帝国兵となってしまった。   作:連邦士官

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第12話

 

 全権大使などに挨拶を済ませてガスコー人の代表が吹き飛ばされたようだと話すと事実確認が済んでいないから、取り敢えず自室待機を命じられて、割り当てられた自室に戻った。

 

 大使館の中で見るのはイスパニア軍を名乗る謎の武装組織。よく見れば彼らのワッペンは同じだ。同じ部隊なのだろう。

 

 それに彼らの装備は本当にまちまちでトラックを通りの入り口を塞ぐように3台ならべている。その手前には土嚢。

 

 そして、無線で何かを密に話しながら奴らは隊列を組んだ。その口の動きは‥‥。

 

 忠 を 示 せか?何やらやはり不穏だぞ。それにあれは奴らが持ってる銃を再びよく見るとシリアルナンバーが削られていた。つまりあれは‥‥。

 

 「非正規軍‥‥。」

 いよいよ怪しく宝珠を動かす。よく見ると尉官の若者が多い。つまりは彼らの独断かラサゼール将軍なるものが仕組んだのか。リーニャが死んでからことが早すぎる。つまり仕組まれていた?張作霖爆殺事件のようなことをして、戒厳令にかこつけて進駐か?では、マスコミや役所や郵便局と駅はすでに封鎖されてると見ていいだろう。

 

 問題はイスパニア反乱軍の規模だ。警察は協力しているのかにもよる。彼らはナイーヴだから、下手に刺激をすると簡単に引き金を引く。引き金さえなんとなれば原隊復帰か予備役送りでなんとなるかもしれない。

 

 「よせ!」

 警官隊が彼らと揉めて銃を奪おうと揉み合いになっている。それが表すのは‥‥乾いた音がこだまして一人の警官が崩れる。それを皮切りに警官隊にイスパニア青年将校らが小銃で殴りかかる。

 

 これは内戦の開始か?いやまだ市民を撃ってないからわからない。直ぐに警官隊は鎮圧され、トラックに放り込まれる。その警官隊との銃撃戦で5人ほど怪我したようだから実質、後15人。それはかなりの数で苦虫を噛み潰したような顔になるには十分だった。

 

 これで見たことを宝珠を使いしっかりと撮影していた映像で在イスパニア全権大使のヴァルター・ルードルフ・エルトマンに報告をしに行った。前もこんなことがあったような?

 

 廊下を歩き、ノックをして名乗ると「入れ。」と言われて、全権大使の執務室に入る。

 

 「全権大使閣下、見ていただきたいものが。」

 急いで見せる準備をしようとするとエルトマン全権大使は老人特有の骨ばった手に白手袋を嵌めてからこちらを見据えて一言、こちらを見据えて放つ。

 

 「なにか用かね?今の火薬の音は一ヶ月前から鳥退治と言って何回もあったことだ。ここはダキアではない。ジシュカ少佐、ここは文官の戦場で武官の出番はない。大人しくすることだな。」

 そして、書類にまた目を落とそうとするので、事態の重大さをわかってないのだろう。いや、一ヶ月も前から計画的に発砲音に警戒させないために奴らは備えていたんだ。ということは青年将校の発作的な世直し革命みたいなお遊びではない軍事クーデターということだ。

 

 「さっさと出ていきたまえよ。」と続けるエルトマンを無視して、執務室のカーテンを締めて、「ムードを作ったって無駄だ。ジシュカ少佐。君の好きな戦争など起きないさ。均衡やパワーバランスぐらいは文官の私でもと‥‥。」と小言を続けるので無視をして、白い執務室の壁に宝珠で録画した映像を流す。

 

 先程と同じように警官が揉み合い、軍人に射殺されてあっけに取られる警官隊を青年将校が殴り倒してトラックに積み込むのが流れた。

 

 「し、少佐。今のは何かね?噂に聞く幻影術式かなにかか?」

 エルトマンは掛けていたメガネを置いて、目元を揉む。そう、エルトマンの理解も俺の考える理解も超越した風景だ。さながらイカれたショーの始まりのゴングだ。

 

 「全権大使閣下‥‥。エルトマン全権大使閣下。わかってますでしょう?先程の音の正体です。幸いまだ、我々二人しか気が付いていないようです。ならば、混乱は避けられる。本国にご連絡を盗聴されてるおそれがありますがなんとか‥‥。」

 それを言う前にエルトマンは頭を抱えて、下を見る。

 

