帝国兵となってしまった。   作:連邦士官

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第6話

 壁にかかる大学の旗を見た天使や金モールが見える。それになんの意味もない。

 

 地下道とこれに連なる空気穴や別の地下道を利用すれば俺だけでも逃げ切れるはずだ。しかし、これらの武器は‥‥。

 

 

 頭の奥から透き通る感覚がする。わかった。そうか、そうだったんだな。逃げ切れる確証がないのなら叩き潰せばいいはずだ。やれるだろ俺、いや違うなやらなきゃならない。

 

 「わかった。私が指揮を執る。わたしの名前はそうだな‥‥。」

 ダキア大学の旗に書かれた天使か。ロシア人で天使の名前‥‥そうだな。脳内に浮かんだのはソ連軍人で有名な男だった。

 

 「ミハイル・トゥハチェフスキー大佐だ。私に任せていれば問題はない。必要なのはまず、バリケードだ。急いで作るぞ。鉄筋と土嚢は山のようにある。これから奴らに‥‥我々労農軍の力を見せるのだ。これがだ、それこそが自由の戦いだ!皆、歌を歌おう、故郷の歌をこの戦いがその歌を紡いでくれる。」

 興奮してわけのわからないことを言ってしまったが、ダキア軍はブチギレている割には、彼らは大砲を持ってくるまで待ってくれる紳士的な行動で、それらしくは土嚢は積めた。更には元々訓練していたからか学生たちも銃の扱いを全員に教えることができた。

 

 先程の話を信じるとだ。相手は退役したアルトネスク将軍が育てた古参の精兵なのだろう。そこに大隊長と名のっていたことからわかるのは、規模は大隊クラスで、そこに原作知識から戦車や魔導師は持ってないだろうということだ。さしずめ彼らは歩兵大隊といったところか。暴徒鎮圧ならまだしもこちらは地下道に籠もっている事から推察するならば、余程の馬鹿か世間知らずではないと騎馬兵力はない。そして、ダキアにはあと軍用犬の描写もなかったことから、純粋な歩兵で構成された英国等擲弾兵のレッドコートに似たなにかだろう。

 

 転がるようにバリケードを越えて、その遮蔽物に隠れながら相手を盗み見るとダキア軍は戦列歩兵を組んでいた。

 やはり500人程度であるが問題は戦列歩兵を組んだ兵士が大きな入り口を囲んでいる。つまり、こちらには機関銃がないため歩兵銃で相手をするしかないが、突撃の衝撃力をバリケードなどで抑えられるかは神のみぞ知るセカイで絶望的ということだ。しかも、味方はお遊び気分の学生たちで戦闘間近だからか士気こそはまともだが役に立たないことばかり。

 

 軍靴のバルツァーでも立て籠もった時はもっとマシな戦力だったはずだがなどとそう考えたときに思った。待てよ。やつらは見る限り手榴弾はないことから大砲を取りに行ったはず。こちらには古い形式だが一門の野砲がある。先程見た歩兵銃は山のようにあり、学生たちは50人から60人前後、敵は目算500人。しかも、曲がりなりにも正規軍人。となるならば正面からまともに戦えばひとたまりもないが敦盛でも踊りたくなってきた。

 

 土囊とバリケードの山をスルスルと走って乗り越え、ハードル走の代表みたく急いでコレクリウスに質問をする。勝機が見えた。

 「コレクリウス。まず、我々ルーシーの援助をした銃は今は何個手元にある?」

 コレクリウスはバツの悪そうな顔をしながらも、箱を見ると渋りながら答えた。

 

 「その今このときになって言い訳ではありませんが、指示通り、労働団体などに給付したのですが市民たちは労働者の自由より今ある家畜のような繁栄を享受したいと思うように伸びず、歩兵銃は700あまり、拳銃は3000以上ですがそれが?」

 わかった。旧式には旧式の戦い方がある。そして戦列歩兵には機関銃だ。見つけたぞ勝ち筋を急いで指示を繰り返し、準備に取り掛かった。

 

 

 「叛徒共につぐ!大砲がついたぞ!今投降するなら死体がミンチになって混ざり合って、タタールステーキのようにはならずに遺族に送ってやる。わかるか?無駄な抵抗はやめろということだ。君たちは包囲されている!幾重にも重なった歩兵が作り出す暴力と大砲の火力は君らが考えているよりも凄まじい。そんなことをしても親が悲しんでいるぞ!」

