【急募です】状態異常《共依存》の治癒方法   作:流星の民(恒南茜)

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05_『胸のときめき』

「ん、でさー、こないだね〜」

「お前なあ、だからもっといい立ち回りがあるだろ。それ」

「なあ、夏さ、海行かね!?」

 

弁当箱を開いてみれば、色味は茶色。

食べ慣れたもので、栄養バランスに配慮した結果、なのでしょう。

野菜も、お肉も、バランスよく入っていますし。

けれど、相変わらずもそもそとした口当たりで味気のないもの。周りには、相変わらず誰もいません。

 

やはりこういう日々が続くと、クラス内で昼食をとらねばならないという学校のルールに少しばかり嫌気が差してしまいます。

せめて、友梨奈ちゃんと一緒にお弁当が食べられればよかったのですが。

……贅沢、でしょうか。それ。

 

昔はこんなこともあまり感じなかったものでしたが、たとえ一緒にお話したいだけでも相当の勇気を要してしまう性分は、段々と悪化しているようにも思えます。友梨奈ちゃんを相手にしていても、他の人を相手にしていても、それは変わりません。

 

そうしているうちに昼休みも終わり、授業が始まって、静けさの中、先生が話す声とペンを動かす音のみが響きます。

 

そして、結局今日も勇気を出すことができませんでした。

一人で食べるご飯の味気なさといい、ルールだけじゃなくて、そんな自分にも嫌気が差してきます。

 

本当に、今のところわたしが縋れるのは友梨奈ちゃんとの僅かな接点しかないのです。

 

情けなさのせいか、軽くため息を吐いて。

 

気づけば板書も進んでいましたが、なかなか写す気になれずに、窓の外を見やると、雨が降っていました。

少し気取った言い方をするならばメランコリックな気分、つまるところ憂鬱。梅雨の時期にはありがちなものです。

 

そんな気持ちを追い出すために、もう一度吐いたため息。

 

板書を写すためにペンを走らせながらも、今の鬱屈とした気持ちのやり場として、私は仮想の世界へと想いを馳せるのでした。

 

◇ ◇ ◇

 

◇ ◇

 

 

『今日もやるの? スカーレットなんとか」

『……ええ。付き合って…...くれますか?』

『もっちろん! 任せといてよ。あたしも強くなるからっ!』

 

先ほどまでしていた会話を回想しながら、リクライニングチェアに腰掛けて、ヘッドギアを装着します。

今日は特にタイミング合わせをする必要もないためそのまま背もたれに背中を預けて目を瞑るだけ。

そうすること数秒、キュィィィンと聞きなれた起動音が響き、ログインシークエンスと共に、わたしの感覚は離れていきました。

 

感覚が戻ってきた時、そこはログイン時にいたベッドの中。

リリィちゃんがもう来ているのか確かめるために目を開いて……

 

「……ひゃうっ!?」

 

目の前にはリリィちゃんの顔がありました。

困惑のあまり、上ずった悲鳴が漏れてしまいます。

 

そうして記憶を手繰っていくことしばし、私は昨日、同じベッドで彼女とログアウトしていたことを思い出しました。

 

一瞬にしてとくん、とくんと、心臓の鼓動が早まり、全身が熱を帯びます。

とにかく、ここから抜け出さなければ、と。

そっと、立ちあがろうとした時でした。

 

ぱちり、と瞳を開いてすぐに彼女は私の腕を掴むと、悪戯っぽい笑みを浮かべました。

 

「……ふふっ、つーかまえた。なんてね?」

 

思わず、いくらかたじろいでしまいますが、

 

「ふぇっ!?」

「わわっ!?」

 

ベッドの上なんてあまり広くありません。

 

「いったたぁ……」

 

結局、腕を掴んでいたリリィちゃんも一緒にベッドの上から落ちてしまって。

痛みはありませんが、少しばかりの痺れに、思わず声を上げてしまいます。

 

「……ごめんね? コリスちゃん……。ちょっと……いたずら、してみたくなっちゃって……」

 

けれど、そんなことよりも……

 

「……あの、上……しんぞ……どくどく、して……」

 

彼女が覆いかぶさる形になってしまったせいで、さらに赤らんでしまった頬と、鼓動が激しくなった心臓の方がよっぽど、問題でした。

 

◇ ◇ ◇

 

◇ ◇

 

 

「ほんとにごめんね……? あの……大丈夫……?」

「いえ……もう、だい、じょうぶ……ですから……っ」

 

思い出す度にかぁっと頬は赤らんで。

受け答えも途切れ途切れになってしまい、思わず俯いてしまいます。

 

そんな中で、わたしたちが向かっていたのは街のすぐ近くにある草原でした。

前回は金策のために少し高難易度な森での狩りになってしまいましたが、草原であれば【タビー】のような高レベルな敵はなかなか出てきません。

なので、DoTに向けてしっかりとしたチュートリアルをするのには適した場所ではありました。

 

