帝国兵となってしまった。   作:連邦士官

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イスパニア事変編
第11話


 

 あれは何日前のことだろうか?イスパニア共同体の大使館に着いたときにふと、空を見上げると輝く星々に人の思いを考えていたがなぜこんなことになったのだろう。少し前すら思い出させてもくれずに星の代わりに、瞬く爆撃機を相手に13mmのマズルブレーキ付きの対戦車ライフルで狙撃を開始する。

 

 爆撃機はこちらを狙うというから、こちらも狙いやすい。あの勘が冴えわたる。まず、対物ライフルを撃ってから機関銃をばらまく。そうすると吸い込まれるように3機の軽爆撃機が墜落していく。その火の手を背景に何故かいる秋津洲人の部隊が突撃ラッパとドラを鳴らしながら夜間突撃を敢行していき、遠くから「チェスト!」という掛け声を上げながら、一人二人三人と袈裟斬りをしながら斬り伏せる。

 

 その上、和弓を撃っている大尉?のようなのがいる。その上、相手の陣地からはバグパイプの音が鳴り響き、その後にチェストとか言っていた秋津洲人をクレイモア?よくわからないが大剣で叩き飛ばす共同体の募集した国際旅団の腕章を付けた蛮人が突撃をして、向こう側からルーシー義勇軍旗が上がり、革命歌がこだまし、別方面からアルビオン・グレナディアーズが流れたと思うと眼帯で義手だと思われる指揮官が「戦争を楽しめ!」と叫びながらライフルを一斉射し、こちらの機銃砲手が撃ち抜かれる。

 

 「どんな戦いなんだここは!?」

 そして、どよめきの音がすべてを持っていこうとしたときに味方が騒ぎ出した。

 

 「え、援軍だー!」

 そちらを見るとイルドア軍が軽戦車を先行させて、後ろに騎馬部隊が続く。わかった!もう成るように成れよ。

 

 「ちゅ、中央が敵の蛮勇な突撃で抜かれつつあります。左翼は連絡不通、我々右翼は押されつつあります。ジシュカ中佐、どうしますか?」

 野砲などが作り出す戦争オーケストラの中で同じく派遣されてきたダキア人の副官に聞かれた。こちらの部隊は600人余り、それこそ大隊だ。早く決めなければ機を失う。

 

 「総員着剣!これより、一斉射撃のあとに白兵戦を行う。全員に言っておく。容赦なく敵は撃て。だが急ぎすぎるなよ。ゆるりと行けばいい。王道や定石はこちらにある。中隊規模で敵陣を突破し、敵の戦線を寸断するだけでいい。それだけで勝てる。奴らは地に伏せた亀だ。足元を掬ってひっくり返せば手出しはできない。突撃を敢行する。先頭に立つ。遅れるなよ。」

 

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 塹壕から飛び出して、迫ってきていたルーシー部隊を斬り伏せながら、時にはルーシー人を盾にして突き進むが、アルビオン人たちは無視をして水平射撃をしてくる。

 

 「味方を味方だと思ってないのか!頭の中だけでは世界帝国は考えが違うな!」

 ダキア人の一人が言う。なんで、ダキア人ばかりに囲まれてるんだろうか?俺、帝国人だよな?疑問しかないところに眼帯をつけた魔導師のアルビオン人がサーベルで切りかかってきた。

 

 敵味方入り乱れているから双方ともに味方撃ちになるのを恐れて空をあまり飛べない。それを抜きにしてもこいつはおかしいやつだ。

 

 「お前指揮官だろう?なら楽しむんだよ。闘争を!」

 えっ、中二病眼帯おじさんか?えっ怖。頭おかしいのかよ。魔導刃同士の火の粉が散るがこっちにはビックリドッキリメカがある。左手をひねると袖口からクロスボウの指が飛び出し、それにあっけに取られた眼帯戦争大好き変態アルビオン紳士は防殻術式を使ったがそれが命取りだ。これでもかと切り詰めたRAR1922(ライヒ・オートマチック・ライフル)の一つであるこれを連射させて、ついでにポテトマッシャーとパイナップルのパイナップルポテトを食らわせて爆発させるが恐らく殺しきれてはいない。

 

 まだ生きているなこの感覚。自分を餌に太陽を背に奇襲を味方にかけさせようとしたな。しかし‥‥。

 

 「踏み込みが足りん!」

 銃剣を投げるとその柄を筋力強化で思い切り蹴り更に加速させる。そして、その後ろから左右に弾をばら撒くと二機の魔導師を叩き落とすのに成功した。

 

 忘れてはいない。その後に眼帯紅茶の姿を探しながら拳銃を乱射する。ついでにモロトフも何回かごちそうしてやるが霧が晴れるとおっさんは居なくなってた。逃したか……なぜこんなことになったのだろうか?あれは確か‥‥少し前のことだったよな。俺はあの日に思いを馳せた。

