気持ちのいいバカ(偽物)をブチ込んでみた   作:王勇を示す者

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花結イノキラメキ【45】

 

 

 

 

 そっくり精霊をけしかける予定だった者達へ当てた赤嶺は悠々自適にタクシーこと擬似バーテックスであるレクイエムに乗り、安全圏へと退避していた。

 

「········んん?」

 

 これまでの戦いで鍛えられた自身の直感が最大級に警戒を促してくる。だが、警戒すべき敵など今はいない。精神世界に誘われてまだ一分。動ける筈がない。

 そうだと言うのに、自身の直感はナニかを警戒している。

 流石の赤嶺もこれには解を出せない。ただ、これまでの人生で何度もコレに助けられているのは事実。今回もコレに従おうとすぐさまその場から飛び退く。

 

「―――――――ッ!??」

 

 その数秒後に空気が切られたような音が耳に届き、それと同時にほんの数秒前まで乗っていたレクイエムが一刀両断されたが如く真っ二つに割れた。

 そんな光景に戦慄する赤嶺だったが、迅速に立て直し、後にした勇者達の方へと視線を向ける。

 

 誰かが立っている。

 金色の瞳を輝かせ、空を仰いでいる。

 余程嬉しい事があったのだろう。彼と親しい者ですら一度も見たことがないような笑みが顔にくっついてる。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人類悪 救済 

 

 

 

 

 

 

 

 ノイズが走る。

 空気が一変する。

 ただ静かなだけだった樹海が、陽の光が降り注いでいるかのような安心感に包まれる。

 そんな空気だと言うのに、全身が逆立つ。身の毛がよだつというのはこういう事なんだろうと意識がある者全員が思った。

 

“アハッ―――アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!!”

 

 歓喜を体全体で表す。

 フランスの思想家ルソーが説いた第二の誕生。精神的自我の芽生えによる個の誕生。今正に、彼は誕生した。

 陽の光を浴びる姿はまるで世界に祝福されているようにも見える。

 

 悍ましいでも恐ろしいでもない。―――神々しい。思わず呼吸を忘れる程、美しい。

 

「本気で言ってる?」

 

 誰に問いかけるでもなく、意図せず愚痴る。

 アレは駄目だ。アレはどうしようもない。アレは―――終わりを告げる大災害だ。

 勇者総出で勝てるのか。

 勝てるは勝てるだろう。ただし、軒並み死んでいくとは思うが。

 藪をつついたら蛇が出た、よりも酷い。言うならば、照明着けようとしたら核兵器発射された、ぐらいのレベルだ。

 

「―――――――――」

 

 彼の動きが止まる。

 手にするは普段彼が振るっている抜き身刀。相違点と言えば、刃紋が平坦という点だろうか。

 視線を吸い寄せる程の一品ではない。そう、骨董品という点でも一級品の村正印の刀とは違い、ただ斬るための刀。それが、彼が手にする抜き身刀である。

 

「··········なっ!?」

 

 ―――木々が木片となり吹き飛ぶ。

 いつの間にか振り終わっていた。

 視線を切った訳でも瞬きした訳でもない。だと言うのに、予備動作すらも見えなかった。

 斬られた木々すらも可笑しい。いや、斬られた、と表現するかも怪しい。なにせ砕け散ったのだ。断面が何処かもわからない程の損壊。斬撃と共に衝撃が飛び、それが砕いたのだろう。

 

「村正ッッッッ!!!」

 

 血飛沫が上がると同時に怒号にも似た悲鳴が樹海に響いた。

 樹海の根を数十本と裂いて尚留まることを知らない斬撃が彼の胴体を切り開く。肋骨半ばまで届き、ようやく止まったが致命傷には変わらず。数歩前に歩いた後、力なく根に伏した。

 

(斬撃、斬撃だよね今の。なに細工なしに斬撃出してるの?冗談は若葉さんだけにしてよ。しかも、村正さん一発KOとか私達が喰らったら一発でお陀仏じゃん。あ〜、奇跡起きて先生来てくんないかな〜)

 

 彼女を知る者が聞けば卒倒しそうな本意ではあるが、表面上は真剣な顔であり、一切そのような思考をしているとは思わせない。

 だがしかし、この場において彼女の考えは普通である。

 実力差は天と地程離れていおり、どう足掻こうが勝てない。村正さえいれば皆が目を覚ますまでの時間稼ぎが可能ではあったが、一発KOにより退場。皆が目を覚ます頃には全員退去していることだろう。

