ようやく·······ようやく、ここまで来た。どうして34話もかかってしまったんだ。これがわからない。
新メンバーである棗、雪花を加えた週の土曜日。勇者部は寄宿舎から然程離れていないとある空き地にて集合していた。
「戦力が揃ったことにより、こちらから攻めることができるようになりました」
「え。てことはこれまでのじゃ戦力不足だったって訳?」
過剰戦力とも言えるシャルルと御影がいても尚、戦力不足だったのであればこれから戦うことになる敵は難敵と捉える事が出来る。
「十全を期して、ってヤツだろ。このメンバーなら互いに互いの弱点をカバーしあえる」
「そうなの?」
「殲滅力ならシャルル、打点なら結城、持久戦なら雪花、逆転力なら御影」
「え、私?」
桑に体重を乗せながら立っている村正が適当に現時点での最高峰を羅列する。しかし、当てはまるとは思いもしなかった結城が声を上げた。
「なんだ、知らねぇのか?自分の攻撃に天の神特攻が入るってこと」
「特攻だと?」
「ああ。ちなみに高嶋の方も特攻乗るぞ」
「お揃いだね、結城ちゃん♪」
「だねっ♪ガンガンやっちゃうよー」
天の逆手がどれ程の倍率を持ち、どうしてそうなったかは現状あまりわからない。友奈、という名が増えている由は大赦のみぞ知る。そして、士郎というメジャーな名前が彼以外いないという事実も。
「はいはい、まだ話終わってないわよー」
「村正さん、静かに」
「おうおう、俺だけ名指しかよ」
雪花からの指摘に思わず、反論してしまうが自身が脱線させたのは事実であるため素直に口を閉じ、静かにする。ちなみに雪花はみんなの呼び方に合わせて⬛⬛から村正呼びへと変更している。
「ありがとうございます、風さん。
決戦は満月の日です。みなさん、準備をお願いします」
「満月·········はいつ来るんだろうか?」
「えっと、たしか······11、ですかね?」
「·······そうね。来週の水曜日が満月になってるわ」
告げられた決戦は満月の夜。
だがしかし、そもそも満月がいつくるかわからない若葉。そして占いのお陰でそういうのを把握している樹。わかんないことあったら検索の千景。完璧の布陣(?)である。
「四日後ですね」
「なら、―――」
「訓練だなっ!」
場所を移しておなじみ廃校舎に勇者部は来ていた。やることは若葉が宣言した通り訓練。しかも団体戦という名の模擬戦である。
「グーかパーかチョキで別れま―――」
「「「「しょっ!!」」」」
グー:須美、花凜、風、杏、棗、珠子、シャルル
パー:樹、雪花、結城、中銀、小銀、歌野、御影
チョキ:東郷、若葉、千景、高嶋、園子、村正
20人ということもあり、一班だけ1人少ないが問題はないだろう。そもそもの班員が強すぎる。これには千景もニッコリ。
「援護は任せてください」
「ガ、ガンバリます······!」
「タマが来たからにはもう安心だっ!」
「ま、気負わずいきましょ」
「指揮は風に任せる」
「ガンガンいこうぜ、でいい?」
「わかり易いな。助かる」
グー班は近接、中距離、遠距離のバランスが三班の中で最もいい。しかも、タンクつきという至れり尽くせり。勝ったな。
「見知った奴が一人もいねぇ·····」
「連携の精度を高める、ってのが目的なんだろうね。コレ」
「「アタシと〜?」」
「息ぴったりだね、銀ちゃん!」
「え、えっと作戦は·······」
「私に倒された人はそば派に転職!!!!」
作戦会議が意味をなしていない。歌野に関してはただ叫んでいるだけである。あぁもう目茶苦茶だよ。
「うどんだ――ッ!!」
「友奈ちゃんと離れ離れに·········」
「「あはは(うふふ)♪」」
「びょぉぉぉぉぉ!!!」
「なんだよ、この班··········」
パー班より酷い班があるの怖すぎんだろ。だが、個人個人の戦力ならここが一番高いとは思う。もちろん村正を除いて。
ここでルール説明を挟もう。
勇者システムを起動した状態で行い、武器もそのまま使用してもいい。が、シャルルと御影は木刀の使用となっている。ちなみにシャルルは魔力放出、疑似勇士は使用禁止となっている。
脱落条件は精霊バリアが砕けるか、棄権するか。そしてないとは思うが審判である園子、ひなた、水都によってレッドカードが出ると即刻脱落となる。
グー班が赤、パー班が青、チョキ班が緑のバンダナをつける事となっている。
説明終わりっ!
