リーガルマンモスから青い石を摘出した黒服の少女は、高町なのはと少しだけ言葉を交わし、やがて姿を消した。
一方で、ハナコはリーガルマンモスによって破壊された庭園の有り様に、頭を抱えていた。
綺麗だった芝生や生け垣はめちゃくちゃになっており、ハナコが作った畑も見事に潰れた。
これはしばらく庭の手入れが必要だな、と考えたところで、ハナコはようやくなのはに意識を向けた。そして、なのはに向けて言う。
「用事は終わった? 終わったなら、避難したみんなを呼び戻してもらっていい?」
「あ、うん。分かった」
「わたしはあのバラの壁をどうにかしておくよ」
「どうにかできるんだ……」
なのはは、庭園にそそり立つ、バラの木でできた壁を見上げながらつぶやいた。
そして、なのはは杖から小さな光を飛ばし、周囲を探らせ始める。
一方ハナコは、手の先からツタを伸ばして、ウォールローズのバラの花を収穫し始めた。
「ええっ、ハナコちゃん、どうにかするって、壁をどけるとかじゃなくて、お花摘み!?」
「いや、壁の撤去はするよ。ただ、このバラは食用バラだから、枯らすのは花を集めるだけ集めてから」
なのはの突っ込みに、そうではないと答えるハナコ。
ハナコはこのバラの壁を作った際、それなりのカロリーを消費していた。なので、食べられる物は可能な限り回収して自分の糧にすべきと考えていた。
そして、ハナコが収穫を終え、残ったバラの壁を枯らして枯れ枝の山を庭園の一角にこんもりと作ったところで、なのはに先導されて避難していた忍達が戻ってきた。
「……これはまた、撤去が大変そう……」
ウォールローズの枯れ枝の山を見ながら忍が言うが、ハナコは横から「撤去しなくていいよ」と言った。
「これはこれで、緑肥になるから。後で肥料に加工するよ」
「……そう」
「壊れちゃった庭園も、私の方でできるだけ直しておくよ」
「……そこまでしなくてもいいよ?」
「まあ、業者に任せるより、わたしがやった方が早いっぽいから」
そんなやりとりを忍とハナコがしている横で、なのははピンチを迎えていた。
空を飛んだ不思議な力は一体なんなのかと、兄と親友によって尋問が開始されたのだ。
「あれは、魔法で……」
「超能力じゃなくて魔法!? いつからそんなもの使えるようになったのよ!」
「今月に入ってからかなー……」
「最近、夜帰るのが遅かったのと関係あるのか?」
「うん、ジュエルシード集めをしていて……」
「一から、一から説明しなさい!」
恭也とアリサに詰め寄られ、冷や汗を流すなのは。と、そこでなのはの肩に乗っていたフェレットのユーノが、突然言葉を発した。
「そこは、僕から説明させてもらいます」
「……!? ユーノが……」
「喋った!?」
小動物が喋り始め、驚愕に包まれる一同。ただ一人、ハナコだけは「この世界ってあんな小さな動物が人語を話せるんだなぁ」と、のんきに考えていた。
そして、そこから小動物、ユーノが語り始める。
ユーノは、こことは違う次元にある異世界の出身だ。
彼の一族スクライアは考古学を専門とする部族で、古代遺跡の発掘などを生業にしている。
そして最近、ユーノはジュエルシードという二十一個の石を発掘した。これはロストロギアと呼称される危険な古代遺物であり、手にした者の願いを暴走しながら叶える、不安定な代物だった。
ジュエルシードは封印され、ロストロギア専門の保管施設へ輸送されることとなった。
しかし、輸送船の次元移動中に事故が起き、ジュエルシードがここ地球の海鳴市にばら撒かれてしまった。
「ふーむ、異世界か……」
恭也は、ハナコの方をチラリと見ながらつぶやく。
それに反応したユーノが言う。
「次元世界という概念があります。次元を隔てた空間には様々な『世界』があり、それぞれが独立して歴史を重ねています。世界は無数にあり、時空管理局という団体に所属している世界を管理世界、それ以外の文明がある世界を管理外世界、文明が存在しない世界を無人世界と呼んでいます」
「この地球は……」
「管理外世界ですね。第九十七管理外世界と呼ばれています」
「九十七番目……世界はそんなに数があるのか」
ユーノの説明を聞いて、恭也がうなる。
そして、それを聞いていたハナコが、ユーノに尋ねる。
「あのー、わたしがやってきた新グルメ時代の地球はその中にあるのかな?」
