怪しく輝く空の下を、二人で歩く。
やはり虫一匹もいない世界では、風の音以外に何も感じない。
「いや〜、なんだか懐かしいなァフーシャ村!」
「…そうだね。」
空中に浮かぶフーシャ村。
昔見た記憶の中では、青い空が広がるのどかな場所だった。
それが今では、あの怪しい空のせいで落ち着きがない。
家畜も村人もいないこの場所は、もはや恐怖すら感じてしまう。
…第一、近づくとすぐに違和感がわかった。
このフーシャ村はフーシャ村のようで何かが違う。
よくよく見れば違和感がある。
その正体は、ルフィが先に気づいた。
「あり?ここって魚屋のおっちゃんの店だよな?」
本来魚屋があったそこは、ただの倉庫になっていた。
ルフィに言われて初めて思い出した時だった。
目の前の倉庫が歪んだかと思えば、そこには魚屋があった。
「すげー!何だ今の。」
ルフィは目を輝かせてるが、私はそれどころじゃない。
それだけじゃない。風車のあるはずのとこに小屋が。
家のあるはずのところに空き地が…。
場所によっては、靄がかかったかのように歪んだ場所もある。
明らかに変なところをルフィが指摘し、それに気づくたびに風景が修正される。
どうやら昔の曖昧な記憶がそのまま再現されているようだ。
ルフィの指摘のおかげで、フーシャ村は少しずつ解像度が上がっていった。
そんな中、二箇所だけははっきりとしている場所があった。
一つは港。すぐ目の前で海の途切れているこの港は、私がフーシャ村に上陸していたあの港だ。
あのとき、初めて私はルフィに会った。
今でもその記憶は強く残っている。
そしてもう一つが、この酒場だった。
シャンクスも私もルフィもよく来ていたこのマキノさんの酒場は、今でもはっきりと覚えている。
3人で並んで食べていたカウンターも。ルゥ達が騒いでいた席も、あのとき歌ったテーブルも。
何もかもがあのときのままだ。
「懐かしいなァ、マキノや村長元気にしてるかなー。」
あちこちを眺めながらルフィが言う。
「…ルフィは、最後にいつ二人と会ったの?」
「二年前だな!船出の時に見送ってもらってそれっきりだ!」
ルフィは既に2年もの間海賊をしていたのか。
私がまだこの島で呆然としていた頃には、ルフィは立派な海賊になっていたのだ。
…そんなことすら、私は知ることが出来ていなかったのか。
「なァウタ!せっかくだしあれやろう!チキンレース!」
「え?」
まさかのこんな時にチキンレース?
本気でルフィの思考回路は分からない。
「…追う役がいないんだけど。」
「あ、そっか。じゃ早食いにしよう!」
「…分かった。」
指を鳴らせば、懐かしいチキンが出てくる。
昔マキノさんが用意してくれたものと同じ匂いだ。
「「321!」」
合図と共に一気に口に入れていく。
やはり単純な早食いではルフィの方が早い。
「はいジュース!」
「ありがとう!…あ!」
「はいご馳走さま!」
ジュースをあげた隙に完食する。
いつもどおりの勝ち方だ。
「ずりィぞウタ!」
「出た、負け惜しみ〜!」
何度も、つい先日もやったやり取りだ。
昔はよくこうやっていたと、少しの間だけ懐かしい気持ちになれた。
「よし…それじゃ肉も食ったし、次のとこ行こうぜ!」
「あ…うん。」
ルフィが手を伸ばして次の浮島に行こうとするのに掴まる。
基本移動はこれで済ましてしまっている。
(…楽しかったな)
先程の勝負のときだけは、悩みを忘れてしまうことができた。
心から勝負を楽しめた。
…ずっとこうなら良かった。
でも、それは一度ルフィが拒んだはずだった。
…なのに、何故ルフィはこれほど元気なのだろう。
出ることを諦めてるわけではないはずなのに、何故…。
その答えは、まだ見つけられなそうだった。