『えっと、もう始めていいですか?』
わいわいがやがやしているのか作戦会議しているのか判断出来ないため、ひなたがスピーカーを通して問いかける。
「グーはいいわよぉー!!」
「ノープロブレム!!」
「あー········問題なしだー!!」
元気一杯に返事している反面、本当は問題大アリな所が一つある。まぁ、戦力を見たら一番だしぃ、問題ないでしょぉ、の心のようだ。
『では、始めますッ!!』
『ぶっ、――ぶぉーーー!!!』
「ほ、法螺貝!?」
「みーちゃん!?」
「ああクソっ、録音出来なかったクソ!!」
唐突のセルフ法螺貝に驚きを隠せず、思わず唖然としている中で猛烈に悔しがっている者が一人。そして、周りとは違う動きをした者がもう一人―――
「ハッ!」
「ッ―――!」
狙われたのは最も警戒するべきシャルル。勇者システムの身体能力向上がなければ目で追えないような速度で木刀をシャルルの胴へ振るうが、危なげながらも何とか弾く。
「フッ、ハッ、セイッ!!」
続けざまに三連撃。だが、どれもシャルルに届くことはなく逸らされる或いは防がれた。けれど、それでは終わらない。
「こういうのもいいだろ?」
「?」
御影が攻撃の手を止め、体を横にする。その奇っ怪な行動に思わず、脳の回転が緩やかとなった。
急に何を―――
「ッ―――!?」
「んー、人間技じゃないね」
空いた空間を通り槍がシャルルへと放たれた。しかし、間一髪の所で回避することに成功。体勢が崩れる、という致命的な弱点を晒してだが。
「そこだッ!」
当然そんなチャンスを逃すわけがなく、すぐさまシャルル目掛けて木刀を―――
「うぉ、あぶねっ!」
物体を文字通り消滅させる矢が御影の頭があった場所を通過し、彼方へと消えていった。
「シャルル先輩、体勢を!」
「助かった。飴ちゃんをあげよう」
「後にしてくださいっ!」
須美による援護によって体勢を整え、御影から距離を取るため後ろへと飛ぶ。その際に気の抜けたような会話をしながら場を殺伐としないように手を打っておく。
「シャル先輩、かくごぉー!!」
「威勢がいいな、小学生!」
「ふむ·······」
流石にあの大きさの戦斧をブンブンされたら御影の攻撃を凌ぐのに集中出来ない。引く、という選択もあるが、その場合標的は遠距離組へも向くだろう。
そんなことを考えていると、小銀へ白い勇者が襲いかかる。
「私が抑えよう」
「うおっと!?」
「任せた」
ヌンチャクによる突きを二振りの戦斧を重ねることによって防御するが、あまりの威力に後方へと押し出されてしまった。
一旦視線を逸らし、別メンバーへ。
「はぁ········せいッ!!」
「ッ·····!」
空中で横回転しながら、その勢いと共に振り下ろされた波を打つような剣。それを抜き身刀で防ぎ、蹴りを繰り出すも難なく避けられる。未だ圧倒的不利である。即ち―――
「チャンスっ!」
結城が中銀と村正の攻防の隙間を縫い、懐へと潜り込もうとするが
「ステイ、結城さんっ!!」
最も村正の
―――左手に握られる刀が妖しく輝く。
「あっ」
「やばっ―――!」
急いで村正の手を止めようと思案するが、その一瞬を村正が見逃すわけがない。この男がシャルルのように甘いと思った時には敗北が決定されている。
右手に握られていた刀が砕け散る。これにより中銀の精霊バリアは消失。脱落となる。
「二人―――」
すぐさま最初の標的を潰しに左手に握る刀を振りかぶるが―――
「ッ――、はぁ!!?」
森のある方向から射撃により、左手にあった刀が宙を舞う。無論東郷による射撃だ。だがここで一つ思い出して欲しい。―――村正と東郷は同じ班なのだ。
『友奈ちゃんへの危害は赦しません』
「〜〜〜っ、お前さぁ!!」
通信機越しに狙撃手へ叫びながら、その場から飛翔。その際に刀を投擲し、足止めを行う。それにより撤退は成功。森の方へと姿を晦ました。
「すんません、脱落しちゃいました」
「ごめんね、私のせいで········」
「ドンマイドンマイ!村正は顔歪めてからが本番だから注意していこぉー!!」
「おー!」
「それじゃ、後お願いします!」
「オッケー!」
村正の対処法は知り尽くしている歌野ではあるが、その対処法が面倒くさい。
