気持ちのいいバカ(偽物)をブチ込んでみた   作:王勇を示す者

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 随分期間が空きましたので一先ず前回のあらすじ。
 御影の傷が完治した。あらすじ終わり!



花結いのきらめき【30】

 

 

 

 

 

 

 翌日の早朝。朝ご飯を作っていたシャルの元へ一本の電話が入る。相手は驚きのひなた。なんだか慌てた様子だ。

 

「こんな朝早くにどうした?」

 

 卵焼きを上手く丸めながら問う。こんな朝早くに電話をかけていくるとは一大事に違いない。

 

『士郎さん見ませんでしたか?』

 

「見ていないが·······まさか、行方不明か?」

 

『はい·······。荷物はそのままなんですが、士郎さんだけがいなくて·······』

 

「ふむ·······一先ず、俺は村正へと電話をかける。ひなた達はいつもと変わらず支度をしていろ」

 

 そう言い切るや否や電話を切り、自身が使うであろう電話番号にかける。

 聞いていなくとも自分のことだ。どう設定するかは容易に読める。

 

『もしもし、千子だ』

 

 数コールもせず電話に出て千子の名で対応してきた。あまり千子村正を千子と呼ぶ者はいなかったな、と思いつつ要件へと移る。

 

「その名で対応するのか」

 

『苗字で反応するのが普通だろ、ってかシャルルマーニュか。こんな朝っぱらになんの用だ?』

 

「御影が失踪した。何か心当たりはあるか?」

 

 綺麗に丸めれた卵焼きを皿へと盛り付ける。そしてそのままテーブルへと運ぶ。ついでに味噌汁もほいほいっと。更にキャットフードもがららと。

 

『···········上里家が怪しいな。俺達の話を盗み聞きしていた可能性が高い』

 

「それがどう御影失踪に繋がる?」

 

『少しだけ理解出来る。が、あまりにも本人の意志を尊重しないやり方だ。認めることは出来ねぇな』

 

「貴様が出るか?」

 

 村正が御影奪還へと乗り出るなら心配はないだろう。並大抵の武装集団には殺されん。自身であれば弱点を突かれるかもだが村正にはそんな弱点はない。というよりは弱点をカバー出来る程の経験がある。

 

『いや、俺はこれから稼ぎに行かんといけねぇからな。てか御影が逃げようと思えば逃げれるだろ。お前より強え奴だぞ?心配せんでいいだろ』

 

「それもそうか·······様子見に徹するしかないな」

 

『もし、アイツがそういう選択をするならそれでいい。戦力は今のところ充分だからな』

 

 とりあえず御影のしたいようにさせる。もし、逃避を選べば西暦組は悲しむだろうが戦力としては問題ない。その場合、御影を追って西暦組が抜けたとしても不思議ではないが·······それでも構わない。

 

 村正との電話を切り、ひなたの番号を打ち込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 快晴、だが今日は平日。それ即ち学校に行かなければいけない日。だと言うのに俺は―――

 

「士郎さん、次あっち行きましょう!」

 

「ん、あぁ」

 

 ―――遊園地にいます。

 

 いや、マジで、どうしてこうなった?ちょっと。一旦記憶を遡ろう。あー、そうだな·······だいたい昨日の夜でいいか。

 村正が意味深な言葉を置いていった後の数十分後だったろうか。俺は寝てて······気づいたら車に乗ってた。もう、この時点から俺の頭は追いつけなかった。

 

「おはようございます、士郎さん」

 

「おはよう、ひなた。·········なんか、大きくなったか?」

 

 目覚めると隣にひなたが座ってて何故か大きくなっていた。前までは俺の胸あたりに頭があったのに、隣のひなたは俺と目線が合うまでに大きくなっている。

 

「三日会わざれば刮目して見よ、ですよ」

 

「前の部分抜けてんぞ。それについさっきも会っただろ」

 

「それじゃあ·······士郎さんは三日間寝ていた、ということにしましょう」

 

「それじゃあ、って言わなきゃ騙せてたかもな」

 

