剣聖になると故郷を飛び出した幼馴染みが、聖剣になって帰って来たんだが?~酒屋の娘でしかない私が何故か魔王城で幼馴染みの体を取り戻すことになった件~ 作:赤いUFO
オリジナル:ファンタジー/コメディ
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数年後、故郷に戻ってきた彼は何故か一本の剣になっていた。
「カティ! 俺、将来剣聖になりたいんだ!」
幼馴染みのフィンがいつものように自分の夢を語る。
大陸全土で十二人しか名乗ることの許されない、剣士として最高位の称号である"剣聖"。
血気盛んな子供なら誰もが憧れる存在。
フィンは拾った棒切れで素振りしながらキラキラと瞳を輝かせている。
この地方では珍しくない赤い髪と青い瞳。
特別整った顔立ちという訳ではないが、快活で愛嬌の有るフィンは男女問わず好意を持たれる。
「うん。頑張って?」
そんな幼馴染みに私は投げやりな応援を送った。
熱心に夢を語る幼馴染みとは正反対に私の頭の中は明日運ばなきゃいけないお酒が多くて嫌だなー、とまったく関係のないことを考えていた。
「少しは真面目に聞けよ!」
私の適当な返事に頬を膨らませる幼馴染み。
フィン同様に赤い髪と青い瞳。
頭に頭巾を被り、伸びた髪を後ろに結んでいる。
眠そうなタレ目と泣きホクロが特徴の何処にでもいる村娘だ。
フィンだって、この村で生活する定食屋の次男坊だ。
実家は長男が継ぐと決まっていて、将来の選択に幅が有ると言えば聞こえは良いが、将来自分で職を見つけなければいけない割と苦しい立場だ。
この村自体自給自足が成り立っており、定期的にやってくる行商を楽しみにして生活する良くあるつまらない村である。
その村出身の普通の少年が剣聖になるなどと言って誰が信じるだろうか?
鼻で笑わないだけマシだと思って欲しい。
私の態度が余程気に入らないのか、不機嫌そうな顔をしているフィンだが、大きく深呼吸感情を抑える。
「俺、来年十五になる。そしたら町に出て、騎士団に入団する。そこで今よりずっと鍛えていつか必ず剣聖なる!」
フィンが鋭い視線で私を見た。
今更緊張した様子で話してくる。
「お、俺がもし! 剣聖になったら! な、何でも一つ言うことを聞いて貰うからな!」
小さな子供のような要求を指差して突き付けてくる幼馴染み。
「あ……うん……」
やはり気のない返事を返す私。
例えこの村を出てもきっと夢半ばで破れて出戻りのがオチだろう。
フィンと同じように村を出て帰って来た人達を何人も見てきた。
運が良くても下っぱが良いところだ。
誰も彼もが夢を叶えられる訳じゃない。
叶う筈もない夢を追いかける幼馴染み。
せめて無事に帰って来てくれれば良いな、と思った。
宣言通り次の年、フィンは村を出て行った。
腰にはなけなしの金で買った剣を携えて。
その数年後、幼馴染みが剣聖になったとの報せが村に届いた。
幼馴染みの夢を笑っていた大人や同年代の者は『アイツはやる奴だと思ってた!』『アイツはこの村の誇りだ!』などと都合の良い言葉を宣っている。
私は幼馴染みとした約束などすっかり忘れて酒屋の仕事をする。
そして、幼馴染みが帰って来たのは私が十九になった蒸し暑い夏の日だった。
『カティ……』
目の前に馴れ馴れしく私を呼ぶ
それを持ってきたのは幼馴染みの仲間だと名乗る同世代の魔法使いだった。
彼は眼鏡をかけ直してこの剣について説明する。
何でも彼らとここには居ない神官と武道家は王直々に魔王討伐の命を賜ったらしく、約一年程の旅の末に魔王の城まで辿り着き、魔王と対峙した。
その魔王が若くして剣聖になった幼馴染みをとても気に入り、自分の部下になるように誘ってきた。
当然幼馴染みはこれを拒否。
その結果、半殺しにされた上に魂を取り出され、目の前の剣に封じ込められたらしい。
「魔王曰く、部下になるのなら元に戻してやるとの事でして……」
魔法使いの青年が申し訳無さそうに説明を終える。
「それで、何故私のところに?」
『頼むカティ! 俺と魔王城に行って俺の体を取り戻してくれっ!!』
「いや無理でしょ。ふざけんな」
こちとら真剣どころか木剣だって握ったことのない村娘Aである。
魔王城になんて行ったら────と言うか、道中で死ぬ未来しか見えない。
『それなら大丈夫だ! 俺を掴んで外に出てくれ!』
「お願いします」
魔法使いの青年にまで頭を下げられ渋々剣を持って外へ出る。
「ん?」
剣を構えると体に異変が起きる。
体の自由が利かなくなり、突如としてあり得ない速度で走り出した。
「なっ!?」
冗談抜きで馬よりずっと早く走る自分の脚。
跳躍すると飛んでいる鳥にまで届き、手にしている剣を振るって斬り落とす。
ストンと着地する。
今の一瞬でしたあり得ない動きに心臓がバクバクした。
『どうだ! 俺がお前の体を乗っ取って戦うことが出きるんだ! 驚いただろ! 俺の剣聖としての能力があれば、魔王城に乗り込むくらい楽勝だぜ!』
「私要らないじゃん」
率直な感想を述べると魔法使いが補足する。
「実はその剣、彼が本心から心を許した相手にしか効果が発揮されないのです。だから我々も貴女に接触を……」
いや待って欲しい。
数年会わなかった幼馴染みに対して何でそんなに好感度高いんだ!
もっと他に居ただろう。
『頼むよカティ! 俺が剣聖になったら何でも一つ言うことを聞いてくれる約束だろ!』
「無理難題にも程があるわっ! 先ずは私を自由にしろ!」
剣になった幼馴染みに叫ぶとようやく体の自由が戻った。
「はぁ。んっ? ────イタタタタタタタッ!?」
突然走ったとんでもない激痛に転がり回る。
その様子に魔法使いがポンと手を叩く。
「一般の人が一瞬とはいえ剣聖の身体能力を引き出す訳ですし、相応の付加はかかりますか」
「はぁっ!?」
『大丈夫だカティ!! いずれは慣れる! だから俺と一緒に魔王城へ行こうぜ!!』
「ぶっ壊れてしまえっ!!」
私は幼馴染みの魂が入った剣を思いっきり投げ捨てた。
カティ(十九)
本作の主人公。
家族で酒屋を経営する村娘。
思考が若干冷めているのが特徴。
聖剣になった幼馴染みの肉体を取り戻す為に魔王城に行くことへ?
フィン(二十)
夢いっぱいに故郷をでて念願の剣聖になった青年。
子供の頃は剣聖になったらカティに告白するつもりだった。
魔王に敗れて魂を聖剣に封印される。