正しい才能の使い方   作:鎖佐

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適材適所って国語辞典で調べてこい

適材適所

[てきざいてきしょ]

定義

人の能力・特性などを正しく評価して,ふさわしい地位・仕事につけること

 

どうせ調べないだろうから冒頭に乗っけてやるよ感謝しろ。

いやマジで評価制度が仕事していないのはどういうことだ。私の射撃能力はリコリスの最低点だ。だというのに何故か銃取引現場の制圧任務等に付いて来させられている。

 

いや、なんでやねん。

リコリスの真価は女子高生としての都市迷彩を活かした暗殺だろう。銃を構えて完全警戒状態の犯罪者とドンパチするのは特殊警察の仕事だろ、まあ今時特殊警察なんて失笑物ではあるのだが。

 

更にさらに悪いことは続く。私からみて雲の上の人であるセカンドの方が不運にも人質として捕らえられているではないか。最悪極まる。辛うじて幸いと思えるのは向かい側のビルから反射光が見えたこと。どうやらスナイパーがこちらを補足しているらしい。私たちがまだ殺されていないということは味方だろうし、敵をまだ殺していないのは生かして捕えたいとほざく…仰る司令部の判断か。

最悪セカンドの方に拳銃を突きつける男を射殺してくれれば残りの雑魚を片付ける事くらいこちらに残っている方々なら余裕だ。私はこの距離、マンシルエットに当たればいいなレベルなので飾りにしかならないが。

 

結論、どうとでもなる。目の前のクズ共の選択肢は生かされて情報源になるか、やむを得ないと判断され殺されるかのどちらかだ。いや、本当に何で私ここにいるんだ。私の仕事はとっくに終わっているだろうに。そう思っていた。

 

 

「私達でやれます‼射撃許可を下さい‼」

 

分り切った結末に、砂嵐が噛む。

 

「司令部‼司令部‼」

 

「こんなにやりやがって…‼10秒だ‼そこから出てこい‼コイツぶっ殺すぞ‼」

 

 

電波妨害。この状況で、このタイミングで。どうなる。ファーストリコリス様は結局待機命令を受けたままだ。スナイパーとの連携も取れない。飛び出すのはリスクしかない。要求を受けるのは確実に死ぬ。私に指揮権は無い。

 

天秤は常に揺れる。今拳銃を突きつけられているセカンド様は殺気立つ犯罪者に警戒されずに接近し、暗殺を決める優等生だ。私のようなごく潰しとは違う。

そしてなにより、プランが出来た。可能性は十分ある。リカバリーも効く。

 

 

 

よし、死んで来い私

 

 

 

 

 

 

 

「10‼9‼」

 

「そんな大きな声出さなくても聞こえてるよ。うるさいな」

 

両手を上げて立ち上がる。指に掛けた鞄を目の前で捨てて見せる

人間は第一印象に縛られる。170cm後半の長身を見れば何となく偉そうに見えてるのだ。そして私はこの場で唯一の白リコリス。紺と比べてこの場限りでは私の方がレアなのだ。そして赤リコリス様はまだ一度も姿を捉えられていない。流石すぎる。

 

「おい、他の奴はどうした。早く出てこい」

 

「出さない。人質交換だ。その子は今回が初任務でね。今回も、まだ誰も殺してはいない。あんたらとしても初任務のルーキーよりチームリーダーの方が人質の価値が高いと分かるだろう」

 

「てめえ、状況が分かってねえのか?お前ら全員ぶっ殺すっつってんだよ‼」

 

「それでは交渉も何もない。一度冷静になりたまえ。武器商人の癖に商売道具を使ってテンション上がってるのかな?」

 

私を止めようと伸ばされる手はステップで躱し、両手を上げたまま割れた窓を飛び越える。二人が私に標準を合わせた。

 

「私はリーダー。責任者だ。この事態への責任がある。その子を解放しろ。10秒以内だ。さもなくば残りのリコリスが私ごと、そして彼女ごとお前たちを射殺する。人質を解放する意思が無いんだ。仕方のない犠牲だ」

 

勿論、そんなことはしないだろう。もしかしたら私ごと撃つくらいならやるかもしれないが、人質になってしまった子はファーストリコリス様の正式パートナーの一人だ。

 

「因みに、私は優しくないのでカウントなんてしないぞ」

 

「…っち‼おいお前、体調べてこい」

 

「了解」

 

私に銃を向けて近づく男はかなり顔色が悪くなってきていた。室内での銃撃戦は音が響く上、周囲の血の匂いはやはり気分を損ねる物だから、当然と言えば当然だが、こんなことをする人間にしては根性がない。

 

「異常ありません」

 

「よし、ならいいだろう。目を閉じて手の平を当てろ。少しでも周囲の状況を確認しようとしたらオマエもこいつ等も片端から殺す。いいな」

 

「目を閉じるのはその子が私の後ろに立ってからだ。お前の銃口が私に向いたら目を閉じてやる」

 

「口の減らねえガキだ」

 

リーダーと思しき男は銃口を突きつけているセカンドリコリス様に視線を向ける。

 