 向こうから声がするが無視をして、挑発のために指示通り学生たちが拳銃を横にして数発撃ち込む。ダキア軍には当たらないが十分な意思表示にはなったはずだ。

 

 「わかった貴様らの返事はそれか!砲火用意!砲火後に突撃する!総員着剣、バヨネットは持ったな!いけー淫売の息子共を切り裂け!」

 バカほど声が大きく通る声を出せるおっさんだ。うるさくてかなわない。ダキア軍は景気付けか軍歌を歌い始めた。

 

 学生たちはそれの声に、怖気づいたのか共産主義の教義上は神を信じないはずなのにも関わらず、長ヒョロの眼鏡の学生が胸にバイブルを押し付けて聖句を唱え、何人かは十字を切る。中にはママとか言ってるやつがいる。更には聖句や十字を通り越して告解をするようにうずくまって祈るのもいるが、この世界でそれをするとか自殺行為である。頭メアリー・スーで劣化版ジャンヌ・ダルクの突撃農民女ぐらいのアホにされてしまう。そうなったら人間ではない。

 

 人間は数多ある可能性から神や奇跡に頼らなくても、そこに人間がいるだけで、人間という存在があるだけで、奇跡の中から命がある惑星が生まれたそれだけで、十分に神や奇跡を踏破してるじゃないか。なら、神や奇跡を待たなくても祈らなくても人は乗り越えていける。星や例えば神に頼らなくても人間はそれすらも克服して大地に精神の風を吹かせ、人間を作り出す大地を作れるのだ。それなのに神や奇跡に頼るのは親にすがりつくよりも恥ずかしいことだ。

 

 なぜなら、胸を張って言える。学生やダキア軍も含めて今ここにあるのは人間であると。それなのに何故か神に奇跡を祈るのだろうか?我々には神がいなくても、内なる神がある。イデアがある。人類が人間となり得たのもそれなら、人間こそが奇跡と神秘の塊なのだ。それなのに、それにも劣る神に祈るなんて事は愚かだ。我々一人一人が奇跡であり、神秘であり、道理である。なら、神は必要ないだろう。星や神から自立できるだろうと深く思いが込み上がった。人類万歳と内なる精神の大地と精神の海から万雷の声が響き渡る。

 

 「そんな神に祈るな。偉大なるルーシーに祈らなくてもいいが私、トゥハチェフスキー大佐を信じろ。人間の可能性はこんなものではない。神の奇跡すら乗り越えていける。これでも私はルーシー内戦で騎馬兵をやっていた。」

 嘘で鼓舞すると彼らは祈るのを一斉にやめた。騎兵は平均寿命20代と言われているその中でヒゲを蓄えた大佐が生きているのならそれは奇跡の英雄ということに他ならない。

 

 「では、神には祈りませんが大佐に祈らせてもらいます。皆聞いたか!神を恐れず死を恐れよ!そして奴らに封建主義の無策を叩き込んでやれ!大佐なにか一言。」

 コレクリウスの発言にウォーと叫ぶ彼らを見て、確証もないが信じるしかないんだろうなと思った。やってることは進撃の巨人でグリシャがやっていた始祖カプ厨同好会と変わらないだろう。個人崇拝は止してほしい。

 

 「この私達の戦いは語り継がれるだろう。しかしこれは終わりではなく、始まりだ。最初の一歩なのだ。国が諸君らに何をしてくれるかではなく、諸君らが国に何ができるかなのだ。したがってこの戦いは国への恩返しの始まりである。始まりが始まらずして何が始まりだ!人類が神という偶像を作り出せたなら、一人一人が偶像を食い破り、人間として大地に根付くことがなぜ不可能だろうか?これが証明だ!総員第一戦闘配備!」

 自ずとその場にいた学生たちがダキア軍に負けじと革命歌を歌いだした。全員が歌っている異様さがあったが熱狂と陶酔と恐怖が混じったはずのそれは母親の子守唄よりも心地が良く人間であると感じた。それもすぐに終わる。大砲が地下道の前のフェンスを吹き飛ばしたからだ。

 

 「総員突撃!叛徒を鎮圧せよ!」

 入口側から聞こえてきたが俺は無視した。そして、大声で学生にこう伝えた。

 