 雰囲気はひなたのそれだ。だが、こんなハイテンションな奴ではなかったと思う。それにこの感じは·······

 

「黒耀邸で会った、よな?」

 

「はい、会いました。覚えてましたか」

 

「ひなた、なのは確信してるんだが········もしかして、未来から来たとかか?」

 

「タイムマシンは今の技術じゃ無理ですよ。そうですね、説明するなら········私は新たな生を得ました」

 

「あー·······転生ってやつか」

 

「そうです、そうです」

 

 千景にオススメされた漫画であったヤツだな。一応最後まで見たが········読みにくかったな。一ページ捲るのに数十秒はかかりすぎだ。まぁ、内容は面白かった。

 

「まぁ、解からんがわかった。それで、この車は何処に向かってんだ?」

 

 転生、と言ってもどうしてそうなったかまでは理解出来ない。だが、知ろうとは思わない。一番重要なのはひなたかひなたではないかだ。それ以外は些事に他ならない。

 

「もちろん私の家にですよ」

 

「?·······もしかして、今、俺は誘拐されてる?」

 

「見方によってはそうですね。でも、安心してください。何不自由はないので」

 

 ああ、これヤバいヤツだ、と瞬時に悟る。しかし、車は走行を続けており逃げることは········出来るな。時速60kmだろうが100kmだろうが走った方が速い。着地さえ上手くいけば無傷で帰れる。

 

「··········逃げてもいいか?」

 

「駄目です。せめて一日は私と遊んでください」

 

「学校が········」

 

「私は高校生ですが今日は休みを取りました。なので士郎さんも休んでくださいね」

 

「何処が、なので、だよ。どういう理屈だ」

 

 そんな屁理屈通らんだろ。ましてや学生の本文とか諸々が関わってるんだぞ。

 

「一生のお願いです、士郎さん。私に、どうか貴方の一日をください」

 

 泣きそうな顔でそう懇願するひなた。つい体を後ろに引いてしまったが逃げ場はない。

 あぁ、コイツ·······やっぱひなただ。こうすりゃあ俺が断れないのを知ってるな。

 

「········わかった。何処にでも連れて行きやがれ」

 

 その後、一度上里家に上げられ高級そうな朝食を礼儀作法無視して摂り、駄弁っている間に遊園地に運ばれた。だから学校中に遊園地来ても無罪の筈。

 

「メリーゴーランド乗りましょう!」

 

「馬が空を走ってる······!?」

 

 凄え······馬がアップダウンしながら空を駆けてる。遊園地ってのは半端ないな。

 そんな感嘆を忘れ、止まった馬に跨がる。ひなたは俺の一個前のに跨がっている。残りの馬はあまり埋まらず、ガラガラの状態で起動された。

 

「楽しいですね、士郎さん!」

 

「ああ········」

 

 あー、あれだな。一瞬で飽きるな、コレ。

 いや、こうやって風を切る感覚は気持ちいいんだが如何せんこれだけじゃなぁ。って感じだ。

 五周程した後止められ、退出させられた。

 

「次はアレに乗りましょう!」

 

「おう」

 

 ひなたの目線の先には巨大な船。ガイドマップを見るにバイキングというもののようだ。

 案内員にフリーパスを見せ、船へと乗り込む。特に座りたい場所はなかったためひなた共に一番後ろに座る。

 

「この乗り物、一番後ろが怖いらしいですよ」

 

「怖いのは苦手か?」

 

「苦手かもです」

 

「なんでここ選んだんだよ········」

 

 怖いもの見たさ、或いは好奇心。まぁ、どちらにせよ―――

 

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

 

「ッ·······!」

 

 バイキングが起動する。前後にブランコみたく大きく揺れ動く。最高地点ではほぼ真っ逆さまの状態となり、ひなたの長い髪が俺とひなたの視界を覆い隠す。

 そんな中、ひなたは喉が潰れる程絶叫しながら俺の右腕に抱きつく。

 腕が折れる········!なんつー力で握ってんだよ···!

