天使は地球で遊びたい 〜地球に来たけど帰れなくなった〜 作:ぽん
私がこの世界に魔力が無いことに気づいたのはついさっきのことだった。魔法というのは本来、場にある魔力を優先的に使い、足りない分を自身の保有する魔力で補って発動するんだけど、さっき使った『転移魔法』は場にある魔力を一切使用していなかった。
偶然この場所だけ魔力が無かったという可能性もないとは言い切れないけど、基本的に魔力は世界のどの場所でも均一に保たれるようになっているから、その可能性はかなり低い。
「分かった? ルナ」
ルナは私を無視し、慣れた手つきで魔法陣を構築していく。
「『次元魔法』」
魔法陣から光が溢れ出し――そして、魔法陣は
「だから、何回やっても一緒だって」
「でも、ノア様は『転移魔法』使えてましたよね? だったら、私にだってできるはずです」
「何がだったらなのかはよく分からないけど、私が『転移魔法』を使えたのは単純に『転移魔法』の魔力消費量が少ないからだよ」
『転移魔法』と『次元魔法』では消費魔力が倍以上違ってくる。
ルナの魔力が最大まであれば、1回は使えるけど、この世界に来る時に1回使ってるから、ルナの魔力は半分程度しか残っていない。
「ということは、本当に戻れないのですね」
「だから、そうだって最初から言ってるじゃん!」
「天界に戻って拷問されるのが嫌で、嘘をついているのだと思っていました」
ルナは私をなんだと思ってるんだ?
「そんな嘘つかないよ! ていうかやっぱり拷問はされるんだ……」
「いえいえ、空耳ですよ」
「ルナ、空耳って言ったら何言ってもいいと思ってない?」
私はルナの目をじっと見つめるが、ルナは直ぐに目を逸らした。
「そんなことより、ノア様。これからどうするか考えましょう」
ルナは平静を装いながら言う。
「もう少し上手い話の逸らし方できないの?」
「なんのことでしょう?」
口調は落ち着いているけど、未だに私と目を合わせようとしないので、とぼけていることがバレバレだ。
「まあ別いいよ、それで」
だけど、私は海のような広い心を持っているので、話を逸らされてあげることにした。
それから、数時間程話し合った結果、まずは翼を消そうということになった。理由は単純で目立つからだ。あの趣味の悪そうな金色の建物に火を付けたという冤罪をかけられている可能性があるから、極力目立つのは避けたい。
この世界には翼が生えている人は私が『透視魔法』で見た限り1人もいなかった。翼を付けている人はたまにいたけど、周りから白い目で見られている人がほとんどで、白い目で見られていない人でも目立っていたのは確かだ。
それに、この世界だと翼の使い道が全くない。天界だと場にある魔力を吸収して、魔力を回復できるけど、この世界には吸収できる魔力が無いので出している意味が無い。他にも魔力を使って飛んだりもできるけど、貴重な魔力を無駄にはできないので、それも無しだ。
次に服装。私は白を基調とした露出度の低いドレスのような服で、ルナはロングスカートのメイド服だ。天界だと普通だけど、この世界だと翼と同じように目立ってしまう。
けどその問題は、私が寝る時に着る用に持ってきていた服に着替えるというので何とかなった。天界での寝る時用の服とこの世界の服装が似ていたのが不幸中の幸いだ。
そして、髪の色。ルナの薄水色の髪も、私の白色の髪もどうしたって目立つ。目立つけど、こればっかりはどうしようもない。全部切り落としたらいいかもしれないけど、それはそれで目立つと思うし、髪が無いのは格好悪いので絶対に嫌。フード付きの服とか、髪まで隠せるローブとかがあれば、それが一番良かったのだろうけど、もちろんそんな物は持っていない。
最後に言語。これが一番の問題だ――私はそう思っていたのだけど、どうやらルナは違うらしい。
「この世界の言語は任せてください。一日で私が何とかしてみせます」
自信ありげな表情でルナがそう言ってきたので、私はルナに任せることにした。というか、私にはどうすることもできないので、ルナに任せるしか選択肢がない。
「ということでノア様。私を『転移魔法』で人が多い場所に送ってください。できれば、人目に付かない場所でお願いします」
「人目に付かない、人が多い場所って矛盾してない?」
「一見矛盾しているようにも思えますが、大都市の建物と建物の間とかでしたら、その条件に当てはまると思いますよ」
ルナがそう言うので、試しにその条件で場所を指定してみたら、かなりの場所が見つかった。
「結構あるけど、どうする?」
「でしたら、先程いた趣味の悪そうな金色の建物から近すぎず、遠すぎない距離でお願いします。その方が情報収集が捗ると思うので」
「分かったけど、私は行かなくていいの? 私がいなかったら、帰りは転移できないよ? ていうかこの場所分かるの?」
『転移魔法』は他人だけを転移させるということはできるけど、それは魔法陣の範囲にいる人限定で、遠くにいる人を自分のところに呼び出したりとかはできない。それができるなら、もうそれは『転移魔法』ではなく、『召喚魔法』だ。
「ノア様は来なくて大丈夫ですよ。ノア様はいても足手ま――足手まといになるだけなので」
「もう言い直しすらしないんだ……」
ここまできたら、もはや逆に清々しい。
「帰りは自分でどうにかするので、ご心配なく。場所は分かりませんが魔力感知でノア様の位置は大体分かるので、問題ありません」
淡々とした口調でルナは続ける。
「それではノア様、『転移魔法』をお願いします」
「はいはい、分かったよ」
私は雑な返事をして魔法陣の構築を始め、10秒程で魔法陣が完成する。
「ノア様の魔法陣の構築速度はやはり異常ですね」
「そういう無駄口はいいから、さっさといくよ」
ルナは無言で頷く。心の準備はできてるようだ。
「『転移魔法』」
光に包まれ、ルナの姿は一瞬にして消えた。
目立ったりしないといいけど、ルナのことだしその心配は要らないはず。
「それはそうと、私はこれからどうしよう?」