帝国兵となってしまった。   作:連邦士官

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第30話

 

 「君はやはりそうなのだな。」

 レルゲンはこちらを見ている。それに対してレルゲンの後ろにいるゼートゥーアがこちらを見ながら顎を触っていた。そして、こちらに歩いてきた。

 

 「レルゲン大佐から紹介してもらう予定だったが、ハンス・フォン・ゼートゥーア少将だ。手短に聞かせてもらいたいのだが、想定の範囲内とは一体どういうことか?」

 本来、准将だったはずのゼートゥーアが少将に昇進をしていた。これは変わったのだろう。それにしても40万人のレガドニア協商連合というが、原作よりダキアにテコ入れしてない分だけ協商にかなりの物資が入ったのだろうな。

 

 「簡単なことです。地図を見ていただきたい。ダキア、イスパニア、イルドアとの同盟により3方位に共和国は前線が広がったと言えます。そして、その分だけ帝国の前線が楽になった。だからこそレガドニア協商連合がこちらと争う姿勢を見せているのでしょう。そして、このまま、なし崩しに戦闘になれば横っ腹に共和国が帝国を殴り、戦線を膠着させ、イスパニアを片付けてから連合王国が参戦。こうなるとさらば地中海。我々が遊んでる間に連合王国はイルドアと講和する。帝国への道を得たならば、ルーシーは我々に宣戦布告するはず。つまりは、これらは予想できます。不確定要素はない。」

 コーヒーのカップを下に置いた。そして、俺は両手を広げて立ち上がる。

 

 「ここまでになれば共産主義者に帝国を取られまいと切り分けに合州国が参戦するのは確実。そんなのには、いくら帝国とはいえ勝てない。ここは短期決戦を狙うべきです。協商には反攻としてまやかし戦争を仕掛けるべきです。反撃は共和国が攻めてこないことを確認してから叩き潰すべきです。我々には協商を受け止められる戦力があります。それにイスパニアとダキアはまだ動員をかければ総勢約100万くらいは動員できるでしょう。そこを加味して限界まで総力戦を展開すれば1635万人を我々の陣営でひねり出せます。しかし、これが天井です。これ以上は無理だと思われます。そうなると非戦闘員を二線戦力として国民防衛隊を立ち上げて正規軍を戦闘に参加させて、二線級の民兵強度の部隊で国家防衛をしなければなりませんが、軍靴により協商と共和国を崩壊させれると思われます。これにより、講和。一撃講話論です。」

 最初から総力戦だ。これでターニャも助かるだろう。俺はそろそろ引退する。さらばだターニャ・デグレチャフ!こちらは俺による最大の支援だ。アリーデヴェルチ!

 

 「なるほど。となると予備戦力としての正規軍はダキアが主力になる。だからか。これをずっと狙っていたわけか。ならば、問うがこの戦争。勝者は生まれるか?」

 ゼートゥーアの質問には他意は含まれてない。これには俺は真面目に答えねばならない。

 

 「この大戦。総力戦には勝者は居ません。これを切り抜けれたとしても、合州国と連合王国、帝国サイド、連邦の三つ巴の緊張世界。そうですね。名付けるならコールドウォーがホットウォーに取って代わるでしょう。その中で3陣営の見栄の張り合いの先に勝者はいないと言い切れます。これらは簡単な話です。やがて爆弾自身が大陸間を飛び交うでしょう。大陸間を飛ぶのだから大陸間弾道弾というべきでしょうか。これらで互いに相手の国を滅ぼせると恫喝しながらそれを秩序と言い張る戦後が形成されるかと。」

 ソーサーの上にコーヒーカップを逆さにして置く。その上にスプーンを置いた。

 

 「それにこれは新たな戦争の始まりに過ぎません。こちらはやる気はなくても向こうはやる気です。戦争の狂気のジャズが響いています。その音に踊らされれば幾千万もの大型経済戦争の始まりです。」

 そして、スプーンの尻を指で叩き、飛び上がってきたスプーンを人差し指と中指で掴む。そして、それを振った。

 

 「貴官はそこまで考えるのかもしれないがそうはならなかったらどうする?このまま、挑発は終わるかもしれんぞ。合理性がない。」

 そうはならない。何故なら原作をなぞっているからだ。世界は不合理なのだ。だからしょうがない。それは確定事項で確定事象で避けられないことだ。カップの上に角砂糖を積む。

 

