砂のサイレンススズカを超えろ 作:ステイヤーな馬好き
調教師。
それは厩舎における社長のようなものだ。
馬主と競走馬の預託契約を結び、競走馬を走らせて勝たせる。
…スイートブドウの05は流星に柵越え。
合わせて考えれば―――
スピード 73以上
勝負根性 S以上
パワー C以上
健康 ?
賢さ S以上
精神力 S以上
柔軟性 C以上
瞬発力 S以上
と、ほぼ完璧な馬だ。
だが、今のスイートブドウの05を見て「走る」と言える相馬眼を持つ人物はそうそういまい。そう言えるくらいみすぼらしい馬体。牡馬どころか牝馬と比べても小さいその馬体は恐らく適正馬体重が400kg前後というレベルだ。どこのメロディーレーンだ。
「スマンが、いくら大江田さんの頼みでもこの馬をかぁ…」
仕方あるまい。いくら少数精鋭とはいえ、当たりの馬はそう多くは無い。
「未勝利では最低限終わらんことは保証しよう」
「うーむ、この世代の牡馬は既に2頭受け入れる予定なんだ。済まないね」
「そうか…滝枝先生、またの機会はよろしくお願いしますよ」
「こちらこそ」
やはり厩舎の空きがないな…
「おや、大江田くんじゃないか」
「内藤先生、お久しぶりです」
珍しく美浦を歩いていると、馬を引いた内藤隆之調教師に会った。
「ほう、2歳の牡馬か。うーむ…私の厩舎の後継者に預けてみる気はないかね?私の姪の娘でね」
「佐々野技術調教師ですね。3年前から内藤先生のところにいらっしゃる…」
これは有名な話だ。弱冠28歳で調教師試験に合格した女性…佐々野ありす氏。名伯楽内藤隆之調教師の姪の娘であり、幼い頃から内藤厩舎に入り浸っていた少女だった。
調教師試験に合格する前から彼女を後継者に指名していた内藤調教師の愛弟子である。とはいえ、その若さと女性調教師…しかも騎手経験者でもない彼女に不安を覚えて、転厩の話も多いと聞く。
現に内藤厩舎の馬房は最大時28だったが、既に16まで返還しており、彼女への引継ぎと同時に12まで返還予定のはずだ。
「来年のクラシック世代の牡馬が転厩してしまってね…」
「それは…ありがたい話ですが…よろしいので?12馬房30頭の中の1枠…今いる馬の整理でいっぱいだと思っていましたが…」
「予想以上に転厩が多くてね…ありすには気張って欲しいものだよ」
内藤先生は目を光らせるように続けた。
「それに、君のところのスイートブドウの05は見せてもらったけど、意外と走りそうじゃない?」
内藤先生の相馬眼は恐らくSレベルだろう。これまでもセールなんかではお世話になったから、それは信用出来る。
「…担当厩務員に橘さんをつけて頂けるなら」
「分かった。手配しておこう。ありがとう」
内藤先生のラストウィークまであと3週間。入厩までには馬名を考えなければいけないな…