 ゲームオーバー、詰みである。

 

「――――――――」

「歌野――ッ!!」

 

 彼が立っていた場所から歌野までの一直線上の木々が抉れる。

 棗の咄嗟の判断で何とか避けることはできたが、もしも彼の体当たり、もしくは一振りを喰らっていたらと思うと恐ろしくなる。

 

「サンクス、棗さん·······っ!」

 

「まぐれだ。次はないと思ってくれ」

 

「これは流石に私達が抑えれる範疇超えてるよ。どうする?逃げちゃう?」

 

「逃げようにも逃げれない。戦うしか道はないようだ」

 

「それもそっか········はぁ。やるっきゃないね。それで歌野的に村正さんは―――」

 

「生きてる。気を失ってはいるだろうけど確実に生きてる」

 

「··········それじゃ、一先ずは時間稼ぎに徹しよっか」

 

 有無を言わせない言葉。ちょっぴり願望が含まれてはいるだろうが、三年間を共にした勇者が言っているのだ。彼は生きている。肋骨半ばまで切断されたが生きている。

 まぁ、生きてるは生きてるで生物としてどうなのかという問題はあるが、生きていれば何でもいい。

 

 現在、意識があるのは小学生組、犬吠埼姉妹、歌野、棗、雪花のみ。合計八人。

 須美がだいたい三分で戻ってこれたのを考えると全員集合まで長くて5分。どっぷり嵌まれば十分もありえるが、そこは信じるしかない。ちなみに村正は一分で復帰している。目覚めた瞬間即死攻撃喰らってるけど。

 

「二人共、やれる?」

 

 雪花が後ろで呆然としている犬吠埼姉妹へと振り向く。

 仲間だった者に刃を向けれるのか、死ぬ可能性が非常に高い戦いに臆することなく立ち向かえるのか。そんな意味を含ませながら、勇者へ問いかける。

 

「合点承知の助ッ!!」

 

「やります·······っ!!」

 

 気合十分を示すかのように自分達の得物を強く握り締める。

 その答えに頷き、目前の敵へと視線を戻す。

 

 樹を遠距離としてその他四名を近接。

 全く見えなかった動きを今度こそと目を見開き、彼のちょっとした動きを見逃さないように観察する。ほんの少しの予備動作を見逃した時点で一秒先はない。

 

「アタシ達も―――」

「下がってくれ、小学生。危険過ぎる」

 

「っ········」

 

「·······下がろう、ミノさん」

 

「いや、でも·······わかった」

 

 加勢しようとする小学生組を棗が普段通りの口調で下がらせる。その言葉を受け、自身の無力さを否応なしに痛感させられる。

 威勢が良くても役に立つ訳ではない。自然に寄り添って生きてきた棗だからこそ分かる。

 実際、彼女の判断は正しい。

 三人+シャルルで偽装だけが取り柄の英霊にも勝てていないのだ。そんな彼女らで頂点に座する目前の敵に勝てるのかと問われれば否である。戦えば死は免れない。

 

 一ミリたりとも動かなかった彼の首が回り、視線を戦意剥き出しの五名へと向ける。

 ―――轟音が耳に届いた。

 

「ッッッッ゛゛―――!!!」

 

 雪花へ刺突での攻撃。

 誰も目で追えなかった動きに、何とか後追いで見えたまでは良かったが全力で防御するのが手一杯。その防御も、彼にとっては何ら障害でもない。

 たった一人の腕力では敵わず、樹海の根を突き破りながら後退させられていく。

 

 すぐさま補助へと回る。

 

「こん、の········っっ!!!」

 

「えいっ!」

 

 歌野が鞭を抜き身刀へ絡め、渾身の力で引っ張る。そして、樹は樹海全体に張り巡らせておいた糸を彼の体全体に巻き付ける事で動きを止めることに成功した。

 

「つーーっ········助かったよ、樹ちゃん」

 

「止めれてよかったです」

 

 変形してしまった槍を破棄し、新たな槍を取り出し功労者の樹へと礼を言う。

 敵は樹の糸によって満足に動けず、身を捻り続けている。もし、動くというのなら、それは大地を引き摺って歩くと同義。この状態で動くなどありえない。ありえない筈なのだ········