 「全員口を開けて耳をふさいでかがめ!」

 次の瞬間、紐を引くとドンと凄まじい音ともに突撃してきた第一波が吹き飛んでミンチになりタタールステーキのように飛び散った。

 

 「怯むな!進め!大砲を敵が持っていても連射は出来ん!力押しで押し切れるぞ!責務を果たせ!」

 それでも怯まずに勇猛果敢に突撃を敢行してくるダキア兵、蛮勇と言われていたがこちらが空を飛べないとコイツらこんなに強かったのか!溢れ出す兵士たちを後目に学生たちは火炎瓶を投げてから一斉射撃をバリケードの二列目から始める。

 

 地下道の幅は決まっていて彼らは正面の火力では数の優位を示せない。しかし、前列が倒れても死体を踏みながら確実に攻め寄る、前列を弾除けにしてるかのような突撃は突破力が高い。

 

 はずだったが、それは俺が考えた大量にある歩兵銃を使った三段撃ちで三人一組で一人は歩兵銃のボルトを引き、一人は渡し一人は撃ち、撃ったものは渡す役に戻して新たな装填済みの銃をもらう。これをその列に配備された歩兵銃の弾がなくなるまで撃ち、撃ち切ればバリケードを越えて引く、また歩兵銃を渡して撃つ擬似的な機関銃で引き撃ちだ。これを9個のバリケードで繰り返し、最終ラインまで行く頃には‥‥。

 

 「やりましたよ!大佐!大隊は壊滅しました!」

 コレクリウスは嬉しそうに言うが確かにダキア大隊は撃破できたが‥‥。

 

 「彼らも英雄だった。戦士だった。また誰かの息子で誰かの父親だったろう。そのように喜ぶな今倒したのは救うべき労農者なのだ。敵は貴族にあるはずなのに戦うのは人間同士だ。それに何をいっている?一度引き金を引いてしまったのだ。ダキア軍が無くなるまではこの戦いは続くぞ。どうする。この先は地獄だろう。」

 考えろ‥‥というかなんで真面目にゲリラしてるんだよ俺。というか未来はないんだろうな君たちには。

 

 コレクリウスは一瞬怯んだような顔を見せたがニヤリと笑って言った。

 「ならば、私は地獄で踊りましょう!お供しますよ大佐!」

 えっ?なんで俺が参加し続けることになってんだ!お前!おかしいだろそれ。しょうがないから手を貸しただけでなんで俺が革命軍のリーダーみたくなってるんだよ。そもそもこれはお前が始めた話だろうが‥‥そこだ!

 

 「コレクリウスくん。これは君の国の問題だ。私に頼りすぎるとルーシーの傀儡になるぞ。民族自決権による正当な行使活動なのだ。だから、私は君に任せた。ルーシーに援軍を要請してくる。それまでにしっかりと国を開放するのだ。」

 そして、俺は砲撃の難を逃れた自転車に乗るとその場から去ったそして、ルーシー大使館前に乗り捨てて置いた。面倒事はもう沢山だ!更に剥ぎ取っておいた先程の部隊のワッペンを置き、更に敵の隊長と思われる士官帽を置いておく。

 

 人に見られないうちにレザー製品をすべて、ルーシー大使館前に投げ捨てておいた。そして、労働者に栄光あれと刻み、誰も尾行してないことを確認して塀を登り、付け髭を燃やしてから帝国大使館に逃げ込んだ。

 

 そして、部屋に窓から入ると俺は何もしてませんとばかりに戦闘服に着替えて寝たが‥‥夜に爆発音が響く。あいつらやりやがったのか!?お遊びサークルのはずだろ!?

 

 工場などで火の手が上がるのを見えた。市民たちがパジャマを着て逃げ惑う。中にはスーツを片手に売春婦と見られる女性にさっさと走れと言わんばかりに叩かれてる男性もいた。そういうプレイは町中でやるなよ。それを見るといよいよかと思い、顔を備え付けの水道で洗った。

 そして、部屋の前に足音が響き、激しいノックが鳴る。

 

 「中尉!起きているか!」

 大丈夫だ。こうなる可能性もあったのがわかっていたから軍服と軍靴で寝ていたのだ。出しておいたピッケルハウベをかぶり、腰にサーベルをつけて拳銃もつけ、儀礼用に渡されていた歩兵銃を手に取るとバヨネットを着剣し、靴にはスパイクを履かせる。

 

