気持ちのいいバカ(偽物)をブチ込んでみた   作:王勇を示す者

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輝かしい空

 

 

 

 

 天へと無限の色彩が昇っていく。ただその光景を死に体同然の体で眺める。

 

「あぁ········綺麗だな······」

 

 潰れていない右目で辛うじて視界に収める。最後の瞬間まで、と思ったがそこまで自身に時間は残されていない。もう時期、彼は消える。どんなに偽装したとしてもとうに体は限界だ。

 

 そんな彼に二つの輝く精霊が近づく。先程、御影の宝具で招集した勇者―――

 

「はぁ········諏訪の勇者と巫女。それ以上近づくなよ········てめぇらにこの泥は劇毒だ」

 

 これ程までの泥を浴びれば、清純たる勇者は即刻全身へと回るだろう。だからこそ、彼女たちには近づいてきて欲しくない。

 わかっているのか定かではないが、⬛⬛の忠告を無視し一つの精霊が駆け寄る。

 

 ―――剣群が降り注ぐ

 

「駄目だ。お前らにこれ以上の苦痛を味わせることは出来ねぇ」

 

 この泥は俺一人で地獄まで持っていく。草薙剣を炸裂させた時にそう決めた。誰になんと言われようと変えることは出来ない。

 

「それじゃあな歌野、水都。お前らとの生活は案外、悪くなかったよ―――。」

 

 誰に看取られることなく彼がいた痕跡は世界から消えた。こうして世界救済の影の立役者は第二の人生に幕を降ろす。

 

 彼には譲れない覚悟や思い出はなかったが、一時の感情に任せ全力を尽くした。ただ、好きな子の為に·······。だが、報われることはなく。その気持ちを返さられることはなかった。

 

 それが何もかもを詐称した者の末路なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――真っ暗闇の道をただ一人歩く。

 

 怖い。先すら見えない道を歩くということがこれ程怖かったものだったろうか。以前までは然程恐怖は感じなかった。なんなら、楽しいとまで思っていた。なのに何故?そんなの決まってる。

 

「一人は、怖いなぁ········」

 

 シャルルマーニュとして皆と過ごした日々はとても楽しかった。大変だった記憶もあったが、それ以上に幸福感に満ちていた。誰よりも幸せだと思っていた。

 

 それが今はどうだ?

 

 一人身を縮めながら恐怖に怯えている。どうやら、俺は一人じゃなにも出来なかったようだ。

 友を守ると言いながら結局助けられていたのは俺。いつも迷惑をかけていたのは俺。本当に迷惑極まりない。

 

 ならいっそこのまま―――

 

「―――え?」

 

 左手を掴まれる。俺と同じぐらいの大きさだろうか。感触としては女性の手のようだ。

 誰が、と思い繋がられている手から視線を這い上げ、顔を―――

 

「―――大きくなったわね······ちょっと前まで私の半分ぐらいだったのに」

 

「えっ、あ·······」

 

 ··········ありえない。だって、この人は·······こんな場所にいるわけがないんだ。これは俺が都合のいい夢を見てるだけ―――

 

「どうしたの、⬛⬛?」

 

「かあ、さん········?」

 

 心配そうに俺の顔を覗くのは誰でもない母さんだった。その表情。声の抑揚。どれもが俺に記憶の中にあるものと合致する。つまり、この人は······。

 

「それ以外の誰に見えるのよ?」

 

「あ、いや····そうじゃなくて········どうしてここに?」

 

 変な質問をしてしまった。

 自分ですらここが何処かわからない。もしかしたら、ここがよく議題に上がる死者の国なのかもしれない。なら、母さんがここにいるのも頷ける。

 

「私の自慢の子が泣いているもの。母として駆けつけるのは当然よっ」

 

「泣いてなんかない」

 

 あぁ、母さんだ·······元気だった頃の母さんだ。

 少しおちゃらけているけどやるときは凄くカッコイイ。でも、一人で抱え込み過ぎなんだ·······この人は。

 

「あらあら、私に嘘なんて通じないわよ〜。十五年貴方のお母さんしてたんだから、なんでもお見通しよ」

 

「だ・か・ら〜、俺は泣いて、なんか······〜゛っ!」

 

 頬から水滴が流れ落ちる。もう何年も流していないモノが止めどなく流れてくる。どうしようが止めることは出来ない。

 何度も何度も裾で拭いながら、母さんの顔を見る。頬を上げ、見守るように微笑んでいる母さんの顔を。

 

「泣き虫さんね·········でも、それ以上に優しい子で·······本当にお母さん誇らしいわ。」

 

「ごめんっ゛·····ごめんっ゛····おれはっ!」

 

 自分でもなんに対してかの謝罪かわからなかった。でも、母さんの笑顔を見ていると勝手に出てくる。

 

