帝国兵となってしまった。   作:連邦士官

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第8話

 

 外から聞こえる人々の大声を無視すると目的の自室についた。帝国旗を襷のようにして縛る。そして、重々しいチェロケースを開けて、その中身を取り出し選別する。

 

 その中身は数年前に話をしていた銃身が切り詰められたオートマチックライフルとその隣には水道管をこねくり回したような鉄の塊で可動部は少ない短機関銃。そして、デリンジャー。

 

 本命の最後のチューブ式の散弾銃のポンプアクションがガシャリと音を立て準備が終わったのを鳴り響かせ、背中に背負うと暖炉の火かき棒を蹴り上げ手に取る。持っているものがどこかの世紀末イニシャル戦士のようだなと思いながら軽く振る。戦いを決めると覚悟を完了させた。覚悟は決めるためにある。そして決めると思ったら完遂させるまでただ愚直に進めればいい。それが人間だ。

 

 「人が人を裁かずに神が人を裁くというのならば、人はなぜ近代だと言えるんだろうか?」

 存在Xがどういう存在かと考えるが人が人を裁かねば人の世ではない。神の恵みや気まぐれに振り回されて遊ぶぐらいならばそれは単なるおもちゃに過ぎない。人は人間であるべきなのだ。そうだ、そのためには俺は歩みを止めてはいけない。俺の軽はずみな行動が地獄を作ったのなら俺はそれを止めねばならない。

 

 地獄の責務にせっつかれて尻を蹴り上げられて、頭を泥水に突っ込み死に絶えようとも決して、曲げはしない。

 

 俺の責任は俺だけのものだ。背負いきれなくてもそれを載せて歩むぐらいはできる。そのせいで例えば自分が滅びようとも自分らしく、自由がありそれでいて退かぬ媚びずにただ歩み続ける。その先は地獄でも一筋の希望の光があり希望があるのならばたとえ、この世がパンドラの箱であったとしても唯一残った希望に向かい、星を見つけ歩くのが責任であるはずだ。

 

 それに星は皆の心の中にある。どんな人間も全ては星なのだ。そうじゃなくては我々は何を道しるべにこの世という航海を続ければいい?そうだ。星の導きが人々の航路を作るのならば‥‥そうだとするならば俺は進む。自分が奪った星の輝きを無駄にしないために。皆誰かの家族で星々なのだ。

 

 それを奪う責任は自分だけでいい。コレクリウスらに背負わせるわけにはいかない。自己満足と自尊心に吐き気を覚えるが可愛そうだが奴らに引導を渡す。そうじゃないと俺の罪は消えない。いや、罪は消したり償うのではなく背負うべきものだ。棺桶の中にまで持ち込むためのものだ。

 

 最後に葉巻をわざと肺まで吸うとニコチンの覚醒作用と鎮静作用で頭が冴える。

 

 そして、支給されている噛みタバコや嗅ぎタバコも紙タバコすらも持つ。たとえ自分の身を滅ぼすことになろうとも戦う。戦いの先にこそ道が続くのだ。

 

 そして、窓から見える黒波の人だかりに全権大使が熱弁を振るっている。それを持ってしても止まれない人々。日は下がり、夜の帳が下り闇夜に走り抜ける。

 

 塀を超え、民衆の作り出す壁を超えて、元議会跡にたどり着いた。そうもはや跡地なのだ。一部が焼け崩れた痛々しい跡。しかし、コレクリウスがここにいるという不思議な確信があった。不思議な感覚があった。これが外れたことはない。現にアジア通貨危機も、ロシア財政危機のときも、ITバブルやリーマンショックなどに至るまでピリピリとした感覚で全てはやり過ごした。これが外れたことなどがない。

 

 その感覚がコレクリウスがダキア議会の跡地にいると告げているのだ。脳内に広がる感覚。柱の後ろに哨戒兵がいる。

 

 音もなく背後を取るとつづけさまに首をねじり折る。そして、哨戒兵のつけていた腕章を剥ぎ取ると懐にしまう。罪の重さだ。

 

 民間人のお遊び革命サークルを一時の気の迷いで本当の革命をする火種にしてしまった。気が遠くなり耳鳴りに似た感覚で物陰に隠れると異変に気づいた一人が近寄ってくる。

 

 「どうした!だいじょ‥」

 言い切る前に前転で相手の横に飛びかかると追い抜きざまに脛に火かき棒を振り抜き、痛みで足を掬われた相手の横に立つと続けざまに首をかかとで踏み抜きへし折る。

 

