【完結】おいしいおにくがたべたい   作:Leni

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59.すべて世は事もなしだよ

 ゆりかご事件と名付けられた『聖王のゆりかご』起動から始まった一連の騒ぎは、無事に収束した。

 地球の月に停泊していたゆりかごは、時空管理局の高町なのはによって発見された。高町なのははゆりかごに踏みこむも、ジェイル・スカリエッティの配下に行く手を阻まれた。さらにジェイル・スカリエッティは逃げの一手を取り、惜しくも取り逃してしまった。

 

 だが、ゆりかごを動かしていた聖王は、無事に保護された。

 聖王の正体は聖王オリヴィエのクローン体であり、マウクランという無人世界からさらわれた二歳の子供であった。

 その聖王のクローンを巡って、時空管理局と聖王教会でこれまた大騒ぎに発展する。

 

 聖王のクローン、ヴィヴィオをどの組織に所属させるか。彼女は、『聖王のゆりかご』というロストロギアを動かすことができる。しかも、ゆりかごはジェイル・スカリエッティによって改造を施されており、かつて聖王オリヴィエが操ったときとは違い、聖王の命を削ることもなくなっていた。

 ゆりかごにはレリックと呼ばれるロストロギアが新しく組み込まれており、近年発生していたレリックを巡る事件はジェイル・スカリエッティが行なっていたとも判明した。

 

 ヴィヴィオの扱いは、最終的に彼女本人の意思を尊重して、マウクランへと戻されることになった。

 マウクランには彼女の母親的存在がおり、そこへ戻りたがったのだ。

 ヴィヴィオが最終的にどこへ所属するかは、成長した後の彼女に選択させると大筋で決まった。

 ひとまずマウクランで養育し、ある程度成長したのちはミッドチルダの聖王教会系の学校に通わせる。そう方針が固められた。

 

『そういうことになった。まったく、手を(わずら)わせてくれる』

 

 中学の卒業式を終え、少し経った三月の末。今年も開催された海鳴市の花見の席で、ハナコはそんな話を耳に入れていた。

 ハナコが座るのは、Dr.ゼロとナンバーズが集まる敷物。

 そこに、ゼロでもナンバーズでもヴィヴィオでもない新たな人物が三名、顔を見せていた。

 

『ジェイル・スカリエッティの目的は、ゆりかごを正統な後継者に譲り渡すこと』

 

『ゆりかごで地球へ向かったのは、聖王に義姉の故郷を見せるため』

 

『そういうことだ。いいな?』

 

 そんなことを言いながら、セインが用意した弁当を食べる三人。その容姿は、とても目立っていた。

 彼らは、どう見てもロボだった。

 人型のロボット、それが敷物に座って弁当をひたすらに食していた。

 

『しかし、食事というものは、こんなにも素晴らしいものだったか……』

 

 ロボの一体が弁当を食しながら、しみじみとそう言った。

 

 ロボットなのに、食事をする。別に、エネルギー補給のために行なっているわけではない。

 このロボットの名はGTロボ。グルメテレイグジスタンスロボットの略で、人が遠隔操作するためのロボットである。

 その機能として、味覚を搭載している。GTロボで食事を取ることで、離れていながら料理の味を楽しむことができるのだ。

 

「やれやれ、肉体を捨てた後悔を今頃しているのかい?」

 

 GTロボ三体に囲まれて説教を受けていたDr.ゼロが、肩をすくめる。

 

『仕方がないだろう。肉体は寿命だったのだ』

 

「生に執着する気持ちは分かるがね。で、私が開発したGTロボはどうだい?」

 

『飯が美味い』

 

 そんなGTロボとゼロのやりとりを花見に参加している時空管理局の面々が、遠巻きに見守っていた。

 然もあらん、とハナコは内心でつぶやいた。

 このGTロボを遠隔操作している者の正体は、最高評議会。時空管理局を支配する三人の英傑達なのだ。要するに、時空管理局で一番偉い人達である。

 

 その偉い人達は、弁当を食べながら三人仲よさそうに言葉を交わす。

 

『しかし、こうして体を再び持ってみて分かるが……我々には人としての情緒が欠けていたのかもしれん』

 

『機械的に物事を判断することは、よくもあり悪くもある、か』

 

『人として生きなければ、人の痛みが分からない悪にも堕ちるということか』

 

『そうだな。つまり、今の我々に必要なものは……食事だ』

 

『うむ。定期的にこのボディを使って、食事を取らねばなるまい』

 

『ただの食事ではダメだ。マウクランの食事でなければ』

 

『そうだな。分かったな、ドクター』

 

 三人の中で何かが決まったようで、GTロボの一体がゼロに向かって言った。

 

「やれやれ、老人の食事の世話か」

 

『誰が老人か。いや、確かに老人ではあるのだが……』

 

「ボケていないだけ、マシとしておこうか」

 

『そんなに予算を減らされたいのか』

 

「ははは、今やマウクランは独立してやっていけるほど儲けているのだよ。むしろ、管理局に融資をしようか?」

 

『むう……』

 

