現代社会における影分身の使い所のなさよ 作:ヒモになりたいナマケモノ
ある日俺は自分が転生者であることを自覚した。
前世の俺は社会人として頑張っていたのだが、通勤途中の駅のホームから突き飛ばされて死んでしまった。最後に見た景色は青ざめた顔をしながらも笑っている元同期と唖然としている周りの人々。
彼とは入社以来仲がよく切磋琢磨していたのだが、社内コンペで競合してしまう。その案件は社内でも特に重要なもので、採用された方は出世確実とまで言われていた。互いに本気でぶつかりあった結果、採用されたのは彼の方だった。その時は悔しかったが互いの健闘を称え合う握手を交わし、一緒に飲みに行くなど気まずくなることもなかった。しかし、その後プロジェクトは大きな失敗を起こした。その失敗を彼は解決することができず、プロジェクトから外されてしまった。その尻拭いとして俺が新たにプロジェクトに加入し、方方に頭を下げながら動き回りどうにか騒動を収めた。
その後彼は社内に居場所を無くし窓際部署に転属となり退職。俺はその時のフォローを評価されて昇進を果たした。それから5年、彼とは連絡を取り合うことはなくなり、すっかり疎遠となっていた。妻と子供に逃げられたらしいということは聞いていたが今更話をする気にもならなかった。そしてその彼は俺を見下ろしながら笑っていた。声は聞こえなかったが、おそらく「ざまーみろ」とでも言っていたのだろう。
そして俺は今転生をして小学生になっている。しかもチート付きで。
チートの内容は影分身の術、ご存知NARUTOの術で一二を争う有能忍術である。実体のある分身体を作り出し、分身体が消えた際には経験が還元される術。修行にも偵察にも使えて便利な能力と思いこれを選んだのだが、転生先はまさかの現代日本だった。テレビなどを見る限り平和そのもの。しかも小学生の俺の記憶では名前も生年月日と年齢も家族構成も何も変わっておらず、転生というよりも逆行しただけと言える。こんな平和な現代社会でチート能力の使い道などあるのだろうか?まぁ、切った張ったがないに越したことはないと考えよう。
使い道などほとんど無かった。
特殊な能力などないのが普通な現代で影分身を使うには騒ぎにならないように人目を気にしなければならない。俺は現在小学4年生の10歳。そんな子供が一人で居れる時間などほとんど無いのだ。朝は俺より母が早く起きており、朝食を食べた後すぐさま学校へ行く。学校では同級生や先生などが居るためもちろん能力など使えない。放課後になって家に帰ると当然そこには母がいる。遊びに出かけることはできるが、屋外では人目に付きすぎて能力を使えない。唯一使えるのは夕食後の勉強の時間だけ。しかし自分の部屋から出ることもできないのでできることと言ったら宿題をする係、予習をする係、好き勝手遊ぶ本体に分かれて過ごすだけ。しかも小学生の宿題や勉強など元社会人の俺からしたら簡単すぎてわざわざ分かれてやる必要性も感じない。能力を使いたいがために分担しているだけなのだ。
一応影分身は10体まで出せるのでこれでもまだ持て余している。残りの8体もどうにかして使いたいのだが使い道が思いつかない。
嗚呼、能力と転生先の相性が悪すぎる。
まったく、現代社会における影分身の使い所のなさよ。