現代社会における影分身の使い所のなさよ   作:ヒモになりたいナマケモノ

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九話

美術部に入学して一月がたち現在は6月。新入生たちも学校に慣れ始めて、最初にあったお客様気分もなくなってきた。そして今日は美術部では部内コンペの結果が発表される。

参加していたのは部員の半数の15人ほど、さらに半数は新入生たちなので2.3年生で参加していたのは8人程度。そんな中で実際にコンクールに出すのはコンペの結果が良かった順に3人だ。

ちなみに俺は選ばれる自信がない。提出したラフがどうにも違和感がぬぐえないのだ。決して手を抜いたわけではない。本気を出して描いたのだが、どうにも全体的なバランスが崩れているように思えてならない。

 

「それじゃあコンペの上位3人を発表します。3年○○さん、3年□□さん、2年××君。以上です。選ばれた子たちはこのまま絵を進めてください。選ばれなかった子、参加しなかった子達は商店街で使われる七夕飾りの依頼が来ているのでそちらに取り掛かりましょう。」

 

やはり選ばれなかった。まぁなんとなく予想していた通りだが、それでも悔しいという気持ちはある。美術部のコンペやコンクールなんて別にどうでもいいという考えは今でも変わらないが、本気で描いた絵の出来が良くないというのは自分に納得がいかない。影分身なんて言うチートを使って絵を練習してきた。言ってしまえば、絵を描いてきた時間で言えば今回選ばれた先輩たちどころか先生にだって匹敵するかもしれない。それなのに絵としての完成度は劣っている。センスか?俺には才能がなかったのか?

 

「あ、それと今回コンペに参加した子たちに提出してもらった作品を返却するからそれぞれ受け取りに来てください」

 

いまだに悔しい気持ちを抱えつつ、先生の言葉にはどうにか反応してのろのろと教卓へ進む。

 

「先生、提出ラフの受け取りに来ました。」

「はいはい、あなたのやつは……これね。今回は残念な結果だったけどまた挑戦してちょうだい」

「……はい」

「ふふ、そんなに悔しかったの?まあアドバイスをするとしたら、あなたが今まで描いてきた絵の量は確かにすごいわ。それはこのラフからなんとなく分かる。だけど描いてきた絵の内容に偏りがあるんじゃないかしら?」

「偏り……漫画がダメってことですか?」

「ううん、そうじゃないわ。漫画だって素晴らしい日本の文化だし、いろいろな要素を持っている。それを参考にしながら練習するのはとてもいいことよ。だけど、今までの練習ではあまり背景の練習はしなかったんじゃない?」

 

「好きなことだけやるのはとても楽しいし、それだけで満足しがちよ。だけど、それだけじゃあ絵は上手くはなれないの。いろいろな要素を習得して初めて全体がレベルアップする。例えるなら……シュートばっかり練習してもサッカーは上手くなれないってところかしら」

 

言われてみれば、確かにこれまで描いてきたのはキャラクターばかりで背景を含めた練習はしなかったかもしれない。参考にしていた週刊誌の漫画も書き込みが多いわけではない。俺は、俺たちはそんな環境の中で知らず知らずのうちに手を抜き、甘えてしまっていた。背景なんて面白くないし他の部分をやろうなんて考えていたのか。

 

「まぁあくまで私の意見よ。こういうのは人から言われなきゃ気づけないものだけど、だからと言って真正面から受け止める必要もない。人の意見を聞き流すことも絵描きには必要だったりするわ。だからあまり気にしないで。」

「いえ、参考になりました。ありがとうございます。」

 

俺はまさに目からうろこが落ちたような気分だった。今まで一人で考えてきたが、他人からの意見がこんなにありがたいだなんて。

そして俺は一つ決心をした。今まで携帯を手に入れてもネットサーフィンをするだけで何かを発信することは無かった。未来とのずれがどこで起きるか分からないからだ。だけど、これからは少しずつだが絵をアップしようと思う。多種多様な人間に見てもらうことで絵を上手くなりたい。

 

思ったよりも俺は絵を描くことにはまっているようだ。

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