砂のサイレンススズカを超えろ 作:ステイヤーな馬好き
俺は3度目の春を迎え、恐らく2歳…つまり競争年齢に達した。
芦毛の馬体は戦国時代なら『連銭芦毛』とも呼ばれるようなまだら模様を描き、父のセイウンスカイよりも毛並みはメジロマックイーン…いや、タマモクロスに似てるか?血統的にはどうだったか…もう人間でなくなって数年。知識も思い出すのが難しいものだ。
高校の勉強とか絶対覚えてないし。一次関数すら解けねぇと思う。
え?一次関数は中学校の勉強なの?
…それはともかく、俺はたまに来る美人なねーちゃんを背に乗せて坂路に勤しむ。
これの後は美味しいリンゴをくれるのだ。
うまい。
夏から秋にかけては梨が貰えるのだが、豊水は食わん。幸水を出せ。
あと、氷砂糖は意外とおやつにピッタリだ。
食べやすくて甘い。うまい。
そんなわけで、俺はとあるお馬さんと並走している。
………なんで種牡馬のテイエムオペラオーが併せ馬の相手なのぉ!?
激戦を乗り越えて、種牡馬として長閑な生活を送るテイエムオペラオーは11歳とまだまだ大人の牡馬。まだ馬体が出来上がっていない春の2歳馬を相手には厳しい相手だった。
てかGI勝ち馬…GI 7勝馬の種牡馬に何させてるんだこの牧場と馬主は!?
毎度屋内坂路でハナ差でゴールしながら「ふふん」とでも言うような視線を向けてくるこのGI馬。
絶対ギッタンギッタンにしちゃる…GI馬だろうと、もう11歳。勝てない相手じゃないはず…!
え?オジュウチョウサン?あれは規格外の大物だから。
梅雨時期になって、初めてオペラオー相手に先着した。
思わず雄叫びをあげたら、鞍上のねーちゃんが慌てて降りて馬体検査が始まってしまった。いや、異常はないんよ。
牧場に2台の小さめな馬運車が到着した。俺と同期の牝馬1頭が連れて行かれる。
…入厩か。オペラオーやこの牧場の人たちとはもう数年は会えないのだと思うと寂しい気持ちである。多分外厩調教でもなければこの牧場には来ないだろうし。
先に馬運車に乗せられ、しばらくするともう1台の馬運車で馬の暴れる音と破壊音が聞こえてくる。
1度俺も馬運車から外に出され、馬運車近くを散歩することに。その時の担当のにーちゃんの独り言曰く、一緒に連れ出された牝馬がもう1台の馬運車に載せられる時に暴れだして馬運車の扉を破壊したらしい。
仕方なく俺とその牝馬は同じ馬運車…つまり元々俺を運ぶ予定だった馬運車に載せることになったようで。
とはいえ大きくないこの馬運車は横並びに載せることになる。
にーちゃん曰く、俺がまだ1度も馬っ気を出してないから大丈夫だろ…だそうで。
…まぁ馬相手にしたいとは思えないしなぁ…
さすがにスペシャルウィークみたいに噛み付いたりとかはしないけどさ、種付け拒否し続ければ乗馬牧場行けるんじゃない?ね?
初めての長距離移動で気が立ってるお隣の牝馬ちゃんが落ち着くようにひたすら構いながら、そんな馬鹿なことを考えるのだった。