天使は地球で遊びたい 〜地球に来たけど帰れなくなった〜 作:ぽん
どこかも分からない山の中で一人残された私は、近くに生えている大木の根元にもたれかかってくつろいでいた。
こういう時は辺りを散策したりするべきなのだろうけど、魔力をあまり使いたくないこの状況で、面倒毎に巻き込まれたくはないので、ルナが帰ってくるまではここにいるつもりだ。いつ帰ってくるのかは知らないけど。
そんなことを考えながら、ルナの帰りを待っているうちに、私は深い眠りに落ちていた。きっと山のマイナスイオンのせいだろう。
そして、気がついた時には私は両手足を縛られ、目と口を塞がれた状態だった。何がどうしたらこうなるの? 全然理解が追いつかない。
けど、とりあえず、辺りの状況は把握した方がいいだろう。そう思った私は魔力で聴力を強化した。翼を魔力で強化して飛ぶのと同じように、魔力を使えば五感や身体能力といったものを強化することだって可能だ。
強化した聴力で周辺の様子を探ると、私は移動している乗り物の中にいるということが分かった。これは人が移動手段として使用しているものだ。『透視魔法』を使っている時によく見かけていたので、それくらいは知っている。
乗り物には、私以外に4つの呼吸音が聞こえ、そのうち3つが男、1つが女だった。男たちは心拍数は高いが呼吸は落ち着いていて、女は呼吸が荒く、じたばたしている。様子から見て、私と同様に両手足を縛られ、目と口を塞がれているのだろう。
状況から察するに、私と女はこの男たちに誘拐されている最中ということが分かった。身代金目的の誘拐というのが一番ありそうではあるが、それだと私が誘拐されている理由がよく分からない。私も一応貴族だけど、それは天界での話であって、この世界ではただの一般人――いや、一般人ですらない何かだ。
そんなことはいいとして、差し当ってはこの状況をどうにかしないといけない。逃げるだけなら簡単だ。けど、目立たずに逃げるとなれば話は変わってくる。さらに女も助けるとなると、難易度は跳ね上がる。
誘拐ということは、目的地は必然的に人目に付かない場所になるため、逃げるタイミングは移動している今より、目的地に到着してからの方がいい。人に見られて困るのはお互い様というわけだ。
しばらくして、乗り物がどこかに停まった。目的地に着いたのだろう。そのタイミングと同時に私は魔力で身体能力を強化する。そして、両手足を縛っているロープを引き千切る。これで私は自由だ。目と口を塞いでいるものも取っていざ開戦。
とりあえず、狭くて動きにくいので、私は女を抱えて乗り物から降りる。辺りを見回すと巨大な倉庫のような建物があり、その近辺には私を誘拐した男たちの他に、数十人の男が私たちを囲むように立っていた。全員顔を隠していて、手にはナイフを持っている。
「どうやってロープを解いたか知らねぇが大人しくしろよ、クソガキ! まさかこの人数相手に逃げれると思ってんのか?」
一人の男が何かを言ってくるが何を言っているのか全然分からない。天界でよくあるパターンだと大人しくしないと殺すぞ! とかが多いけど、この世界だとどうなんだろう?
そんなことを思いながら、私は男を無視して女の両手足を縛っているロープを解き、目と口を塞いでいるものも取る。
「無視するとはいい度胸だなァ?」
さっき私に何かを言ってきた男はそう言って私の腹を刺してきた。身代金目的だったら殺してはいけないから、心臓は避けたのだろう。
だけど、刺したはずのナイフは刺さっておらず、刃先がぐにゃりと曲がったナイフに目を白黒させている。魔力で強化したナイフならまだしも、普通のナイフなんて身体強化した状態の私に刺さるわけが無い。私を誘拐したのが運の尽きだ。
私は男たちがパニクって女を刺したりする前に下級雷魔法を発動する。
下級雷魔法――雷の矢を生み出し、放つ魔法だ。威力は弱いが人に当たれば気絶するくらいの威力はある。下級魔法は固有魔法と違い、消費魔力が少なく、魔法陣を必要としない魔法だ。翼で飛ぶのと同様に魔力操作の技術さえあれば誰でも使うことができる。
私は雷の矢を男たちと同じ数だけ生み出して放つ。放たれた矢は1本1本が意志を持っているかのように飛んでいき、男たちの首を次々と貫いていく。
雷の矢に貫かれ、白目を向いて気絶していく男たちを見ながら、私は逃げるための『転移魔法』を構築していく。
「それって、魔法? だよねっ? さっきのも……」
隣で女が目を輝かせながら何か言っている。けど、ごめん。やっぱり全然分からない。
私は首を傾げて分からないアピールをすると、今度はさっきよりも早口で何か言ってくる。だから、分からないってさっきから言ってるじゃん! いや、言ってないけど!
あーもう、なんかめんどくさくなってきちゃったな。魔法陣も完成したし、さっさと転移で逃げるとしよう。場所をさっきの山に指定して――あれ? できない?
どうしてだろう、決定権がなぜかこの女になっている。そして、既に場所が指定されている。
「もうどこでもいいや……『転移魔法』」
なんかあってもルナが何とかしてくれるだろうと考えた私は、どこかも分からない場所に知らない女と転移した。