 「今、起きました。」

 そう返事をすると扉を開いた。焦ったような男性は中佐の階級章の甲斐もなく、その威厳は霧散しており、手には拳銃を持っていた。

 

 「ジシュカ中尉!準備は‥‥出来ていたか!今の爆破は何だと思う?」

 汗を袖で拭きながら頬と顎をしきりに触っている。そして、拳銃をしまい込んでから震える手でタバコを一服吸ってからようやくまともに話すようになった。

 

 「おそらくですが、鉄兜団や何らかの革命組織による抵抗活動だと思われます。このままですとダキアの首都はアップルパイのようにこんがりと焼けますね。」

 できるだけ何もなかったような口ぶりで隠せたと思う。その間にも火の手が上がる。どうしてこうなったんだ!なんでこんなことに。

 

 「な、なるほど。ならばここはもはや戦闘地帯というわけだな。ならば、アルブレヒト・ボン・エッフェンベルク全権大使が総指揮官になるな。」

 責任を負いたくないのだろう。全権大使に指揮権を譲り、委ねるのだろう。しかし‥‥。

 

 「もし、全権大使閣下にここの死守を命じられたらいかがいたしますか?人員は何人いるのでありましょうか?」

 戦闘可能人数を聞いておかねばならない。まさか少なすぎないよな?

 

 「そ、そうだな。中尉と私を含めて24人余りか。全権大使閣下も従軍経験があり、猟兵経験もある男だ。あとは使い物になるかはわからないが別系統で憲兵隊も15人ばかりはいる。」

 39人が戦えるならあまり問題ないだろう。

 

 全権大使の執務室に入ると全権大使はスーツを着て待っていたようだった。そして、続々と大使館職員が集まった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 「諸君らに聞きたい。これは革命かね?」

 いや、見たらわかるだろうが。革命以外ならなんだ?ダイナミック地上げ屋の更地化か?火の手がもう一本また一本と上がった。

 

 「まだ、断言できはしませんがおそらくはそうかと。そして、エッフェンベルク閣下。我々の指揮権は本国との通信が遮断された以上、これらは全権大使たる閣下にあります。いかがなさいますか?」

 憲兵隊の一番上もそう、全権大使に告げるとほんの少し待ってから、全権大使は腕を組み考えているようだった。

 

 

 「私達の使命は帝国臣民を守るためにある。大使館とは小さいが帝国領土である。それが犯されようとしている。帝国臣民が叛徒共に殺されようとしている!ならば、このダキアにいる全帝国臣民を救うのが帝国のやるべきことである。総員、戦闘配備。これより帝国臣民救出作戦を開始する。我々は少ないが正義は我々にあるのだから勝つのも自明だ。これから大使館に逃げ込む臣民は拒まずに受け入れ、帝国軍が来るまで籠城をする。成功すれば諸君らに生きながらに二階級特進を全権大使たる私の権限で約束しよう。救出隊と警備隊に分かれろ以上。事は時間を争う!」

 全権大使が最後にガラスのコップにワインを注ぐと帝国の勝利にと投げて叩き割った。

 

 そして、班決めの結果は俺は帝国臣民救出隊の第2班の隊長に選ばれ、若い憲兵と歳をとった大使館の衛兵4人を連れてこの狂騒のダキアに宝珠と共に投げ出されることになった。ふざけんなよマジで。

 





 何だっけこれ。もっとうぽってとかなんというか日常系を目指していたはずなのに‥‥でもまぁ、実質銃が出てくるしうぽってとかだろう。

 昨日食べたフランス産のサラミとチーズでつくったサラダは美味しかったです。



 ある学生は言われたことを反芻し、行動に移す。

 まず、奥にある輪転機で軍が市民に大砲を向けてきたこと、こちらの若者の写真をより大げさに描き、無抵抗の学生にやってきたように描く。

 大佐はルーシーから大量の援軍を連れてくるはずだ。

 あの大佐ならしてくれる今回の勝利も大佐がくれたのだから、明日の勝利も約束してくれるはずだ。

 連帯する他の組織にも伝え、ビアホールや駅員の宿舎などでも声高に叫んだ。それだけでは駄目だったかもしれないが件のアルトネスクの復帰と軍の再編成のための臨時徴税の話が持ち上がり、それが伝えられるとまたたく間に人々は武器を取った。

 やりましたよ大佐!あとはルーシーからの解放軍を待つだけです!

 夜にこだまする怒号は人々を形作っていく。


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