「ありがとね、⬛⬛。ずっと私のこと想ってくれて········本当にありがとう。でもね、辛いなら私のことなんて忘れていい。貴方が幸せならそれでいい。だからね、⬛⬛········泣かないで」

 

 頭を包まれ、とても穏やかに優しく頭を撫でられる。何故かはわからないがぐちゃぐちゃになっていた頭の中がすっと楽になった。

 泣き腫らした顔で母さんの顔を見上げる。

 

「笑顔よ、笑顔。どんな時でも笑顔でいれば、誰かが貴方を見つけてくれる。手を引っ張ってくれる。」

 

「―――うんっ!」

 

「それよそれっ!さっすが私の子ね!」

 

「ちょっ、母さん苦しっ·····!」

 

 首が·····首締められてるから!結構苦しめにかかってるから!

 

「あら、ごめんなさい。」

 

「勘弁してくれ········」

 

 もう一回死ぬなんて嫌だからな。

 首締めから開放され一息つく。その際久し振りに泣いたせいか猛烈な睡魔に襲われ、少しふらっとしてしまう。

 

「私の膝貸してあげる。しっかり眠って休みなさい」

 

「······あぁ、助かるよ···―――」

 

 恥ずかしさが少しあるが、眠気には勝てなかった。素直に横となり頭を母さんの膝に乗せる。ものの数秒で夢の世界へ―――

 

「立派に育ってくれてありがとね········これからも見守ってるわ。私の大切な子·········」

 

 眠っている我が子を起こさないようにゆっくりと頭を撫でる。小さい時もこうしてたってけ、と昔を思い出し笑う。

 

 コツコツと暗闇の中誰かがこちらへと歩く音がする。

 

「―――すまねぇな。親子水入らずを邪魔する感じになっちまって·······」

 

 本来、左腕が通るであろう袴の袖を靡かせながら⬛⬛に瓜二つな少年が申し訳なさそうに頭を下げる。 

 

「貴方も寝ていく?」

 

「いや、いいさ。········結構複雑だな」

 

 御影には珍しく視線を右往左往させ、頭を悩ます。流石にいくつもの修羅場を超えた御影であっても初めて自身の産みの親と会うというのは複雑を通り越して意味不明だろう。

 

「俺の用件はシャルルマーニュだが········連れて行くぞ」

 

「起こさないようにね?」

 

「·········いいのか?」

 

 親から子への愛を知らない、受け取ったことのない御影にはわからないだろう。これ程までに愛している子を連れて行かれそうになっているというのに彼女は抵抗もせず、差し伸べている。

 

「この子が幸せなら、そこに私がいなくとも·······貴方もいつかわかるわ」

 

「こりゃ、勝てそうにないな」

 

 肩を竦め、やれやれといった感じに首を振る。

 シャルルマーニュを右肩に担ぎ、もと来た道へと戻る。

 

「母さんも幸せにな―――」

 

 その言葉と同時に彼の背中は見えなくなる。ここは死者の場ではあるが、彼が来るには早すぎる。まだ、彼の冒険は続く。

 

「あらあら、子が増えちゃった」

 

 一人、子達の背中を見送る。そこに未練などはない。ただ、子達の笑顔しか想像出来ない親馬鹿の姿がそこにあった。

 

「ほら、送っていくぞ」

 

 今度はこれから進むであろう道からまたまた⬛⬛と酷似している少年が優しい口調で話しかける。

 

「ふふっ。それじゃあ、甘えちゃおうかな」

 

 ⬛⬛と彼女は隣り合って暗闇へと進んでいく。これが、最後の親孝行であるのを悟りながらも涙はない。ただ平然としながら手を引いていく。

 

「友達出来た?」

 

「二人だけな」

 

「奥さんは?」

 

「いねぇよ」

 

「じゃあじゃあ、彼女は?」

 

「できねぇよ」

 

 顔を真っ赤にしながらも返答する⬛⬛の反応が面白いのかついつい沢山の質問をしていく。他愛もない会話だけども、二人は笑顔で歩いていく。

 

「帰り道は一人だけど大丈夫?ついて行こうか?」

 

「いらねぇ。送った意味がなくなんだろうが」

 

 ここはさっきも言ったが死者の場だ。座に登録されているであろう彼が本来来ることはない場所·······当然、帰らなくてはけない。

 

「首吊りなんて駄目よ?キツかったら好きな子に甘えに行きなさい」

 

「好き、って·······いや、そうだな。」

 

 一瞬、顔を真っ赤にするがすぐにいつもの顔へと戻る。どこか安心したように空を見上げる。

 

「安心してくれ。もう首を吊ることはないからな」

 

「ふふっ、そう。それじゃ、私は安心して逝けるわね」

 

 これは彼·······彼達にとっての最後の夢。自身の罪へと向き合う時間だ。お別れはあるけれど、そこに悲しみはない。誰も彼もが幸福感を胸にして進んでいく。

 

 

 

 

 

 

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