 「合理性だけで世界が動くのならば戦争は起きません。人間はチェスのコマではない。人間は好きなように生きて、好きなように死ぬのです。2ヶ月以内に大戦は起きると思います。これは冗談ではありません。連合王国が仕掛けてきてるのです。わかるでしょう?ダキアの時からずっとそうです。いくらインチが見つかりましたか?」

 角砂糖はカップの上でバランスを取りながら立っている。その角砂糖をスプーンにまとわせた魔導刃で断ち切る。

 

 「角砂糖もやり方によっては不安定な場所でも切れるわけです。じゃあ、大陸に安定した場所を作り上げたまな板の上の帝国はより切りやすい。正直、連合王国は連邦と共和国がどうなろうと仲間として見ていないから焚き付けるのは簡単でしょう。人間はチェスの駒ではないが連合王国はチェスをやっているつもりで世界を動かしている。その歪を我々が受けるわけです。つまるところ超大国アルビオン連合王国が国家を使った人形芝居をしようとしている。これに巻き込まれるのではなく、波に乗る。ポリネシア人がやってきたようにサーフィンをする様にすることで帝国は波に飲み込まれず波を乗りこなせるわけです。それに、早期講和をしなければ旧大陸は合州国の経済圏に飲み込まれます。我々の早期講和こそが旧大陸を救う手立てなのです。こうなれば政治家は勝ったことに浮かれてもう一撃と連合王国とことを構えるかもしれませんが帝国側には敵国に上陸する技術がない以上、泥試合は明白です。」

 地図の前に俺は歩いて帝国と連合王国にかかる海を触った。揚陸部隊などは帝国には存在しないし、揚陸兵器もない。対して連合王国などにはそれらはあるのだ。

 

 「まだ二ヶ月の準備期間はあります。ならば、どう共和国との戦い、ライン戦線と呼称しましょうか。それらと協商との二面作戦を成功させるかを考えるべきだと思われますが。政治家はおそらく国民人気のために講和はしないでしょうから。軍部が前もって講和案や陸軍主導で動くべきだと思います。どちらかがお膳立てをするしか世界は動かないのです。」

 陸軍主導で動くしかないのは原作通りで勝てばイケイケドンドンで、負けたら報復を!と騒ぎ立てるのが人の常。完膚なきまでに負けるか戦った事実を忘れるほど素早く敵を制圧するかが重要で、拙速は巧遅に勝るとは相手の民の心を攻めているのだ。そう、心だ!

 

 「それで陸軍主導型社会主義を提唱したのか?しかし、それでは帝国宰相の下に文民統制を敷かれている法治国家だ!そうなれば軍部によるクーデターになりかねない!我々は道具であるべきだ!法を守る暴力装置で国家と宰相に統治されるべきで統治をする側ではない!帝国軍の占領下に自国を置くなど議会や議員はどうなる!到底官僚も認めるような話ではない!」

 飛躍してる気がするけどレルゲンが滅茶苦茶に怒っているように感じているが、ここで退いたらターニャが可哀想だよな。その後に起こることを知ってるし、鉄道の補給についての論文より打撃力の論文を軍部が選んだわけだし、このまま帝国に残ってショットガン乱射スーパーサンソン人とか頭ジャンヌ並近代教育の敗北である、身内に敗北をもたらすメンヘラ聖女スーと戦わないといけないもんな。待てよ、逃げようとする方のターニャなら良心が傷まないけども、どちらかわからない。

 

 「それを覆せる人もいる。それは‥‥。」

 バークマンだと言おうとした途端にゼートゥーアから静止が入った。

 

 「つまり、これは御公儀の秘密か‥‥言うべきではないジシュカ准将。つまるところ、未来を見据えて親政を、文民も軍人も責任が取れないから責任を取れる立場がある御方が責任者として天の頂きに立つというわけか。レルゲン大佐、これは軍機だ。我々だからジシュカ准将は答えてくれたのだ。ジシュカ准将には決定権はない。これらはもはや決定されていたのだ。おそらく、全てはダキアから含めて緻密にな。民の人気も高まった今、あの御方に議会も軍部も逆らえない。」

 前半が呟いていたからゼートゥーアがなんと言っていたか分からないが、納得してくれたようだ。バークマンはそんなに人気だったのかアイツ。レルゲンも握り締めた拳を解いて目線を床に向けた。

 