・多対一では勝てない。
・一対一に一瞬でもなれば道連れにされる可能性がある。
・技量で上をいかなければ勝てない。
このクソ仕様である。例え上の者が勝ったとしても一瞬でも油断されれば道連れにされるという。ただし、これらは全て対人戦の場合の話である。
場所は変わり森へと。
草木が生い茂っており、あまり視認性が良くないという環境で鉄がぶつかり合う音が響く。
「くっ·······!」
際限なく降りかかる剣をずっと連れ添った愛刀で防ぐ。防御に専念するのが手一杯で、中々攻撃に転じることが出来ない現状に苛立ちがこもるがそれこそ相手の思惑のツボだ。邪念を払いつつ策を練る。
花凜を草木もろとも断ち切るという策はあるにはあるが、切り札の使用は相手にとってのチャンスでもある。精霊を降ろす際に敗北となるのは必定である。
私が士郎のような腕力を有していれば、今この瞬間にも断ち切っていた所だが········現実というものはそう上手くはいかない。
スタミナ切れを待つという策もあるにはあるが、日頃から鍛錬を欠かさない花凜にそういった事は望めない。私が先に倒れるだろう。
そして最後の策は―――
「·········っ!」
「な、なにっ!?」
突如として地面が隆起し、対応出来ず地面に手をついてしまう。それと同時にこの不思議な現象の原因が判った。
―――糸だ。地面の中に細い、緑色の糸が張り巡らされている。
「〜〜〜〜〜っ、えいっ!」
地面を裂き、糸が姿を現す。それに伴い私と花凜の精霊の護りを消失させてしまった。正に神業と評価する他ない。
「なぁ!?樹、アンタコレ―――!」
「凄いな········」
「今回はどでかくやってみましたっ!」
元々の平坦な森など見る影も無い。小さな丘の完成だ。
「スケールのでかさ、か·······なるほど」
「はぁー、完敗」
今後は草木だけでなく、降りかかる剣すらも断つ斬撃を出す特訓をするとするか。
場所は戻り、スタート場所へと。
未だ木が打ち合う音が鳴り続けるグラウンド。たまに槍がシャルルへと向かって飛来するが、音速で放たれる矢によって弾かれる。
開始から数十分、―――何かが砕けた音がした。
「「ッ―――!?」」
木刀が持ち手の上から原型を留めず、木片となり空中に飛び散った。
自身の武器が使い物にならなくなったと理解した瞬間、両者共に持ち手を捨て―――拳を握り締める。
「フッ!」
鎧がない顔面目掛けて拳を振るうが、軽々と躱され掴まれてしまう。そして次の瞬間には放り投げられていた。
「うおっ、と········こんな丘あったか?」
放り投げられたことにより300m程離れた小さな丘に着地。なければもっと遠くへ飛ばされていたため、このいつの間にか生えた丘に感謝。
そんなことを考えているとシャルルが爆音の着地音と共に丘に降り立つ。だが、ここには御影とシャルル以外にもう一人―――
「糸······、樹か」
着地した瞬間、シャルルを包囲するように糸が出現。ドームを形成し、逃場を潰す。だが、この糸は地面を通っていない。先程の花凜対若葉の際に引き揚げてからそのままなのである。
「些か汚れるが仕方あるまい」
「?······!樹、トドメを――ッ!!」
勘づいた頃には遅かった。
シャルルが立っていた場所から土が舞い上がり、視界を汚す。土が落ちきり視界がクリアとなった時にはそこにシャルルはおらず、糸は消えていた。即ち糸を扱う者がいなくなったことを示す。
御影の予想通り樹の精霊バリアはとある者の攻撃により消失。だが、それは決してシャルルの攻撃ではない。
「ああ、そうだ。お前は王勇に背けない。どのような状況であっても
首元から這う金属特有の冷たさ。少しでも村正が力を加えれば首が落ちる事となる。それだけでなく、千景、高嶋がもしもの際でも対応出来るよう備えている。完全にシャルルの詰みである。
「そうだとも。だが、貴様こそ勘違いしている。俺の王勇に騎士道精神なんてものはない。
闇討ち、騙し討ち、不意打ち―――出来ることはなんでもして、友の雪辱を果す」
「降参しない、ってか?」
「無論だ」
「そうか、なら―――」
刀を握る拳に力が籠もる。