 

 

 

 イスパニア共同体の帝国大使館に配属された旅路はまさに現実だった。

 

 簡単に言うと至極つまらない日だ。列車に揺られて共和国を通過して共和国の南の海岸から船に乗り、イスパニアに入国するただこれだけ。しかし、多くのことがそうであるように目に見えることだけが全てではない。こうやって見えるのもまた一部でしかない。氷山の一角と言うやつだ。

 

 パリースィイの栄光ある花の都も一度路地を見ればストリートチルドレンや何を吸ってるのかわからない連中に、あぶれた傷痍軍人が寄付を求めて空き缶を置いている。

 

 植民地から来た人々が安い賃金で働き、デモ隊の一部が植民地人がフランソワ人の職を奪うと謳い非難をしていた。別の通りでは、植民地政府が搾取して本国に利益を送らずに着服している腐敗の総合商社だと非難する。また、別のところでは植民地から来た市民だろうか?彼らが待遇改善とフランソワ共和国がやっている植民地や他国への送金規制をやめろと言い、別口には軍拡に伴う徴兵期間の延長と徴兵数の増加を止めろと学生が列をなしたり、学生がルーシーとの取引を活発にやルーシーとの同盟をと掲げたり、元軍人なのか軍人なのかはわからないが共産主義者を吊るせとプラカードをもって行進する。

 

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 そんなフランソワ共和国内部を見てきたので、帝国の新聞で読む世論が統一されたフランソワは一部であり、何も統一されてない乱麻の姿がフランソワなのだろうと思いながら、イスパニアに入国したときに思った。

 

 船の積み荷を下ろす人々を見ながら、その積み荷の大半は木材や建築材に石材と書かれた木箱でダキアや共和国やイルドアと輸入元が書かれている。時折工業用火薬の字もあるから、建築も盛んなのかなと街の大通りに向かう。

 

 「軍人さん、安いよ魚買うかい?」「これはバリンシーオレンジ買っていかないかい?」「魚介のパエリヤあるよ。食ってかないか?」「これ、イルドア製の革靴一番安いヨ。」

 活気ある港湾の出店であるが急に店が畳まれていく。何かあったかを見ていると警官隊と騎馬隊が来て、屋台を壊しながら歩いている。違法出店してたんだなと思って通り過ぎようとしたが警官に腕を掴まれた。

 

 「違法にものを買ってないよな?軍人さん。」

 そもそも買ってたとしても俺には外交官特権があるから関係ないわけだがまぁ、それはそれとして俺は掴まれた手を剥がして、握手に変える。相手はあっけにとられていた。

 

 「ついたばかりで何も買ってないですよ警官さん。」

 そんなことを言うと握手を解いて俺は大使館に向かう。列車に乗るために歩きながら空を見るとうっすら曇っていた。雨は近いのかもしれない。

 

 「雨か。」

 街を歩きながら傘をささずに降り始めた雨を感じながら歩く。途中で辻馬車が来たので乗る。

 

 濡れたは濡れたがしょうがないと思いながら馬車の中から外を見る。たしかに町並みは古いが皆が必死に今日を生きていそうな町と人々は黄金の穂波がうねる金色の海に似ていると思った。それは大地の恵みでもあり、しっかりと大地に根を張る生きている。

 

 駅につくまで待っている間に雨が土の臭いを運ぶ。どう合っても人は土に生きる民こそが人という本質なのかとふと考えてしまう。

 

 駅に着くと馬車の運転手に多めに金を渡し、駅内に入る。その駅は古いがしっかりとした赤レンガ造りで、タバコを吸いながら待つ客が居た。

 

 構内に積まれた煙草の吸殻を見るとその時間の長さを理解できた。駅構売店からタバコと新聞を買い、近くにいた客に話しかける。

 

 「もう長いのですか?」

 客は無言で頷く。そしてこちらがタバコを渡すと途端に話す気になったようだ。

 

 「そう。もう長いよ。雨で遅れているんだと思う。この国と同じさ。」

 イスパニア首都のマドリッドーリに向かう、発展度だけで言うならば実際は大西洋に接続されている前世でいうとリスボンらへんにあるリーボンやジブラルタル海峡ぽい場所の近くにある軍港サルビャに地中海の要衝バルサーニャなど海運が発達した地域に発展は流れ、工業力も産業も衰退しつつあるが首都は首都と言われてるらしい。

 

 「だが、止まない雨も姿を見せない太陽もないだろ?」

 同じように空を見ると奥のほうが蒼く光っており、晴れ渡りそうだ。

 

 「あぁ、そうだな。イスパニアなら出来るはずだな。俺の名前はリーニャ・ガスコ・ベロー・デ・カッザだ。」

 長いな名前と思いながら握手する。リーニャの手を握ると軍人のような感触がした。そして、名乗られたからには名乗らないとならない。

 

