【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

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57.星の海を渡る魔女だよ

 学校から慌ただしく月村邸に帰還したハナコ。彼女には同行者がおり、なのは、フェイト、はやての三人だけでなく、卒業式に父兄として参加していたヴォルケンリッターの四人も連れていた。

 学校の制服のまま直接、転移施設に入り、そのままマウクランへ飛ぶ一同。

 

 中央研究所に辿り着いた彼らだが、施設の中を確認するも見事にもぬけの殻だった。

 

「こりゃハズレかな」

 

 はやてがそう言うが、ハナコは落ち着いて携帯端末を取り出し、セインへと連絡を繋いだ。

 すると、あっさりとセインは出て、映像通信が始まった。

 セインは装甲服など着ておらず、いつものミッドチルダ風のおしゃれな私服姿だ。

 

「セインさん、よかった、ちゃんと居たね」

 

『はいはいー。待ってたぞ、ハナコ』

 

「セインさん、単刀直入に聞きます。ジェイル・スカリエッティはDr.ゼロかな?」

 

『どうかなー。それは教えられないかなー』

 

 はぐらかすようにセインは言う。

 背後で何名かがイラッとする気配をハナコは感じたが、彼女は気にせずセインと会話を続ける。

 

「では、別のことを聞くよ。Dr.ゼロはいまどこにいるのかな?」

 

『遠い宇宙の向こう側。『星のフルコース』を探しに、旅立ったよ』

 

「はあ? 『星のフルコース』?」

 

『そう。ハナコがドクターに〝グルメ界〟と『星のフルコース』のことを話して以降、ドクターはそれにご執心なわけ。遠い宇宙のどこかには、グルメ貴族がグルメ細胞を植え付けた食の惑星があるはずだって』

 

「はあー……で、それを探す旅に、他のみんなも連れていったと」

 

『そうなるね。いやー、ハナコも余計なことをドクターに話したもんだよ』

 

 セインはそう言って、大きなため息を吐いた。今のこの状況は、セインも望んでいないことらしい。

 

「で、セインさんはなんでマウクランに残っているの? 後ろに見えるのは多分、どこかのビオトープの研究所だよね」

 

『あたしはまだマウクランでやりたいことがあるって言ったら、じゃあ残っていいって言われて……』

 

「セインさんのやりたいことって?」

 

『そりゃ、もちろん『フルコース』作りだよ。まだ三つしか決まっていないのに、別の場所なんていけないぞ』

 

「『フルコース』か……なるほどね」

 

『ちなみに、Dr.ジェイル・スカリエッティのことなら、多分、今頃は地球の月にいるんじゃないかな? 時空管理局が邪魔でミッドチルダの月から魔力を補給できなかったなら、地球の月から魔力を集めているはずだな』

 

 そこまで聞いて、ハナコは背後に振り返る。

 

「よし、なのはさん、フェイトさん、はやてさん。ドクターを止めに行こう。私はドクター達に無謀な旅路を行かせたくない」

 

 ハナコのその言葉に、力強くうなずく一同。

 すると、映像通信の中のセインが、ハナコに向けて言う。

 

『ハナコ、月に行くなら一つ、頼みたいことがあるんだけど……』

 

「いいけど、なにかな? あまり余計なことをしている時間はないかもしれないよ」

 

『料理を届けてほしい。あたしの作った料理を』

 

「いいよ。でも、急いでね」

 

『うん、仕込みは終わっているから、後は焼くだけ! 第三ビオトープまで取りに来てよ』

 

 ハナコはうなずき、通信を閉じて、再度背後に振り返る。

 

「じゃあ、ちょっとだけ行ってくるね」

 

「セインさんは重要参考人だから、確保したいのだけど」

 

 フェイトがそう言うが、ハナコは首を横に振る。

 

「セインさんは、たまたまジェイル・スカリエッティの行方に心当たりがあっただけだよ。捕まえるとかはなしで」

 

「……そう。まあ、ジェイル・スカリエッティは犯罪者だけど、セインさんが何かしたって事実は確かにないね」

 

 フェイトはそう言って、ハナコが一人で第三ビオトープに向かうことを許した。他の者達も、無理にセインを確保する意思はないようだ。

 

 それからハナコは一人で『ワープロード』を使い、第三ビオトープの研究施設にやってきた。

 研究施設に併設されたキッチンへと向かうと、そこではセインが料理を進めている。

 

「あ、ハナコー。そこにあるグルメケース、マウクランのデータ入力しておいてくれー。保温で」

 

 セインにそううながされ、ハナコはキッチンの台の上に置かれている透明なケースを手に取った。

 それは、グルメケースという食材保存用のガジェットだ。元々はハナコが前に居た世界で流通していたケースで、ハナコの話を聞いたDr.ゼロが再現に成功した品である。

 ハナコはケースの蓋部分にある入力欄に、マウクランの気候などの数値を入力していく。これにより、このケースの中身はどんな環境であろうとも、マウクランにあるときと同じ状態が保たれるのだ。そう、たとえば宇宙にケースを持ちこんだ場合でも、中の食材は保護される。

 保温や保冷も可能なため、料理を冷まさずに運ぶことも可能だ。

 

「よっし、完成。ドクターのための、渾身の魚料理! これをドクターに届けて!」

 

「分かった。博士のことは、しっかり連れ戻してみせるよ」

 