その動作に審判であるひなたがマイクをオンにするが、宣言する前に園子によって止められる。これほど彼が自信満々に死刑宣告をしているのだ、何か必ず策がある。
頭上、―――森の木々を抜け、黄色の勇者が乱入する。
「―――どっ、せぇぇぇいっ!!!!」
「わわっ!?」
「っ、高嶋さん!」
場を乱すだけの大振りな一撃。振るう武器である大剣の大きさが大きさなためたったそれだけで大地が震える。それは地面に落ちていた物が宙に飛ばされる程であった。
脱落者の武器は扱っていけない、なんていうルールはない。
「いいものを拾った」
樹ですら意図していなかった。自身が落とした武器が彼の手に渡るなど。だが、そこは幸運A。落ちているとわかれば後は運に任せるのみ。それで上手くいくのだから質が悪い。
「くそっ·······!」
「糸、というものはどう動くかの演算がムズイな。だがまぁ······貴様を倒すのに不足はないな」
「はっ、―――ぐぅ······!!」
シャルルの姿が消えたかと思えば次の瞬間には遥か上空。着地地点にはシャルル―――あ、終わった。
「言ったであろ?雪辱は果す、と」
急所を外して糸に貫かれ、地面へと叩きつけられる。英霊であるが故に耐久は人以上であるため、何とか退去まではいかなくとも意識を手放すには充分なダメージであった。
「やはり、糸を扱うのは慣れんな」
「じゃあやっぱ拳でやるしかないな」
樹が勇者システムを解除したのか、粒子になって消えていく。
それと同時に御影が襲来。どうやら風対千景&高嶋には寄らずにシャルル一直線で来たようだ。そんな彼へ須美の射撃がバビュン。だが、難なく避けられる。
「須美、東郷を狙え。1時方向だ」
『了解しました』
これにより援護はない。男と男の殴り合いとなった。これは激アツ展開。
「シャル、速さ勝負でもするか」
「······それでいこう。321で」
長引く訳にはいかないという利害の一致にその案を承認し、互いに構える。カウントは呼吸を整えてから。
「3」
「2」
「「1――ッ!!」」
右足で地面を砕き、互い互いに右拳を付き出す。狙うはもちろん急所である顔面。この一撃で決めるという想いが滲み出ている。
「··········」
「·········引き分けか」
拳は精霊のバリアを砕き。拳は頬を歪ませる。
互いの一撃は致命傷なりうる傷を作りうるものであった。即ち、この勝負は引き分けとなった。
「ハッ、つまらん幕切れだな。木刀などという神秘も何も無い武器を振るうが故だ。次は神剣、聖剣を振るうといい」
須佐之男からの評価はC。そう言い切り、本来あるべき体内へと消えていった。どうやらウキウキ気分で終幕を待っていたようだ。
「村正は俺が運ぼう」
「おう、頼んだ。後残るは·······てかまだ結構残ってんな」
「そうだな。だが、勝つのはグーだ」
「パーだろ」
これにより残るは勇者のみ。須佐之男としては大変つまらない試合となった。だが、勇者を舐めることなかれ。まだまだ共に肩を並べた者がいる。
場所を変え森付近へ。
須美はシャルルと別れた後、未来の自分自身である東郷との戦闘を開始した。自分自身との戦い········碌なものではない。
「南無八幡、―――大菩薩ッ!」
御影にも通用したその一射は触れれば物質を消失させるという恐怖の一射である。ただし、それは神秘が薄いものしにか通用しないという欠点はある。つまり、勇者の武器であれば防ぐことは簡単だということ。
須美渾身の一矢は傘のような物に遮られる。
「ありがとう、園子ちゃん」
「うひゃ〜、手にじーんとくるんよ」
やはり完全に威力を殺し切るとなればそれ相応の痛みは覚悟するしかない。受け流すとは話が違うのだ。
「大丈夫、次はないわ」
その言葉と同時に最大出力の一射が銃口から解き放たれる。標的は矢を番える須美。もちろん防ぐ術などなく、命中。これにより精霊バリアは消失。
「わっしー先輩、さっすが〜」
「次は棗さんを、―――!?」
影が落ちる。その事実を理解すると同時に顔を上げ、空を見上げ―――否、空ではない。
「輪入道っ!!!!」
燃え盛る物体が園子と東郷を潰すべく、落下を開始する。避けるという選択肢を取ったとしても範囲外からは逃れない。タマとしてはバリアを消失させるだけのつもりだろうが、アレは死ぬ。炎によって焼け死ぬことになる。