「いえ、ハナコさんの場合……この第九十七管理外世界のIFの世界と聞いていますから、次元世界の考え方とは異なる時空に存在すると思います」
「そっかー……」
ハナコは、がっくりと肩を落とした。そんな彼女へ心配そうに寄りそうすずかを横目で見ながら、ユーノは言葉を続ける。
「他に質問はありますか? ないなら続きをお話します」
ジュエルシードの発掘者だったユーノは、事故の責任を感じ、単身海鳴市へとやってきた。
そして、ジュエルシードの一つを封印しようとしたところで、ジュエルシードから発生した思念体に撃退されて大怪我を負ってしまった。
そこでユーノは周囲に念話を発して助けを求めた。管理外世界だが、もしかしたら居るかもしれない野良の魔導師が、助けに来てくれることを願って。
すると、想定外の相手が助けにやってきた。小さな子供。魔導師の高い才能がある素人だった。
それが高町なのは。そんな彼女にユーノは魔法のデバイス、レイジングハートをたくし、思念体を倒してもらってジュエルシードを封印した。
それからなのははユーノに事情を聞き、ジュエルシードを集めて封印する手伝いをすることに決めた。
先日の中心街での樹木事件もジュエルシードの暴走によるもので、なのはは周囲に魔導師となったことを隠しながら、日々ジュエルシードを探して頑張っていた。
「……と、いうわけです」
「なるほど……なのは」
ユーノの話を聞き終え、恭也が言う。
「あ、はい。なんでしょうか……?」
叱られないかとビクビクとしながら、なのはが兄に問い返す。
「よく頑張ったな。人のために何かを頑張れるのは、立派なことだ」
「……うん!」
兄に褒められ、嬉しそうになのはは笑った。
「だが、家族に内緒で危険なことをするのはダメだ。帰ったら説教だな」
「うひぃー」
兄の説教宣言を聞いて、なのはは喜びから一転、父が怒ったときの怖さを思い出し震える。それを聞いていたユーノが、焦ったように言う。
「なのはは悪くないんです! 僕が、僕がなのはに頼ったから……」
すると、アリサが横からユーノに向けて言う。
「そこよね。なんでなのはだったの? 他の子じゃダメだったわけ? わたしとか、魔女っ子に向いていると思わない?」
「残念ながら、あなたには才能がないですね」
「ええーっ!」
バッサリ否定され、ショックを受けるアリサ。
「この中で魔法の才能があるのは、なのはだけです。そもそも、魔法文明がある管理世界でも、魔導師の才能があるのは一握りの人間だけなんです。そして、魔法文明ではないこの地球では、もっと魔導師の才能持ちは少ないはず」
「俺はなのはの兄だが、俺にも才能ってやつはないのか? なのはと代わってやれるならやりたいんだが」
恭也がそう尋ねるが、ユーノは首を横に振る。
「残念ながら……魔法の才能は必ずしも遺伝するとは限らないので」
「そうか……」
あっさり否定され、恭也は落胆で肩を落とした。
そして、話はなのはのジュエルシード探しを認めるかどうかに移る。
「ジュエルシードに秘められた力は膨大です。本格的に暴走すれば、この街が跡形もなく消し飛んでもおかしくありません」
ユーノのその言葉に、一同は苦い顔をする。街の危機。なのはが今後もジュエルシード集めのために、危険に身をさらすことを認めるしかなかった。
「……その、ロストロギアってやつを管理している、団体みたいなのはないの……? 管理外世界だから無理……?」
忍がそう質問をすると、ユーノはあっさりと「ありますよ」と答えた。
「時空管理局という団体は、管理世界と管理外世界に隔てなく、世界が滅びるような次元災害や、次元をまたがる大犯罪の対処をしてくれます。次元世界に散らばったロストロギアの回収も仕事のうちのはずです」
「……それに任せればいいのでは……?」
「でも、ジュエルシードを発掘したのは僕だから、僕がどうにかしなきゃ……」
「……どうにかしているのは、なのはちゃんだよ」
忍のその言葉に、ユーノはハッとなる。表情豊かな小動物だな、とハナコは横から見ていて思った。
「確かに僕のせいで、なのはに負担をかけてばかりだ……。こうなった以上、時空管理局に任せた方がいいのかもしれない……」
「……うん、そう思う……」
忍に説得され、ユーノは時空管理局に通報することを決めた。
だが、ジュエルシードは依然海鳴市に散らばっており、時空管理局が来るまではなのはがジュエルシードの封印を魔法で行なった方がよいと皆で結論を出した。