 そして最後にレルゲンがこう声をかけてきた。

 「ジシュカ准将、貴官も辛い立場なのだな。小官は小官で事に当たらせてもらう。」

 決意の火を目に感じさせながら俯く顔により、眼鏡の反射で最後の目を見れなかった。そして、俺はなんと声をかけたらいいか分からず適当に答えた。

 

 「だとしても、同じ空、同じ天を仰いでその下にいる。それは例え思想や国が違っても人は大地に育まれ、天の下に育ち、母なる海や川の恵みを受けてその体を作り上げる。その連鎖が市町村を作り上げて、市町村が合わさり国ができたのならば、また会えるだろう。そしてわかり合えるだろう。そうでなければなぜ人は人を愛するのだろうか?わかり合えないのが優しさならば、わかり会えるのも優しさのはずだ。つまる所が世界は愛と感情で出来ている。合理主義ではなく、人の慈しみや優しさ、愛こそが世界を支える力なんだよ。力を振り回すのではなく、力を受け入れるのもまた力が必要だ。レルゲン、君なら出来る。ここからの物語はお前が始めるんだ。これはお前の物語だ。」

 レルゲンが目を見開く、そりゃあ空気や相手の感じに振り回されて訳の分からないことを長々と声がけにしたらそうもなるよな。笑えよ笑われたほうがまだマシだよ。

 

 「准将は優しいんだな。だが、帝国参謀部は合理主義で行かせてもらう。忠告は聞き入れた。」

 笑みを浮かべながらゼートゥーアがそう言うとレルゲンは再び苦虫を噛み潰したような顔になり、消えていった。呼び出しといて、それはないんじゃないか?こんな酷いことあるか?訳分からんことを言って滑って突っ込まれずに大人の対応されて軽く笑われて終わりとか。じゃあ、豪快に笑えよルーデンドルフなら笑ってくれただろうに、大人の余裕をそういうところで見せつけるんじゃないよ!

 

 一人残された俺はすぐに出て廊下で二人と鉢合わせすると気まずいので残った冷えたコーヒーポットと紅茶ポットで夜まで粘り、掃除に来た下級兵に「ヒッ!」と怖がられるくらいに時間を経たせてから、帰った。怖がらせた掃除係にはちゃんと謝ってから帰る。大人は謝れるのだ。

 

 帝国の夜は工業化が進む割には空が見える。月も星も、スモッグだらけではない。そういえばこの前、スモッグ対策のフィルターシステムや効率的な燃焼システムを国民の麦の会が開発したとか書いていたかな。夜空を見上げながら夜更かしをしたなと午前2時の帝国の石畳を軍靴を鳴らしながら帰路を歩く、夜はまだ帝国の首都には活気がある。この時間ならではのキャッチや娼婦がそこら中におり、警らすらしてないこの時間は帝都の首都を魔都のように見せるには十分だ。

 

 視界の端にあのとき見た甘藤が見えた気がしたが、気のせいだろう。あっちにはバークマンの下の帝国青年将校が集まってるように見えたが宴会か?夜の街には色んな顔がある。俺もそんなことを考えながら歩く冷たい夜風は心地よかった。

 

 鍵を開けて部屋に入ると電気をつけたまま、眠った。それは深い眠りだった。

 

 

 

 一ヶ月ほど、仕事もなく用意された部屋で退官の準備をしていると慌てて走ってくる音が聞こえる。まさか、あと1ヶ月あるにも関わらず、もしや協商が侵略してきたのだろうか?

 「えぇい!冗談ではない!」

 

 もうすぐ退官の準備が終わるのになぜそうなる!だが、よくよく考えれば協商と共和国にゼートゥーアとレルゲンが対応してくれるはずだ。共和国からの横なぐりさえなければ、協商はだらしない国家だ。しかし、困ることは困る。それにしても副官がつかないんだな。もう辞めるからいいけど。

 

 「フリードリヒ・デニーキン・ジシュカ准将閣下!伝令です!」

 その言葉に俺は固まる。で、中身はどうなんだ?伝令は続けて答えた。

 

 「ルメリアで政変あり!ヨサップ・ブラウス率いる半島人民戦線がルメリアの半島部分で革命を起こしました!その混乱に乗じてカマル・エタータークの大国民議会と呼称ざれる部隊が首都を制圧し、トルクメーン諸共和国連邦を立ち上げました!その際、ダキア語や帝国語を話す謎の大釜を掲げた義勇軍が参戦したことで批判を帝国は浴びています!」

 知らねーよ。どうなってんだよ!俺の退官はどうなるんだ!

 

 

 


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