「あっ! 敵だよ、コリスちゃん!」

 

そうしているうちに、どうやら既にフィールドには到着していたようでした。

敵モンスターの出現を示すカーソルがちらちらと揺れて、そちらを見やると、牙の長い猪がこちらを睨んでいます。

 

——【ファンス・ボアー】

 

立ち位置としては【ラット】と同じかそれより下くらい。初心者が相手にするには丁度いいモンスターです。

けれど、攻撃力自体はそこそこ高いもの。

ずっと先ほどまでの状態でいたら、いつ周囲のモンスターから不意打ちを食らうとも限りません。

 

しっかりと切り替えていかねば。

 

視線を左へと向けて、先ほどとったばかりのスキル《索敵》を発動させます。

今のレベルだと強力なモンスターは察知できませんが、草原ならば十分です。

 

そのまま、示されたカーソルを辿っていくと《索敵》の範囲内にいる敵は目の前の【ボアー】くらいのよう。

とはいえ、範囲はパーティーメンバーの数に依存しているために、ソロだとほぼ無意味。二人でも相当に狭いものです。

無いよりはましですが。

 

「……とりあえず、武器を出してください」

「りょーかいっ!」

 

数瞬して、寄り集まったポリゴン片によって形作られた《レイピア・ド・バロネス》を力強く引き抜くと、リリィちゃんは、それを【ボアー】へと向けます。

 

「それでは、視線を左へ。先ほど説明したスキルを発動させてみてください」

「うんっ! 《見切り》であってるよね?」

 

基本的に、このゲームでのスキルは全てツリー制です。

繰り返し武器を使っていくことで、熟練度の上昇とともに、スキルポイントを入手することができ、それを使うことで武器種に合わせた攻撃用のスキルや、補助用のスキルを取得していくことができます。

そして、《見切り》はレイピアから派生する初期スキルの中でもトップクラスに強力なものです。

 

「青い輪——クリティカルサークルが見えますか……?」

「見えてるよ。それを狙ってスキル発動……だよね?」

 

《見切り》を発動させた際に見えるクリティカルサークル。これはそのまま敵モンスターの弱点候補を示しています。

要するに、表示された複数のサークルのうちのどれかが、そのモンスターの弱点、というわけです。

とはいえ、さらに派生させていった《見切り》の上位スキルでないと、最初に表示される数が多いため、絞り込みづらくはなってしまいますが、一点での攻撃を重要視するレイピアでは弱点を突きやすくなる分、強力であることに違いありません。

 

「それでは、《スペーサー》の予備動作(プレモーション)を起こしてみてください」

 

軽く頷くと、リリィちゃんは、昨日やったように肩当たりでレイピアを構え、引き絞ります。

 

これは、いわゆるシステムの補助——視線を用いたコマンドを使わずにスキルの予備動作へと繋げるもの。

遥かに発動までにかかる時間が違うため、ほぼ必須となっている技術ですが、昨日の狩りのうちにリリィちゃんはある程度形にできていたようでした。

 

ライトエフェクトが刀身を包み、待機音が響きます。

 

「ブルルッッ!」

 

それに気付いたのか、こちらへと突進してくる【ボアー】。

けれど、すでに予備動作は終わった状態。彼女がターゲットを定めるまでもまた、すぐのようでした。

 

キュィィィン!

 

静寂を裂くスキルの駆動音。

直後に、青い火花を散らして【ボアー】がポリゴン片になり飛散します。

 

「ふぅ……。コリスちゃんが説明してくれてた戦い方ってこんな感じだよね?」

「ええ。やっぱり、リリィちゃんは飲み込みが早いです」

 

「ふふっ、教え方が上手いからだよ。ありがとね?」

 

そう口にして、ひらりと背を翻すと、

 

「それじゃ、コリスちゃん! 次の敵、探しにいこっ!」

 

彼女はわたしの腕を掴み、駆け出しました。

 

「……疲れてないですか?」

「ううんっ、全然! それに璃子ちゃんに褒めてもらえるからやる気全開、って感じだよっ!」

 

一瞬、振り向いた彼女の笑顔は相変わらず眩しいもの、こちらまで思わず笑みが溢れてしまいます。

 

「……わかりました。わたしも、とことんまで付き合いますよ」

 

夕暮れの中、続く狩り。

隣で微笑むあなたを見ていると、昼間の憂鬱な気持ちなんて、嘘のように吹き飛んでしまいます。

 

だからこそ、この時間がずっと続いてほしい、なんて望んだ時に。

 

関係性のルーツを象徴するモノとして、脳裏を掠めるのは一枚の挿絵と一つの《リング》。

 

ソレが手に入ればこの時間を永遠にできる気がして。

 

次第に、少しの憧れだったものは、膨らんでいきます。

 

 

 

「……待っててください。必ず、掴み取りますから」

 

 

 

そう小さく呟いて。わたしもまた、彼女の支援に回るのでした。

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