現代社会における影分身の使い所のなさよ 作:ヒモになりたいナマケモノ
「漫画、つまり絵か」
「いいんじゃない?絵が上手で困ることないし、前世でも絵がうまくなりたいって思ったことはあったんだから」
「それってイラストの事だろ?しかも好きな作品のファンアートを描きたいってだけ」
「俺らが大人になった時にもイラストレーターとかで食ってる人は居ただろ。それに同人系でも食えるかも」
「そうは言ってもやっぱり食っていけるのはごく一部だよ。技術があっても食って行けないことなんざざらだろう」
「いや、俺たちには未来で大ヒットした漫画の知識がある。これがあれば後は絵の技術だけだろう」
「バカ、同じ分身体ながらバカ。コマ割りまで全部覚えてるのか?セリフも一言一句覚えてるか?何がヒットにつながったのかきちんとわからない以上同じ時期に完璧なトレースをしないとヒットする可能性はかなり低くなるし、俺たちがいるせいで後出しの本家がデビューしなくなるぞ」
「他人なんて極論どうでも……」
「よくないくせに。その場の勢いで喋るのやめな?」
俺がなんとなく言った一言に分身たちが真剣に議論してくれている。
「お前ら良い奴だな。なんてことない発言をこんなに真剣に考えてくれるとか」
「は?また自画自賛?分身とはいえ自分の事なんだから当たり前だろ?」
「それに俺たち上に立つのは向いていないけど誰かの下で動くのが向いてるんだよね。だから本体を上司と置いて動くのが楽なんだよ」
「まぁそんな上に立つことに向いてない人間なのに上役やってもらってる本体には悪いけどね」
そう言って分身たちは俺に向かって笑いかける。確かに我ながら上に立って指示するのが向いていない性格だと自覚しているが、下で働いている俺がこんなに生き生きしているとは思わなかった。
「で?本体、まずは方針を聞きたいな」
「まずは趣味にするか仕事にしたいかだね」
「いや、そんな絵で食っていきたいなんて今は全然考えてなくて、それなりの物が描けたら楽しいだろうなってだけだな」
「じゃあとりあえず趣味ってことね。あとは漫画を描きたいのかイラストを描きたいのかだけど」
「とりあえずイラストでいいんじゃないか?よくわからないけどイラストがある程度描けなきゃ漫画の絵も描けなそうだし」
「じゃあイラスト練習用を何人か作るか」
「え、そんな何人も要る?」
「現状影分身の枠は余ってるんだからいいだろう。余ってる影分身を全部使う感じで」
「そうだな。むしろ本体はなんで一人しかいらないと思ってるの?練習なんて数こなすのが一番だよ」
「いや、そんな本腰を入れてやるなんて考えてなかったからさ……」
「いいんだよ、今は全部に本腰入れても。なんてったって俺たちはまだ10歳だよ?真剣に将来のことを考えるのはもっと先でいいんだ」
「宿題一号の言う通り、前世のことを思い出してみなよ。やりたいことなんて結局見つからなかった。だけどなんだかんだでうまいこと生活できてたんだ。」
「だったら、この絵の練習がうまくいかなくても大丈夫。俺たちはいくらでも挽回できる」
……なんだか分身たちにこんなに慰められると変な気分になってくる。少し情けないけど、とても心強い不思議な気分。絶対の味方がいるってこんなに頼もしいんだな。仲が良かった同期から裏切られたのがショックだったのかもしれない。でも俺には俺たちが付いていると考えると気が楽になった。
「で?考え三号、他に何か案はある?」
「いや、今のところはないかな」
「OK、じゃあとりあえず会議は終了ね。今後は筋トレ本体、宿題一号、予習二号、イラスト三~九号、監視十号で行こうか」
ん?
「筋トレ本体って何?いつそんな話になったっけ?あと監視?」
「だって筋トレは分身体がやっても意味ないだろう?」
「でも筋トレはやってて損になることは絶対ない」
「じゃあどうするか、本体がやるしかないでしょ!」
「監視十号は本体がさぼらないように見張る係」
「俺たちは本体が筋トレなんてさぼりたくてしょうがないって考えてることも分かってるよ」
「「「なんせ俺なんだもん」」」
「それじゃあ早速筋トレ始めようか」
「あ、いや、別に明日からでも……」
「いやいや思い立ったが吉日って言うもんね」
「いつやるか、今でしょ!」
「ネタが古い、いや、今の時間軸からすると新しいのか」
俺が怯んでいると分身体たちがそれぞれ影分身を解除していく。それとともに経験値の共有と本気で俺のことを考えてくれているというのが伝わるからたちが悪い。
俺は思い出した。
この世に自分ほど信じられないものなんてないということを