そんな事実に思わず、恐怖か諦めか何かわからない得体の知れない物が喉の底から込み上がる。ひゅっ、聞いたこともない声が隣から聞こえた。
―――即座に聖剣を構え、口上を唱える。
「永続不変の輝き千変無限の彩り!万夫不当の騎士達よ我が王勇を指し示せ―――ッ!!」
この時現場にいた園子が後に語った。すごい早口だったよ〜、と。それ程までに一刻を争う有事なのだ。きっと本来の担い手も赦してくれる筈だ。
聖光が限界値に達すると同時に火車の下へ滑り込む。片膝をつき、聖剣を天へと捧ぐ。
「
一瞬、ほんの一瞬火車と均衡こそしたが、直後に亀裂が入っていき空中で爆散した。やはり精霊と一体となった勇者の武器であっても聖剣の輝きには届かないようだ。
放たれた極光は火車を貫いた後も一切威力を落とさず、担い手すらも呑み込まんと奔る。
「あっ―――」
破壊の塊である光を目の前にし、死を悟る。精霊の護りがあったとしてもコレを防ぐのは無理なのだと本能で判ったのだろう。
そんな彼女を御影が回収し、地面に着地する。
「ふぅ。大丈夫か、東郷、園子?」
掲げていた聖剣を地面に突き刺し、一息つく。当事者達へのケアも抜かりなく。
「ぇ、ええ。シャルルくんのお陰で怪我はないけど······」
「ひ、ひやひやしたぁ。肝が冷えたよ〜」
「まっ、飴でも舐めて落ち着こうぜ」
武装を解き、私服のポケットから人数分の飴玉を取り出す。その飴玉を受け取り、口の中で転がす。ほのかな甘さとぶどうの味を味わいながら心を落ち着かせていく。
被害者へのケアは恙無く終わりそうではあるが、加害者の方はそうはいかないようだ。
「ぁ、あ―――あぁぁああぁぁぁぁァァァァア゛ア゛ア゛゛!!!」
シャルルの一撃により砕け散り、バラバラにばら撒かれてしまった盾。その欠片を掻き集め、覆い被さるようにして泣き叫ぶタマ。それを見下すように見つめる御影。
「俺とお前は頭悪いし、気持ちはまぁわかる。俺だってシャルに言われなきゃ気づかなかったよ。それにほら、········なんだろうな。そう簡単に人は死なない、っていう思い込みもあるしな。そう悲観するなって」
しゃがみ込みタマの背中を擦りながら諭すことにより叫びはなくなったが、水滴が地面に落ちるのは止まらない。
最初こそ拳骨落としたろ、とか思っていた御影だったがこんなタマにそんなジョークは通じないだろう。ゆっくり宥めていくしかない。
「盾は腕のいい鍛冶師が治すから心配すんなって。な?」
「うぅ゛、ごめ、ん゛、····ごめん、なさい·····っ!」
「誰も責めちゃいねぇよ。ほら、とりあえず移動するぞ」
一先ず盾の欠片は御影の体内へと収納し、タマの肩を右腕で支えて立たせる。身長の関係もあって御影が少し中腰になってしまうが仕方ない。
体を背けた状態で被害者達へと喋り掛ける。
「すまねぇが今は会話できる状態じゃねぇ。後でいいか?」
「構いませんよ〜」
「私も大丈夫です」
「助かる。それじゃ、一旦席を外す」
そう言い、観戦組がいる場所とは違う方向に歩み始めた。シャルル達はその背中から視線をずらし、待機場所へと歩み始める。
「珠子先輩、大丈夫かな?」
「きっと大丈夫よ。ただ優しすぎるだけだから」
「··········」
和気あいあいと会話している二人の横で一人心の内で愚痴る。あの救世主、特大の爆弾残していきやがった、と。
そんな彼らから変わり、森の中へ。
未だ交戦する風&棗vs高嶋&千景。シャルルが別れた後棗が参戦したまでは良かったが、残るパー班がいつ乱入してかるかわからないという緊張感の中勢いよくいける筈も―――
「わっ、せぇいっ!!!」
「くっ········!」
「ぐんちゃ―――!?」
「こちらだぞ」
ガンガンいこうぜ、を策戦としているグー班に緊張感などあるはずもなく、いつ乱入するかなど考えずに目の前の敵に突撃する。けれど、それだけでは押し切れない。両者共に決め手に欠ける。
ドデカイ一撃、それか全く予想だにしない何かが起きなければいけない。そう、例えば第三者の介入とか。
高嶋、千景。両者の背後から矢が放たれる。
「わっ!?―――えっ」
「っ!?」