 

「なに········!?」

 

「時間稼ぎも無理に思えてきた·······」

 

 樹海の根がプレートが沈む現象と同じようにゆっくりとだが確実に沈んでいく。

 考えずども原因は彼だ。信じられない力で彼が樹海の根を巻き込み、前に進もうとしている。

 

「―――樹、遠くに投げるんだっ!!」

 

「はいっ!」

 

 武装を解除。拘束していた糸が消えてしまうが、彼が動き出すよりも先に再度拘束する。だが、今回は樹に巻きつけていない。つまり、樹の腕力のみで拘束している。当然、彼が動き出そうとすれば、いとも容易く拘束を解かれるだろう。まぁ、動き出す前に終わらせればいい。

 

「ん〜〜〜〜〜!えいっ!!」

 

 ハンマー投げの要領でぶん投げる。

 投げられた者が星になる程のハンマー投げに一同驚愕するが、驚異が去ったことにホッと一息つく。

 

「てか、どうなってんの?イマイチ状況掴めないんだけど」

 

「わからない······だが、アレは良くないモノだ。海が言っている」

 

「うーん、可能性としてはそっくり精霊が乗っ取ってる、ってのが有り得るけど········わっかんない」

 

「·········なんだか、眠くなってきますね」

 

「そうね。なんだか暖かくて······野菜を育てるベストコンディションね!」

 

「―――なにボサッとしてんの!?まだ終わってないよ!!!」

 

 和気藹々と話している気の抜けた五人へ赤嶺が叫ぶ。その叫びに、棗と雪花、そして歌野が再び臨戦態勢に切り替える。だが、犬吠埼姉妹はほんの少し遅れてしまった。

 ―――木片が舞う。

 

「速――――ッ!!」

 

「ッ、樹!!!!」

 

「っ·······!」

 

 樹狙いであると悟り、すぐさま樹の前に躍り出る。樹も自身の身を守るため、幾重にも糸の防護壁を作る。

 三十にも及ぶ防護壁を作るが、彼の人振るいで全て裂かれた。それどころか、風と樹に牙を立てる。何とか精霊の護りで防がれるが、それまで。精霊は力を使い果たし消えてしまった。

 

「ぁあ、木霊·········」

 

「っ―――!!」

 

 もう防ぐ術はない。せめて妹だけでもと、樹を自身の体で隠す。突きの構えではないため、確実に樹は助かるだろう。風は人体切断により死ぬが。

 来るであろう痛みに備え、歯を噛みしめる。

 

 十二色の閃光が降り注ぐ。

 

「駄目だぜ、生きることを諦めちゃ」

 

 赤と青の浮いている剣が振り下ろされた刀を弾き、万歳した事で無防備になった胴を篭手がついていない右手で撃ち抜く。

 ドゴォ、という殴打から出そうもない音が鳴り、後方へぶっ飛ばす。

 

 王様と言うよりは冒険者。フランクだと、自称するのも頷ける気さくな雰囲気。

 聞き馴染んだその声に、伏せていた顔を上げる。

 

「ナイス連携だったぜ、ローラン、オリヴィエ。にしてもアレだな、俺達全員で戦うの初じゃねぇか?

 初が人類存亡を賭けた戦い······よぉし、張り切って行くぞテメェら!!」

 

 シャルルマーニュの号令で走り出す十二の輝剣。

 違和感、シャルルっぽいがぽくない。何というかぎこちなくない。何も考えていないというか、 それが自然体というか··········

 

「シャル先輩·······?」

 

「·········いや、まだ起きていないシャルルマーニュがあそこにいる」

 

 そう、シャルルは未だ精神世界でそっくり精霊と対談中。つまり、今犬吠埼姉妹の危機に駆けつけたのは自分達が知るシャルルではないということ。

 そこから考えられることは一つ。

 

「本物のカール大帝(シャルルマーニュ)········」

 

 

 

 ――青年がマントを靡かせ、樹海に降り立つ。

 目の前に佇む少年は人類が滅ぼすべき悪。だが、その前に彼は名だたる大英雄である。

 勝てるか?―――勝てないかもしれない。

 実力差は歴然。敗北は必然。

 だからこそ挑まなければいけない。逃げる訳には行かない。

 色変わりの聖剣、ジュワユーズを鞘から抜く。

 

「こっからは俺が相手だ、大先輩」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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