 右腕もなくしてやろうか?って。マジでそれは結構困る。というかそんな事言わない。おかしな妄想は止めろ。

 

「うお·······?」

 

 なんだか時々無重力みたいになるな。高低差が大きいからか?エレベーターでもそういう状態が少しの間あると聞くし·········まぁ、いっか。頭使うのは他の奴に託そう。

 

 と、そんなつまらない事をぐだぐだ考えているとバイキングが停止する。どうやら、これで終わりのようだ。

 隣に目をやるとひなたが意気消沈して俺の右腕に体を預けている。

 

「おーい、ひなたー?」

 

「―――·······はっ、はい!」

 

「終わったし、早く降りようぜ」

 

「そ、そうですね······そうしましょう·····」

 

 なんとか意識を復活し、いつものように背筋をピシッと伸ばす。

 俺は席を立ち、その場を後に·········

 

「········どうした?」

 

 ひなたから一向に立つ気配を感じれない。行儀よく座っているままだ。

 

「腰が、抜けちゃいました········」

 

「········はぁ、掴まれ」

 

「ひゃっ!?」

 

 ひなたの太ももの下へ右腕を這わせ、左上腕で上半身を支える。幸いあまり重くなく、片手だけでも持ち上げられる。

 

「あ、あの········?」

 

「あそこのベンチでいいな」

 

 バイキングを降り、最寄りのベンチへと降ろす。終始困惑気味な表情ではあったがあれが最善だろう。腰抜けた奴の扱いなんて知るか。

 

「どうだ?歩けそうか?」

 

「··········」

 

 もう動けるまでに回復したひなたは御影の問いかけに対する答えを思考する。

 ここではいと答えれば恙無く遊べるだろう。逆にいいえと答えれば御影におんぶしてもらえる可能性がある。

 どちらが御影によりくっつけるか········答えは単純だ。

 

「すいません、まだ歩けなくて·········」

 

 これまでの人生で御影についたことがない嘘を初めてつく。と言っても付き合いは精々一年程度だが·······。

 そんなことよりも、本題はここから。御影がひなたをおんぶするかどうか、それで嘘をついた価値が出てくる。果たして·········

 

「そんじゃ、俺は飲み物買ってくる。ひなたは何がいい?」

 

「········カルピスウォーターでお願いします」

 

「わかった。少し待っててくれ」

 

 そう言い残し、御影はその場を後にする。確かここから一番近い自動販売機はバイキングのすぐ側。往復八分程度だろうか。

 

「はぁ········これじゃあ、嘘ついただけじゃないですか········」 

 

 御影に嘘をついた、そんな罪悪感のみを受け一人溜め息をつく。どうやら、価値はマイナスのようだ。

 まぁ、そもそも御影がおんぶをするという選択肢を取る筈がない。右手だけで人一人を支えるのは少々危ない。そう理解してるが故にひなたをおんぶしない。担ぐ、という一切イチャイチャ感が出ないものであれば出来るがな。

 

「―――なぁ、そこの姉ちゃん。お一人?」

 

 座っているだけだというのに見て取れる気品の高さ。そして、誰もが一度は目を引かれる美貌。

 そんな少女が一人で座っているというのならば話しかけるしかない。下心丸出しで

 

「さっき連れがいたような気もしたがぁ·······まっ、トンズラしてさ。俺と周ろうぜ」

 

 何か口で発している男を前にし、またですか、と心の中で愚痴る。

 ひなたであった時も、柚葉として生きている今も。こういった経験は何度も出くわしている。そして、撃退する方法もいつくかあるが·······

 

(士郎さんがこちらに振り向くまで一分弱。その間、この人がペラペラ喋ってる確証はない。それに士郎さんに激しい運動をさせると治った傷が開く可能性も··········悩み所ですね)

 

 貞操の危機というのにこれである。少しは危機感を知って欲しいものではあるが·········まぁ、バックに上里家があるため大丈夫か。

 

「なぁ、おい。聞いてんのか?沈黙は肯定と········おっと、足が滑った」

 

 あまりにも雑。言い訳するなら行動する前に言うのは順序違いだろう。

 男は転んだかのように見せかけ、前に倒れ込む。そうなればひなたに寄りかかることとなるが·······既にその場にひなたはいない。 

 