突如として発動した精霊バリア。そして、瞬きではあるが思考がそちらに向いたとなれば、それは致命的な隙となる。
「そこ、だぁァァ!!!」
地響きがする程強く踏みしめ、速度をそのままに最高火力を高嶋へと喰らわす。もちろん精霊バリアは消失。脱落となった。
「ふっ!」
横回転を入れ、勢いを増した棒を千景の防御を掻い潜り、腹へと入れる。もちろん精霊バリアは消失。高嶋同様脱落となった。
これによりチョキ班は全滅。敗因は樹が最強だったことですかね。
二名打ち倒し一息つきたい風ではあったが、そんな時間はもうない。すぐさま矢が放たれた方向へと棗共々走り出す。
「杏っ!」
場所バレは既にされていると思い、名を呼ぶが反応なし。脱落したか、未だ潜伏しているか。どちらかはわからないが、今はただ走るしかない。
「ッ、―――風!」
頭上から風目掛けて放たれる槍を棒で弾く、―――が、それだけでは終わらない。しなる鞭によってヌンチャクの鎖部分を絡め取り、真上へと放り投げられる。
「っ······!」
あの二人と戦術が酷似していると考えながら、着地際の隙、そして空中での隙をどう潰すかに全神経を委ねる。
結城と雪花は風によって撹乱されているが、歌野の瞳は棗を射抜いていた。正しくアレは捕食者の目だ。
この場での最適解、それは―――歌野目掛けての落下である。
「·······リアリー?」
その選択に思わず苦笑い。だが、それに応じるしかない。ここで怖気づいて回避を選択すれば棗は戦闘に復帰し、更に混乱を極めることとなる。それならば、ここで確実に倒す。例え、相打ちであったとしても。
「「ッ――!!」」
―――砕け散った。
太陽が傾き、地平線の下に埋まっていく。もう時期夜が到来するであろう時間帯だ。そうなれば、どんなに楽しい時間帯でも家に帰らなければいけない。
「おーい、しろー!」
「タマっちせんぱーい!」
訓練という名の戦闘が終わった後でも姿を見せない士郎とタマを探すべく西暦勇者総出で廃校舎内の教室を探す。
チャットで3階にいることはわかっているが、どの教室かは伝わっていなかった。それは単に御影の伝え忘れではあるが、こうやって廃校舎でかくれんぼをするというのは楽しいようで妙な昂りを感じながら名前を呼ぶ。
まぁ、結構すぐに見つかり、階段からすぐの3年2組の教室に彼らはいた。
「あっ、士郎く―――」
「しぃー」
高嶋の呼びかけで皆の存在を知った御影がすぐさま振り返り、声を出さないようにと人差し指を口につける。隣で眠っているタマへの配慮だろう。
「タマっち先輩、眠っちゃいましたね」
「切り札で消耗したんだろ。それで、もう帰る時間か?」
いつもより数段小さい声で誰かに問いかける。
「そうよ。最終結果は――」
「パーだろ?見てたさ。やっぱ雪花は悪知恵働くな」
「見てたんですか?それなら観戦場所に来てくだされば良かったのに········」
「いやぁ、掴まっちまってな」
そう言い、タマに捕まっている左裾を皆が見えるようにあげる。見るにタマの親指と人差し指で辛うじて摘んでいる状態ではあるが、彼にとってどんな拘束よりも解き難い拘束となってしまっている。
「まっ、帰んだろ?タマは俺がおぶって行くから帰ろうぜ。日が暮れちまう」
未だ寝息を立てているタマを背に乗せ、教室を出る準備をし始める。と言っても持ってきた物など一切なく、窓を閉める程度であった。
「ああ、帰ろう」
リーダーのその返しに従い、各々教室を出て帰路へ着く。いつも通り帰路は同じく、纏まって歩いていく。やはり、この集団が一番落ち着くな、とは全員一致の想いだった。
いやぁ、疲れた········。
あ、ちなみに樹vs村正は片手の樹に圧倒されて、つい手加減出来なかっただけです。見様見真似の八極拳でバリアを砕き、勢いが消えた状態で踏んじゃった。そこをシャルルが目撃。よし、殺す。以上!
樹さんパネェっす。
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乃木 園子
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三ノ輪 銀
-
その他(北野とか柚葉とか)