 「私はジシュカ、フリードリヒ・デニーキン・ジシュカ少佐だ。イスパニアには来たことがないがきっとリーニャさんならできるだろう。」

 そんな他愛もない会話を聞くと列車は到着し、リーニャは後方の車両に、俺は前方の車両に座る。そして列車は走り出す。

 

 

 マドリッドーリにつくまでは400キロあまりあり、うまく行っても6時間ぐらいかかる。車内で寝ていると衝撃を感じて飛び起きる羽目になった。

 

 騒ぎの中で列車は走り続けていた。後方を見ると後方車両がなく、煙が上がっていた。列車爆発だ。

 

 それにリーニャが乗っていた車両だ。寝る前に見ていて飛び起きた結果、吹き飛んだ新聞の記事がちょうど表になっていて、マドリッドーリにガスコー人平等平和戦線代表使節、ミスターガスコーのリーニャ・ベロー・デ・カッザ氏来訪と書かれていた。

 

 「大変なことになるぞ‥‥これ。」

 ガスコー人なる存在が独立主義者だとするとこれが火種になりかねないよなと思いつつ、まぁ、なんとかするだろうなと思うことにして、新聞を拾うと表の記事が目に入った。

 

 「なっ‥‥。」

 イスパニア社会共同党、イスパニア共有主義党、イスパニアコミュニズムなどと連立。ようやく左派連立により議席が過半数に達し、首相はアントン・ド・リベリオ・フランクスはガスコー人やカルターニア人の反動組織に対して、断固たる措置を軍に訴え、イスパニア軍から拒否された?

 

 地獄の蓋が開かれかけてるのでは?えっ、なんでこんなことに?いや待て、まだ間に合うはずだ。まだ焦るようなときじゃないよな。状況を整理しよう。

 

 ガスコー人は何らかの理由でイスパニア政府と揉めており、リーニャが代表として選ばれて会談に来たが爆発で吹き飛ばされた。

 

 次にイスパニア政府は左派連立として四つの党と連立をしてようやく政権が過半数に到達。そして、国民の支持率がほしい与党は強硬策をするっぽい。

 

 まだ、バランスは崩れていないから大丈夫だろう。たしかにガスコー人は不満たらたらだが立ち上がるだけの戦力はなく、見てきたようにフランソワ共和国内はまとまっていない。なら簡単だな。列強が介入できるだけの余力はないということだ。

 

 なら、軍が出動を拒否したぐらいで内部の軍事バランスが崩れたわけじゃない。

 

 そう考えを結論付けるのと同時に列車はマドリッドーリに到着した。マドリッドーリは首都だが華はなくあるのは警官隊が隊列を組んで街中を歩いている姿だけだ。

 

 「まぁ、大丈夫だろう。」

 途中、そして馬車も走ってる。まさかな。俺は大使館に向かうことにした。まだ大丈夫。まだなんとかなるはずだ。今ならまだ間に合う。大使館通りの前には何故かイスパニア軍人と思われる一団が立って検閲をしていて、こちらはパスポートを見せると通された。

 

 「なぜ、こんなところにいるんですか?」

 まずい気配がするが聞かずにはいられない。嫌だっておかしいだろ。ほら、木の柵の次は土嚢を積んでるぞコイツら。

 

 「それはですね。テロがあった為に外国人保護とイスパニアの安全の為に政府が戒厳令を発令しまして、それに伴いラサゼール将軍がマドリッドーリに進駐なさいまして、我々の指揮を採っておりますから安心を!外交官殿!」

 うん?政府が戒厳令を出したのはわかるが指揮はなぜか中央じゃない将軍がやっている?妙だな。しかし、イスパニアは政治争いの土地。そういうこともあり得るかと受け流すことにした。それに下手なことを言うには相手は20人以上いてこちらは一人で分が悪い。

 

 なかなかの警戒で奴らが持っているのは小銃だが古い連合王国のリー小銃で命中力を犠牲に連射をさせることができるボルトアクションライフルで当然連合王国インチを採用した互換性皆無のクルミ材で作られた銃だ。

 

 その上、中にはフランソワの小銃なり、帝国の小銃なりを持った兵も沢山おり、急な出動で武器が足りなくて在庫をすべて出してきた感じもある。

 

 とするならばコイツらは弱いのかはわからないが弾の供給で死ぬほど困るだろう。

 

 あれは‥‥ショーシャ!?やつは生きてたのか!いや生まれたばかりか。あんなものを持っているとはこの部隊は一体?

 

 しかも、よく見ると外だけではなく内側にも土嚢を積んでいる。これは外よりも内側から逃さないためでは?いや、考えすぎか。

 

 帝国大使館に向かうと挨拶も早めに双眼鏡でそいつらを見ることに決めた。


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