状態のデバイス『バルディッシュ』で空間投影画面を表示させながら、言う。

 

「何か手掛かりがあればいいんだけど……ハナコ、何かドクター関連で心当たりない?」

 

 フェイトに問われ、その場に残っていたハナコが、言葉を返す。

 

「あるよ、心当たり」

 

「本当!?」

 

 思わぬ返答に、フェイトだけでなく、なのはとはやてもハナコの方へと顔を向ける。

 そんな三人に注目されながら、ハナコは答える。

 

「正確には、心当たりがある人に心当たりがあるよ」

 

「詳しく」

 

 フェイトに促され、ハナコは言葉を続ける。

 

「犯行声明に映っていた装甲服の女の人達は五人。これがナンバーズだとすると、一人足りない。この一人が、もし今回の事件に参加していなかったら……」

 

 ハナコは、三人に向けて力強く告げる。

 

「マウクランに行こう。多分、セインさんが残っているはず」

 




本編で明かされない裏設定:空港火災がゼスト隊によって早期に鎮火され、ゼスト達の生存によるミッドチルダの治安向上があるため、StrikerS原作二話の三人娘による『クイーンベッドの誓い』は行なわれていません。それでもはやてが上級キャリアの道を選んだのは、ヴォルケンリッターを現場で使い潰されないようにと考えてのこと。
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