現代社会における影分身の使い所のなさよ   作:ヒモになりたいナマケモノ

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七話

過去に転生してから約二年が経過し小学校卒業間近の2月となった。相変わらずの生活を続けているので画力も向上し、筋肉も体力もついてきたので毎日問題なく影分身の運用ができている。そんな順調な俺とは裏腹に家庭環境はどんどん綻びを見せている。きっかけは母親の浮気だった。前世でもやっていたのだが、今回もやっていた。相手は最近始めたパート先の店長で、原因は父親が仕事にかまけて母親の相手をしなかったからというのと、俺があまりにも手がかからないため家庭内の居場所が分からなくなったからだそうだ。ちなみに先にも言ったように前世でもやらかしていたので母親は俺がどうであれ浮気していた。

前世との相違点は二つ、今回の離婚騒動に俺が巻き込まれている点と親権を持つことに母親が積極的でないことだ。どうやら今世の俺は聞き分けが良く、成績も優秀で手がかからない、どこか大人びている雰囲気を持っているなどの要素から母親の中で「かわいい息子」というカテゴリから外れてしまったようだ。そしてそんな俺だから今回の顛末を二人から聞かされているらしい。前世では何もわからないまま父親と離れ、母と再婚相手(浮気相手の店長)と暮らすようになっていたのだが、俺の知っている未来とは少しずれが出ている。ちなみに母親とは対照に父親は俺を引き取って父子二人暮らしをしてもかまわないといってくれている。どうやら今世ではどちらかというと父親に愛されているらしい。ちなみにこの離婚、俺は止めようと思えば止めることもできた。しかしそれをしなかったのは単純に俺自身が前世を不幸と思っていなかったからだ。離婚しても母親と父親は俺に変わらぬ愛情を注いでくれたし、再婚相手の店長も頑張って家族になろうとしてくれた。父親も離婚してからうまいことやっていたようだから今世もその流れに乗ろうと思っていたのだが、うまくいかないようだ。

そして現在、親権の行方の最終的な判断を俺は聞かれている。といっても今の俺にはほぼ一択しかない。父親と暮らす道だ。前世と違い母親は俺に対する愛情をほとんど失ってしまっているように見える。このまま母親と暮らそうとしても家の中で立ち位置を失うことは目に見えている。それならば前世とは違うが、父親と暮らしたほうがまっとうに生きていけるだろう。

 

「俺は、父さんと暮らしたい」

「……そう、わかったわ」

「そうか、そうか!これから二人で頑張っていこうな!」

「それじゃあ私はあの人のところへ行くわ。荷物とかはおいおい取りに来るから。二人とも元気でね」

 

そう言って母親は家から出て行った。前世での別れよりもだいぶあっさりとした別れだった。それほど俺たちのことが邪魔だったのだろう。前世では悪くない親子関係を築いていたため、少し寂しい気持ちがあったが俺もすでに一度は自立した身。しばらくすれば慣れるだろう。

 

 

それから一か月がたち、家に母親の痕跡もなくなったころ俺は小学校の卒業式を迎えた。一度経験済みなのもあるが、ほとんどのクラスメイトが持ち上がりで同じ中学に行くためあまりしんみりとした空気にはなっていない。涙しているのは親や教師のみで生徒たちはちょっとしたイベントとしか考えていない。そして俺にとって今日の一大イベントは卒業式ではない。この後父親と出かける買い物だ。

 

 

「ほしい携帯は決まったか?」

「うん、このカメラ付きのやつがいい」

 

今日は何か月も前から約束していた俺用の携帯電話の契約日だ。俺は父親に連れられて近所の携帯ショップに来ていた。俺が目を付けたのはなんてことはないごく普通のカメラ付携帯。絵を外部にアップして評価を得るにはまずはカメラが付いていないと話にならない。

 

「よし、じゃあそれを買うための約束は覚えているか?」

「危ないことをしない、悩んだらまず相談、使いすぎた料金は自己負担」

「よし、母さんならもう少し厳しくルールを作るかもしれないが俺はそこらへんは自分で経験して学ぶものだと考えている。だけど何かトラブルに巻き込まれたら契約はすぐに解除するからな。」

「分かってる」

「よし、まぁお前もお年頃だからな。エロいの見れるようにフィルタリングはかけないでやるよw寛大な父親に感謝しろよw」

「父さん、ゲスいよ」

「はっはははは」

 

そう言って父親は店員を呼び契約を進めてくれた。母親が出て行ってから一月がたち、父子の二人暮らしもどうにか落ち着いてきた。父は俺にさみしい思いをさせないようにと必死に距離を近づけようとしてくれて、今は年の離れた友達のような距離感で過ごしている。俺も俺で家事などを積極的に行い、少しでも父親のためにと過ごしている。母親が出て行ったことで日中の我が家は無人となり、俺も毎日早朝に影分身を秘密基地に送り出すことなく、家で作業させられるようになった。そんな影分身付きの俺にかかれば男二人の家の世話などおちゃのこさいさいだ。母親には悪いが、二人暮らしになってからのほうが家の居心地は段違いに良い。決して嫌いなわけではないのだが、母親と再婚相手がうまくいって我が家に帰ってこないことを願ってしまう。

 

「待たせたな、契約終わったぞ」

「ありがとう、父さん。お礼と言ってはなんだけど今日の晩御飯は父さんのリクエストを聞こうかな」

「おいおい、今日はお前の卒業式だったんだぞ?今日は外食でお前の好きなものをたらふく食べようぜ」

 

俺たちはまだ距離感に馴染めずに互いに気を使ってしまっているところもある。

 

「そお?じゃあお言葉に甘えて、今日はラーメンの気分だなぁ」

「そんなんでいいのかよ、もっと寿司とか焼き肉とか言っていいんだぞ?」

「いいんだよ、今日はラーメンの気分なんだから」

「全く、金のかからない息子で助かるよ」

「中学生で携帯を持つなんて十分わがままだと思うよ」

「おっと、そうだったな。ははははは」

 

だけどすぐに慣れるだろう。なんせ精神年齢は俺とほとんど変わらない。

そして何よりも親子なのだから相性はいいはず。

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