「おい、立て。目を閉じて真っすぐ歩け。コイツが一歩歩くごとにお前も一歩近づいてこい。すれ違ったらお前は目を閉じろ、少しでも遅ければ後ろの女が窓枠を超える前に鉛玉をぶち込んでやる」

 

「ああ、それでいい」

 

偉そうな態度は変えない。相手に自分の命が薄氷の上にある事を自覚させ続けなくてはならない。セカンドリコリス様が目を閉じた状態でガラスやコンクリート片、薬莢の散乱した地面を歩く。どうしても摺り足になり、遅い。いざとなったら彼女を押し倒して覆いかぶされば数発程度は防げるだろう。その数発が防げれば、後は他のリコリス様方がどうにかする。

一歩近づくたびにシュミレートを修正する。周囲の男の様子を観察する。リーダーの視線を警戒する。あと、4歩。3歩。2歩。………0。

 

ドサリと、数名の男が床に倒れた。

 

「は?」

 

突如倒れた男達にリーダーは視線逸らす。最後の好機。

判断は早く。私は振り向き様に少女を押し倒す。射線が空いたら待っているのは…機銃掃射だ。

 

 

 

重機がアスファルトを掘削するかのように、ガトリングガンが窓、壁、支柱、そして男共を削り飛ばし、抉り飛ばし、吹き飛ばす。

一人のセカンドリコリス様が敵の使用していたPKMのリロードをしているのを見ていた。確かに男共は立っていて、人質はしゃがんでいる。誤射の確立は低い(・・)だろう。だが、もし避けられたら?同じように地面に伏せれば避けられるのだ。最後の置き土産に人質を射殺するリスクがある以上、この作戦を取るほか無かった。前後不覚になる大音量の最中、地面に伏せるマンシルエットに当てられるのなら当ててみろ。

 

 

 

 

 

 

 

いや、当ててみろとは思ったがやっていいとは言ってない。視線の先には最初に倒れた男が死相すら浮かぶ顔でアサルトライフルをこちらに向けていた。ろくな銃身制御も出来ないまま、適当に乱射する気なのだろう。だが、私も人質だったセカンドリコリス様も丸腰だ。最早予定通り私が盾になるほか無いだろう。無意識に体を密着させ、彼女だけは死なない事を願う。

 

そうして放たれた弾丸は、一発だけ、私の肩を貫いて抜けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

「転属命令、ですか」

 

DA内部の病棟で入院中である私の下に現れたのは、恐れ多くも楠総司令だった。

 

「先の貴様の独断専行は目に余る。チームリーダーに無断での捨て身の人質交換。確かに我々リコリスはファースト、セカンド、サードと評価別に分かれているが、だからと言ってセカンドの為にサードが死ななければならないわけではない」

 

「ですが、どちらかと言うとサード(さんばんめ)よりセカンド(にばんめ)の方が大事なんですよね。セカンド(にばんめ)なんですから」

 

「貴様は射撃を含める戦闘行動が壊滅的なだけで、実績は悪くない。セカンドになる可能性もあった」

 

「まあ。私がセカンド。どの辺がどう評価されればそうなるんです。私なんて唯の詐欺師か暗殺者でしょうに」

 

 

今回の銃取引は現場を押さえ、武器商人と取引相手の制圧と銃器千丁の確保が目的だった。当然リコリスはここに御用だ御用だと突っ込む訳では無い。

あらかじめ情報網に引っかかった武器商人の下っ端数名に遅効性の毒薬を盛り、取引開始時点から体調不良、最終的に昏倒、そして動揺している隙に制圧が今回の作戦だった。私の本来の任務はこの毒を調合し、摂取させること。私服姿で街中アンケートなんかをかまして体格体重を量り、取引開始の前夜あたりから摂取させ正確に取引時刻に合わせて発症するように調整していたのだ。だというのにすでに銃器は無い。取引相手も居ない。武器商人はこちらを補足している。という最悪のイレギュラーが起こっていたのだ。

 

「わたしがターゲットとの接触中にしくじったとは考えないのですか?」

 

「その時の貴様に疑われる要素は皆無だったのは確信している。なにより貴様アンケートをした相手に身体検査をされてバレていないではないか。その線は無い」

 

「…なるほど」

 

どうやら、もしもその線があった場合。全責任は私にあったらしい。

リコリスのスタンドプレーにより情報源が無くなったと、リコリスのミスにより情報が漏洩したでは全く違う。それこそ後者は左遷では済まないだろう。つまり、楠総司令は私を庇ってくれたわけだ。

 

「ご温情に感謝しておきます。楠総司令」

 

「心にもないことを」

 

「DAらしいでしょう?」

 

「ふん、皮肉屋め。それでは一生彼女は出来ないぞ」

 

嘲るような視線を向けて颯爽と退室する楠総司令様を呆然と見送る。

どうやら世の中には存在するべきでないのにいつまでたっても消えない人種がある。そう、屑という人種だ。

 

「死ねばいいのに」

 

人がどんな気持ちでこの女子校?に在籍していると思ってるんだ。

こちとら真正のビアンなんだぞ。

 

 

 

 

まあこうして、射撃能力をほぼ捨てたサードリコリスである私、小鳥遊スバルは左遷を受けた。

 


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