 そして、この音に気づいたのか大勢の気配を感じる。外から警備の人間などが一階にやって来る。すかさず二階に登る。

 

 「おま‥‥。」

 鉢合わせした一人の学生にそのまま薬指をつかんで小手返しで投げると見せた首筋に発勁で力をかけ、宝珠でその力のまま首を粉砕し、椅子に座らせ壁に持たれるようにしておき銃剣を奪う。

 

 布で隠した水道管のようなサブマシンガンを下になげ、オープンボルトによる暴発と、手榴弾3発を投げてまるで特殊部隊がいるかのように偽装する。

 

 そして、魔力で強化した体で入ってこようとしたゲリラに火かき棒を投げつけて貫くと「助けて!熱いのに寒いよ!」と言う声が聴こえた俺はそれを頭を振って払うと議長室に向かう。地図はないがはっきりと感じる。あいつは議長室でこの未曾有の事態に呆然自失をしているだろう。

 

 音もなく議長室を見つけるが前に警備兵がいる。少し緊張しているようでガチガチだ。別方向の花瓶を小さい瓦礫を投げて壊す。

 

 「だ!誰だ!我々にはルーシーのトゥハチェフスキーたいさがいるんだぞ!」

 叫び走りながらそちらに向かい、拳銃を撃つ。角に来たときに足を引っ掛けるとバランスを崩し、前に倒れるそいつの首に銃剣を突き刺し、絶命させ目を閉じてやる。

 

 かわいそうにと思った。俺がやった責任だと思ったが起こったことはどうしょうもない。やるしかない。

 

 議長室に入ると、窓を見る後ろ姿のコレクリウスがいた。ゆっくりと振り返ってきてこちらを見ると笑った。火の手一気に吹き上がり、燃える町の外はまるで昼間のように一瞬だけ明るくなり、コレクリウスの輪郭を映す。

 

【挿絵表示】

 

 

 「助けに来てくれたんですね。トゥハチェフスキー大佐!やりましたよ。あと少ししたらルーシー軍が来てくれるでしょう?そうすれば街に平和が訪れてきっと市民に幸せか聞いたらみんな幸せですと答えるはずです。いや、そうなりますよね?大佐!答えてくださいよ!俺は間違ったんですか?貴方達から数百万以上の価値の武器をもらい。ダキア軍と戦いあの中では確かに英雄だった。ですが見てくださいよ。大佐、これを!このざまを!ルシウスが殺された。マリニコフもだエーリッヒだって死んだ。アンリだってだ。おかしいでしょ大佐!あの地下道ではみんな英雄だった。なぜ、みんな街に出たのなら人殺しや放火魔扱いをされてこうやって人々に非難されないといけないんです!答えてくださいよ!大佐!」

 俺には答えがなくて黙るしかなかった。それを見てコレクリウスはまだ続ける。言い足りないだろう。それも仕方がない。俺が悪い。

 

 「みんな、女にもてたいとか誰かに認められたいとか不純な気持ちはあったかもしれない。しかし、見てくださいよ大佐。やっとの思いでこうやって半ば解放しているのに俺達を誰も頼らないし仕事もない。こんなことってありますか!なら、いっそ、ずっと地下道の中のほうが良かった。あの中には戦友もいた規律もあった笑いだってあった。今のこの街にはないものだらけだ。大佐、俺はさっき寝ていた時に夢を見たんです。人々が俺達を受け入れてくれて、こんな暴力なんて訴えかけなくてもみんなが話してくれて、そこでは飢えだって今よりずっとなくて、そこにいたいと思ったら死んだ仲間の顔が浮かぶんです。どうしたらいいんです大佐。」

 

 ねぇどうしたらと言うようにすがりついてくるように宙を、空を手が這う。それを見て俺は近寄っていって、迷子の子供を見つけたように抱きしめてやった。

 

 「大佐、お願いです。正しい世界を‥‥。」

 それを言い切る前に俺はデリンジャーをコレクリウスに押しあて、引き金を引き、続けざまにスリングストラップを滑らせて散弾銃を撃つ。

 

 驚いた顔を浮かべるコレクリウスが宙を舞い、最後に口を動かす。それは『ありがとう』と言っていた。物音を聞いた一階に集まっていた奴らが上がり切る前に、紙タバコを一吸いして、口を開け、噛ませて立てる。そして、コレクリウスの死体の目を閉じさせた。

 

