「…ん…?」
ウソップが目覚めたのは、エレジアの観客席ではなく、馴染み深いサニー号の芝の上だった。
「…起きたか。」
そう声をかけられた方を見れば、ゾロが端に腰掛けている。
「ここ、現実…だよな?」
「おう、お前はしっかり戻ってきてるよ。」
サンジがタバコを吹きながら答えてくる。
「そっか…良かった。」
少しずつ頭が覚醒する。
仲間、そして海賊として尊敬する父親達との協力によって魔王を倒し…
そして歌姫の歌声を聴き、意識を失い…。
「…そうだ、プリンセスウタは!?」
…二人が顔を伏せる。
それだけでウソップにも、なんとなく察しがついてしまった。
「…そうか…。…ルフィのやつは大丈夫なのか…?」
幼馴染と言っていた。
かつて固い絆のあった二人が、こんな形で別れてしまうなど。
自分達の船長を思い胸を痛めるウソップのそばで…他の皆がより悲痛な顔をする。
「…ウソップ。」
サンジがタバコを口から離しながら向き合う。
「…落ち着いて聞け。」
〜〜
「…これで、とりあえず処置は完了だ。」
ハートの海賊団の潜水艦、ポーラータング号。
内部の手術室では、トラファルガー・ローとシャンクスがいた。
目の前の手術台には、二人の人間の体が横たわっている。
「すまないな。」
「気にするな。これも腐れ縁だ。」
そう言ってローが二人の体を見る。
「言っておくがおれは医者だ、マジシャンじゃない…今できるのはここまでだ。」
「分かっているさ…」
部屋の外が騒がしくなる。
また一人起きたのだろうと、二人が扉を開ける。
「トラ男!ルフィは……っ!」
ウソップの目は、確かに二人の体を捉えた。
片やルフィは点滴用のチューブがつけられおり、生命維持が可能なようになっていた。
緩やかな呼吸と共に胸が上下に動くそれが生きていることを証明していたが…目覚める気配はまるでない。
もう片方…すでに心臓が止まったウタは、まるで時が止まったかのようにその場にある。
オペオペの力で特殊な処置がされたその体は、その冷たさと対照的にまるで生きているかのようだ。
「…そんな……ルフィ…。」
「…すまないな、ヤソップの息子。」
そう言って、シャンクスが肩に腕を置く。
「…麦わら屋は死んじゃねえ…が、起きもしない。恐らくだが、精神が戻りそこねたみたいだ。」
ローが未だ俯いたウソップに説明をする。
「…戻ってくるのか…?」
「それは知らねェ…が、これも縁だ。しばらくうちで命だけは繋いでやる。」
「………すまねェトラ男…!すまねェ……!!」
「…ならさっさと船にもどれ…これから起きてくる奴らに先説明しろ。」
「…あァ、分かった…!」
そう言って涙目で戻るウソップを見送りながら…ローはエレジアでのことを思い返していた。
〜〜
起き上がったローの前に現れたシャンクスの背には、二人の体があった。
一人は自分もよく知る同盟相手の体。
もう一つは今回の元凶…その、心臓の止まった体。
『…麦わら屋は、何があった。』
ただ眠っているように見えるその男。
しかしそれがただの眠りでないことは、己の見聞色が教えてくれた。
『…ルフィは、恐らくあちらにいるままだ。』
的中してほしくなかった予想が的中する。
もしそれが本当だとしたら、目の前のルフィは二度と起き上がらないことになる。
『お前がルフィの友達の医者だという話だからな…お前にルフィの体を頼みたい。』
『…友達じゃねェ。…理由をいえ。』
『…ルフィは昔から血の気が多いからな…もしかしたら…いつか戻ってくるのかもしれない。そんなときに体がなくちゃ大変だろうからな。』
…確かに、いつまでもあそこにいるような男じゃないことは自分も知っている。
…目の前の皇帝は、それを信じているからこそ、医者の自分に託したということか。
『…それじゃ、悪いが任せるぞ。』
そう言ってルフィの体だけを置いて去ろうとしたシャンクスを…ローは呼び止めた。
『待て…そっちの体も寄越せ。こっちで綺麗に保存してやる。』
『…何?』
シャンクスがこちらを向く。
『仮にそいつら二人があっちにいるとして…一人だけ戻る麦わら屋と思うか?』
自分は何を言っているのだろう。
医者として、一度心臓が止まった人間が戻るはずないと分かっているはずだ。
…なのに、何を口走っているのだろう。
『…そうか……あぁ、そうだな……。』
そう言って、寂しそうに笑った四皇の顔が…何故かローの中に強く印象づけられた。