オーバーロード 大森林の墓守   作:紺の狐

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 トブの大森林のある存在と同じ場所に転移したらというifストーリーです。それ以外の設定は基本的に原作と同じです。
 書籍とは違った展開にしていきたいです。


01. 異変

 大陸の北西の端に位置する大山脈――アゼルリシア山脈。

 その南端を包み込むように位置する原生林――トブの大森林。

 

 人間の大国に囲まれながら、この森の深部に足を踏み入れた人類は少ない。それはここが人外の領域だからである。

 東西に存在するバハルス帝国とリ・エスティ―ゼ王国が互いに森を自国の領土だと主張しているが、森の住民は両国の名も知らない。

 

 妖巨人(トロール)人喰い大鬼(オーガ)の一族を率い、魔法の大剣を操るウォー・トロール『東の巨人』グ。

 西側一帯の種族を従え魔法を操るナーガ『西の魔蛇』リュラリュース・スペニア・アイ・インダルン。

 単独で縄張りを支配する白銀の毛皮と蛇の尻尾の四足獣『南の大魔獣』森の賢王。

 

 三大と呼ばれる強大なモンスターが三すくみを作り、その隙間を埋めるように多数の亜人部族や魔獣が縄張りを持つ。

 

 しかし、真の支配者とでも呼ぶべき存在がいる。その支配者の前では三大など有象無象と変わらない。

 数百年前に世界の外側からやってきて、竜王たちによって倒されたとされる一体。その存在は滅ぼれることなく、地中深くに封印されていた。

 そして、その封印は周囲の大地や植物から力を吸収し、遠い未来に再び復活するを許す不完全なものだった。

 

 そして遂に復活の日まで一月を切った。

 

 それでも何も知らない者たちは、いつも通りの夜を過ごす――はずだった。

 

 

 西暦2138年現在、DMMO-RPGという言葉がある。

 体感型大規模多人数オンラインロールプレイングゲームと言われる、ナノマシンを体内に入れ専用の機器を使うことで、まるで実際に自分が仮想世界に入ったように遊ぶことのできるゲームである。

 数多開発されたタイトルの中でも、一世を風靡したタイトルがあった。

 その名も「YGGDRASLL(ユグドラシル)

 

 12年前に日本のメーカーが、満を持して発売したDMMO-RPGで、当時の作品と比較して圧倒的な自由度で多くのプレイヤーを熱中させた。

 しかしどんなものにも終わりはある。

 

 社会人の異形種プレイヤーのみで構成された、ユグドラシル有数のギルド――アインズ・ウール・ゴウン。

 その拠点であるナザリック地下大墳墓、その最深部の玉座の間でモモンガ――鈴木悟はただ一人でユグドラシルの終わりを迎えようとしていた。

 

 今モモンガの前には、モモンガのコマンドに従いひれ伏している、執事のセバスとプレアデスの6人、玉座の間にただ一人配置された守護者統括のアルベドがいた。全員が意思のないNPCであり、モモンガは人形を人間として数えるほどメルヘンな脳は持ち合わせていない、したがってモモンガはやはり一人だった。

 

 もうすぐユグドラシルが、そしてアインズ・ウール・ゴウンは終わる。

 いや、考えればずっと前から終わっていたのかもしれない。

 かつては41人いたギルドメンバーは、37人が辞め4人だけになっていた。

 最終日ということで、最後にもう一度だけ集まらないかというメールを41人全員に送った。だが、返信があったのは数通だけ、実際に会いに来てくれたのは籍を残していた3人だけだった。

 一番最後に来てくれたヘロヘロも、数分前に睡眠不足のためサービス終了を待たずにログアウトしてしまった。

 

 結局のところ自分以外のメンバーにとって、ユグドラシルは今までプレイしたことのあるゲームの一つで、アインズ・ウール・ゴウンは人生の中で属した共同体の一つでしかなかったのかもしれない。

 そう思うと胸が締め付けられるようだ。

 

 それでもモモンガにとって、このギルド アインズ・ウール・ゴウンは、自分と友人たちの輝かしい時間の結晶なのだ。

 それが後数分で失われる、不快で、悔しくて、悲しいことだ。いちユーザーにすぎないモモンガに出来ることは何もない。

 

 視界の端に映る時計の文字は23:57:00、サーバーダウンまであとちょうど3分。

 明日は4時起きだ、サーバーが落ちたらすぐに寝なければ明日の仕事に差し支える。

 

 23:59:35、36、37……

 

モモンガも時計に合わせ、最後のカウントを始める。

 

 23:59:58、59――

 

そして目を閉じ、幻想の終わりを受け入れる――

 

 00:00:00――01、02、03……

 

「……ん?」

 モモンガが目を開くと、そこはまだ玉座の間だった。

 どういうことだ、と声に出そうとした瞬間、ピーという電子的な警報音が耳に響く。

 それと同時にモモンガの前に、半透明なウィンドウが現れる。先程いじったアルベドのコンソールと似ているが少し違う。

 これはマスターソースと呼ばれるギルドの管理などを行うときに使用するものだ。

 