「っ、なに避けんだよ!」

 

 ベンチスレスレで衝突を回避し、横へと避けたひなたに怒鳴る。どうやら、わざと転けたようだ。

 そんな男に初めてひなたが視線を向ける。

 

「その下卑た肉で私に触らないでください。貴方に興味はありません。疾く去ってください」

 

「はぁ?なにいっ―――」

 

「邪魔だ、おっさん」

 

 ひなたの言葉に素っ頓狂な声を上げるが、次の瞬間には左へ飛んでいった。無論、帰ってきた御影の道を塞いだためだ。

 

「ダメですよ、士郎さん。初対面の人におっさんと言っては。悪い印象を持ってしまわれますよ」

 

「別にいいだろ、おっさんなんだし。それよか、ほら」

 

 ひなたの小言を右から左へ聞き流し、右手の指の間に挟んでいるカルピスウォーターをひなたへと差し出す。両手に一本、一本と持ち運びが出来ないためこうする他ない。

 

「後でお金渡しますね」

 

「いい。こういう時は男が奢んだろ?シャルが言ってた」

 

「んん゛っ········そうですか」

 

 果たしてシャルルはどういう話の流れでそんなことを御影に話したのか。という疑問が出てくるが、今は謎のままにしておこう。

 そんな会話をしている間に先程の男は立ち上がり、悲鳴と共に去っていった。どうやら、眠らせる程の一撃ではなかったようだ。

 ··········何処ぞのシャルルは容赦なくパンチしていたっけな。もちろんそんな一撃を受けた者はおねんねだ、永遠に。

 

 その後、買ってきた飲み物を飲み干し、再度アトラクションを満喫しようとするが·········腰抜ける、御影が運ぶの繰り返し。なんなら狙っているまである。これに関しては甘やかす御影も御影だ。

 

 そんなこんなで最後のアトラクションへ。あらゆる絶叫系、しとやか系を乗り越えて最後に来るものとは······

 

「景色が綺麗ですね·······」

 

「まだ上りきってないぞ」

 

 観覧車。密室に男女二人という色恋沙汰待ったなしという状況であるが、そもそも御影にそういった知識はない。どうやら、抑止力はそういう事を常識として埋め込まなかったらしい。

 

「·······今日は楽しかったですか?」

 

「あー······まぁ、楽しかった」

 

「明日も遊びたいですか?」

 

「·······いや、それはいいや。こういうのはたまにするのに限るからな」

 

「そうですか」

 

 ひなたの目論見は失敗。やはり、御影 士郎という者を堕落させるにはこれでは不足のようだ。御影を堕落するには酒池肉林にでも溺れさせれば········いや、それでもだな。

 

「まっ、またいつか遊び行こうぜ」

 

「っ····、それは······昔の私と行ってください。きっと、喜びますよ」

 

「そうか·······ああ、そうする」

 

 もっと一緒にいたい。

 もっと触れ合いたい。

 もっと、―――私にそんな資格はない。

 何をしているのだろうか、私は。こんな甘えた·······何百も殺した人殺しが何を言っているのだろう。

 

「でも、たまには会いにいくよ。若葉とかと一緒に」

 

「ふふっ·······はい、是非。あの子も喜びます」

 

 手放したくない。

 誰にも渡したくない。

 そんな黒い感情を押し込み、御影を見入る。見納めになってしまうかもしれないその顔を。

 夕日を反射しているのかキラキラと耀く金色の瞳。まるで宝石のようだ。

 

 ―――突如として御影がその場から消える。

 

「樹海化、ですかね········」

 

 どうやら、造阪神は御影 士郎を忌み嫌っているという情報は本当のようだ。どうしてかは判らない。知っている可能性があるのは諏訪を守護していた千子 村正と名乗る者のみ。しかし、聞いたとしても口を割らないだろう。私という部外者に情報を流す愚者ではないのは確かだ。そんな部外者に出来ることは一つ。

 

「死なないでくださいね、士郎さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 柚葉の独白になっちゃった感が否めないけど、まぁいっか。

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