 「少佐、それは無理だ!あのだな。君が到着する前に電話回線の工事と言って二日から三日ほど連絡が取れなくなると技師が来た。だとするならばこれは本格的な反乱だ。他の大使館もだが、このイスパニアの南のアーデルシア地方の観艦式に呼ばれて、必要最低限しか武官は残っていない。私はもうすぐ退官だから、次期全権大使がそちらに向かって、他の大使館は全権大使すら居ないのだ。この日を狙っていたのだ。」

 それを見ると可愛そうだがいや、もうだめだろこれ。パーフェクトゲームだよ。早いな勢いとライブ感で反乱してないわ。

 

 だとするならば、他国の介入を避けるために外交官などは丁重に扱うはずだ。エルトマンがさっき言ったがダキアとは全然違う。まぁ、なら様子を見ても問題ないだろう。それに打つ手はない。

 

 少なくても何故、察知できなかったのかと各国の大使や武官が本国からレモンの種が悲鳴を上げるほどじっくりと絞り上げられるだけだ。なら、俺は関係ない。しかし、目の前の老人は絶望をしながらもやがて、こちらを見て目を輝かせた。

 

 「ダキアであれだけ活躍した少佐ならば、本国に伝えるなにか案があるのではないかね?」

 ないです。ないない。そんな無茶難題を言われても地表がひっくり返っても無理。もう、9回満塁ホームラン打たれたあとみたいなものだ。たかが少佐に何を求めるんだよ。しかも今日来たばかりでもうすぐ夜だぞ。俺が何をした?

 

 ワルツとか言うからむりやり存在Xが俺を舞台の上の人形として踊らせようとしてないか?おかしいよな。こんなに苦労するのはターニャ・デグレチャフだけでいいはずだ。しかも、なんで俺のときばかり、軍事判断越えて政治判断もしなきゃならないんだよ!俺はもっと静かで平和に暮らしたかったんだ。いいから俺を眠らせてくれよ。

 

 「ジシュカ少佐!その沈黙はあるのだな!流石は少佐だ。本国に昇格状を書いてやる。前払いだ。」

 全権大使は昇格を前払いをして、断れなくする天才か?いや、無茶を言ったらわかるはずだ。できないと言ってやろう。

 

 「エルトマン全権大使閣下、手はあります。外から発見されないように進んでしまえばいいのです。例えば下水道に潜入するとか。」

 ここに来るときに下水道のマンホールは外にあると俺は知っているんだよ。見ていたからな。これで終わりだ。

 

 「なるほど。ワインセラーが地下室にある。それに庭師の使っているつるはしなども一階の倉庫にある。少佐、では報告書をしたためるから待ちたまえ。」

 えっ?聞いてないぞ、それ!なんでやることになってるんだよ。諦めろよ終わりだって、このまま終わっても大丈夫だからさ。

 

 「エルトマン全権大使閣下、しかし、ワインセラーとなるともしかしたら所蔵なされてるかもしれない貴重な帝国の貴腐ワインが駄目になるのでは?ワインが駄目になったときの責任は取れません。」

 それを言うとエルトマンは笑った。何笑ってんだこいつ。

 

 「君は私の緊張をほぐそうとそうやってジョークもこの状況で言えるのだな。頼もしい限りだ。」

 いや、そうじゃなくてできないと言いたいがもう具体案を言ってしまってエルトマンはできると判断した。なら、やるしかない。なぜこうなる!

 

 「しかし、私がいなくなるのを不審に思われるかもしれませんよ。それで騒ぎにはなったら、あの反乱軍に察知されます。」

 ほら、無理だと判断してくれ。ほぼ毎回戦場にいるんだぞ。おかしいって。偶には休んだっていいよな。なぁ、コレクリウス。

 

 「そうだな。少佐の言うとおりだ。私が新たにアーデルシアに派遣したと言っておこう。そうすれば皆納得するはずだ。」

 いや、大使館員が納得しても俺は納得できないよ。俺だけやることが鳥居強右衛門じゃないか!ふざけんなよお前は外交官で文官だから守られても武官は殺されるだろうしかも、やることは強行軍の伝令役でどうやって行くんだよ。地中海側からのほうが近いが‥‥。

 

 待てよ。たしか、フランコはカナリア諸島から攻め上がったはず。歴史が似ているこの世界だと地中海側は完全に駄目だ。このまま北上するしかない。北上してもどうやって帝国に帰れんだ?冗談抜きに帝国に帰れる方法がわからない。地中海に行くしかないのか?地中海側で相手に阻まれて伝えられませんでしたとやりたいがやっぱり、フランコもどきがやってきたら殺されるよな。

