竜騰虎闘   作:全智一皆

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罪を重ねて


竜の弟子

 最下位同然の実力者である間宮あかりからの弟子にしてくださいという普段なら無理だと言い切って断る彼女の願いを、しかし法月は「まぁ、良いけど」とあっさりと承諾した。

「ふぅー…。じゃ、今日はここまでだな。」

 そして、その後日。

 アリアと間宮の二人を相手にし、圧勝で修行を終えさせた法月は煙草を吸いながら、今日の修行は終わりだと宣言した。

 右手に握っているのは勿論、愛銃であるHai-kyapa5.1――ではなく、新たに手に入れ、愛銃のように改造を施した『Hai-kyapa D.O.R』である。

 法月が扱う銃はどれも殆どが『東京マルイ』というエアソフトガンを販売している会社のものである。

 銃でありながら安く、改造も施しやすい。だから法月が扱う銃の殆どは元々はガスガンである。

 ガスガンの時ですら当たりどころ、弾数によっては殺人を犯しかねない威力を誇るのに、それを完全戦闘用に魔改造しているのだ。

 ガスガンの反動を保ったまま普通の銃弾を発射する。火薬が入った弾丸を、爆発の反動ではなくガスガンの反動のまま発射するという改造がどれほど難しいか。

 故に、魔改造。遠山キンジのフルオートと三点バーストのデザートイーグルのような、魔改造。

 そんな改造を施した銃で戦ったアリア達は、改めて彼の『規格外』の実力を思い知った。

「じゃあ、今日の反省点だ。まずアリアについてだが…ぶっちゃけると、反省点という反省点はお前には無いな。あるとするなら殺意を小さくしろって所だ。」

「本当ですか?!」

「あぁ。動作は小さいし立ち回りは上手いしで、言う所が見当たらん。だから、お前は兎に各ひたすら実戦だ。実戦で得た知識を蓄えて成長させる方向にする。」

「はい!」

「で、次に間宮なんだが…」

 お前、矯正するな。

 あっさりと、そして淡々と、法月は間宮に告げた。

 二人が目を見開いたが、しかし法月は気にする事もなく続けた。

「正確に言うならば、『今の矯正』を止めろって事だ。お前の技術は確かに殺人術だが、結局の所、殺人術なのは技術だけで間宮あかり自身が殺人者って訳じゃない。お前がその技術に加減をつける事が出来るようになれば、お前は今よりも強くなる。」

 間宮という家系は、江戸幕府御庭番で有名な間宮林蔵の流れを汲んでおり、あかりはその本家である『暁座』出身の人間である。

 母親から学んだ必殺の術は、文字通り『必ず殺す』為の術、即ち殺人術であり、武偵としてその技術を使えば殺人禁止の武偵法9条に触れてしまう。

 故に間宮は矯正しているのだが、それが原因で彼女は最下位に近い実力へと落ちてしまっているのだ。

 あまり知られていない情報を知られている事に驚きはしたが、しかし法月からの言葉を間宮は真剣に聞いていた。

 殺人術に加減を入れるようにする。そうすれば、強くなれる。

 殺人術は確かに人を殺す術であるが、しかしそれは扱うからといって殺人者であるかと問われれば否である。

 殺人術であろうと、使い方によっては殺さずに相手を倒す事が出来る立派な活人術なのだ。

 法月が言いたいのは、殺人術であろうと加減して使えば普通の護身術で、それを身につければ今よりも強くなれるぞ、という事だ。

「例えば鳶穿だが、あれも眼球抉るではなく瞼を少し切るようにすれば良い。視界は塞げる、犯人は病院に行けば治るで結果オーライだ。あと、内蔵を毟り取るようにするんじゃなくて『内蔵に衝撃を与える』ように扱えば、敵はダウンする。」

 『鳶穿』とは間宮がカウンター時に限り相手の持ち物をスリ取る技に改変して使用している技なのだが、しかしそれも本来は敵の眼球や内臓を素手で毟り取る忍びの殺法だ。

 間宮はこれを相手の得物を取るものに変えていたのだが、法月の言葉を聞いて「確かに…」と納得した。

 元々が攻撃の技であるならば、それを変える必要は無い。ただ加減をすれば良い、狙いを変えれば良い、ただそれだけの事だ。

 加減を覚える事自体は難しいのだろうが、しかしそもそもとして殺人術を扱える技術を持っている間宮であれば長い時間は掛からぬだろう。

「武器や人間みたいに、要は『使い用』だ。使い方次第では活人術も殺人術に変わる。そんな風に、お前の技も人を殺さないようように加減すれば良い。お前の課題は『殺人術を加減できるようにする』事だ。」

 技術は技術。誰かが扱わなければ意味をなさないものでしかない。

 技術が人を動かすのではなく、人が技術を扱って動くのだから、技術に工夫を加えられぬ道理など無い。

 法月はそう伝えて、何時も通り煙草を吸いながら「じゃ、門限を破らないようにな。」と踵を返して帰っていった。

 