「これは――」

 突如現れたウィンドウに困惑しつつ、そこに書かれた文字を読み言葉を飲み込む。

 

『《警告》ギルド拠点が攻撃を受けています』

 

 ありえない、攻撃を受けている?サーバーダウンは?いくつもの疑問が頭に浮かぶ中、唐突に心が冷静さを取り戻していく。

 その異常なまでの突然の精神のクールダウンに違和感を覚えながらも、冷静になった頭が状況を把握しようとする。

 

 左手首を見れば時計は00:00:32を示していた。

 確実に0時は超えている、時計のシステム上、表示されている時間がくるっている可能性はない。

 つまりはサーバダウンが延期されたという事だろうか。

 あるいはロスタイムの関係だろうか、他にもいくつか可能性は浮かぶが確信には程遠いものばかりだ。それにギルド拠点が攻撃されている理由については全く分からない。

 

 ともかく何かしらの異常事態が起きているならば、GMから何らかの発表が来ているかもしれない。

 そう思い、今まで切っていた通信回線をオンにしようとして――コンソールが浮かび上がらない。

 

「何が……?」

 想定外の事態に焦燥と困惑を感じながらも、コンソールを使用しない他の方法を試していく。

 チャット機能、GMコール、強制終了――すべてに何の反応もない、まるでゲームのシステムから完全に弾き出されたようだ。

 

『《警告》ギルド拠点が攻撃を受けています』

 

 もう一度同じ電子音が響き、メッセージが表示させる。それがモモンガの心を一層焦られ――次の瞬間、沈静化せれる。

 ユーザーを馬鹿にしたような最後に対する憤り、意味の分からない現状に対する困惑、そんないろいろな感情が、水をかけられたかのように一気に沈静化する。

 そんな異常な変化に、今度こそ明確な違和感を覚える。

 

「……どういう事だ」

 いろいろなことに対する困惑が声になって口から漏れ出す。

 誰にという事もなくつぶやかれたその言葉に、反応が返ってくるはずもない。

 

 しかし――

 

「どうなさいましたか?モモンガ様」 

 モモンガの声に応えたのは、聞き覚えのない女性の凛とした声だった。

 その声に顔を上げ声の出どころを探り、その答えを知った瞬間、唖然とする。

 

 その声はNPC――アルベドのものだった。

 

 

 ピニスン・ポール・ペルリアは困っていた。

 

 困っているという表現は彼女の現状を考えれば軽い表現だ。彼女は今命の危機に瀕している。

 

 ピニスン・ポール・ペルリア――

 種族名は森精霊(ドライアード)、木の妖精である。

 外見は人間や森妖精(エルフ)の女性の様にも見えるが、その肌は木の幹のような色艶をし、頭には髪の毛の代わりに緑色の葉が生い茂っている。

 自らの木と密接な関係を持ち、あまり遠くに離れることもできず、その木が枯れる時自身も死んでしまう。

 植物の声を聴き、自然そのものとも言うべき彼女たちは人間とは異なる死生観を持つ、死は常に身の回りで起こる現象であり、その対象が自分であっても変わりはない。そのあたりの性質が彼女の感情を「困っている」程度に抑えているのだろう。

 

 とはいえ、彼女だって死にたいわけではない。彼女はまだ人間でいえば三十代の若さだ、生きられるのならば生きていたい。日差しを浴び、大地から吸い上げる水が自らの木の中を流れることを感じ、自らの木が風に揺れてその葉を揺らす音を聞くことが彼女の幸せなのだから。

 

 彼女はたくさん太陽が昇った頃にあった七人組の事を思い出す。

 しかし彼らに助けを求める術を彼女は持たなかった。

 

 結論として、枯れ木の森の淵で木々の悲鳴を聞きながら復活の日を待つしかなかった。

 今日はいつもよりも明るい。満月だ。

 自分にとって最後の満月かもしれない。

 

 木の中から全身を出し、空がよく見える木の頂上に腰かけ夜空を見上げる。

 

 その時――

 

「ウオオオオォォォォ――」

 

 その瞬間、ピニスンの枝を揺らすほどの絶叫が響く。それに続いて大地を揺らしながら絶望が姿を現した。

 

 

「何か問題がございましたか、モモンガ様?」

 返答のないモモンガに対して、アルベドはこちらを真剣な眼差しで見つめながら、問いを繰り返す。

 

「・・・あり・・・・・・なぃ!」

 モモンガは先ほど以上の異常事態に、思考回路がショートをおこし答えることが出来なかった。

 

「失礼いたします」

 アルベドは立ち上がり自らのそばに来る。ふんわりと香水のような匂いがモモンガの鼻腔をくすぐる。

 視線の先に豊かな胸が来て、視線を吸い寄せられそうになるのを、社会人としての常識の力でなんとか防ぎ、アルベドの顔の方へ視線を移す。

 今まで会ったこともない程の美人と間近で見つめ合う形で沈黙ができ、モモンガは誤魔化すように口から言葉を紡ぐ。

 