 

 もう石兵八陣に迷い込んだかのようだ。冗談抜きにどうするんだ?できることはたいていやってるぞ。しかも、ダキアと違って本国から遠いイスパニア。フランソワは内部闘争が激しいから介入は大丈夫にしても‥‥だからといって俺は降りられない。

 

 ピレネー山脈的なあの山を越えるしかない。鳥居強右衛門をやりながら佐々成政をやらねばいけないということか?エルトマンは大使館で反乱軍かなんか相手にご機嫌取りというわけだ。一人にかかる負担が、やることが多すぎる。

 

 「では決定でしょうか?」

 覚悟を決めるしか俺はないのか?がだ。政府側だからといって安心はできない。教会や資本家などから財産を没収している財産権もないマイルドスターリン主義みたいなのがこの共同体の政権の正体だから、こちらに見つかっても帝国主義者と吊るされそうだ。なんだってもう訳のわからないことに。

 

 「あぁ、決定だ。少佐の健闘を祈る。」

 敬礼をしてきたからには反射的に敬礼で返してしまったことにより拝命したという形になってしまった。もう引き返せない。半島から始まる帝国への一人で行う大陸打通作戦をやるしかない。そして、エルトマンから渡された書簡を手に自室に戻るとトレンチコートを着て、つるはしをとり、地下のワインセラーから下水道をぶち抜いてスタートだ。もうこんなことはやりたくないが仕事だからやらねばならない。なんで‥‥なんでこんなことを?

 

 「忌々しい。」

 下水道は意外と想像よりは臭くはなくまだ我慢できる。そして、コンパスを手にまずは川に出ることを優先させる。ここまでくると野戦と同じだ。というかなんで、大陸打通作戦しないといけないんだ?

 

 このまま、行く方をくらましたって『助けてくださいよ、大佐。』そんな風なコレクリウスの姿が過ぎる。そうだよなまだ、俺は降りれない理由があった。俺には罪があるのだからそれを直視しなければならない。それこそが俺の仕事だから。

 

 そして、俺は走った。ただ我武者羅にあの地下道を思わせる作りの下水道の中をただひたすらに。途中、ルパン三世みたいだよなとかこの世界にも下水道のワニの伝説なんかあるのかなとかよくこんな中をIRAやアルゼンチンの銀行強盗が走れるなとも思いながら。

 

 「そうか。これが俺みたいな罪から逃れようと忘れようとする俺みたいなやつにはモグラはお似合いだよな。」

 などと独り言を話してしまった。悲しいだけでもない。全ては運命なのだ。運命だから仕方がないと諦めてもいいが俺はコレクリウスたちに諦めるなといった。ならば、なぜ俺は諦められる?否と言うやつなのだ。俺は諦める訳にはいかない。

 

 それに反乱軍とやらが成功する可能性があるかはわからない。そして、ここにはどうやってもやるしかない仕事の山があるならばこれは幸福だよな。じゃなければこんなことに時間を割いてはられない。手にしているシャベルを握りしめると出口に向かう。そして、光が見えるが気配を感じない。

 

 下水道からの脱出を抑えれてない反乱軍はこれは一度は政府軍に鎮圧されるかもしれないな。まだ、川沿いに作られてる鉄道を見るとまだ軍が止めきってない証拠だ。まだ政府の中枢の機関を反乱軍は制圧できてはいない。同時に反乱も政府が気付いていないということで、反乱が起きたならばどの部隊が反乱を起こしてないのか確認するまでは、イスパニア政府は警官隊や党員の部隊やまた四党連立ゆえに誰が裏切ってるのかを議会で怪しむはず。 

 

 実際はいなくてもいい。中央が疑心に駆られてる間に反乱軍は南から攻め上がる。そして気がついた頃には軍を出す機会を逃してさようならなんだろう。しかも、地中海側はカルターニア人、北側にはガスコー人という独立派が居る。更にはリーボンがある地域はポート人なる昔は独立していた存在までおり、この首都内を見回せば出稼ぎ労働者として南方大陸から来ている期間労働者も多く、不穏分子は気にするといくらでもある。

 

 俺は鉄道横の草むらに隠れて、来た汚れ具合から見ると空になった石炭運搬車の荷台に飛び乗ると北へと向かうのであった。

 

 そして、少し寝ることにし、横になるのだった。

 





 行楽の秋ですね!


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