そういうことで話はまとまり、なのはへの尋問は終わった。そして、会話は真面目な話から雑談混じりになっていく。
「ユーノくんの一族は考古学者なんだよね? フェレットがいっぱい集まっているの、可愛いね」
すずかがそう言うと、ユーノはキョトンとした顔になる。
「ああ、違いますよ。消費した魔力と怪我の回復のために、姿を変えているんです。本来の姿は、皆さんと同じ人型の生物ですよ。同じ人間です」
「ええっ、ユーノくん、人間だったの!?」
なのはが、驚いて叫び声を上げる。
「う、うん、そうだけど? 言ってなかったかな……」
「言ってないよー。……男の子なの?」
「そうだね。ちなみに、なのはと同年代だよ」
「なのは、ユーノくんの前でお着替えとかしてたかも……」
そのなのはの言葉に、兄の恭也がギョッとした顔をする。
「見てない! 見てないよ! 後ろ向いていたから!」
ユーノはそう主張するが、皆にジト目で見られて彼は縮こまった。
最終的に、ユーノはなのはに謝り倒すことで、なんとか許された。
そして、話題はまた移り、先ほどのリーガルマンモスの襲来についてとなった。
「空を飛べるのはすごいな……魔法の才能、後付けでどうにかならんもんか」
恭也が、そんなことをぼやいた。
彼は武術家だが、武道家ではない。実戦剣術の使い手であり、強くなれるなら武の道に反していることでも受け入れる人間だった。
「そういう技術は聞いたことがないですね。正直、専門外ですが……」
ユーノのその言葉を聞いて、恭也は残念そうな表情を浮かべた。
「でも、魔法もすごいけど、ハナコちゃんもすごかったよね」
そんな感想を述べたのは、すずかだ。それを聞いて、皆も確かにとうなずく。
「グルメ細胞のたまものだよ」
ハナコは、誇らしげにそんなことを言った。すると、またもや恭也が反応して問う。
「グルメ細胞か……君が作る野菜を食べていたら、身につくのか?」
「あー、それはまた、難しい話で……わたしの場合は、ちょっと特殊ケースなんだよね」
「詳しく頼む」
バーベキューのときもそうだったが、妙にこの話題に食いつくなこの人……と思いながら、ハナコは解説をした。
人がグルメ細胞を体内に注入してその力を身につけるには、二通りの方法がある。
一つ目は『摂食注入』。グルメ細胞を含む食材を少しずつ食べ続け、適合し馴染むのを待つ方法。
二つ目が『直接注入』。グルメ細胞を直接体内に撃ち込む方法。
それぞれ、二つの方法にはメリットとデメリットが存在する。
『摂食注入』のメリットは、安全に適合できるということ。デメリットは、適合に時間がかかり、しかも必ずしも適合するとは限らず、適合しない場合がほとんどである。
『直接注入』のメリットは、適合までの時間が圧倒的に早いこと。デメリットは、適合しなかった場合、グルメ細胞の力に侵され化け物化したり、最悪の場合死に至る。
そして、ハナコに関しては……。
「わたしは、『直接注入』をもっと強くした感じ。グルメ細胞を注入した卵子と精子から作られた、試験管ベビー……グルメ細胞のデザイナーベビーなんだ」
ハナコの告白に、一同は驚愕に包まれた。デザイナーベビーという単語を知らなかった子供組は、話を完全には理解し切れてはいなかったが。
「生まれたときからグルメ細胞に適合していたから、わたしはあれだけの動きができるんだよ」
「それはまた、なんというか……」
恭也もまさかデザイナーベビーなどという単語が飛び出してくるとは思っておらず、言葉に
「もしかして、違法な研究とかそういう……?」
ハナコの横に立つすずかが、心配そうにハナコの顔をうかがう。
だが、ハナコは苦笑して「ないない」と手を横に振った。
「国際グルメ機関と再生屋協会っていう二つの国際団体で行なわれた、公式プロジェクトだよ。わたし、合法」
「そっかぁ……」
「これでもわたしは、人類全体に望まれて生まれてきたんだから」
ハナコにとって辛い過去なのではと思って、空気を重くしていた一同。しかし、ハナコがあっけらかんとしているので、すっかり毒気を抜かれることになった。
なので、皆も気軽にハナコの世界についての質問をしていき、ハナコは隠すことなく返していく。
魔法についての質問もユーノへと飛び、夕方近くまで皆の会話は続いていった。
無印編を最後まで書き終わったのでA's本編見直し中……。全13話もあるけど話自体は短いですね、A's。