 そして、窓ガラスを散弾銃の銃床で叩き割ると扉の前に集まる人の気配にオートマチックライフルを撃ち込み、闇夜に浮かびながらもダキアの火を見ていたまだ2日しか経っていないのに世界中にこれから起こるだろう大戦を肌に感じて未来にみえた。だとすればこれはまだ前菜だ。この程度各地で起こるのだろう。涙と血は枯れずに絶え間ない母なる恵みを与える大河のごとく人々が流す。ラインやテニムズいや他の地域もそうかもしれない。いくらの血がほしいんだ時代の悪魔よ。

 

 俺自体が悪魔なのかもしれないがこのような無駄な血は止めてやる。存在Xが戦争を広げるならそれを刈り取ってやろう。信仰心が奇跡を起こすなら、人間が奇跡を起こしていると言って同意だ。人間は神や天使に頼らなければならないほど弱くはない。これはお前に対する宣戦布告だ。絶対的に人の死を悲しみを痛みを減らしてやる。それが俺にできることだ。それこそが人類が求め続けた理性や合理性だ!神はもう死んだ。死人はちゃんと死んでなければだめだ。誰もお前に頼らない。代わりに頼るのは人と人だ。

 

 闇夜に紛れて、乱暴を働く暴徒を続けざまに斬り伏せ、落ちていた石を身体を強化して投げる。かつての戦争は投石でたくさんの死人が出ている。ならば、陣笠もヘルメットも被らない奴らの頭に石が当たり吹き飛ぶ。瓦礫の山から鉄筋を拾い、瓦礫で叩いて伸ばして苦無状にすると音もなく次々に始末する。

 

 着実に暴徒は減りつつあった。そして、大使館の前に着くと反乱側の人混みに紛れ込んだ。空が白み始める。地獄の三日目の到来だ。そして帝国大使館を見据える。

 

 大使館前につく頃にはもはや昼前と言っていいほどの時間が流れた。俺が終わらせねばならない。それは責任、俺だけのものであるから独占したって構わないだろう。俺は全権大使がまだ声も絶え絶えで枯れているが発言をしているのを確認した。

 

 「貴公らも近代社会に暮らす諸姉兄らと認め、問いたい。現在我々帝国軍は目下、このような事態の打開のために治安維持派兵を決定した。これ以上続けるなら、叛徒として諸君らを鎮圧せねばならない。それは私としても御免被る。これらを招いたのはダキア大公の無為無策であり、諸君らは被害者である。ならばなぜ裁かれようか!なぜ大公だけが無罪になろうか!私は納得ができない。であるからして、今ならまだ間に合う。帰順し、家に帰るのだ重ね重ねいうが君らは誰かの大事な家族なのだ。ならば、帰るべき場所はまだある。それは一番嬉しいことだろう。」

 全権大使はパフォーマンスのためにか被っていた完全金属製の古ぼけたピッケルハウベを脱ぎシャコー帽にかぶり直し、更にサーベルを後ろに投げた。それにより丸腰の大使になったのが見えた。

 

 そして、列は全然前に進まずにまだ演説は続き夕方になりかけの頃、1つの違和感が駆け巡った。

 

 その瞬間、群衆の中でも明らかに‥‥。おかしな動きが見えた。わーわー言ってるが声は後ろの方からしか聞こえてこないのだ。まるで台形の様に人が溜まっているのだが聞こえるのは必ず、後ろの底辺。まるで焚き付けてるかのように決まって聞こえる。

 

 これは何者かが工作をしていると振り返ると明らかに付け髭だろう老人がいた。

 

【挿絵表示】

 

 

 そして、全権大使が次の発言に移ろうと疲れからか群衆から目を離した瞬間に男は新聞紙に包まれたものを全権大使に向けると次には甲高い乾いた音がこだました。

 

 一発目は全権大使の肘、二発目は音に反応したあの臆病で動揺していた中佐に覆いかぶさられたが遅く肩、そして次に中佐のピッケルハウベが宙に飛び、4発目は中佐の胴体あたりを貫き、5発目は宝珠で飛び上がったこちらの防殻術式で弾き返される。衝撃で吹き飛んだ新聞紙の中身はモーゼルC96を改造したようなフルオートの拳銃だ。

 

 全て耐えきると、突然の銃声にパニックになり大使館に入り込もうとする人々、それに対して大使館の前のバリケードを抑える大使館の中の人々。

 

 犯人は慌てて逃げようとするが遅い。苦無のようにした鉄筋製のトレンチナイフをなげ、足を穿ち、予め倒れるだろうと予測した場所に向かい掴み上げると急上昇をし、そのまま真下に急降下と浮上を繰り返し、男は失神する。