 そんなやりとりをハナコは横で聞きながら、またマウクランに新しい仲間が増えるのかな、と笑った。

 ちなみに、最近もマウクランに新しい仲間が加わったばかりだ。

 それは、『聖王のゆりかご』。巨大戦艦であり、内部にはAIが搭載されている。そのAIに割と自律した意識があるため、よくヴィヴィオを内部に招いては、マウクランの空を飛びたがっている。

 

 ゆりかごとヴィヴィオを監督するために、聖王教会の者が何名かマウクランに駐在しているのだが、ゆりかごが空を飛ぶたび大騒ぎをしている様子をハナコはよく目撃している。

 曰く、次元世界の国々を軽く滅ぼせる最大級のロストロギアなので、大人しく眠らせたままにしてほしい、だそうだ。

 

 ただ、ゼロとナンバーズ達、特にクアットロは、ゆりかごをヴィヴィオの別荘としか捉えていない節がある。

 

「ヴィヴィちゃん、お弁当美味しい?」

 

「おいしー!」

 

 そのクアットロは、本日も平常運転で母親をやっていた。

 大人の姿から幼児の姿に戻ったヴィヴィオも、今では二歳半ほどまで年齢を重ねた。研究所の外に興味が出てくる時期だ。しかし、マウクランの野外は危険も多いため、クアットロは彼女をゆりかごに散歩へ連れていくか、こうして海鳴市に連れ出すことが増えていた。

 

 何やら、海鳴市のママ友の集まりに忍と雫の親子と共に参加していることもあるようで……ハナコは最近のクアットロのアグレッシブさに感心していた。

『聖王のゆりかご』で遠い宇宙に旅立つという目的がなくなった。そのことで、クアットロのヴィヴィオに対するわだかまりが解消された影響が出ているのだと、ハナコは見ている。

 胸を張ってヴィヴィオの母親を名乗れるようになって、母親としての役目をまっとうしようと燃えているのだろう。ハナコはそう思いながら、仲良く弁当を食べる二人を見守った。

 

「えー、わたくしごとではありますが、このたび、私、エイミィと、クロノ君が婚約することとなりました。ひいては、今年中に結婚式を挙げるため、皆様にはぜひ披露宴に参加していただきたくー」

 

 と、ヴィヴィオ達を見守っていると、少し離れたところでそんなエイミィの大発表が執り行なわれた。

 エイミィとクロノの婚約。前々から二人の仲は噂されていたが、どうやら無事にゴールインしたようだ。

 

 こうなると、なのはとユーノの恋の行方も気になるな、と野次馬精神を発揮したハナコ。なのははゆりかごでナンバーズとの本格戦闘を避け、彼女達の逃走を見逃してくれた。その恩がハナコにはあるが、それはそれ。

 ハナコは敷物から立ち上がり、なのはの居場所を探して周囲をさまよい始めた。

 

「おお、ハナコではないか!」

 

 と、そんなとき、ハナコは別の人物に捕まった。

 幼い頃のはやてによく似た顔。エルトリア猫が人化した存在、ディアーチェだ。

 

「よっす、ディアーチェ。調子はどう?」

 

 ハナコは、ご機嫌なディアーチェと、その隣に座るなのは似のシュテル、フェイト似のレヴィに手を挙げて挨拶をした。

 

「いやー、本当に飯が美味い! 猫だった頃も飯は美味かったが、人の姿で食う人の飯はもっと美味い!」

 

 そんなことを言うディアーチェに同意するのか、シュテルとレヴィも弁当の料理を食べながら、うんうんとうなずいている。

 すっかり餌付けされたな、とハナコは笑いながら、彼女達の近況を尋ねた。

 

「この前はエルトリアに遊びに行った。緑がだいぶ蘇っていたな」

 

「ディアーチェ達は、エルトリアに移住しなくていいの? もともとあっち出身でしょう?」

 

「いやあ、学のない我らでは、研究の役には立てないからな。はやてのもとで、飯を食わせてくれた恩を返すことに専念しようと思う」

 

「そっか。じゃあ、引き続き八神家の一員だね」

 

「うむ。八神ディアーチェである!」

 

 そんなディアーチェ達の元気な様子に満足して、ハナコは再びフラフラと桜並木の下を歩き始めた。

 するとハナコは、なのはがユーノに寄り添っている姿を隅の方で見つけた。

 

「あっ、なのはさんがユーノさんとイチャイチャしてるぅ」

 

 と、からかい始めようとしたところで、ハナコを止める者がいた。

 

「しっ、ハナコちゃん、邪魔しないであげてな」

 

「うん、本当に二人、いい感じだから」

 

 はやてとフェイトに阻止され、ハナコは遠くからなのはの様子を眺めるに留まった。

 

「まったく、わざわざ人の恋路に頭突っ込もうとするとか、ハナコちゃんも野暮天やな。いや、その調子じゃ何も考えていない脳天気やな!」

 

 はやてに突っ込まれて、ハナコは笑う。

 

「いいのいいの。こうしてバカなことができるのも、平和な証拠だよ」

 

 すべて世は事もなし。

 ハナコがかつて美食の神々に願った幸せな日常は、今もこうして続いている。

 

 いつまでも同じ顔ぶれで過ごし続けることはできないかもしれない。出会いと別れを繰り返し、人は変わっていく。

 それでもハナコは歩みを止めることなく、楽しく美味しい日々を送っていくのだ。

 




次回、エピローグです。
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