【急募です】状態異常《共依存》の治癒方法   作:流星の民(恒南茜)

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26_『考証、ためらいを知らず』

——パキィンッ!

 

激しく鳴動した剣が横一線に剣戟を描き、直後、周囲にポリゴン片を散らします。

それと同時に、響き渡るファンファーレ。

羊型モンスター——【ラビリン・ムート】を経験値に変えて、スイさんのレベルはまた一つ、上がったようでした。

 

「そうそう、そんな感じ。どう、かな? 慣れそう?」

「ええ——いい手応えね、これっ!」

 

そして、当の本人もこの手応えが気に入ったのか、笑みを浮かべています。

それは間違いなく良いことです。実際、この感触が気に入らないという人が多いのも事実、でしたから。

 

「……コリス、これがカヤノソトってことなの……?」

「違う、と思います。……きっと」

 

……ただ、その間、高原に点々と生えた木の下に座り込むわたしとリザちゃんは、ほとんどすることがない状況でした。

わたしがレイピアや片手直剣に分類される近接武器を使ったのは、このゲームがリリースされてからほんとに少しの間だけ。それも、レイピアだけです。

そして、スイさんが金策に選んだクエスト——《狂乱する羊毛》の討伐対象モンスターである【ラビリン・ムート】は、【フェロース・ラット】よりも攻撃力が高く、そこそこ凶暴なモンスター。わたしにはレクチャーが難しい状況でした。

 

そんな流れを踏んだ上で、リリィちゃんがレクチャー、わたしがリザちゃんの護衛、というのはある意味自然ではありましたが……。それでも、案外、人が戦っているのを遠巻きに眺めるだけ、というのは退屈なのかも——なんて、考えながらも、効果が切れた《索敵》をもう一度、発動させます。

 

カーソルの位置は、周辺の【ムート】のみ。コクリコ商会やPKなど、危険なプレイヤーはいなさそうです。

一息吐こうと口元を緩めた瞬間に、思わずあくびが漏れそうになります。

 

けれど、リリィちゃんにレクチャーを頼んだのはわたしです。流石にそれは——と、必死に噛み殺そうとした途端、

 

「ふわぁ……」

 

一時的に張り詰めた思考を破ったのは、リザちゃんのあくびでした。

 

「コリ、ス……少しだけ、肩……かして?」

「別に大丈夫、ですけど……どうしたのですか?」

 

返答は、返ってきませんでした。

代わりに、肩に感じた少々の重みと共に、微かな寝息を聴覚が拾います。

どうやら、わたしが思っていたよりもずっと、リザちゃんは眠気に襲われていたようでした。

 

彼女の顔に当たっていた木漏れ日を遮るように、少しだけ位置を動かして。

そうした途端、綻ぶ寝顔。

こうしていると、ほんとに普通の女の子みたいです。ちっともNPCには見えません。

そよ風が彼女のまつ毛を揺らし、風が木の葉を揺らす音と、リザちゃんの寝息しか聞こえない中、わたしも段々と眠気ゆえか、頭がぼうっとしてきたのを感じて。

一瞬、意識を手放しかけた時でした。

 

突然、HPバーが点滅と共に減少を始めました。

《共依存》が発動した——ということは、つまるところ、わたしかリリィちゃんのどちらかが、交戦状態にあるということ。

リリィちゃんの方を見てみても、戦闘しているのはスイさんのみ。ターゲットはリリィちゃんに向いていません。ということは——。

 

視界の端でライトエフェクトが発生し、突如として、わたしたちがもたれていた木が揺れました。

 

「コリ、ス……? なにが……」

「リザちゃん、後ろに下がってください」

 

目覚めてすぐでも、明らかに不穏な空気感から、置かれている状況を理解できたのか、立つと同時にすぐさま、リザちゃんはわたしの後ろに隠れます。

直後——。

 

——キュィィィィィン!

 

今度こそ目の前でライトエフェクトが瞬いて、木の背後からマントを纏った人影が飛び出すと同時に、視界が赤く染まります。

 

「——《フレイムバレット》っ!」

 

咄嗟に実体化させた杖。

放った弾丸はマントに触れ——しかし、燃やすところにまでは至らず、僅かに表面を焦がしたのみでした。

この状況には、覚えがあります。間違いなく、コクリコ商会の——と、HPバーに一瞬だけ視線を向けた時、わたしはどこか違和感を感じました。

 

「クッソ——!」

 

HPバーは、見た目に反して大きく減少していました。

そして、ダメージエフェクトの大きさと、極め付けにNPCのものとは違うカーソルカラー。

マントにフード、顔を覆い隠すように装備した仮面。コクリコ商会と一致しているように見せかけて、マントに刺繍されていた全くコクリコのものとは違う模様、ついでに小柄な体躯——似ているのは、見た目だけです。

 

「熱い——熱いっ!」

 

目の前のプレイヤーは悲鳴を上げ続けています。痛覚設定をどれくらいに設定しているのか——なんて、コクリコ商会と相対していた時とはまた別の意味で、思わず顔を顰めそうになった時でした。

 

「構うなっ! 彼女は“シーカー”じゃないっ!」

 

叫び声と共に、点々と生えている木々、それも、リリィちゃんとスイさんがいる場所の近くで物音が響きました。

直後、幾人もの似たような格好をしたプレイヤーが飛び出してきて——二人を囲みました。

 

——キュィィィィンッ!

 

直後、甲高い駆動音が空を裂くと同時に、残滓を残す、紅いライトエフェクト。

破砕音と共に、一瞬にして囲んでいたプレイヤーのうち一人がポリゴン片へと変わりました。

しかし、一人が倒れようとも、すぐさま二人のプレイヤーが流れ込みます。

援護のために、呪文を詠唱しようとして——その瞬間、わたしは何とも言い難い違和感を感じました。

 

「来たぞっ! 《スペーサー》だ!」

「——次は分散時のダメ検証っ! 二人、出てこいっ!」

 

二人を囲むプレイヤーたちは、ちっとも自分達から攻撃をしようとはしていませんでした。それどころか、むしろ自分達からリリィちゃんの攻撃を受けに行っているようにも見えます。それも、相当にしつこく。

三人が倒れて、リリィちゃんもそれに気がついたようでした。

 

レイピアのライトエフェクトが消失して。

 

「HPバーは減少中、状態異常は動作してるっ!」

「おい新入り、ダメ値メモっとけ!」

 

攻撃はせずとも、妙なことを口走りながら、プレイヤーたちはじりじりとリリィちゃんに詰め寄ります。

そのあまりにも異様な光景に、リリィちゃんは当惑をしているようで、スイさんに至っては相当に引いています。

 

「コリ……ス……? これ、は……?」

「……わかりません」

 

そして、こればかりはわたしにも何が起きているのかよくわかりません。

リザちゃんへの返答も濁すことしかできない中、困惑だけが増していく中、でした。

 

 

「——アンタら、やめなあ——っ!」

 

 

突然、高原中に聞き覚えのある低音が響いて。思わず、そちらを向いた時——。

 

「……本当に、迷惑をかけたみたいだ。謝らせてくれ」

 

そこに立っていたのは、先ほど行った武器屋の店主さん、でした。

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