 

 そして、自害しないように口に布を詰めると腕と足を縛り、大使館の煙突に縛り付けた。

 

 声が大きく、聞こえる。それに巨大な騒音もまるでなにか巨大なものが近づいてきているのを感じた。

 

 刹那、ダキアの城から爆発音が聞こえた。そして、騒音がやがてある曲を奏でる。ワグナーだ。ワグナーの音楽だ。これはタンホイザーだ。爆音のタンホイザーが流れ出し、俺や人々が空を見上げると無数の落下傘が降下を繰り返す。

 

 タンホイザーとは随分と皮肉が聞いている曲だ。次の瞬間にはもっと巨大な声がこだました。

 

 『親愛なるダキア臣民に次ぐ。繰り返す、親愛なるダキア臣民に次ぐ。私は帝国軍、近衛軍団所属ハインリッヒ・フォン・バークマン特務魔導中将である。繰り返す。近衛軍団所属ハインリッヒ・フォン・バークマン特務魔導中将である。2日前に、我々はダキア大公フェルディナント殿下が“病気”により執務を断念され、本日をもって、退位なされて即時に戴冠されたキャロル2世の要請を我々は受けた。そして、今回の騒動を気に病み政権は快く総辞職を自ら志願し、“有事の際の臨時的に”アルトネスク上級大将、アヴーレシク前元帥、プーレゼン元帥による政権が組閣されたのを確認している。もはや、無意味である。我々は先遺隊であり、大公と政権の承認の元にダキア西部より、治安維持部隊が2個軍団規模で派遣され始めている。我々はあのロマノフスキー王朝の悲劇が諸君らに起こらないように我々、臨時コンドル軍団が派兵された。これにて終わりである。これより、要請にしたがい叛徒の掃討作戦を開始する。』

 

 そして、次々に降下してくる帝国軍に少ないとはいえ一切のダキア軍が対空防御による射撃をしないことから皆、理解できた。

 

 誰かが言った。

 「終わったんだ!終わったぞ!」

 

 その叫び声が街の中を包み込んだ。そして、声の主のバークマンが降下してきて、俺の肩に手を置いた。

 

 「よく耐えた。貴官ならできると思っていた。フリードリヒ・デニーキン・ジシュカ上級大尉。」

 いや、俺中尉だし。というかバークマンのおっさん近衛軍団なのかよ!色々疑問しかわかないよ!

 

 「失礼、バークマン閣下、小官は中尉なのですが?」

 そう告げるとバークマンはニヤッといたずら小僧のように笑って俺に告げた。

 

 「貴官でもわからないことがあるらしい。ここは今は戦場だ。それに前回あったときには身分を隠していた分も含めて野戦任官で今、上級大尉にした。なに心配するな。私が保証してやる。野戦任官だが私が追認してやるさ。だから、掃討戦に参加せよ。これは中将命令だ。欲しいものはあるか?私の副官のジシュカ上級大尉?」

 は?えぇっ?よくわからないうちにバークマンに連れ回され、副官相当という扱いで連れ回されそうになったがそれよりも‥‥。

 

 「遠慮なく。犯人は捕縛しましたが全権大使が撃たれました。それに中佐がかばって中佐も。医療班を用意していただきたい。」

 大声でバークマンは笑いあげる。

 

 「本当に欲がないな。そうこなくては!医療術式に熟練させたのを大使館にあつめよ!ついでに無理やり連れてきたあの宮廷医師がいただろうあれも降下させろ。大事を取ってあとやつを連れてこい。ガーデルマン魔導中尉だ。私も足を高射砲で吹き飛ばされたことがあるがこのように付いている。あいつならなんとかするだろう。」

 バークマンの通信術式を聞きながら地獄は終わり、規律が戻ってくるのを心に感じた。

 

 そして、その後死ぬよりもおぞましいハードワークとバークマンがどうせならと訓練兵まで根こそぎ無理やり戦闘訓練として参加させていた為に各方面からの苦情や独断専行に対する嫌味、訓練兵達のお守りや機甲師団の指揮はわからないから計画を立てるようになどの無茶振りと補給要請書類のデスクワークまでやらされた。

 

 これで上級大尉にしかなれないって割に合わないよな。

 

 なんで、バークマンが勝手にダキア軍の近代化計画までの立案をしてるんだ?俺には休暇もないのに。

 

 地獄のようなダキアは終わりを告げた。





 ダキア編終了です。

 なんだろうね。

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