現代社会における影分身の使い所のなさよ 作:ヒモになりたいナマケモノ
影分身の術の解除によって泥のように眠ってしまった日から一か月後、俺たちの生活ルーティンが決まってきた。
まず早朝4時に一度起きて影分身を行う。総勢十人の影分身たちを窓から外に送り出して秘密基地に送り出す。最初の方はルート取りが甘く、すぐばれそうになり最終的にたどり着けていたのは3人程度だったのだが、最近は安定して8人程度たどり着けるようになってきた。そして秘密基地に着いたら周りが明るくなるまで待機、作業できるような明るさになったら絵の練習を始めている。
その間本体はというと朝影分身たちを送り出してから二度寝をして7時に起床。両親と朝食を食べて登校班に合流して学校へ向かう。学校では授業を聞き流しながらノートや教科書に落書きをする。最初は絵なんてすぐに飽きてしまうのではないかと思っていたのだが、毎日の練習の成果が毎日現れるととんでもなく楽しい。順調に結果が出ることがこんなに楽しいとは思わなかった。そして休み時間や放課後は同級生たちと鬼ごっこやドッヂボール、サッカーで遊んでいる。影分身を使った絵の練習を始めた当初は体力不足で毎日泥のように眠っていたが、体力づくりのために毎日走り回って遊んでいるとどうにか疲労感にも耐えられるようになってきた。それに同級生と遊ぶことで一時下がっていた男子からの評価も上向きになり、今ではトップカーストとまでは行かないもののそこそこの立場で安定している。(この時期はカーストなんてあってないようなものだが)
そして帰宅したらテレビや漫画を見ながら影分身たちが術を解除するのを待つ。術の解除を確認したら自分で一枚絵をかいてみることにしている。毎日の進捗確認だ。前はお手本がなければ模写どころではなかったのだが、最近は何も見ずに絵の再現ができるようになってきた。今日はワンピースの絵を描いてみた。我ながらうまく書けていると思う。影分身たちも模写は上手くいってると判断して、最近はオリジナルの絵を描こうと何人かをその練習に割り振っているようだ。そして絵の確認を終えたらもう一度影分身を発動して勉強の時間だ。一か月もあれば社会人にかかれば今年分の範囲はすべて終わってしまうため、最近は同級生のお兄さんから譲ってもらった来年分の教科書を使って勉強をしている。親には内緒でこっそりと。勉強は頑張るが、あまりそっち方面で目立つようなことはしないつもりだ。下手に成績がいいとどんどん親からの期待が上がり、自由な時間が減ってしまう可能性がある。そして勉強している影分身のそばで本体の俺は筋トレをする。内容は腕立て、プランク、スクワットなど基本的な物ばかり、体力さえついてくれればゴリゴリマッチョになるつもりもないのでこの程度で十分だ。そして勉強と筋トレを終えた俺は分身を残して風呂に向かい、就寝準備を整えてから分身を解除する。分身を解除してしまうと疲労からすぐに寝てしまいそうになるので解除するのは寝る直前と決めている。
そして早朝4時にまた起きて……という繰り返しだ。少なくとも携帯電話を手に入れる2年後まではこの生活を続ける。携帯さえ手に入れば自由度が広がるはずだ。
それにできるだけ未来の出来事を変えないようにしなければならない。絵が商売になるかわからない上に人生がうまいこと進むかなどわからないのだから保険は必要だ。一番わかりやすいのはなんと言ってもビットコインだろう。日本で取引する方法や最初の頃の値段なんかは全く覚えていないが、数年で値段が跳ね上がることは間違いない。その時までに投資方法を考えておけば贅沢をしなければ暮らしていける程度のお金は手に入るかもしれない。もちろん、ビットコインにすべてを突っ込むわけにはいかない。あくまで保険なのだから。
ともかく、この生活を続けていれば絵の腕前はかなりのものになっていくはずだ。本気になって動くのは携帯を手に入れて、ネットにつながれるようになってから。
二年後の両親離婚騒動まで待たなくてはならない。