天使は地球で遊びたい 〜地球に来たけど帰れなくなった〜 作:ぽん
切り替わった視界の先には小さな池が広がっており、その中にある金色に輝く建物の2階のバルコニーのような所に私たちはいた。池の周りにはアーティファクトをこちらに向けている人がいることから、この世界が地球だということが分かる。上を見ると雲一つない青空が広がっており、下を見ると燃え盛る炎と煙が広がっていた。
「この建物の1階部分が燃えているようですね」
ルナは他人事のように呟く。
「それくらい見たら分かるよ! そんなことより、これって私たちが犯人って思われたりしないよね?」
「私とノア様がこの世界に来たタイミングとほとんど同じ時に火災が発生したので、犯人と思われる可能性が高いかと」
やっぱりそうなるよね、と私は大きな溜息をつく。
「地球に来て早々、逃亡生活とか私嫌だよ?」
「でしたら、諦めて冤罪で捕まってみるというのはどうでしょう?」
「それはもっと嫌だ」
そんな話をしているうちに、炎は2階にまで広がって来ていた。道理でさっきより熱いわけだ。
「とりあえず、ここから離れようとは思うんだけど、消火くらいはしておいた方がいいよね」
私たちのせいじゃないけど、放置しておくのもなんとなく寝覚めが悪い。
「でしたら、消火の方は私に任せてください」
「それじゃあ私は転移の準備だけしておくね」
私は『転移魔法』を使うための魔法陣を構築しながら、池の水をまるで意志を持った生き物かのように操り、燃え広がる炎を消していくルナを眺める。確かに水は他の物質より魔力を通しやすいけど、ここまで上手く操るとなるとかなりの技術が必要になってくる。
「これだけの水があれば、固有魔法を使うまでもありませんね」
「それはルナの魔力操作が異常だからだよ!」
「私からすれば余所見をしながら、魔法陣を構築しているノア様の方が異常だと思いますよ」
「そう? でも『転移魔法』の魔法陣って簡単だよ?」
「そうですね」
池の水を元に戻しながら、ルナは呆れたように言う。
さっきまで燃え盛っていたはずの炎は、いつの間にか見えなくなっていた。
「ノア様、転移の準備はまだでしょうか?」
「もうとっくにできてるよ! ルナこそ、準備できてるの?」
「私はいつでも大丈夫ですよ」
「それじゃあ、移動するとしますか。『転移魔法』」
『次元魔法』を使った時と同じように、魔法陣から溢れ出た光に全身が包まれたかと思ったら、次の瞬間には視界が切り替わっていた。『次元魔法』も『転移魔法』も場所を移動するという点では同じなので、仕方ないことだ。
「ノア様、ここはどこの森林でしょうか?」
ルナはキョロキョロと物珍しそうに辺りを見回している。
「私に聞かれても……」
「転移先を指定したのはノア様ではないのですか?」
「確かに私が指定したけど、人目に付かない場所としか指定してないから、どこって言われても分からないよ? 分かるとすれば、さっきまでいた場所から20キロ前後離れているどこかの山の中ってことくらいかな」
その理由は『転移魔法』には魔法陣を中心とした半径100キロ以内にしか転移できないという制限があり、消費魔力は転移距離に比例するので、大体の距離は分かる。
「そうですか。ところでノア様、これからの当てはあるのでしょうか? まさか、準備も何もしていないのに、天界を出て行くと、言っておられたわけではないですよね?」
「当て? 当てなんてあるわけないじゃん。私、地球に来るのこれが初めてなんだよ?」
どうしてルナは、そんな分かりきったことを聞いてくるのか、私にはよく分からない。
「ノア様に計画性というものを期待していた自分が愚かだったということが今回でよく分かりました」
まるで世界の理でも悟ったかのような表情を浮かべるルナ。
その顔を見て、私も自分が何かやらかしたのだということを悟った。
「ということはどうせ、この世界の言語や常識といった知識も皆無ですよね?」
「はい、ルナさんの仰る通りで……」
私は地面に正座して、メイドであるルナにへりくだる。
「それではお聞きしますよ、ノア様。知識も当ても何もない状況で、どのように生活していく予定だったのですか?」
「魔法とかで、何とかできるかな、って……」
私は言葉を詰まらせる。
「本当にそう思っているのですね?」
「思ってない、です……」
そうは言ったが、今のは半ば強制的だったと思う。けど、思ってもそんなこと口にはしない。
「でしたら、ノア様。一度天界に戻りますよ。拷も、いえ。説教はそれからです」
「ちょっと待って待って! 今、拷問って言おうとしたよね?」
「いえいえ、きっと空耳ですよ。私が心の底から敬愛するノア様にそんなこと言うわけないじゃないですか」
「だとしたら、ルナの心の底は靴底くらいの深さしかないと思うよ……」
ルナはきっと深さ15ミリ程度の心の持ち主なんだろう。
「って、そんなことはどうでもいいんだけど、もしかしてルナ、気づいてないの?」
「気づいてないとは何のことでしょう?」
ルナは首を傾げる。
「この世界、魔力が無いみたいだから、『次元魔法』使えないと思うよ?」