ウタワールド…と言っていいのかも分からない、形容しがたい空間。
今ここには私と、目の前に座るルフィしかいない。
最後の力を振り絞った歌で生まれたこの世界では、今は二人きりだった。
「いつの間にか、ルフィの方が背が高くなってたんだね。」
最初は気づかなかった。
いつまでも私の後ろにいるだけの子供のようだった幼馴染は、いつの間にか私の遥か前を進んでいた。
知らないうちに色々な出来事があり、障害があり、成長があったのだろう。
よく見れば傷だらけの、それでも立派な体がそれを物語る。
…最も、今の私にそれを詳しく知る手段も時間もないが。
「私にとっても大事な帽子…いつかきっと、これがもっと似合う男になるんだぞ?」
メモリーにしていた破れた麦わら帽子を修復し、ルフィに返す。
海賊王になって新世界を作る。
確かにルフィはそう宣言した。
昔からやるといったらやるのがルフィだった。
きっといつか、シャンクスも超えて海賊王になって、そして新時代を作るのだろう。
それで十分だ。誓いあった目の前の友が成してくれるなら、私の新時代はもう終わりでいいだろう。
あと少しで、現実での歌も終わる。
既に自分達二人以外は現実に帰った。あとはルフィを見送るだけ。
…そして、私も夢の世界に行くだけだ。
やっとこれで楽になれる。
肉体の死が間際というのに、私は冷静だった。
…あくまでルフィの頬を伝ったそれからは、目をそらしながら。
ブツッ
「………え?」
ふわふわとしていた感覚が急にはっきりする。
淡い光に包まれていた世界がしっかりと輪郭を取り戻している。
…何より、何かが切れるような感覚の後、現実の私の見てる光景が見えなくなった。
…いや、最後に…最期になにがあったか、それだけは認識していた。
倒れる体。口から溢れ出る血。開けることの出来なくなっていく目。
そして、
『ウタ!目を開けろ!ウタ!!』
必死に呼びかける、父の声。
つまりこれは、そういうことなのか?
ひょっとして私達は今、最悪の状況に立たされてるのではないか?
生まれてしまった疑念は、少しずつ確信に至ってしまっていく。
「……ウタ?どうした?」
様子のおかしい私に気づいたのか、ルフィが顔を上げる。
「……あの、ルフィ…その…ごめん。」
「今のやり取りの間に外の私死んじゃって……その……私達二人帰れなくなっちゃったみたい……。」
「え?………………。」
「……………………。」
…しばらく二人で沈黙していた。
「えーと…その…あー…………」
「……まっ負け惜しみ〜……?」
「エエエエエエエエエエ!?」
ルフィの絶叫が響く。
この日がルフィと私の、この無限の牢獄での生活の始まりだった。