現代社会における影分身の使い所のなさよ   作:ヒモになりたいナマケモノ

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五話

地獄の階段往復から戻り家でテレビをのんびりと見ていると疲労感とともに掃除組の経験値が流れ込んできた。ワクワクしながら情報を確認したが、こちらの思惑通りにはいかなかった。掃除は問題ない。梁の撤去も床清掃も終了した。あとは使えそうな机代わりの調達だが、近くにある廃材置き場から使えそうなものをかっぱらってくればいい。そんなことよりもがっかりしたのは秘密基地作りの方だ。どうやら分身たちはとても楽しく作業をしていたようだ。男の子はやはりいくつになっても秘密基地が大好きなんだということが良くわかる。しかしそれが俺に伝わらない。確かに経験値は俺に入ってきているし、光景も思い浮かべることができる。だけどそれだけ。面白いと面白かったのだろうは違うのだ。例えるなら超詳細な報告書を受け取った感じだ。内容は分かる、その時の感情も分かる、だけど俺が楽しいわけではない。

軽く絶望した俺は食事を済ませ、再び出した影分身二人に勉強を任せてふて寝した。

 

翌日、登校中に周りに「忘れ物をした」と言い、隠れて秘密基地へ向かう。朝から階段を登って汗だくになってしまったが秘密基地に着いたらそんな事吹き飛んでしまった。パッと見は昨日と何も変わっていないように思えるが、よく見ると全体に広がっていたほこりやコケなどが綺麗に取り除かれていた。手で軽く溝をなぞってみるが、汚れが付くこともない。これなら忌避感を覚えることなく中に入ることができる。

そして何より俺たちだけの秘密基地はやっぱり実際に見るとテンションが上がる!やっぱり経験値共有だけじゃ伝わらないものってあるよね!流石に中に入るのは危険なので外から影分身を使用して10人に対して絵の練習をしているように指示をして、俺は急いで学校へ向かう。なんだかんだで時間がかかってしまって遅刻ギリギリだ。

 

 

「それじゃあそれぞれ絵の練習開始しようか」

「その前に一個聞いていい?机って結局どうする?」

「あ」

「それに絵の練習をするにもペンや紙は?」

「そもそも練習ってどうするの?お手本がないと練習のやりようがないよ」

「どうする?今日は諦めて術解除しちゃう?」

「いや、あんなに頑張ってここまで来たのに成果無しは辛すぎる。心折れるよ」

「じゃあどうする?」

 

 

全力ダッシュのおかげでどうにか朝の会に間に合ったのだが、自分の席について息を整えている最中に影分身のうちの一人が術を解除した感覚がした。誰かにバレかけたのかと思って情報を確認すると頭を抱えた。そういえば筆記用具の類を用意していなかった……それにお手本も。確かに紙とペンだけを渡されても練習なんて難しいか。何か漫画を何冊か買ってあっちに置いておかないとな。

残っている分身9人は人目に付かないように近くの廃材置き場に行って机代わりになるものを探してくるようだ。こんな平日の朝から子供がうろついているのは明らかに怪しいが、万が一見られても術を解除して消えてしまえば気のせいだと思ってもらえるだろうとのことだった。同じ俺のはずなのに影分身のほうがきちんと考えている気がする……

なんとなく敗北感を感じながら授業を聞き流し、放課後に友達から遊ばないかと誘われたが、また今度と断って急いで家に帰る。過去に戻ってから周りと精神年齢が合わないせいかあまり遊ぶ気にならない。周りの男子たちからは付き合いが悪くなったと不評なのだが、女子から落ち着いていて大人っぽいと好評だったりする。どちらにせよ俺からすると同級生なんて犯罪級年下に思えるからあまり興味はないのだが。それに友達作りの本番は中学校からだ。俺には小学生の頃からの友人などほぼおらず、大人になっても付き合いがあったのは大学の友達がほとんどだった。それに今の俺にとっては友達よりも絵の練習のほうが大事だ。

家に一度帰り、お小遣いを握りしめて本屋へ向かい鉛筆やスケッチブックなどの文房具と週刊誌を3冊買って神社へ向かう。境内に入り秘密基地を覗くと分身がビールケースと板を組み合わせた机もどきに集まって何かを見ているようだ。

 

「お待たせ、いろいろ買ってきたぞ。……ん?何見てるの?」

「あ、本体おかえり。廃材置き場でこれを見かけてさ、拾ってきた」

 

そう言って分身が見せてきたのは裸の女性が描かれた雑誌。所謂エロ本だった。

精神年齢は余裕で成人越えしているので問題はないけれど、見た目小学生が群がってエロ本を見ている姿はいけない光景な気がする。いや、ある意味正常か?

 

「何やってんだか。いまさらそんなの見て喜ぶ年でもないだろ?」

「そうは言っても今の時代で俺たちが見たことない漫画って貴重だよ。それに同人誌とか出すならこういう絵柄も勉強だよ」

「はいはい、そーですか。とりあえず本屋で筆記用具と漫画買って来たから使ってくれ」

「お、ありがとう本体!これで練習が始められるよ!みんな集合!」

 

俺の対応をしていた分身が声を掛けると中からわらわらと分身が中から出て来てそれぞれペンなどを受け取っていく。

 

「はいはい、じゃあ後はよろしく頼むよ。それじゃあ俺はまた階段往復してから帰るから」

「言われなくてもやるなんて、やる気いっぱいだね本体」

「まぁな、分身が頑張ってるのに何もやらないのはさすがに罪悪感が……」

「ははは、あまり気にするなよ本体。頑張ってる俺たちも休んでる本体も同じ俺なんだから」

「そうそう、どうせ術を解除したら精神疲労は本体に帰るんだから」

 

そんなことを言って分身に見送られて境内から出て階段往復をしてから家に帰る。

家でのんびりとテレビを見ていると一気に疲労感とともに経験値が流れてくる感じがした。どうやら外が暗くなって練習にならず術を解除したようだ。そしてあまりの疲労度から目を開けているのが難しくなる。朝から数えて10時間近く9人を出し続けたのは初めてで、こんなに疲れるとは思わなかった。思わずテレビの前で眠ってしまい、結局途中起きて夕食だけ食べるとさっさと部屋に戻り眠ってしまった。日中影分身を使い続けるにはもう少し体力が必要なようだ。

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