潮風が吹く。
この風はどこから来ているのだろう。
この風のもとに向かえば外にでも出れるだろうか。
そんな馬鹿げた考えを捨てて海を眺める。
ルフィが見たいと行った港には、船の一隻もありはしない。
「そうそう、ここからサニー号が上がってきてたんだよ!!」
そう言ってルフィが石造りのそれを叩く。
聞いた話だと、あのとき私を止めに来ていた中にいたあの謎の小さいなにかは、なんとルフィ達の船らしい。
私は確かに港から船は消しはしたが、なんでルフィ達の船がそんな状況になったかまでははっきり言って知らない。
そんなことがあるのだろうか。
…いや、昔シャンクスが話していたような気もするが、思い出せない。
「それであいつサニーサニーってよ、びっくりしたなー!!」
「そうなんだ…随分可愛らしい船だったね」
私の中での海賊船といえば、それこそレッドフォース号だ。
あの船の竜の船首と比べると、あの時現れていたあのライオンは随分可愛く見えた。
「そうか?サニー号の前のメリーもそんな感じだったぞ?」
「…?あの船の前の船もあったの?」
最初からあの船というわけでもなかったのか。
いや、確かにフーシャ村に大型帆船を得られる場所はないのだから
何度か乗り換えはあったのだろうが。
「そっか、ウタは知らなかったよな…紙あるか?」
「え?うん…」
言われるままにペンと紙を出して渡すと、その場でルフィが何かを描き始めた。
正直この時点でどうなるか察しがついた。
「ほら、これがメリー号だ!!!」
「ごめん、流石にわからない」
これが帆船?バナナかなにかではないか?
そう思う落書きが手渡された。
とてもではないがこれではどんなのか全くイメージがつかない。
「…下手、全く上達してない」
「えーっ!?」
12年間絵心は育たなかったようだ。
あのときの麦わら帽子のほうが単純なぶんまだ分かった。
「そっかー…メリー号見せてやりたかったんだけどな」
そう言って落ち込むルフィを見るとなんとなく罪悪感が湧く。
何か手はないだろうか。
しかし絵で分からない上言伝だけで完全再現も難しいともなれば……。
「…ねぇルフィ」
「ん?」
…少し、あることを思いついた。
「ちょっとさ、頭貸してくれない?」
「なんだ?別にいいけど」
ここはウタワールド。ここでは私の思いのまま。
…試したことなどないが、もしそうなのだとしたら…
「ありがと…それじゃ…」
「おう」
…ひょっとして、他人のそれにも干渉出来はしないか?
座るルフィの目の前に膝をつく。
「ちょっと、その船のこと思い浮かべてくれる?」
「おう、分かった」
そう思って目をつぶるルフィの…その額に、自分のを合わせた。
─結果から言うと、私の目論見は成功してしまった。
合わせた場所からルフィの思い浮かべるそれが流れ込んで…
気づけば、水しぶきが起きていた。
ずぶ濡れになりながらもそちらを見れば、そこには一隻の小さめな帆船が浮かんでいた。
ところどころが傷つき修理の痕が目立つが、可愛らしい羊の船首が愛嬌ある船だ。
「すげェ!!ほんとに出せたのかメリー!!」
ルフィがはしゃぎながらその羊の頭に飛び乗る。
「ここおれの特等席、いーだろ!!」
そう言って笑うルフィに苦笑してしまう。
すっかり昔の子供に戻ったようだ。
「これがルフィの前の船?随分ボロボロだけど」
私も船に飛び乗る。
マストや船体など、あちこちに修理の痕が残っている。
「メリーのときは船大工いなかったからなァ…サニー号と一緒にフランキーが乗ったからよ!!」
「…えーと…フランキーって言うと…」
「ほら、あのデカいロボットみたいな、パンツのやつ!!」
「あー……」
そう言われると確かに一人そんな格好の人がいたのを思い出す。
口から火を吐いたりと人間離れしていた印象だ。
「あの人が船大工なんだ……」
そう言えば、私はルフィの仲間についてほとんど知らないのだ。
彼らとゆっくり話す暇もなかった。
「そっか、ウタにはまだあいつら紹介してなかったよな…ヨシ!!」
何かを思い立ったようにルフィが特等席から私の前に飛んできて言った。
「お前さ、おれの記憶見れるんだろ?」
「え?うん…多分」
「じゃあよ、見せてやるよ!!おれの冒険の話!!」
to ae continued 『煩悶』