 そして、来訪者へと問い掛ける。

「で、お前は何の用で来たんだ―――峰理子。いや、最高の怪盗アルセーヌ・リュパンの末裔、『武偵殺し』峰・理子・リュパン4世?」

 学校の柱、その陰から現れたのは、一人の少女。

 金髪金眼の少女、探偵科のAランクにして大怪盗アルセーヌ・ルパンの末裔、その失敗作。

 遠山キンジのクラスメイト―――そして、武偵殺しの爆弾魔、その張本人…峰理子だった。

「やはり貴方にはバレていたか、『暴酷(アウトレイジ)』。」

「酷い呼び名だ。それで、立派な犯罪者様が、態々こんな暴漢に何の用だ? 巫山戯た事を抜かすならこの場で遠慮なく指導するぞ。」

「そこで逮捕すると言わない辺り、やはり貴方も大概、変人らしい。まぁ良い。簡潔に伝える。『罪神』の情報を与える代わりに、私と共に無限罪のブラドを倒してほしい。」

 真剣な声だったが、しかしその声には少しの恐怖が籠もっていた。

 メリットが小さい訳ではなく、寧ろ大きいほうだ。だが、そんなメリットよりもリスクのほうが、あまりにも大き過ぎる。

 教務科に所属する大人というだけでも警戒に値するというのに、彼女が交渉を持ち掛けた相手は老いたとは言えども、『最強』だ。

「……」

 煙草を吸ったまま、絶は考え込んだ。

 視線は理子を突き刺している。一切の行動を許さぬと語っているのが、理子の体から脳へと一気に伝わってくる。

 そして理解する。今この場で、不用意に敵対するような行動をしてみれば―――腕も足も、吹き飛ばされてしまうだろう、と。

 その証拠に、法月はいつの間にか右手にHai-kyapaを握っていた。しっかりと、銃弾が込められていた。

「…良いだろう。その交渉を受けよう。だが、先払いだ。無理であるなら、ここで逮捕する。そして、綴と一緒に話し合いを設けるとするよ。」

 殺意と共に、法月は言い放つ。

 理子の頬を冷や汗が走り、また恐怖が全身を駆け巡る。

 イメージが浮かんだ。自分が手足を失い、尋問される姿が思い浮かんだ。

「っ、分かった。」

 恐怖に抗いながら、何とか理子は頷いた。頷く事が出来た。

 『罪神』―――それは、法月絶が学生時代から追い続けている世界屈指の凶悪犯罪者。

 引き起こした事件は全てが未解決。現実で引き起こされたにも関わらず現実的に証明不可能で、されど仮想的にも証明不可能。

 それは神業。犯罪手段における、神の御業。

 犯罪界の神様―――故に、『罪神』。

「『罪神』はイ・ウーでも良く聞く名だった。あの『教授』を下す事が出来る唯一の人間だからな。私もその情報をよく耳にした。

「その情報の一つに、あの人は今この国…日本のどこかに隠れて、新たな犯罪の計画を建てているというのが有った。どんな計画なのかは分からないが、そう言っていたそうだ。

「次に、奴は複数の部下を持っている。本名は分からないが、今の所、私が把握しているのは『霧裂き』、『猟鬼』、『殺神』と呼ばれる三人だけだ。

「…私が知っている情報は、これだけだ。それ以上の事は知らない。『教授(プロフェシオン)』なら、知っているかもしれないが。」

 そう言い終えた理子は、少し俯いていた。

 恐らくは、その情報の強さに自信が無いのだろう。

 何せ、罪神に関する情報自体はあまりにも少ないのだから。

 情報としては、とても弱い。強みと言える強みが、あまり無い。

 望みは薄い。この場で逮捕される可能性が…高い。

 故に、理子は既に諦めかけていた。どれだけ足掻こうとも無駄であると、理解しているから。

 かちゃ…と、銃の音らしき音が、鳴った。

 構えたのか、リロードをしたのかは俯いているから理子には分からなかった。

 だが、敗北が決まってしまった――それだけを、理解した。

(あぁ…もう、終わっちゃった)

 瞳を滲ませて、ぎゅっと拳を握り締めた。今までの努力の全てを、葬られたのだから。

 法月は―――

「良い情報だ。取引成立、そちらの要件を詳しく教えろ。」

 そう、言った。

「え…?」

 ゆっくりと、理子は俯いていた顔を上げ、法月を見た。

 銃など構えていなかった。そもそも、銃を持っていなかった。

 それもその筈。何故なら、先程、理子が聞いた音は銃を懐に直した事によって鳴った音であって、銃を構えた音でもリロードした音でも無かったのだから。

「…峰、なんで泣きかけてるんだ?」

「え、いや、えっと」

「間宮と言いお前と言い…俺はそこまで怖いのか?」

「えっと…はい」

 その発言に、法月は地味にショックを受けたのだった。




悪を壊す

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