「ナザリックが攻撃を受けている……ようだ」

 その言葉を発し終わると、もう一度先ほどと同じ気まずい沈黙が訪れる。しかし今度はすぐにアルベドによってその沈黙は断ち切られた。

 

「申し訳ありません!守護者統括としての任についているにもかかわらず、モモンガ様に教えていただくまで敵の侵入に気が付かないなど」

 そう言ってアルベドは足元に跪く、姿勢こそ立ち上がる前の物と変わらなかったが、そこから感じる雰囲気は土下座に近い。

 

 そんな新たな異常事態は当然のようにモモンガの心を沈静化させる、とりあえず何かしらの言葉をかけるべきなのは確かだが何と声をかけるべきかまでは分からなかった。

 アルベドの態度は上位者に対するものだった、NPCとギルド長の関係性と思えば自然なことかもしれない、しかしモモンガは、いや鈴木悟は美女やナイスミドルに膝をつきながら(かしず)かれるような人間ではない。

 

 つまり本当の自分が知られた場合、この関係性は消し飛びかねない。したがって、ここは上位者として立ち振る舞わなければならないべきだ。

 

「……確認になるがこの攻撃について、あー、お前は何も知らないという事で間違いないのか?」

 モモンガが発したのは状況確認の言葉だった。かけるべき言葉が分からなかったゆえの結論だったが、間違いではないはずだ。

 

「はい、申し訳ありません」

 アルベドの答えを聞き、次にセバスを見るとその視線の意味を理解してくれようで、同意の意が込められたであろう首肯が返ってきた。

 アルベドとセバスが知らない以上プレアデスに聞く意味はないだろうと判断し、モモンガはマスターソースに指をあてる。

 

 四度目の警告は表示されていない。

 『交戦状態』のページを開きナザリックのどこでも戦闘が行われていないことを確認する。

 次に『第十階層』から順に異常がないか簡単に見ていく、『第一階層』までのページに異常を発見できず、最後の『地表部』のページたどり着く。

 そのページの1番上、損壊率の欄が89.7%と表示されていることに気がつく。

 

 ほぼ全壊といっていいだろう、近くで狩りをしていてうっかり魔法が当たってしまったなんて言い訳は通じない数字だ。明らかに敵意を持った行動だ。

 だが、同時にこのナザリック地下大墳墓を攻略しようとした行動にも思えない。

 

 モンスターもオブジェクトも大して配置されていない地表部を、全て破壊されても修理にかかる金貨などはたかが知れてる。

 そしてそれは最低限の知識を持つプレイヤーなら一目見ればわかることだ。

 みんなで作り上げたギルド拠点を傷つけられた憤りはあるが、その数倍の疑問に塗りつぶされる。

 

 そんなことにMPやスキルを使うくらいなら、さっさと中に攻め込んだ方が有意義だ。やはり攻撃の意図がわからない。

 ……いや、なんだかユグドラシル的に考えすぎている気がする。

 NPCが喋っている世界でユグドラシル感覚の思考で動くの危険だ。もっと訳の分からない何かかもしれない。

 

 ナザリックの周辺にいたツヴェーク達が攻めてきたとか、世界が世界喰いに食われているとか、ユグドラシルではありえない現象かもしれない。

 

(……やばっ!考えてこんでしまった)

 あまりがNPCが静かなので、自分の世界に入り込み過ぎていたようだ。これ以上指示を出さないのは不自然だろう。

 

「……とりあえず敵の攻撃は止まったようだ。地表部のほとんどが破壊されたようだが、それ以外の被害はなさそうだ――」 

 モモンガの言葉を聞いた彼女たちの様子は酷いものだった、慚愧(ざんき)に耐えないとはああいう様子を指す言葉なのだろう。

 

「――とりあえず相手の情報が欲しい、敵の正体と目的がわからない限り行動のしようがない」

 

「では、私の姉ニグレドに魔法で探られますか?」

 さすがは守護者統括というべきなのか、誰よりも早くにショックから立ち直り、建設的な意見を出す。

 ここは同意しておくべきだろう。最優先すべきは情報収集だ。

 

「うむ、ではそうしよう」

 それならば私が伝言(メッセージ)で直接伝えようと言おうとして、ある不安が脳裏をよぎる。

 

 モモンガのみ魔法が使えないという致命的な可能性だ。もし魔法が使えなかったら純魔法使いのモモンガの戦闘能力は皆無に等しい。純戦士職の彼女らに反旗を翻されたら、瞬殺だ。

 

「……では、アルベドはニグレドのもとへ行き攻撃した者の正体を探らせろ。カウンターには最大限の警戒をするようにも伝えろ」

 

「は!」

 短い返事を残し、アルベドは玉座の間を後にする。

 

「セバスとプレアデスは第九階層の入口で侵入者を警戒しろ」

「「かしこまりました」」

 了解の意を示し、残りのNPCも玉座の間から消える。それを見送り一人になれたモモンガは、存在しない肺でため息を吐く。

 

「どうなっているんだ……」

 今度こそモモンガの声に答える者はなかった。




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