青春とは――
アオハルとは――
勉強ですか?スポーツですか?それとも、友情?
――えっ、恋愛ですか?
なるほどです。
思春期の多感な時期――若い男女が味わった経験
――まさに、青い春ですね。
試験勉強に打ち込む、スポーツで汗を流す、友達と交際を深める。
若い頃の経験は、何ものにも代え難い宝物となるでしょう。
でも――こうも思うんです。
若い頃に経験しなかったからこそ――
その想いは強くなる――そうは思いませんか?
ピンポンパーン―――
『新入生の皆さんは――お昼休み終了後――講堂に集合してください――繰り返します―――』
――ピーンポーンパーンポーン
昼食時の喧騒を切り裂いた校内放送が終わると、学生でごった返す食堂は、何事も無かったかのように活気を取り戻す。
ぽつりぽつりと独り飯をしているのは一年次生。慌ただしく食堂を出ていくのは二年次生。グループで談笑したり、参考書を広げていたりと、各々のペースで過ごすのは三年次生。
新年度が始まって間もない学校は、いまだイベント事の雰囲気が強い。受験を控えた三年次生であっても浮かれた様子の者が大半だろう。
「………はぁ。」
そんな僕は絶賛独り飯中の一年次生。入学して間もないピカピカの新入生とは思えないため息をついているのにはもちろん理由がある。
部活動紹介――正にこの後講堂で行われる行事が、僕の心に重くのし掛かっている。
学食のランチメニューにしては豪勢なハンバーグ定食を食べながらも、残念ながらテンションは一向に上がらない。
「陰キャにはつらすぎでしょ……」
入学初日、新入生歓迎と銘打った部活勧誘の洗礼を受けた時点で、僕が入るべき世界ではないと感じてしまった。
優しそうな先輩の話に乗せられるまま、ホイホイ後を着いていってしまえばジ・エンド。歓迎とは名ばかりの新入生ハンティングである。
先輩方が勧誘に必死になるのも勿論意味があってのことだ。部活動に在籍することが義務付けられているこの学校では、在籍人数によって一定の予算が割り当てられる。
目立った活躍ができない部でも、人数さえ集めればそれなりの予算がもらえるのだから勧誘合戦が熾烈を極めるのも無理はない。
「……巻き込まれる方はたまったもんじゃないけどね。」
『――続きまして――部、よろしくお願いします。』
「………はぁ。」
講堂では続々と部活動紹介が行われている――その音だけを背中に感じながら、またしても口からため息が漏れる。
既に所属先を決めている生徒に配慮してか、単に部活動紹介の時間が長すぎるせいか、ある程度自由に出入りすることが認められていたのは幸いだった。
「……期限は一週間か。」
講堂の入り口で配られた入部届けを見つめながら、人気のない校舎の裏手へと足を向ける。
自然とそちらに足が向いたのか、無意識に何か気になることがあったのか、正直なところよくわからない。
いまだ慣れない学校の敷地内、行ったことの無い場所へ行ってみようという好奇心があったのかもしれない。
「……おぉ、こんな風になってるのか。」
校舎の脇を抜けて裏手に回ると、園芸部の区画なのであろう花壇や菜園らしき一角が僕を出迎えた。
「ただ人を集めてるだけじゃなく、活動も本格的なのかな……。」
実のところ園芸部なら陰キャの僕でも馴染めそうかもしれないと思っていたりしたのだが、残念ながらアテが外れたようだった。
素人目に見ても手入れの行き届いた花壇や、植える位置まで配慮されているであろう菜園。そして、その奥には立派な温室まで備えている。
――♪―♪――♪―♪――♪―――
―♪―――♪――♪――♪――♪―
ふらふらと温室の方へ近付いていくと、微かなメロディが耳に触れる。
――♪―♪――♪―♪――♪―――
―♪―――♪――♪――♪――♪―
どこか懐かしいその旋律に誘われるまま、温室のさらに裏手へと――
「――♪――♪―……あら?」
時が凍りつく――
「……あ……えっと……あの……」
交差する視線に強張る身体、何か弁明をしようと声をあげても、困惑する頭ではうまく言葉を構築できない。
「……えっと……あの……ええっと……」
薄く開かれた瞼から鋭い眼光が突き刺さり、剣呑な雰囲気に心臓が跳ね回る。
思考は空回り、背中から嫌な汗が吹き出す。そもそも他人と関わること自体あまり得意ではないというのに――
「……フフフッ……すみません。怖がらせてしまいましたね。」
突如空気が弛緩する――ほんの数瞬前まで僕を貫いていた視線が途端に柔らかいものへと変わる。
「……えっ……あ、いえ……」
安堵とともに拡がる視界には、ぽつりと佇む一人の女生徒――首を傾げて僕の様子を伺う姿からは、先ほどまでの威圧的な印象は微塵も感じられない。
「んー?貴方は新入生……ですよね?」
彼女の視線が僕の右手――入部届に注がれる。
「どうしてこんなところに?園芸部に入りたいのでしょうか。」
彼女の視線が再度、僕の視線と交差する。
「……あらあら、ちょっとやりすぎてしまったでしょうか。」
彼女の言葉は僕の脳へ辿り着くことなく、右から左へとすり抜けていた。
「うーん……困りましたね。」
小柄な体躯、不釣り合いなほどに盛り上がる制服の胸元、ころころと変わる愛らしい表情――
「どうしましょう……」
その存在を認識した瞬間から、僕の脳髄は彼女に支配されてしまったのだと思う。
「……………あっ、えっと……その……」
校舎裏――
「……フフッ……やっと反応してくれましたね。えーっと……」
温室の奥の小さな小さな空間で――
「……ん~……爽やかくん、とお呼びしましょうか。」
僕――爽やかくんと彼女――
「初めまして、爽やかくん。都みゆりと申します。よろしくお願いしますね。」
みゆりさんとの関係は、その幕を開けた。