二人、この世界にて   作:一般ラインハルト

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10.5話 冀求

「トラ男、交代に来たぞ?…二人の様子は?」

「あまり変わらねェな…」

 

今もなお、麦わらの一味、赤髪海賊団、ハートの海賊団はエレジアからそう離れていないある島に停泊し、一時休戦としながら未だ目覚めぬ船長を保管していた。

海軍も二人の皇帝の海賊団を相手にする気がないのか島に接近することはない。

 

この島に来て、もうすぐ一月が経とうとしている。

その間にこの島を訪れた無法者は少なくない。

 

最初に来たのは革命軍だった。

かつてドレスローザにいたという参謀総長が眠るルフィを見たときの悲痛な顔をローは未だ忘れられない。

次にバルトロメオが大船団所属の者たちを呼んできた。

バルトロメオ本人は赤髪海賊団と話をしてしばらくダウンしたが、

その後共にこの島に残っている。

他の者たちも船長の目覚めを信じ、再び各々の居場所に戻った。

恐らく最も驚かされたのは四皇、ビッグマムの次男だっただろう。

敵対関係にある相手が鏡から出てきたときは皆が警戒したが、

あくまで顔を見に来たという本人の言葉を信じ、シャンクスの監視の元面会が行われた。

真意は計れなかったが、眠る好敵手を見たカタクリの顔に喜びがなかったのだけは理解できていた。

どうやら未来を読める見聞色すら、二人の声は聞けなかったらしい。

 

 

そうして打てる手もないまま、ただ時が進んでいる。

「…うん、二人共ちゃんと綺麗なままだな」

「それじゃおれは少し休むぞ。何かあったら呼べ」

「あぁ、ありがとうな…トラ男がいなかったら、ここまで綺麗に保存はできなかったよ」

「…気にするな、気まぐれだ」

 

そう言って、部屋を出る前に二人の顔を見る。

 

あの日以来何も変わらず眠るルフィと、息もせずただ横たわるかつての歌姫。

息のある自分の同盟相手はともかく、もうひとりは一度息の止まった人間。

はっきり言って蘇生など現実的ではなかった。

 

何よりも絶望を知らせたのは、昨日の出来事だろう。

 

〜〜

 

昨日、チョッパーが二人を見ている間、経過報告を兼ねてレッドフォース号に行っていた時だった。

船医ホンゴウと船長赤髪に異変なし回復なしといういつも通りの報告をしていたとき、

若手だというロックスターが慌てた様子で幹部を集めていた。

 

そちらに向かう二人に様子見についていけば、その先にあったのは一つの小さな宝箱だった。

どうやら、赤髪海賊団傘下が見つけたあるものが先程献上品として届けられたらしい。

幹部達の前で、船長がそれを開ける。

 

ざわめきが起きた。

その箱の中に入っていたのは、一つの果実だった。

桃色に鮮やかな線が入り、緑の音符が添えられたその果実には、

海に嫌われた証である渦模様が刻まれている。

 

間違いない、悪魔の実だった。

そしてその見た目から察するに、その実は─

 

 

「………ウタ」

 

─歌姫ウタの、ウタウタの実。

 

同じ悪魔の実が2つ同時に存在することはない。

再び現れる条件は、前の能力者が死亡すること。

 

つまり、ウタウタの実が現れたということは─

 

「……一度戻れ、トラファルガー」

そう言って箱とともに船室に消える四皇の背中が…

ローには、随分小さく、寂しく見えた。

そこにあったのは、娘を喪った父親の姿だけだった。

 

〜〜

 

…その事実は、他の海賊団にも伝えられた。

改めてのしかかる事実に、自分の全員含め涙するものは少なくなかった。

それでも、今日も歌姫の亡骸は麦わらのルフィの隣で保管されている。

チョッパーもホンゴウも、蘇生処置の道具を外すこともなく変わらず二人を見ている。

 

はっきり言って、奇跡が起きても麦わら一人だとローは思っていた。

一度確実に死んだ人間が蘇る、そんな与太話あるわけないと思っていた。

 

 

それでも体内の毒を取り除き、損傷を修復し、心臓マッサージを出来るようにされたその肉体を、今なお状態維持したまま保管しているのは…

自分もどこかで、奇跡を信じているからだろうか。

 

 

 

かつて、死ぬはずだった己の運命を捻じ曲げてくれたこの男が、また奇跡を起こすのではないかと。

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