「あはは、ドクターがどうしても『星のフルコース』を食べたいっていうなら、止めたくはないんだけどな」

 

「私としては、ドクターのワガママに他の人達を巻き込む訳にはいかないよ。博士はヴィヴィオも連れていったんでしょう?」

 

「うん。『聖王のゆりかご』を動かすためには、ヴィヴィちゃんが必要だから」

 

「それなら、止めなきゃ。当てのない旅に、ヴィヴィオを付き合わせられないよ」

 

「そうだね。だから、お願いだ、ハナコ。あたしじゃ、ドクターを止められなかったから……」

 

「任されたよ」

 

 ハナコは、グルメケースに入った料理と共に、確かにセインの想いを受け取った。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ハナコ達がマウクランから海鳴市へ帰ってきたころ、夕暮れが訪れようとしていた。

 空には月が昇っている。セインの言葉が正しいならば、あの月に『聖王のゆりかご』は存在する。

 

「で、実際問題、どうするん? 月とか、次元航行艦を引っ張ってこな向かえんで」

 

 月村邸の庭で、はやてが空の月を眺めながら、言った。

 そんなはやてに、ハナコが真面目な顔をして問う。

 

「魔法でバビューンって飛んでいけないのかな?」

 

「無茶言うなぁ。そりゃ、私達なら大気圏突破までは余裕で行けるで? でも、月までどんだけ距離があると思うてるん」

 

 はやてがやれやれと肩をすくめた。地球と月の距離は、三十八万キロメートル。転移魔法を使わずに辿り着くことは、とても無理な注文であった。そして、設備に頼らず人が単独で行使する転移魔法では、そこまでの長距離を跳ぶことは困難だった。

 

「行けるよ。私なら」

 

 と、不意にそんな声が発せられる。

 声の主は、なのはだ。

 

「なのはちゃん、本気で言ってる?」

 

 はやてが、目を見開いてなのはに問い返す。

 

「うん。私ならハナコちゃんを連れて、月まで行けるよ」

 

「どうやって? なんぞ転移の方法があるんか?」

 

「転移じゃなくて、月まで真っ直ぐ空を飛んでいくよ」

 

「どんだけ速度出すつもりや!?」

 

 はやての突っ込みに、なのはは軽く笑いながら、告げる。

 

「私がグルメ細胞に適合して、それなりの期間が経っていることは知っているよね?」

 

「そら、みんな知ってる」

 

「で、『グルメ細胞の悪魔』も宿っている。そこまではみんなに話したよね」

 

「前に言うてたな。なんや、リンカーコアの運用が得意な優しい悪魔さんやって」

 

「うん。ウィッチさんっていうんだけど、私はちょくちょくウィッチさんとグルメ細胞を通じて対話をしてきたの。それで……ウィッチさんが使う太古の魔法、私も少しだけ使えるんだ」

 

「ホンマにか!? 太古って、古代ベルカの……」

 

「ううん、それよりも何億年も古い魔法。ウィッチさんは、はるか昔に魔法を使って星の海を旅して、美味しい食材を集めていた宇宙の魔女なんだ」

 

 なのはの告白に、一同は絶句する。

 これには、ハナコも驚いていた。なのはがグルメ細胞に適合してから六年ほど。その長いとは言えない期間で、『グルメ細胞の悪魔』との対話に成功しているとは、正直考えられないほどの成果であった。

 

「ウィッチさんの使う魔法は、光の速度を超えて、恒星間の旅を可能とする。……月までなんて、簡単に行けるよ。ただし、今の私が使える旅魔法は一人用だから、荷物としてハナコちゃんを抱えていくので精一杯かな」

 

 本当に頼もしい人だな、とハナコは思わず笑ってしまった。そして、なのはとハナコは早速、月へと行く準備を進めた。

 とは言っても、ハナコはマスクを一つ付けただけだ。光に当てることで呼吸可能な酸素を供給してくれる酸素の葉。それが入った呼吸用のマスクを口に装着しただけ。

 他の真空や宇宙線といった環境に対しては、進化を幾度も続けたグルメ細胞によって耐える方針だ。

 

「……とても宇宙に行く格好には見えないね」

 

 フェイトが、準備を終えたなのはとハナコを見て言った。

 バリアジャケットを着込んで『レイジングハート』をにぎったなのはと、中学校の制服のままで肩にグルメケースをかけたハナコ。その二人が、ツタで互いを結びつけた状態で立っている。

 今回は月までなので、光速を超えずに亜光速で飛ぶ。だが、ソニックブームなどの心配は要らないとなのはが言うので、他の一同はハナコ達を囲むように出発を見守っていた。

 

「レイジングハート、宇宙術式、展開」

 

『All Right』

 

 なのはの宣言と共に、彼女の足元に魔法陣が展開する。

 それは、ミッドチルダ式ともベルカ式とも違う、複雑な円形の魔法陣だ。当然、フェイトもはやても、その魔法陣には見覚えがなかった。

 

「それじゃあ、行ってきます。『ムーンウォーク』」

 

 なのはが魔法名を告げると、なのはとハナコは一瞬で空の向こうに消えていった。

 

 日は沈み、夜が訪れる。

 夜空にはわずかに欠けた月が鎮座し、新たな客の訪れを静かに見守っていた。

 

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